第5回:保健医療計画からみる千葉県の地域医療
■ 記事作成日 2016/6/25 ■ 最終更新日 2017/12/6
千葉県の保健医療計画
元看護師のライター紅花子です。
「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、これまで、埼玉県、高知県についてお伝えしてきました。3つ目の都道府県として今回は、千葉県を取り上げてみました。
千葉県人口の現状を整理
千葉県は、首都圏の東側に位置し、北西は東京都と埼玉県に、北は茨城県に接しています。太平洋に突き出た半島となっており、四方を海と川とに囲まれ、水と緑の豊かな自然の恵みを受けている土地です。
面積は全国28位、東京都と神奈川県を合わせたよりも広いそうです。三方を海に囲まれた千葉県は、冬暖かく夏涼しい海洋性の温暖な気候であり、特に南房総の沿岸は、沖合いを流れる暖流(黒潮)の影響により、冬でもほとんど霜が降りることがありません。
平成27年国勢調査の結果では、千葉県の人口は全国で6位、関東地方の中では、東京都、神奈川県、埼玉県についで4位です。2000年(平成12年)以降の人口は、東京都のおよそ半数くらいで推移しています。人口密度のランキングは6位。2013年10月の時点で、おおよそ1,207人/平方キロメートルくらいです。
千葉県は、2010年(平成22年)ころまでは、全国でも数少ない、人口増加率がプラスの県でしたが、2012年(平成24年)には、人口増加率がマイナスに転じています(-0.32)。しかしその翌年には、自然減少は続くものの社会減少にほんの少しブレーキがかかり、2013年(平成25年)の人口増加率は、0.28ポイントですが、持ち直しています(-0.04)。
千葉県の高齢化率は、現在のところ全国平均よりも若干低くなっています。しかし、千葉県の高齢化率は、この10年間で約1.6倍の増加がみられていることから、2015年(平成27年)には、高齢化率が26%を超えると推測しています。
下のグラフでは。平成22年までは実数値を元にしていますが、平成27年以降は、国立社会保障・人口問題研究所が公表している、「日本の都道府県別将来推計人口」(平成25年3月)によるものです。
図1 千葉県の高齢化率と人口増加率の推移
千葉県の高齢化率を見てみましょう。内閣府が公表している「高齢社会白書(概要版)」によると、平成25年版では、千葉県の高齢化率は24.3%でした。しかし平成26年版の同資料によると、千葉県の高齢化率は25.3%でした。この1年の間で、1ポイントほど、高齢化率が高くなりました。
千葉県の推計よりも、少し低めで推移してはいるものの、今後も高齢化率は増加傾向にあると考えられます。
上のグラフは、千葉県県の人口の推移を、3つの年齢区分で分けたものです。こちらも、平成27年以降は前出の推計値を元にしています。65歳以上の区分はそれほど大きな変化は見られませんが、労働者人口、15歳未満ともに、年を追うごとに縮小されているのが分かります。
千葉県は、全国でも数少ない「人口が増加傾向にあった」県です。それが、平成22年ころまでは、このグラフにも現れています。しかし平成25年ころを境に、ほんの少しずつではありますが、県の人口全体が減少傾向になりました。
千葉県の人口動態はどうなっている?
では次に、千葉県の人口動態に関するデータをいくつか見てみましょう。まずは出生率に注目します。千葉県の出生率(人口千対)は、平成7年からは、ほぼ横ばい。平成23年は8.2でした。全国平均は8.3ですので、0.1ポイント低かったことになります。全国では第24位となっています。
次に、死亡率に注目します。千葉県の死亡数は、長期的にみると増加傾向にあります。平成23年時点での死亡率(人口千対)は8.4、全国平均の9.9を1.5ポイント程度、下回っており、全国では第42位でした。
千葉県内で多い死因は、全国平均とほぼ同様で、悪性新生物(がん)、心疾患、肺炎、脳血管疾患の順番です。
上位3疾患で全死亡数のおよそ6割近くを占めますが、これは全国平均(53.8%)よりは少し高くなります。一方で、上位3死因の死亡率(人口10万対)を細かくみると、悪性新生物249.0(全国283.2)、心疾患150.0(全国154.5)、肺炎84.7(全国98.9)ですので、死亡率でみると、いずれも全国平均より低くなっているようです。
図3 千葉県の人口10万人あたりの主な死因別の年齢調整死亡率
千葉県の医療状況はどうなっているのか
では次に、千葉県の医療状況についてみていきます。厚生労働省が行っている、平成26年の患者調査のデータより、入院/外来の受療率のランキングをみると、千葉県の受療率は、次のようになっています。
- 入院受療率(全国平均=1,038人):全国45位(745人)
- 外来受療率(全国平均=5,696人):全国46位(4.901人)
図4 千葉県内の入院/外来別受療率(全国との比較)
となっています。入院、外来ともに、全国平均を下回っています。尚、入院受療率 46位は埼玉県、47位は神奈川県、いずれも関東圏です。外来受療率の47位は沖縄県でした。
外来受療率が全国平均を下回っているのは18都道府県、入院受療率が全国平均を下回っているのは25都道府県あります。その中で、千葉県は外来受療率、入院受療率ともに、もっとも低いグループに属しています。
千葉県ではこれらの現状に対し、「平成22年現在、千葉県の平均年齢は年齢の若い順で全国8位となっているように、(千葉県全体の)人口の構成が若いことが挙げられる」としています。
もちろん、理由はこれだけではないと思いますが、同じように外来受療率が低い神奈川県や埼玉県も、比較的人口の構成が若いといえるでしょう。ただし千葉県ではこの状況に対して、今後は高齢化が加速することも予測できることから、適切な対策を図る、としています。
千葉県には、ちょうど中央あたり、南北方面に向かって、300m規模の山地があり、その西側と東側、あるいは千葉県の北側と南側で、人口分布が大きく変わっています。千葉県は、東京へのベッドタウンとして発展してきたこともあり、東京都や埼玉県に隣接した地域に、人口が集中しています。このあたりの状況も、千葉県全域に対する病床数の配置に関係しているようです。
千葉県は、人口増加率が数年前まではプラスであり、高齢化率も25%を超えているとはいえ、全国的にみれば比較的低めです。では、千葉県の医療状況は現実的にどうなっているのでしょうか。
千葉県の保健医療圏はどうなっているか
千葉城
千葉県は平成25年(2013年)からの保健医療計画が進行中でしたが、平成28年(2016年)に、一部の改定を行っています。改訂された内容には、病床数のコントロールも含まれていました。千葉県は、一次医療圏は各市町村、三次医療圏は千葉県全域です。二次医療圏については、千葉県全域を9地域に分けています。
このうち、「千葉保健医療圏」は千葉市のみ(千葉市は政令指定都市)、「市原保健医療圏」は市原市のみで構成されています。千葉県の県庁所在地は千葉市ですので、本来であれば「千葉保健医療圏」が中心地です。しかし、2016年(平成28年)現在では、人口が一番集中しているのは、千葉市よりも東京都や埼玉県に近い、東葛と呼ばれる地域(東葛北部ならびに東葛南部)のようです。
千葉市の統計によると、千葉県は比較的、医療機能の整備が構成人口の現状に追いついていない県かもしれません。千葉県は、人口 10 万人当たりの病院数、一般診療所数、薬局数、訪問看護ステーション数などが、いずれも全国平均を大きく下回っています。一例を挙げてみましょう。
- 病院:人口10万対施設数 全国44位
- 一般診療所:人口10万対施設数 全国45位
- 薬局:人口10万対施設数 全国42位
- 訪問看護ステーション:人口10万対施設数 全国40位
ただし、訪問看護ステーションの利用者数も、人口10万対で全国40位ですので、こういったところにも、高齢化率が低めであるという現実が、影響しているのでしょうか。
では、千葉県内の各医療圏に対する、基準病床数をみてみましょう。
2016年6月現在、多くの都道府県は「第6期」の保健医療計画が進行中です。これは、平成25年度(2013年度)から平成29年度(2017年度)までのものです。千葉県も、平成25年度からスタートした保健医療計画が基本ではあるのですが、平成28年(2016年)4月に、一部を改訂しています。
※上の図2にある「基準病床数」と「既存病床数」は、この平成28年4月に改訂されたものを元に、イメージ化しています。つまり、既存病床数は、平成 28年1月1日現在の開設許可病床数に、必要な補正を行い、さらに平成27年度までに配分した病床を加えたものから、データを抜粋しています。
図2からも分かる通り、千葉県内のうち、東葛北部、東葛南部、千葉の各保健医療圏では、今後2年間の間に、およそ1,300床の病床数増加が見込まれています。その一方で、他の地域ではおよそ1,800床の病床数減少とする方針です。
前回、こちらのコラムでお伝えした高知県は、人口増加率がマイナス傾向となって久しく、今後もその傾向は続くため、県全体での病床数は減少傾向であり、すべての保健医療圏において減少とする方針でした。
千葉県の場合、県全体でみると人口増加率はマイナスに転じたばかりですし、一部の地域では今後も人口増が見込まれるため、県全体では病床数減少傾向となりますが、前述の通り3つの地域では、今後も病床数増加が続くようです。
千葉県内の病床数の推移について
千葉県は、県全体での人口増加率がマイナスとなったのは、平成25年頃です。それまでの事項増加率は、ずっとプラス傾向が続いていました。
では千葉県内の病床数はこれまで、どのように変わってきたのでしょうか。
図3 千葉県内の病床数の推移(平成8年から平成26年まで)
千葉県内の病床数は、実は平成23年(2011年)まで、ずっと増加傾向が続いていました。人口増加率がわずかながらでもプラス傾向が続いていたためと推測できます。しかし、平成25年頃を境として、人口増加率がマイナス傾向に転じたため、現在進行中の保健医療計画の中で、平成8年以降初めて病床数も減少傾向となったようです。
ただし、実際の病床数と人口10万対病床数のピークは、やはり数年のずれがあります。これは、どの都道府県でもあり得る現象ですが、人口の増減とそれに対する病床数のコントロールの間には、数年のタイムラグができてしまうのです。
千葉県の場合、図3の表を元に計算すると、平成8年(1996年)以降、平成23年(2011年)までの間で病床数の増加率がもっとも高かったのは、平成8年(1996年)から平成11年(1999年)の間で、およそ2%増となっています。また、それ以降、病床数そのものも増加傾向にはあるのですが、いずれも1%未満です。平成14年(2002年)から平成17年(2005年)の間では、0.2%程度ですが減少した時期もありました。
その一方で、千葉県全体の人口そのものはわずかながら増加傾向が続いていました。こういった背景もあり、このようなタイムラグができていると推測されます。また、千葉県は依然として、人口10万対の病床数がもっとも少ないグループに入ります(全国44位)。
千葉県よりも人口10万対の病床数が少ない都道府県は、愛知県、埼玉県、神奈川県です。これらの都道府県は、わずかではありますが、現在も人口増加率がプラスとなっている県です。
千葉県内にはどのような機能を持つ医療機関があるのか
千葉県内の特定機能を持つ医療機関は、千葉・東葛北部・東葛南部に多くなっています。
図4 千葉県内の特定の医療機能を有する病院数
千葉県内の特定の機能を持つ医療機関は、それなりに県内の各保健医療圏内に存在しているように思われます。しかし、それぞれの機能の中にもランク付けがあり、県内でも高機能な医療機関ほど、千葉・東葛北部・東葛南部の3つの保健医療圏に集中しているようにもみえます。
例えば、救急搬送を考えたとき、どの地域にも救急搬送先となる病院は存在していますが、より高度な「救急救命センター」が無い地域もあります。また、周産期医療でみると、全県対応型は千葉・東葛南部・安房に各1病院ずつ存在していますが、他の地域は「地域周産期」です。つまり、他の地域でも出産は可能ではありますが、ハイリスク出産などの場合は、千葉・東葛南部・安房の各地域内の病院での対応となる可能性があります。
尚、千葉県の状況を少しでもご存じの方はお気づきかもしれませんが、安房保健医療圏にある「救命救急センター」や「全県対応型周産期」の病院は、亀田総合病院です。ここは、病院規模もさることながら(2016年6月現在 865床)、集中治療部門(ICU、CCU、ECU、 NCU、NICU)も備えた、高度医療にも対応ができる病院です。
千葉県内 医師数の推移と今後の確保対策
図5 千葉県内 医師数の推移
人口10万対医師数は、平成24年の時点で全国平均の226.5人(医療施設での従事者)に対し、千葉県は172.2人、埼玉県、茨城県に次いでワースト3位でした。しかし、医療機関で働く医師の実数値でみると、千葉県は10,698名の医師がおり、この数が全国9位です。
つまり、医師の実数値は多いのですが、元々の人口が多いため、人口10万対の医師数が少なくみえていると推測できます。これは、人口10万対の病床数にも同じことがいえます。
千葉県内は、比較的どの保健医療圏にもそれなりに医療機能が分散しているようにみえますが、医師数はやはり千葉・東葛北部・東葛南部の各保健医療圏に集中しています。その背景には、医師の研修医療機関がこれらの地域に集中していることもあるようですが、特に、香取海匝保健医療圏や、山武夷隈長生保健医療圏では、元々の病院数や病床数が少なく、医師の確保が難しい現状があるようです。
これに対し千葉県は、特にこれらの地域に点在する自治体病院などで、医師確保対策を講じることとしているようです。具体的には、医師の派遣や研修、地域胃腸の研究などを行う地域医療支援センターを、香取海匝保健医療圏にある「旭中央病院」へ設置する、あるいは周辺の自治体病院(地域医療支援病院)の機能強化を支援することとしています。また、千葉県では医師確保に向けた全県的な対応として、地域医療再生臨時特例基金を活用することとしています。
医療機関が特定地域に集中する千葉県
千葉県 海ほたる
千葉県は、東京都と隣接する地域に人口が集中し、医療機関や医療機能もこれらの地域に集中する傾向があります。
千葉県は関東地方にありながら、土地が広く、中央に低めとはいえ山地があることから、東西・南北の交通手段が未だ整備されていないエリアもあるようです。千葉県全域でみると、千葉県の東側あるいは南側のエリアにおいては、複数の医療機能(特に集中治療に関係する機能)を1つの病院が担っている、という現実もあります。
これらの現状に対し、千葉県は全県に対し、医師確保、医療機能の強化を図っていくこととしています。今後の千葉県がどう変わっていくのか、その経過をみていきたいと思います。
千葉県は三方を海に囲まれた、温暖で自然豊かな地域です。首都・東京のベットタウンとして人気が高く、東京ディズニーリゾートをはじめ、ゴルフ場やアウトレットショッピングモール、海や山のリゾートなどが楽しめます。千葉県のデータによると…。 2016/8/7 |
参考資料
厚生労働省 医療計画
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/
国立社会保障・人口問題研究所 地域医療計画
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/kikan/..%5C..%5Cdata%5Cpdf%5C00330406.pdf
千葉県地域保健医療計画
http://www.pref.chiba.lg.jp/kenfuku/keikaku/kenkoufukushi/hokeniryou_5.html
データ参照元
統計局
年齢(3区分),男女別人口及び年齢別割合-都道府県,市町村(昭和55年~平成22年)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001007702
同上
人口推計 長期時系列データ 長期時系列データ(平成12年~22年)
第5表 都道府県別人口(各都市10月1日現在)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001039703&cycode=0
同上
平成26年患者調査 受療率(人口10万対),入院-外来・施設の種類 × 性・年齢階級 × 都道府県別
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02020101.do?method=extendTclass&refTarget=toukeihyo&listFormat=hierarchy&statCode=00450022&tstatCode=000001031167&tclass1=000001077497&tclass2=000001077499&tclass3=&tclass4=&tclass5=
国立社会保障・人口問題研究所
『日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)』男女・年齢(5歳)階級別の推計結果
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/t-page.asp
統計局 平成26年医療施設(静態・動態)調査 下巻 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001141081
同上 平成25年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126654
同上 平成23年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102729
同上 平成20年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675
同上 平成17年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675
同上 平成14年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048369
同上 平成11年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048408
同上 平成8年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048434
平成12年 医師・歯科医師・薬剤師調査
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/00/tou05.html
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/00/tou06.html
平成16年 医師・歯科医師・薬剤師調査
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou12.html
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou13.html
平成20年
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/toukei02.pdf P1
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/toukei02.pdf
平成24年
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/toukeihyo.pdf P19
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/toukeihyo.pdf P21
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