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第15回:保健医療計画からみる富山県の姿

富山県の医師転職事情と未来~保健医療計画と地域医療から読む

 

■ 記事作成日 2016/11/29 ■ 最終更新日 2017/12/6

 

富山県の保健医療計画

富山県の医師転職事情と未来~保健医療計画と地域医療から読む

 

元看護師のライター紅花子です。「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、今回は前回ご紹介した新潟県に続く中越地方、富山県の医療の現状についてお伝えしていきます。

 

富山県の現状を分析

 

富山県は日本海側に位置し、東は新潟県と長野県、南は岐阜県、西は石川県に隣接しています。三方を標高3,000m級の急峻な山々に囲まれ、平野には水深1,000mの富山湾があります。

 

国土面積は4,247.61㎢と全国で33番目の国土面積と比較的小さな国土ではあるものの、高低差4000mが作った豊かな自然と豊かな水があるという特徴のある県です。

 

また、古くからアジア大陸や朝鮮半島などの対岸諸国との交流が盛んな県といえます。現在でも、アジア諸国への国際線が就航している他、2015年に北陸新幹線が開通したことによって、多くの観光客が訪れるようになりました。
富山県ではその豊かな自然を生かして良質米としての評価が高いコシヒカリを始めとした稲作が盛んにおこなわれており、水田率は全国1位!なんと、お隣の新潟県に匹敵する米どころでもあるのです。

 

また、チューリップの球根の出荷率も全国1位となっているほか、日本一大きいジャンボスイカの栽培もされています。さらには、日本海側に面している土地を生かし、伝統的な定置網漁業も盛んにおこなわれています。

 

また、富山県は古くから「富山の置き薬」として製薬業が発展したエリアであり、医薬品製造工場数が非常に多いという特徴もあります。現在でも製薬に関連するものづくり企業が多いようです。豊かな自然を生かした農業、漁業だけでなく、ものづくりの県としてのさらなる発展を目指しています。

 

富山県の平成27年10月現在の総人口は1,064,009人。全国ランキングでは第37位と、人口そのものは比較的少ない県です。

 

富山県の人口は平成19年をピークに減少傾向となっています。富山県は全国1位の持ち家率である他、勤労者の実収入も全国トップクラスで住みやすい地域であるにもかかわらず、平成37年頃には人口が100万人を下回ることが予想されています。

 

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図1 富山県の高齢化率と人口増加率の推移

 

さらに、総人口のうち生産年齢人口が約50%と比較的多いものの、老年人口が約30%、年少人口に至っては約12%と少子高齢化が進行した県です。

 

今後はさらに、年少人口および生産年齢人口が減少する半面、65歳以上のいわゆる「老年人口」の割合が増えていくと予測されています。

 

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図2 富山県の人口の推移

 

富山県内の人口は、県庁所在地である富山市に集中しており、他の市区町村と1桁以上の違いが生じているという状況になっているようです。

 

富山県の人口動態は

 

それでは、富山県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきます。

 

平成25年の合計特殊出生率は1.43。この年の全国平均値である1.43と同等の値となっており、出生率は全国平均並みという結果になりました。

 

1年前よりもわずかながらですが、合計特殊出生率は増加しています。富山県は女性の就業を支援している県であることから、もしかしたら今後生産年齢に該当する女性が移住し、合計特殊出生率を増加させることにつながるかもしれません。

 

続いて死亡に関するデータを見ていきたいと思います。

 

平成25年の死亡者数は12,547人、人口千人対では11.8となります。全国平均が人口千人対で10.1ですから、全国的に見ても高めの値であるという結果になりました。

 

死因は悪性新生物が最も多く、続いて心疾患となります。3位以降は年度によって順位の入れ替えはあるようですが、「第5次 富山県保健医療計画」が公表された平成23年度の統計データ(厚生労働省 人口動態調査)をみると、3位が脳血管疾患、4位が肺炎でした。

 

ここは全国平均と順位が入れ替わっています。また。富山県における死因の第3位までを合計すると、全国平均よりも多いという結果になりました。

 

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図3 人口10万対死亡率 全国富山県との比較

 

富山県の医療状況はどうなっているのか

 

次に富山県の受療率を見ていきましょう。

 

富山県の平成26年の受療率は、全国平均が人口10万対1,038に対して富山県は1,368となり、全国平均よりも受療率はかなり高いことが分かります。

 

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図4 外来・入院受療率 全国との比較

 

年齢別に見ると、男女とも75歳以上の受療率が圧倒的に多くなっています。次いで65歳から74歳の受療率が高く、高齢率の高さと受療率の高さが比例していることが伺えます。

 

受療率を疾患別に見て見ると、外来では「筋骨格筋及び結合組織の疾患」「循環器系の疾患」「消化器系の疾患」「呼吸器系の疾患」が多く、入院では「循環器系疾患」「新生物による入院」「精神および行動の障害」の受療率が高くなっているようです。

 

これらのことを総合的に考えると、入院受療率は死因との関連がありそうですね。

 

富山県の保健医療圏はどうなっているか

 

富山県の二次医療圏は、4つに分類されています。

 

県庁所在地であり、人口の46%が集中する富山市が含まれる富山医療圏では、医師、看護師、麻酔医師といった人的医療資源が、富山県全体の50%以上も集中しているようです。人口の集中度合よりも、医療資源の集中度合の方が、わずかながら勝っています。

 

そして、富山の第二の拠点となる高岡医療圏は基幹病院が3つあるだけでなく、医師、麻酔医師数が県全体の25%以上を超えています。この2つの医療圏が、実質的に富山県の医療の中心となっているわけです。

 

中心となる医療圏が2医療圏あると他の医療圏が劣るというのが一般的ですが、富山県では、残りの2医療圏も医療資源はそれなりに確保されており、比較的満遍なく医療資源を整えていることが伺えます。

 

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図5 富山県内の特定の医療機能を有する病院数

 

もう1つ、富山県には「2.5次救急」という考え方があります。そもそも「第3次救急」や「第2次救急」の定義は国で決められているものではありますが、富山県内の病院には、その中間的な立ち位置の病院もあるということです。

 

3次医療に対応できるほどではないが、2次医療の上を行く医療。この「2.5次救急」に対応しているのは、砺波圏域にある「市立砺波総合病院の「地域救命センター」です。

 

この病院はさらに「地域周産期医療センター」も併設しており、砺波圏域の医療の中核を成す病院のようです。

 

高齢化率が高く、少子高齢化が顕著であり、今後益々の高齢化社会となることが見込まれる富山県。その一方で豊かな自然と豊富な人的医療資源によって安定した医療状況であるとも思われます。

 

本当に富山県の医療は安定しているのか、ここからは富山県の医療について詳しく見ていきたいと思います。


富山県の病床数とこれから

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黒部ダム(立山町)

 

富山県内の各保健医療圏における既存病床数と基準病床数について見ていきます。

 

平成23年のデータによると、既存病床数が基準病床数を下回る医療圏はなく、どの医療圏も、今後病床数を増加させることは難しいようです。

 

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図6 保健医療圏ごとの病床数の推移(予測)

 

精神病床/結核病床/感染病床は富山県全域で基準病床数が決められていますが、いずれも基準病床数を上回っており、特に精神病床数は大幅に上回っている状況です。

 

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図7 富山県 病床数の推移

 

富山県の病床数の推移をみると、病床数、人口10万対病床数ともに、2005年頃がピークだったようです。その後、徐々に病床数は減少し、特に診療所病床数はピーク時の半分程度まで減少しています。

 

少子高齢化が加速する富山県では、この傾向が今後も続くと予測できます。

 

富山県内にはどのような機能を持つ医療機関があるか

 

三次医療圏は医療法施行規則第30条に則って分類された特殊な医療を担っています。

 

富山県では第二次医療圏内においても急性期病床を全国平均並みに配置している上に、「一人当たり急性期医療密度指数」は 1.31で全国平均の 1.0よりも高いことから、急性期医療の提供能力が高い都道府県といえます。

 

そのため新川医療圏のように総人口は少なく高齢化率が高くとも医療資源が確保できていることによって自分の医療圏で医療を完結できるという医療圏が存在しているようです。

 

また富山県は、富山市を中心に半径50㎞県内に全市町村があるというまとまりの良い土地柄です。へき地も存在してはいるものの、4医療圏中3医療圏に「へき地医療拠点病院」があり、へき地医療に対する課題は少ないような印象を受けます。

 

その反面、高齢化率が高い富山県が今後最も必要とされるであろう、介護や在宅医療に対しての医療資源の普及は思うように進んでおらず、共に、全国平均以下の医療介護事情となっているようです。

 

今後は富山県の高齢化に備えた在宅医療や介護分野の躍進が、保健医療計画等のポイントとなるのではないでしょうか。

 

富山県内の医師数と今後の確保対策

 

平成22年現在の医師数は2,519人、人口10万人あたり241.0人です。文中でも何度かお伝えしたように、全国平均230.4人を、少なくとも過去12年間、上回っているという結果です。

 

医師の実数としては、お隣の新潟県よりも少ないのですが、元々の人口に差があるため、このような結果となるようです。

 

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図8 富山県 医師数の推移

 

富山県は比較的、各圏域にまんべんなく医師が存在しており、人口10万対医師数がもっとも多い富山圏域と、もっとも少ない高岡圏域の差は、およそ1.4倍で、全国でもっとも格差の少ない地域といえそうです。

 

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図9 富山県 医療県別 人口10万対医師数

 

一方、小児科、産科の医師数も全国平均と比べれば多いものの、平成16年度の新しい医師研修制度の導入に伴って、若い医師が大都市圏に集中してしまい、徐々に、産科、小児科の医師数が減少傾向となっているようです。

 

いずれも、人口との対数でみれば全国平均よりも多い状況ではあります。

 

  • 小児人口1万対医師数 全国:9.4人 富山県:11.1人
  • 出産千人対医師数 全国:9.7人 富山県:11.8人

 

しかし富山県全体でみるとこれらの科の医師はまだまだ充足はしておらず、小児科医師8人、産科・産婦人科医師6人が、不足しているそうです。

 

その他の科でも、例えば2010年の必要医師数実態調査の結果を鑑みると、救急科、呼吸器内科、リハビリテーション科、小児科、産科・産婦人科、麻酔科などの各診療科医師が不足しているという状況のようです。

 

一方、女性の社会進出に力を入れている富山県では、女性医師の活躍も全国平均を上回っており、特に30歳代前後の若い世代が活躍できる環境が整っています。

 

富山県では、これらの状況を踏まえ、今後も医師確保に向けた対策に、積極的に取り組んでいく方針です。具体的には、県立大学に特別枠で入学した医学生への奨学金の貸与、若い医師の圏内定着の促進、地域医療を担う総合医の育成、女性医師のライフステージに応じた勤務体制の整備などを挙げています。

 

また全国的にその育成が重要とされている「総合診療医」の育成についても、地域医療支援病院への支援などを計画しているようです。

 

まとめ

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高岡城(富山市)

 

医療的資源が揃っており、医療圏内での医療完結もなされるなど、医療環境が整っている富山県。今後は、特に高齢者の医療や生活をどう支えていくのか。富山県の医療状況にも注目していきたいと思います。

 

 

参考資料

 

富山県保健医療計画
http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1204/kj00006481-001-01.html

 

富山県公式ホームページ
http://www.pref.toyama.jp/gaiyou/tokusyoku3.html

 

日本医師会総合政策研究所機構-富山県
http://www.jmari.med.or.jp/download/wp323_data/16.pdf

 

日本医師会 地域医療情報システム
http://jmap.jp/cities/detail/pref/16

 

厚生労働省 人口統計月報
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/gaikyou27.pdf

 

厚生労働省 平成26年受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf

 

総務省統計局 人口推計(平成25年10月1日現在)結果の要約
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2014np/

 

厚生労働省 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf

 

厚生労働省 医療計画
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/

 

国立社会保障・人口問題研究所 地域医療計画
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/kikan/..%5C..%5Cdata%5Cpdf%5C00330406.pdf

 

データ参照元

 

統計局 平成26年医療施設(静態・動態)調査 下巻 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001141081

 

同上 平成25年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126654

 

同上 平成23年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102729

 

同上 平成20年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675

 

同上 平成17年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675

 

同上 平成14年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048369

 

同上 平成11年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048408

 

同上 平成8年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048434

 

平成12年 医師・歯科医師・薬剤師調査
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/00/tou05.html

 

人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/00/tou06.html

 

平成16年 医師・歯科医師・薬剤師調査
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou12.html

 

人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou13.html

 

平成20年
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/toukei02.pdf P1

 

人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/toukei02.pdf

 

平成24年
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/toukeihyo.pdf P19

 

人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/toukeihyo.pdf P21

 

この記事をかいた人


紅 花子

正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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