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Eテレ「放送大学」 H29年1月28日 6:00~より

 

2017年1月28日放送のEテレ「放送大学」では「心理臨床と身体の病」をテーマに放送していました。以下は番組内容の要約ですので、番組を見落とした方などはチェックしてみてください。

 

※画像はEテレ「放送大学」ウェブサイトより http://www.ouj.ac.jp/

 

担当講師 小林真理子、幸田るみ子、小池眞規子、橋本洋子、矢永由里子


1.医療機関における心理士の活動の現状

日本臨床心理士会が2014年に行った調査(回答者1416人)によると、「臨床心理士が勤務する診療科・診療支援部門」は、精神科が965人、心療内科が447人と多くの人が精神・心の医療の領域に従事している。その他、小児科、内科、神経内科など多様な領域で臨床心理士が活躍している。

 

次に、国の医療事業である5大疾患5事業における臨床心理士の取り組みについて。

 

2013年度の1年間に臨床心理士が担当した5大疾患においては、認知症を含む精神疾患が1212人と突出している。その他、がんが289人、糖尿病が191人、脳卒中が139人、急性心筋梗塞62人の順になっている。

 

また5事業においては、回答者の約4割が、救急医療、周産期医療、へき地医療、災害医療、小児医療のいずれかに携わっている。精神医療の領域から始まった心理士の身体的医療活動は、現在では身体医療のあらゆる領域・診療科において必要とされ、広がっている。


2.5人の講師による座談会

 

1)身体医療領域におけるこれまでの実践

 

小林(司会)

 

1980年代に大学の文学部心理学科を卒業。東京都に心理職として就職、精神医学総合診療所の臨床心理学部門に配属。そこで総合病院の精神科や小児科に勤務し、臨床心理の歩みを始める。

 

約15年東京都に勤務した後退職。学生相談室で働きながら在籍した大学院時代、子育て中のがん患者への支援を研究課題として取り組む。これをきっかけに、以前勤務していた病院の緩和ケアチームに所属、以降がん臨床領域に携わる。

 

橋本

 

周産期の心理領域が専門。NICU(新生児集中治療室)において心理士が何か役に立てるのではないかと思ったことをきっかけに、NICUで新生児や家族への心のケアに携わっている。1997年に周産期心理士ネットワークを立ち上げる。

 

矢永

 

1978年のアメリカ留学中、留学生専用の充実したカウンセリングセンターがあったことがきっかけでカウンセリングに興味を持つ。

 

1980年、2度目の渡米で心理学を専攻していた際、祖母ががんであることが発覚。その際、ターミナルケアやホスピスに触れ、学部生・院生時代にホスピスを実践する病院で学ぶ。

 

帰国後、HIV・エイズのホスピスケアに携わっている。

 

幸田

 

1980年代、コンサルテーションリエゾン活動が活発になったころ、大学病院で臨床心理を始める。

 

そこで数多くの身体疾患の患者に触れるうちに、患者の精神症状は薬やホルモンなど生体学な影響が大きいことを目の当たりにし、医療を一からやり直したいと考え、10年の臨床心理を経験したのち、医学部に進み精神科医となる。現在はリエゾン精神学に興味を持ち取り組んでいる。

 

小池

 

教育学部で心理学を学んでいる当初から、病院で病気の子供に携わりたいという思い、国立成育医療研究センターに心理職として就職。

 

1年勤務した後、東邦大学医学部付属病院小児科でNICUから思春期・青年期までの子供たちと関わっていくうちに、もっと医学を学びたいという思い、筑波大学大学院に入学、終末期医療について研究。

 

その後国立初のホスピスである国立療養所松戸病院で勤務。松戸病院と柏病院が統合され、国立がんセンターが設立、そこで緩和ケアに携わり、現在に至る。

 

2)身体医療領域の心理士の立ち位置と役割

 

矢永

 

HIV・エイズは1980年代から社会的に問題となった。心理社会的課題が深刻であったが、現場は手探り状態で、若者にいかに告知するかがテーマだった。

 

カウンセラーには心の支援が期待されていたが、患者・家族、医療関係者自体もカウンセラーとは何なのか理解が進んでなかった。一方で、新しい分野でモデルもないので、自分達で患者・家族に良いサポートとは何かを議論して作っていった。

 

型が何もない中で、「患者・家族に役に立っているか」を指標にしながら活動していった。医療者とのコミュニケーションも通して一歩ずつモデルを作ってきた。

 

橋本

 

国内外にモデルのない中で、臨床実践の中で形を作ってきたという意味では、周産期も同じ。周産期が異なるのは、患者・家族や医療者の依頼で心理面接をするのはまれ。

 

自分たちがNICUや病室に出向いて行き、赤ちゃんや家族と会うのが自然な流れ。問題があるから心理的ケアを行うのではなく、問題・疾患あってもなくても先端医療の場で赤ちゃんと家族の心が育まれるように、心理士は見守り手であるようにした。

 

心のケアは心理士の専売特許ではない。医師の治療、看護師の看護など具体的手段があって、心への配慮があるときが一番の心のケアであると思う。

 

心理士は具体的に何かやることが決まっているわけではないが、その場にいて、逆に聞く器になることができる。それが心理臨床の基本。

 

小池

 

がん医療でも面接室での面接は少ない。がん患者はがんの治療に来ていて、がんになって生じた心の問題がある。

 

その心の問題をサポートするのが心理職。医師も看護師も患者・家族のために、どんなことが役に立つのか、多職種みんなで行っていくのが心のケア。実践から一つ一つ学ぶのが身体医療領域における心理臨床。

 

私ががん医療に携わって間もないころ、まだがん終末期患者にどういったサポートをしたらよいかが広まっていいなかった。心理の面ではHIV・エイズのカウンセラーから多くを学ばせてもらい、心理職の役割はつなぐことだと学んだ。

 

患者と医者・看護師、医師同士、家族と患者など様々なつなぎの役割は心理職が型にはまってないからこそできる役割。

 

幸田

 

医療の領域で心理士が働くことの多い精神科や心療内科といった診療科の患者は、何か自分には心の問題があるかもしれないと根底に感じている。

 

そうすると心理士と向き合うときには、ある程度モチベーションがある。しかし、身体科の患者は身体の病気を治すために病院に来ている。そこで心の問題に対応します、といきなり言われると抵抗する。

 

「もっと身体の苦しさを取ってほしい、自分の心が弱いからか。」と警戒する。身体科の心理士は、メンタルケアに当たる際、患者に抵抗感があることを理解した上で取り組む必要がある。患者の抵抗・心配を感じながら関わるのが心理士の役割。

 

3)身体医療領域の心理士のこれから~何が求められているのか~

 

橋本

 

医療者が求めることと患者が求めることを自分の中で分けて考えることが必要。周産期では、NICUの保育器の前でお母さんと一緒に立っている時間がある。

 

一見すると何もせず役に立っていないように見えるが、その時間がとても大切。でも役に立っているということをアピールしようとすると違ってくる。そんな心理士のスタンスについて、周産期関連の医学会や医療雑誌で地道に発信し続けることで、医療側に理解が広がってきている。

 

また、チーム内で理解し合うのは大切。でも理解しながらも同化してしまっては意味がなくなる。異質のままでいることが実は大切。ただ、異質のまま一人職場にいるのは大変なこと。そのあたりは周産期心理士ネットワークで、密な研修を組んでサポートし合っている。

 

矢永

 

二つ求められていると思う。一つはコミュニケーション能力。他者へつながる、他職種と連携する。自ら出ていってつながろうとする能力も必要。

 

具体的にはカルテにコンパクトに自分の専門性を活かしながら書くこと。もう一つは、漠然としているが広い視野を持つこと。好奇心やチャレンジ精神が必要。現在の心理臨床モデルは、今までの社会状況に対して生まれたもの。

 

社会は生きていて常に変化する。それをいつも意識して変化をキャッチし、柔軟性を持ってやっていく必要あり。

 

小池

 

 全体を見渡せること、柔軟に考えて行動できること。誰もがわかる言葉で患者、家族、医療職とコミュニケーションがとれることが大切。心理職は多くの心理療法を学ぶが、○○(マルマル)療法にこだわらないことが大切。

 

幸田

 

心理士が働く場は医療領域だけでなく、学校領域、産業領域、司法領域など多様で、大学・大学院の学生は非常に覚える量が多い。しかも医療領域は精神科、心療内科領域が中心となるため、今回のテーマのように、身体科領域に特化した講義はたぶんない。

 

そうすると大学院を出て心理士になって身体科領域に出ても、ノウハウがない。そのため、卒後研修といい形で身体科医療についてシステマティックに学ぶ機会を作るのが課題。医師のような研修医制度のように、特に医療に関わる心理士は全員がきちんと受けられるような研修制度が必要。

 

小林

 

学生は机上のものをなかなか実践に役に立てられない。事例検討会など実践の場で勉強させる機会が必要。また、それぞれの診療科、身体疾患に特化した勉強も必要。さらにそれぞれの分野ごとの研修が必要。学部、大学院での勉強は基礎的なもの。そこから就職して医療現場に入ってからが、また新たなスタート。


まとめ

 

身体医療における心のケアには、治療中の患者さんの不安や苦痛に対応するだけでなく、病気になった一人の人が病気と向かいあいながらどのように生きていくのか、そこを支援していく営みも含まれている。

 

病気と向き合っていくには、エビデンスに基づく医療の現場において、ナラティブな視点をもった心理士の存在が必要となる。患者さんや家族一人一人のかたわらに寄り添い、病を抱えながら生きていくその人の物語をじっくり聞いていく姿勢が求められている。

 

診断時から治療期、終末期、グリーフケアに至るまでの様々な局面において、患者や家族の心のケアの担い手として、心理士の貢献できる役割は大きい。これまで蓄積されてきた臨床心理学の治験と心理臨床の知恵をチーム医療の中で応用し、活かしていくことが求められている。

 

Eテレ「放送大学」2017年1月28日放送「心理臨床と身体の病」より引用、要約、および台詞等一部書き起こし

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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