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第20回:保健医療計画からみる滋賀県の姿

滋賀県の医師転職事情と未来- 保健医療計画と地域医療から読む

 

■ 記事作成日 2017/4/28 ■ 最終更新日 2017/12/6

 

滋賀県の保健医療計画

 

元看護師のライター紅花子です。「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、今回は滋賀県の医療情勢について、滋賀県の第5次保健医療計画を基に見ていきます。

 

滋賀県内での転職やIターン、Uターンを考えている医師には、是非とも知っておいていただきたい地域医療の基礎情報となっております。

 

滋賀県の医師求人票数

 

医師が滋賀県内で転職するにせよ、IターンやUターン転職するにせよ、まず最初に気になるのは如何に地元(滋賀県内)に求人票がどれほど存在するのか?という点でしょう。まずは大手医師紹介会社や地域特化型医師転職サイトにおける、滋賀県内求人票数の状況を俯瞰しておきましょう。

 

転職サイト名 常勤求人 非常勤求人 スポット求人
M3キャリア 58 19 20
医師転職ドットコム 83 22 9
リクルートDC 83 44 非常勤に含む
e-doctor 39 35 11
ドクターキャスト 32 8 0
DtoDコンシェルジュ 33 12 9
滋賀県ドクターバンク 非公開 非公開 非公開
平均求人数 54.6件 23.3件 8.2件

 

上記表を眺めてみると、滋賀県の医師求人に関しては、大手の紹介会社でも3ケタ以上の常勤求人を保有しているところはなく、他のエリアと比較すると全体的に求人数が少ない印象があります。

 

滋賀県では県庁内の健康医療福祉部医療政策課にて「滋賀県ドクターバンク」を設置。DtoDコンシェルジュと提携する形で、県内医師の転職先あっせんを行っていますが、求人票などは公開されておらず、あくまで医療機関と医師双方の応募状況を担当者が見て、非公開で個別マッチング提案をしていく形になっています。

 

常勤求人に関しては医師転職ドットコムとリクルートドクターズキャリアの83件が公開の求人数のアッパーですが、ほとんどの医師紹介会社がが30~60程度の保有求人数となっています(平均54.6件)。大都市圏と比較するとやはり求人数は多いといえない状況なので、吊るし求人に応募するよりも、懇意のキャリアコーディネーターに募集案件を調達してきてもらうほうが、効率よく転職活動ができそうです。

 

滋賀県の場合は非常勤の平均求人数が23.3件、スポットに至っては平均8.2件となっており、スポット求人の際立った少なさがどうしても目立ってしまいます。従って、滋賀県内でフリーランス医師としてスポット求人に日々応募したいと考えている先生には、非常に不利なエリアであるといえましょう。
尚、それぞれの医師転職サイトや医師紹介会社でも滋賀県内の医師転職、求人事情の分析が行われており、例えば「リクルートドクターズキャリア」では滋賀県の医師転職市場について、下記のような特徴がピックアップされています。

 

  • 京阪神へのアクセスが良く住環境が整備されている土地柄
  • 人工10万人当たりの医師数は全国で35位
  • 県内出身者の医学部入学性が少ない
  • 中規模病院での常勤医師数の減少が激しい
  • 産科医師の数が全国で最低数
  • …等

 

※上記の医師求人票数は2017年6月16日調査結果

 

 

滋賀県の現状を分析

 

滋賀県は日本列島のほぼ中央あたりに位置し、周囲を山で囲まれた県です。総面積4,017,36㎢、全国で25番目、面積としては全国でほぼ平均的な広さとなりますが、その中央部には健全度のおよそ6分の1を占める「琵琶湖」があります。

 

近畿、中部、北陸のほぼ中央に位置し、古くから交通機関がほどよく整備された県ともいえます。

 

また、全国有数の内陸工業県であり、県内総生産に占める第2次産業の割合は41.0%、全国1位なのだそうです。その影響からか、男性の有業率は全国で3位。経済面でも活気にあふれている県といえます。

 

滋賀県の平成25年10月現在の総人口は、1,416 ,952人。滋賀県の人口は年々増加傾向となっているものの、その増加率は年々低下しており、平成27年以降は人口の減少が見込まれています。

 

図1 滋賀県 人口の推移

 

さらに総人口を見てみると、生産年齢人口は62.6%と国の平均である62.1%を上回り、老年人口は22.5%と国の平均である25.1%を下回っている状況です。

 

15歳未満の年少人口は14.9%と、国の平均である12.9%を上回ってはいます。しかし、平成25年3月に国立社会保障・人口問題研究所が出した「日本の地域別将来推計人口」によると、今後の滋賀県は、老年人口が年少人口の数と逆転し、緩やかに少子高齢化がすすんで行くことが見込まれています。

 

図2 滋賀県の高齢化率と人口増加率の推移

 

滋賀県の人口動態は

 

次に滋賀県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。

 

平成27年の出生率は人口千対でみて9.1であり、全国平均の8.0を上回る結果になりました。また、合計特殊出生率は1.57であり、その年の全国平均値である1.46も上回っています。

 

一方で、平成26年の時点での高齢化率は23.4%、全国で5番目に高齢化率の低い地域となります。前述した総人口からもわかるように、比較的働ける年代の多い地域であるということが裏付けられる結果となっています。

 

続いて死亡に関するデータです。平成26年の死亡者数は12,507人で、人口千対で見ると9.0となります。全国平均の10.3を下回っており、全国で11番目に死亡率の少ない地域です。

 

滋賀県内の主要な死因としては、悪性新生物が最も多く、昭和57年より死亡率1位という状況が続いています。これに、心疾患、肺炎、脳血管疾患が続くようです。

 

滋賀県の人口動態の特徴としては、男女で死因別死亡数の割合が違うところにあるかもしれません。

 

図3 死因別死亡数の割合 男女比較

 

主要死因の第1位から第4位までの順位は変わらないのですが、男性は悪性新生物によって死亡する方が全体の3分の1以上を占める一方で、女性は4分の1割程度です。また、男性の主要な死因には「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」が含まれますが、女性には含まれていません。

 

この背景には、男性の喫煙率の高さも影響を及ぼしている可能性があります。滋賀県内での男性の喫煙率を見ると、平成21年頃には全国平均くらいまで下がっていますが、平成17年頃までは全国平均を上回っていました。

 

その一方で女性の喫煙率をみると、平成12年頃は女性の全国平均をやや下回る程度でしたが、平成21年頃にはさらに下回っています。

 

滋賀県内全体では年々減少傾向にはあるようですが、かつてのこういった傾向から、現在でも男性の「肺がん」や「慢性閉塞性肺疾患」による死亡者数が比較的多いことの要因となっているのかもしれません。

 

滋賀県の医療状況はどうなっているのか

 

次に滋賀県の受療率を見ていきます。

 

平成26年度の受療率の入院に対する値を見てみると、全国平均が人口10万対1,038に対して滋賀県は870と、全国平均をだいぶ下回る状況となります。外来受療率は、全国平均が人口10万対5,696に対して5,071と、こちらも全国平均を下回る結果となっています。

 

図4 滋賀県 入院および外来受療率

 

滋賀県の受療率は入院、外来共に全国平均より低く、さらに滋賀県は「一人当たりの国民医療費」が全国で4番目に少ない県です。この結果からも、地域住民の「医療への依存度」が比較的低い県である、ということが分かります。

 

傷病別に見てみると、入院では高い順に循環器の疾患、精神及び行動の障害、悪性新生物となっており、外来受療では消化器系の疾患、循環器系の疾患、筋及び骨格筋系の疾患となっています。

 

滋賀県の保健医療圏はどうなっているか

 

滋賀県の医療圏は、他の県と同様に一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれています。

 

二次医療圏は、県庁所在地を含みなおかつ人口も最も多い大津保健医療圏、湖南保健医療圏、甲賀保健医療圏、東近江保健医療圏、湖東保健医療圏、湖北保健医療圏、湖西保健医療圏の7つの医療圏に分類されています。

 

病院数を見てみると、大津保健医療圏、湖南保健医療圏、東近江保健医療圏ではそれぞれ病院数が10施設を超えているものの、他医療圏では10施設以下であり、病院数が1番多い大津保健医療圏と1番少ない湖西医療圏では、その差が5倍もあります。

 

大津医療圏は、隣接する京都府へのベッドタウンにもなっているという背景があり、1つの市から成り立っていますが、人口はもっとも多いエリアです。

 

また、開設者別に見ると、大津保健医療圏、東近江保健医療圏、甲賀保健医療圏では国が開設している医療施設があったり、湖南保健医療圏では県が開設している病院があるのに対して、10施設を下回る医療圏では国や県が携わる医療施設はなく、一見すると医療の偏在が気になるところです。

 

しかし入院患者の動向を見ると、現在のところ救急患者及び脳卒中、急性心筋梗塞などの急性期の患者についてはほぼすべて二次医療圏でまかなえている状況ではあるようです。滋賀県では、救急医療だけではなく、災害医療や在宅医療(急変時の対応等を含む)の連携に向け、取り組んでいくとしています。


滋賀県の病床数とこれから

琵琶湖(近江八幡市)

 

では、滋賀県の病床数の推移をみてみましょう。

 

滋賀県全域での病床数は、平成20年頃を境に、徐々に減少傾向であり、人口10万対でみると、全国平均よりもやや少ない数で推移していることが分かります。病床の区分に関わらず、全体的に全国平均よりも、病床数は少なめの地域であるといえそうです。

 

図5 滋賀県 病床数の推移

 

では次に、滋賀県内の既存病床数と基準病床数について見ていきます。平成24年時点でのデータによると、滋賀県の病院病床数は14,646床となります。

 

その内訳を見てみると、一般病床が9,446 床、次に療養病床が2,718床、精神病床が2,373 床、結核病床77床、感染症病床32床です。上記の表は、その前後の平成23年と平成26年のデータを表していますので、多少数値は違いますが、全体的に減少傾向が続いているといえます。

 

また、平成25年時点での滋賀県保健医療計画によると、感染病床を除いたすべての既存病床数が、基準病床数を上回っているという結果となっています。

 

図6 滋賀県 二次医療圏とそれぞれの病床数の比較

 

前回調査された平成19年と比較すると527床、病院数にして2病院が減少しており、病床数の補正を行っているものの、現在でも既存病床数が基準病床数を上回ってはいるようです。

 

医療圏別に見てみると大津、湖南、東近江の各医療圏で、県内の全病院病床数の半分以上を占めています。

 

一方で、湖西保健医療圏には医療施設が3つしかなく、精神病床が無いという特徴があります。滋賀県は特に精神病床に関し、47都道府県中46位と「2番目に精神病床が少ない県」です。

 

滋賀県では、すでに病床の改変を継続的に行っているため、今後、大きな病床の改変をする可能性は低いと考えられます。そのため、今後はこの医療の偏在により、患者の流入、流出に影響を及ぼす可能性もありそうです。

 

滋賀県内にはどのような機能を持つ医療機関があるか

 

滋賀県では5の地域医療支援病院を持っており、適切な役割分担をしていくことを目標としています。しかし、特定機能病院は1つしかないため、この医療機能の分担は特に重要視されています。現在では民間病院も急性期の三次機能を担っているところもあるようです。

 

滋賀県では死亡率1位であるがんの医療へ力を入れており、ほぼすべての医療圏に国指定のがん診療拠点病院を設け、がんの診療機能を充実させています。

 

図7 滋賀県 特定の医療機能を有する病院の数(二次医療圏ごとの比較)

 

また、がんだけでなく小児、精神、脳神経系疾患などの各分野において、退院後の在宅療養の制度を整えることを示唆しており、来る高齢化に備えての準備を進めている状況でもあります。

 

さらに、二次救急医療体制については、輪番制を実施している医療圏もあり、県内の23病院が二次保健医療圏毎に当番日を決めて救急医療体制を担っているという状況となります。また、二次医療で対応できない高度な医療は、県内の赤十字病院を中心とした4つの病院に救急救命センターを設置し、三次救急医療をまかなっています

 

滋賀県では高齢化に対して備えつつも、各分野において予防医療を行っている動きが見られ、これも生産年齢人口が比較的多い地域ならではの状況となっているように思われます。

 

滋賀県内の医師数と今後の確保対策

 

厚生労働省の調査によると平成24年現在の滋賀県で医療機関に勤務する医師数は2,896 人で、人口10万人当たり医師数は204.7人でした。全国平均の人口10万人当たり226.5 人を下回っており、全国で35位という結果となっています。

 

図8 滋賀県 医師数の推移

 

新医師臨床研修制度が実施される前の平成15年と比較すると、病院の常勤医師数は増加しているものの、湖東、湖西、湖北医療圏での医師数は減少傾向が続いており、地域における医師数の偏在が課題となっているようです。

 

また、診療科ごとの偏在もあり、産科医がいないため自医療圏で分娩ができない地域や、麻酔科医や小児科医が少ないという地域もあります。現在の滋賀県は、年少人口が全国的に見ても多い県となるため、今後の人口動態にも影響を及ぼすであろう課題となっているようです。

 

これらのことを鑑みた滋賀県では、医師確保の施策として

 

  1. 魅力のあるキャリアアップシステムを構築することによる地域偏在の解消
  2. 女性医師の就業支援
  3. 病院や市町の関係機関、団体など医師定着の取組の推進と県による支援

 

を目標として、医師確保対策に取り組んでいます。特に魅力ある病院作りを勧めることで、県内の学生の定着だけでなく県外の医師を呼び込もうとする動きも見られています。

 

まとめ

安土城跡(近江八幡市)

 

住民の医療依存度が低い一方、病床数や医師数の偏在が見られる滋賀県。これらを解消し今後の高齢化への準備も着実に推進している地域といえそうです。生産年齢人口や年少人口が多く活気にあふれる地域であり、成人分野や小児分野を学びたい医師にとっては、多くの学びを得られる地域なのかもしれません。

 

 

参考資料

 

滋賀県保健医療計画 第3部
http://www.pref.shiga.lg.jp/e/lakadia/iryoukeikaku/files/3_p169-190.pdf

 

滋賀県保健医療計画 第2部
http://www.pref.shiga.lg.jp/e/lakadia/iryoukeikaku/files/1_p11-19.pdf

 

滋賀県保健医療計画 第1部
http://www.pref.shiga.lg.jp/e/lakadia/iryoukeikaku/files/1_p20-27.pdf

 

統計局 平成26年医療施設(静態・動態)調査 下巻 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001141081

 

同上 平成25年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126654

 

同上 平成23年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102729

 

同上 平成20年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675

 

同上 平成17年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048224

 

同上 平成14年医療施設(動態)調査 下巻 年次 2013年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048369

 

同上 平成11年医療施設(動態)調査 下巻 年次 2013年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048408

 

同上 平成8年医療施設(動態)調査 下巻 年次 2013年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048434

 

この記事をかいた人


紅 花子

正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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