第12回:評価が別れてしまうR先生
■ 記事作成日 2015/6/19 ■ 最終更新日 2017/12/5
敬語が使えず、姉様ナースに怒鳴られる
元看護師のライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で出会った、看護師に好かれる医師/嫌われる医師の人物像を振り返ってみます。12回目の今回は、看護師からの評価が分かれてしまったR医師です。
表面上は、素直なイケメン
私が働く病院に研修医としてR医師がやってきたのは、今を遡ること〇十年前。R医師は某大学の某外科系の医局に所属していたが、外科系の研修医※として私が働く病院にやってきた。本来の科ではなく、麻酔科研修医として。
R医師が赴任してきた頃は私自身がそろそろ中堅とも言われるお年頃であり、私とR医師は確か同世代くらいだったと思う。
当時、麻酔科医とOPE室看護師は割と仲が良く、年に一度の病棟(OPE室)旅行や、季節ごとのゴルフコンペなどが行われていた。また、仕事帰りに有志が集まって焼肉屋に集ったり(要は単なる飲み会)、カラオケで盛り上がることもあった。
そんな環境にやってきたR医師だったが、背丈は小柄ながらも、かなりのイケメン。分かりやすい例えで言えば、今で言う“SMAP”や“嵐”に居てもおかしくない風貌。特に新人ナースや私よりも年下のナース達からは、その時点でかなりの高評価を得ていたようだ。
R医師は、性格も素直(に見えた)。麻酔器周辺の片づけが出来ていないと、麻酔科の上の医師やOPE室ナースに怒られたりもするのだが、すぐに謝って片付けるという、研修医の鏡のようなところがあった。
この辺も、同世代くらいまでのOPE室ナースには、高評価を得る要因だったかもしれない。
※今とは研修医のシステムが違うことに注意。うろ覚えだが、当時は□□大学の〇〇科医局に所属し、医師免許取得後数年間は、“ローテーター”として地方から中央までさまざまな規模の病院を回っていた。外科系の研修医はその内の数か月間、麻酔科研修医として麻酔科に所属していた。それが終わると本来の科に移ったりするので、ややこしかった記憶がある。
本当のところは“敬語が使えない男”
ところがR医師は、自分より結構年上である主任クラス以上のナース(以下、姉様ナース)たちからの評価は今一つだった。
常に明るいし、(意図的なのか天然なのかは不明だが)場を盛り上げようとする性格なので、新人ナースでも話しやすい。私たちの世代から見ると、すぐに謝るし、いけないところは直そうとするし、素直なところが良いと思ったのだが、どうやらこれが裏目に出ていたようだ。
姉様ナース曰く、「まず、挨拶がなっていない」。朝出勤してきた時、R医師は相手が年上だろうとなんだろうと「おっはよー!」と入ってくる。勤務終了後に帰る時は「おつかれー!」と言って帰る。相手が年上だろうと師長だろうと、態度が変わらない。
さすがに麻酔科部長に対する態度は違うだろうと思ったが、そんなことはなかった。
よく言えば誰にでも平等なのだが、R医師は「敬語が使えない男」だったのだ。
姉様ナースに怒られて動揺したR医師
ある日、麻酔科医の皆さんとOPE室ナースの皆さんで、ゴルフコンペに行った。
麻酔科の医師たちが車を出してくれるので、OPE室ナースもそれに便乗させて頂いていた。私自身は勤務があったので行かなかったので、ここからは後で麻酔科医から聞いた話。
R医師の車には、若い麻酔科医、若い世代のOPE室ナースが同乗し、他に3台の車でゴルフ場へ行った。その帰り道、途中のサービスエリアで休憩することになった。
みんなで集まった時、R医師は通りすがりの人に対し、ちょっとした失礼を働いてしまったようだ。R医師は謝ろうとしたのだが、口から出た言葉は「ごめんなさい」。その時、すぐそばにいた姉様ナースからのお怒りを買ってしまった。
姉様ナースはR医師に近づき、「R先生、“ごめんなさい”じゃなくて“すいません”ではないのですか?」と、目が笑っていない笑顔でR医師を正面から見据えて告げた。
するとR医師は直立不動の姿勢となったのだが、口から出た言葉は
「も、もうしわけ…ごじゃります!」だった。
……良い大人なのだから、敬語が使えないにも程があるだろう。
この日を境に、R医師はしばらくの間、麻酔科医から「ごじゃる」と呼ばれていた。
そしてR医師は、姉様ナースたちに対してのみ、敬語であいさつするようになった。とはいえ、「お、おはようごじゃります!」と、若干噛みながら、直立不動での挨拶だったが。時には敬礼したりすることもあり、姉様ナースから余計に失笑を買っていたのは、R医師にはヒミツである。
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