第15回:患者や家族の“心情”を考えた言動がとれるかどうか
■ 記事作成日 2015/8/29 ■ 最終更新日 2017/12/5
標榜科や医局によって細分化される医師たち
元看護師のライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験と、さらに約10年の一般会社員経験の中で出会った人たちの中から、「出世する医師」について考えてみたいと思います。第15回目の今回は、2人の小児科医師の言動を比較してみます。
「検査して欲しい」といわれた時
患者さんは2歳3ヵ月。昨日から38℃前後の熱発があり、受診。とりあえず「風邪かな?」という診断で家に帰る途中、ふと気づくと顔のあたりに何やらブツブツが出てきました。慌てた保護者が再びその小児科を受診、診察室に入った時の医師の言動を比較してみます。保護者は「何だか分からないから、検査して欲しい」と医師にお願いしました。
A医師:そうやってすぐに「検査して」というお母さん(お父さん)って多いけど、検査が出来ないものだってあるの!これはね、多分水疱瘡。まだ熱は出るだろうけど、そのうちブツブツも無くなるから、家で様子みるしか無いの。周りに感染するから、家から出さないでね!
B医師:お母さん(お父さん)ね、熱の出方と、このブツブツの出方からすると、多分水疱瘡だったんだね。今まで「水疱瘡」ってやってないよね?水疱瘡は、特に検査はしなくても良くて、恐らく明日くらいにかけて、全身にブツブツが拡がると思うよ。
でも数日で治まるし、熱も自然と下がってくるから、脱水にならないように注意してあげて。あと、ブツブツは掻いちゃダメね。周りの人に感染しやすいから、保育園はお休みして、3日後にまた見せてね。
さて、どちらが「出世する医師」でしょう?
嘔吐が止まらない時
患者さんは2歳1カ月。EBウイルス感染症で高熱が続いたため、今朝まで入院していましたが、症状が治まったために退院。退院時に「少し胃腸炎を起こしているようだから」と薬をもらいました。
1日3回飲むようにいわれましたが、2回目の服薬後あたりから嘔吐が始まり、母乳も飲まなくなりました。くり返し激しい嘔吐をしたため、入院していた病院とは違う小児科を受診しました(夜間だったので、断られてしまったようです)。
A医師:今日退院してきたなら、そこに行った方が早いんじゃないの?熱も下がっているようだし、とにかく明日の朝まで様子を見て。飲めそうなものだけ飲ませて、脱水にならなければ大丈夫だから。
B医師:嘔吐が始まってからの様子を聞くと、少しお腹を休めた方が良さそうだね。1日3回といわれた薬も、今夜の分は飲まなくて良いから、熱も下がっているようだし、明日の朝まで何も飲ませないようにしてみて。寝る時の母乳も今夜はお休み。大泣きするだろうけど、そのうち疲れて寝ちゃうから、お母さんも今夜だけは頑張ってみて。明日の朝になったら少しだけ水分をあげて、嘔吐しなければ大丈夫だと思うよ。明日の朝、もう一度連れてきて。
さて、どちらが「出世する医師」でしょう?
高熱が続いている時
患者さんは1歳8か月。昨日から39℃前後の熱が続き、小児科を受診しました。さすがに元気はないものの、呼名にも反応するし、大好きなおもちゃを握りしめてウトウトしています。38℃を超える熱を出したのは初めてだったので、お母さんは心配で、少しオロオロしています。
A医師:インフルエンザだったとしてもまだ検査出来ないからなー。とりあえず坐薬タイプの解熱剤出すから、38.5℃を超えたら使って。1日3回までね。水分だけ取れていれば大丈夫だから、明後日また受診してね。
B医師:熱の出方を聞くと、インフルエンザかもね。でも、今検査してもはっきりとした結果は出ないし、他にブツブツが出来るとか、激しい嘔吐を繰り返すとかがなければ、数日で熱は自然に下がるから。一応、坐薬タイプの解熱剤は出すけど、これはあまり使わない方が良い。一旦は下がるけど、切れた時にまた急に熱が上がるから、本人も苦しいと思うよ。1日3回までは使って良いことになっているけど、使うのは、夜に寝かせる時くらいにした方が良い。水分だけはちゃんとあげてね。水でもジュースでも氷を口に含ませるだけでも、本人が飲める方法なら何でも良いから。明後日、また受診してね。
さて、どちらが「出世する医師」でしょう?
患者や家族の“心情”を考えた言動がとれるかどうか
A医師は30代後半、B医師は40代前半。勤務先は違いますが、ほぼ同等クラスの2次医療機関に勤務しています。いずれも同じ大学の医局から派遣されている形で、それぞれの病院に勤務しています。
A医師はいまだに“医局員”という扱いですが、B医師は5年ほどまえから、この病院の小児科部長です。つまり、A医師の頃には部長職についていたわけです。
市中の病院でどうやって出世するかは、色々な状況もありますので、一概にはいえません。ましてや大学の医局からの派遣であれば、異動もあるでしょう。しかし、B医師のところには、例えば転居によってその地域を離れた患者さんも、定期的に通ってくることがあります。
B医師はその病院に6年ほど勤務していましたが、とても気に入っていったため、部長職についたとのこと。40歳を目前にして部長職ですから、出世している方ではないかと思います。この地域には、小児科で入院できる病院が他になく、病室はいつも満床だそうです。
これらのお話は8年ほど前のことですが、B医師は今でも小児科部長として活躍中。かたやA医師は、すでに40代後半にさしかかっていますが、いまだに数年間で色々な病院を転々としているそうです。
2人を分けたポイントは“相手の心情を考えた言動がとれるかどうか”です。今回は対患者さんとその保護者でのシーンですが、こういった言動は、医師同士、医師と看護師などのコメディカルに対しても同様です。B医師のところには「ぜひ先生のところで修業したい」という若い医師も、後を絶ちません。
いかがでしょうか。同じことを伝えるにしても、やはり“言い方”ってありますよね。医師という職業からみればほんの小さなことかもしれませんが、例えば将来開業するような場合は、間違いなく、B医師の方が患者さんの数は多くなります。
小児科の医療機関に対する母親の情報網って、意外とスゴイんですよ。
この記事をかいた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート