第9回:看護師に好かれる女性医師 K医師
■ 記事作成日 2015/4/25 ■ 最終更新日 2017/12/5
看護師からの人気が2分した理由とは…
元看護師のライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で出会った、看護師に好かれる医師/嫌われる医師の人物像を振り返ってみます。9回目の今回は、看護師からの人気が2分したK医師です。
自称“暗がりで暗躍する男”
K医師は眼科医だ。私が手術室に勤務している時、その病院に眼科医として赴任してきた。当時はまだほんの“若者”の部類に入る医師であり、当時のその病院の眼科医では最も若い医師だった。
眼科医は、暗がりで手術や診察を行うことが多い。
医師自身の疲れ目具合とか視力への影響はどうなのか?という気もするが、診察室での検眼や診察でも、手術中でも、とにかく暗がりで何かをしていることが多い。すぐ手元に電気のスイッチを置かない限り、カルテへの記載も暗がりの中、デスクライトの光のみで行っている。
そんな暗がり大好きな眼科医のK医師は、自称“暗がりで暗躍する男”だそうだ。まぁ、言わんとしていることは分かる。それにしても“暗躍”って……。あまりいい意味では使わない言葉だが、K医師の場合はそこに“ユーモア”が同居しているので、私や一部の同僚(以下、Aさん)の中では非常にウケていた。
Aさんは私より看護師としては先輩であるが、私が3年目の時に異動してきた同僚。彼女は非常に繊細なモノの管理が得意だったので、異動してきた時から手術室の中での眼科係だった。
そのせいもあるが、眼科の手術につくことが非常に多かった。K医師が赴任してきたのは、Aさんの異動とほぼ同時期だった。
確かにすばらしいウデを持っている
K医師が赴任してきて、劇的に変わったことがあった。1日の手術の件数だ。
赴任当初はそれなりに他の医師と足並みをそろえた件数だったが、K医師の手術は本当に早い。例えば午前中の予定件数が白内障4件の場合、K医師は2時間もかからない。
今でこそ白内障手術(超音波乳化吸引+眼内レンズ挿入)の手術時間は10分程度で終わることが多いが、それは執刀から手術終了までの時間。当時の手術時間は20分くらいはザラで、患者さんの入替から消毒、ドレーピング、術後に退室するまでの時間に30分以上かかるのは普通だった。
患者さんは高齢者が多いし、病棟へOPE出しの連絡をしてから入室までの時間もかかるため、そのタイミングを計るのが難しかった。
ところが、K医師はものすごく手際が良い。他の医師はレンズ挿入の段階で「次の患者さん呼んで」と指示していたのだが、K医師は執刀後間もなく「次の患者さん呼んで」ときた。最初は「早すぎないか?」という疑いを持ったのだが、実際に次の患者さんが入室するまでには、手術が終了して、あとはお迎えを待つばかりだった。
つまり、スムーズな入替が可能だったのだ。
一部のOPE室ナースから嫌煙された理由
そんなことが続いたある日、K医師はAさんに「1日の手術件数を増やすためには手術室でどんな準備が必要か」と質問を投げた。
その時点では白内障手術セットは5組分しか組んでおらず、午後まで手術がある時は事前にその分を追加して組んでいた。ところがK医師は「午前中6件、午後7件くらいはいけると思うんだよねー」と仰る。
えー、器械組も増えるのー?と、手術室看護師からは若干のブーイング。さらに午前中で6件の手術を円滑に進めるためには、患者さんの入替にも気を遣わなくてはいけない。
今までのように、眼科手術を行う部屋の入り口で上手くすれ違えるようなやり方では、手術時間そのものが短縮されるだけでは件数はこなせない。
そこで、手術室看護師の間で「患者さんの入替を円滑に行う方法」を検討し、1列の手術に3人の看護師を付け、「手洗い」「下」「下の下」という3つ目のポジションも含めたローテーションをすることになった。
私自身はこの方法に賛成だった。当時は私自身があまり深く考えていないという背景もあるが、件数も増えて、患者さんの待ち時間がなくなって、円滑に1日の件数がこなせるならば問題はないだろう。
しかし一部の看護師からは、「器械組の件数が増える」「1列に3人がつきっきりになるとフリーの看護師がいなくなる」などの理由で、若干のイヤイヤ感にあふれた声も聞かれたのは事実だ。
人に“物を教える”ことが上手いのも好かれる理由
K医師は手術の腕だけではなく、人を指導するのも上手だった。
当時のその手術室では、ECCEからPEAへの移行の時期であり、手術症例の半分くらいはECCの適応になることが多かったように思う。PEAを行うための新しい器械が導入されたり、スリットナイフなど複数のマイクロフェザーが導入された。
それまでのその病院の眼科医は比較的「保守派」な医師が多かったのだが、K医師は明らかに「革新派」だったので、もしかするとその辺りもK医師の影響があるのかもしれない。今となっては、真実は分からないが。
さて新しいPEAの器械が入ると、手術室看護師も勉強しなくてはならないことが出てくる。実際、白内障手術で行われていることは何なのか、この器械はどうやって使うのか、問題が起きた時の対処法は何なのか。
課題は山積みだ。
そこでK医師による“白内障手術と手術室看護師の役割”という講義が行われた。K医師お手製の資料付き。この資料が非常に分かりやすく、手術の流れ、医師の操作だけではなく、器械出し看護師の役割や器械出しのポイントまでを網羅していた。
手書きのイラストがふんだんに使われており、他の医師では真似できない(いや、医師の仕事として必要な技量なのかは微妙だが)技も持っていた。
この講義と資料により、当時の手術室看護師の眼科手術介助が多少なりともレベルアップしたことは事実だろう。
K医師とAさんとの2人3脚?
Aさんは手術室への異動早々に眼科係となり、新しい器械の使用法から管理の仕方、マイクロフェザーの補充まで一気に仕事が増えてしまった。
しかしAさん自身、「新しいことへの挑戦」を好む性格であり、腕が立つとはいえ一番下っ端なK医師は意見や要望を伝えやすかったということもある。
さらに、Aさん自身が手術室内では新人でも、看護師としての経験年数もあるし、「とにかくミスが少ない、しっかりした人」だったので、他の医師からの信頼も厚かった。この2人の協力により「それまでの仕事の流が変わる」とか「看護師の仕事が増える」といった課題は、比較的さくっと解決出来た気がする。
手術室は外科系限定ではあるが、さまざまなタイプの医師と接する機会がある。私自身がK医師と一緒に働いていたのはほんの2年程度だが、これまでに会った医師の中でも群を抜いてデキる医師だったと思う。
現在のK医師はだいぶ出世されているが、これからも患者さんのために「革新」を起こす医師であって欲しいと願っている。
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