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第39回:保健医療計画からみる山梨県の姿

山梨県の医師転職事情と未来~保健医療計画と地域医療から読む

 

■ 記事作成日 2017/12/4 ■ 最終更新日 2017/12/5

 

保健医療計画からみる山梨県の医師転職事情

 

元看護師のライター紅花子です。

 

「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、今回は中部地方に位置する山梨県の医療情勢を山梨県の第6次保健医療計画を基に見ていきます。

 

山梨県の現状を分析

 

山梨県は日本列島のほぼ中央に位置し、東京都、神奈川県、静岡県、長野県、埼玉県に囲まれた内陸の県です。

 

山梨県が公表しているデータによると、総面積4,465.27k ㎡、全国で32番目の土地の広さとのこと。
地形上の特徴として、急峻な山々に囲まれていることが挙げられ、富士山や北岳、間ノ岳、仙丈ケ岳といった日本で高い山トップ3は全て山梨県にあります。

 

また、日本三大湖沼の1つである富士五湖や、県土の3割を占める自然公園があるなど、自然豊かな土地です。

 

この自然を活かした農業が盛んな山梨県。特に果実の生産が盛んで、農業生産額の5割以上を占めるブドウ、モモ、スモモは、生産量全国一。
このほかにも工業分野では、ミネラルウォーターや貴金属装身具などが、国内1位の生産量を誇っている県です。

 

そんな山梨県の平成27年の総人口は835,000人。
全国で6番目に人口の少ない地域のようです。

 

山梨県の人口は平成17年より減少が見られており、平成17年から平成22年の間に2.4%もの減少が見られ、人口減少が急激に進んでいます。

 

図1 山梨県 高齢化率と人口増加率の推移

 

さらに年代別人口を見てみると、平成22年の結果では年少人口が13.5%、生産年齢人口が61.9%、これに対して老年人口は24.6%と、全国平均よりも高い値となっています。

 

年少人口は現在のところ、全国平均の13.2%をわずかながら上回っているものの、生産年齢人口の減少と、老年人口の増加から、今後は少子高齢化がより一層進むことが懸念されます。

 

図2 山梨県 年代別 人口の推移

 

山梨県の人口動態は

 

引き続き、山梨県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。

 

平成27年の出生率は人口千対7.3となり、全国平均の8.0を下回りました。
その一方で、合計特殊出生率は1.46であり、全国平均値と同等となっています。

 

つまり、出生率は低いものの、合計特殊出生率が高いことや、現在は年少人口も全国平均を上回っていることから、今後年少人口の減少を食い止めることができる可能性があるかもしれません。

 

また、平成26年の時点での高齢化率を見てみると27.5%となり全国平均である26.7%を超えています。
全国的に見ても高齢化率がやや高い地域ではあります。

 

平成26年の時点では47都道府県中ほぼ中間くらいの高齢化率であった山梨県は、2040年の高齢化率の予測値では一気にトップ10にランクインします。
このことから、高齢化は急速に進行していく可能性があることが分かります。

 

続いて死亡に関するデータを見ていきます。

 

平成26年の死亡者数は9,635人で、人口千対で見ると11.7となります。

 

高齢者が多いこともあり死亡率全国平均である10.3を上回る結果となりました。
その死因は、悪性新生物が最も多く27.1%、心疾患が15.0%と全国平均より低いものの、脳血管疾患が10.5%と全国平均を上回り、肺炎が9.7%となります。

 

全国的に4番目に多い脳血管疾患が3番目に多いのが山梨県の特徴です。
また、老衰による死亡率が全国平均よりも高いというのも、高齢化を裏付ける結果となるのではないでしょうか。

 

図3 主要な死因による死亡者の割合 山梨県と全国との比較

 

山梨県の医療状況はどうなっているのか

 

次に山梨県の受療率を見ていきます。平成26年度の受療率をみると入院では、

 

  • 全国平均:人口10万対1,038
  • 山梨県 :人口10万対993

 

となり、全国平均を下回っています。また、外来受療率は

 

  • 全国平均:人口10万対5,696
  • 山梨県 :人口10万対5,426

 

と、こちらも全国平均を少しだけ下回り、全国で17番目に低くなっています。
医療への依存度は比較的低いものと捉えるのか、場合によっては「依存したくてもなかなかできない」ことも考えられます。

 

 

図4 山梨県 外来および入院受療率 全国との比較

 

受療率を傷病別に見てみると、入院受療では高い順に精神及び行動の障害、循環器、悪性新生物となっており、外来では消化器系、循環器系、筋骨格筋および結合組織となっています。

 

山梨県民からみると、これらの診療科は山梨県内でも比較的充足していると感じているようですが、産婦人科、皮膚科、耳鼻科は不足している診療科であると感じているようです。

 

山梨県の保健医療圏はどうなっているか

 

山梨県の保健医療圏は、他の都道府県同様に一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれています。

 

山梨県の二次医療圏は中北医療圏、峡東医療圏、峡南医療圏、富士東部医療圏の4医療圏となっています。
平成18年以前は8つの医療圏で構成されていましたが、人口や患者の流入、流出の状況から見直しが図られ、平成18年以降は4医療圏に編成されなおしました。

 

図5 山梨県内の保健医療圏

 

現在、峡南医療圏の患者流出率は50%、富士・東部医療圏は43%と非常に高くなっています。

 

これらの医療圏では、一般病床数が他の医療圏と比べて少ないという特徴があります。

 

また峡東医療圏では、中北医療圏の半分ほどの医療機関しかないものの、患者流入率48%と患者の流入、流出率にまだまだ偏りがあります。

 

この患者の流入、流出率は救急搬送にも関係しており、二次医療圏に救急搬送される際「必ずしも自分が住むエリアの医療機関に搬送されていない」という現実があります。

 

しかし山梨県では、二次医療圏の編成が済んだばかりであるということを加味し、しばらくは現状の二次医療圏のままで医療を展開していく方針を固めています。

 

医療依存度が比較的低い山梨県。医療圏は編成済みであるため患者の流入や流出率に偏りはありますが、現状のまま様子を見ていくことを明言しています。
そんな山梨県の医療状況を引き続き見ていきます。


山梨県の病床数とこれから

山梨側から望む富士山

 

では、山梨県内の各保健医療圏における既存病床数と基準病床数について見ていきます。
山梨県全体では、既存病床数が基準病床数を2,305床上回っており、ほとんどのエリアで既存病床数が基準病床数を上回る状況です。

 

図6 山梨県内の既存病床数と基準病床数

 

一般病床だけでなく精神病床や感染症病床、結核病床など、ほぼすべての病床が基準病床数を上回っており、特に受療率が高まっている精神病床では今後の病床数の増減にも注目が集まると考えられます。

 

また、前述したように山梨県では二次医療圏の見直しが行われており、第6次保健医療計画が立てられたのは二次医療圏見直し直後であり、病棟の新設や閉鎖が行われている可能性もあるため、このような結果となっているとも考えられます。

 

図7 山梨県の病床数の推移

 

次の「第7次保健医療計画」では、現在の山梨県の病床事情が見えてくるのかもしれません。

 

山梨県内にはどのような機能を持つ医療機関があるか

 

山梨県では循環器系の疾患による死亡率が全国よりも高くなっています。
脳血管疾患が全国では4位であるのにもかかわらず、山梨県では3位であることにも通じるかもしれません。

 

山梨県では、峡南医療圏、富士・吉田医療圏では医療機関の数が少ない、対応できる医師がいないということもあり、山梨県全体で循環器疾患を扱う体制を整えています。
また救急分野については、大学病院1か所と公立病院1か所を三次救急の拠点とし、重症度の高い患者に対する医療を展開しています。

 

山梨県では、平成24年からドクターヘリの運用を開始しました。
平成15年ころより、富士・吉田医療圏に限定して神奈川県とドクターヘリを共同運航していましたが、県内での運用を開始したことによって、神奈川県との共同運用は減少しているそうです。

 

図8 山梨県内 特定の医療機能を有する病院数

 

その一方で、山梨県内、特に富士・吉田医療圏と峡南医療圏において、無医地区、準無医地区が多く存在しており、これらの圏域では他の医療圏と提携しつつ、無医地区の解消に努めています。

 

山梨県では実際のところ、医療機能の偏在により「自地域で受けたくても医療が受けられない」という事例が、多くみられているようです。

 

そのため、二次医療圏の枠を取り払い、各医療圏同士が協力しあって医療を展開しているということも、大きな特徴と言えるでしょう。

 

山梨県内の医師数と今後の確保対策

 

山梨県の医師数は年々増加傾向であり、平成22年現在の医師数は1,887人となるものの、人口10万対の医師数を全国と比較すると、山梨県は全国平均を下回っていました。

 

図9 山梨県内 医師数の推移

 

人口10万対医師数を二次医療圏ごとに見てみると、中北医療圏が279.8人と最も多く、医師の75%が東部医療圏に集中しています。

 

その他の圏域では、峡東医療圏が174.0 人、富士・東部医療圏が140.0 人、峡南医療圏が109.1 人です。
その差はおよそ2.56倍。

 

また、中北医療圏以外はすべての医療圏で山梨県の平均値を下回るという結果となっていることからも、医師の偏在が大きな課題といえそうです。

 

図10 山梨県 医療圏ごとの医師数の比較

 

これは平成16年度からスタートした医師の臨床研修の必修化によって臨床研修医が都市部に集中してしまったことや、大学病院が診療体制の維持のため地域の公立病院等へ派遣していた医師を大学に引き揚げたことなどに、その理由があると考えられます。

 

また、内科や精神科といった、他の県では比較的多くの医師を確保できている分野が、山梨県内ではまだまだ不足している状況のようです。

 

これらのことから、山梨県では医師の地域偏在の解消を急務としており、山梨県内でのキャリア形成促進や女性医師が働きやすいよう処遇の改善、若手医師の海外留学支援などを行うほか、地域の医療機関で勤務する医師のキャリア形成に係る不安の解消に向け、医師のキャリア形成支援と一体的に地域の医療機関の医師確保を支援する「地域医療支援センター」を、山梨大学等と連携して設置することを対策として掲げています。

 

また、地域で働く医師数を増やすために研修施設と連携し、若手医師の県内定着を図っています。

 

さらに、県内で働く意欲のある医師は、県の職員である公務員として採用し、県内の公立病院に派遣するなどの対策を行っています。

 

まとめ

武田信玄像(甲府市)

 

医療圏の再編成が終わったばかりの山梨県では今後、医療の偏在が解消されるかもしれません。

 

他の地域では過剰となりかねない内科の診療医が不足しているという点や、県内に従事し続ける医師があれば公務員としての採用も可能であるため、転職を希望している医師にとって好条件がそろう県といえそうです。

 

 

参考資料

 

山梨県公式ホームページ 山梨県のあらまし2017
http://www.pref.yamanashi.jp/koucho/aramashi/documents/2017_aramashi_05-06.pdf

 

平成27年国勢調査 
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka/pdf/gaiyou.pdf

 

徳島県公式ホームページ
http://www.pref.tokushima.jp/docs/2009102000015/

 

平成 27 年 人口動態統計月報年計(概数)の概況 
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/gaikyou27.pdf  

 

内閣府 高齢化の状況
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_1.html

 

厚生労働省 平成26年患者調査の状況 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf

 

山梨県保健医療計画
http://www.pref.yamanashi.jp/imuka/documents/h25iryoukeikakuhyousi-4.pdf

 

この記事をかいた人


紅 花子

正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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