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第28回:保健医療計画からみる福井県の姿

福井県の医師転職事情と未来~保健医療計画と地域医療から読む

 

■ 記事作成日 2017/7/26 ■ 最終更新日 2017/12/5

 

保健医療計画からみる福井県の医師転職事情

 

元看護師のライター紅花子です。

 

「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、今回は東海北陸地方の福井県の医療情勢について、福井県の第6次保健医療計画を基に見ていきます。

 

福井県の現状を分析

 

福井県は本州日本海側のほぼ中央に位置し、東西約70㎞、南北に約130㎞の国土を持つ地域です。北は石川県に、南東は岐阜県、南西は滋賀県・京都府と隣接し、北西は日本海側に面しています。

 

総面積4,189,3㎢で、全国で34番目の土地の広さです。県土の約75%は森林であり、林業も盛んな地域となります。また、福井県は恐竜化石の一大産地ともいわれています。

 

恐竜を中心とする地質・古生物学博物館「福井県立恐竜博物館」があり、これはカナダのロイヤル・ティレル古生物学博物館、中国の自貢恐竜博物館と並び、世界三大恐竜博物館とも称されています。

 

この他にも全国生産量の90%を誇る眼鏡産業など、製品や技術面での国内および世界シェア1位のものが多くあります。その他にもフグやお米など、福井県ブランドのものが多数あります。

 

福井県の平成29年6月現在の総人口は778,943人でした。福井県の人口は、平成12年をピークに減少しており、今後もさらなる減少が予測されているエリアです。

 

図1 福井県 人口の推移

 

さらに年齢別の人口を見てみると、平成29年の時点で年少人口は13.1%、生産年齢人口は57.4%、老年人口は29.6%となり、平成17年ころより少子高齢化が進んでいることがデータに色濃く出てきており、今後も高齢化の勢いは続いていくものと考えられています。

 

図2 福井県 高齢化率と人口増加率の推移

 

福井県の人口動態は

 

次に福井県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。

 

平成27年の出生率は人口千対でみて8.0となり、全国平均と同じ結果となりました。また、合計特殊出生率は1.63であり、その年の全国平均値である1.46を大きく上回るという結果となりました。

 

平成16年より出生率が死亡率を下回り、出生率時代も年々減少しているものの、全国的に見ると出生率は高く、平成23年の時点では全国で9番目に出生率が高い地域とされています。これらのことから、全国的に見ればまだまだ子どもの多い地域であることが考えられます。

 

次は死亡に関するデータです。平成27年の福井県の死亡者数は8,971人で、人口千対で見ると11.5となり、全国平均の10.3を上回る結果となっています。

 

その死因は、悪性新生物が最も多く、全死亡率の割合から見て28.2%、続いて心疾患が17.0%、肺炎が11.8%、脳血管疾患が9.1%という順になっており、悪性新生物と脳血管障害は全国平均以下であるものの、心疾患と肺炎が全国平均を上回る結果となっています。

 

福井県は全国的に見てもトップクラスの健康長寿県であり、男性の平均寿命は全国で7番目、健康寿命は男性が全国3位、女性が全国4位となっています。そのため、今後も高齢化率は上昇し続け、少子高齢化への本格的な対策が必要なエリアといえます。

 

図3 健康寿命と平均寿命 国との比較

 

一方で、人の寿命には「健康寿命=日常生活に支障がない期間」と、日常生活に支障がある期間があります。寿命を全うするまでの期間=平均寿命は、この2つを合算します。
福井県の場合、「健康寿命」およびトータルで見る「平均寿命」は、全国平均よりも長いのですが、一方の「日常生活に支障がある期間」も全国平均より長くなっています。今後は高齢化がますます進んでいくと予測されていることから、日常生活に支障がある期間は、さらに延びるのかもしれません。

 

福井県の医療状況はどうなっているか

 

次に福井県の受療率を見ていきます。平成26年度の受療率の入院に対する値を見てみると、全国平均が人口10万対1,038に対して福井県は1,208と平均を上回っています。

 

図4 福井県 入院および外来受療率 全国との比較

 

しかし外来受療率は全国平均が人口10万対5,696に対して5,165と、平均を下回っています。受療する疾患を見てみると入院では循環器、精神障害、悪性新生物の順で多く、外来は消化器、筋骨格筋及び結合組織、循環器の順で多くなっています。

 

心疾患での死亡率は全国平均を上回り、入院外来共に循環器障害の受療率が高いことから、福井県では循環器障害に従事する医師の需要が高いのかもしれません。

 

また、平成22年の時点では一般病床の利用率が高く、全国平均の1.2倍となっています。平均在院日数も、一般病床では全国平均よりも長く、一般病床への依存度が高いと推測されます。健康寿命が長い県ではあるものの、日常生活に支障がある期間も長いことから、医療に対する需要が高いエリアであると推測されます。

 

福井県の保健医療圏はどうなっているか

 

福井県の医療圏は、他の県と同様に一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれています。

 

福井県では二次医療圏として県庁所在地を含み人口が最も多い福井・坂井医療圏、面積が最も広い奥越医療圏、全医療圏と隣接する丹南医療圏、福井県の西側半分を占める嶺南医療圏の4つの医療圏に分割して医療を展開しています。

 

図5 福井県 三次医療圏と二次医療圏

 

福井・坂井医療圏、嶺南医療圏では、自地域での受療率は90%代で、心疾患に至っては100%です。

 

しかし、丹南医療圏、奥越医療圏での医療自給率は低く、丹南では心疾患の医療自給率は40%代であり、福井・坂下医療圏に患者が流出している状況になります。

 

特に急性期分野では、丹南医療圏、奥越医療圏における医療自給率が低くなる傾向にあり、急性期医療の整備が追い付いていないことが分かります。

 

また、北陸トンネルが貫通する敦賀と今庄の間の山中峠(標高 389m)、木ノ芽峠(標高 627m)、栃ノ木峠(標高 539m)を結ぶ約 10 ㎞にわたる山稜を境として、北東部を嶺北地域、南西部を嶺南地域と分けていることから、嶺南医療圏は他の医療圏へ受診したくても、山を越えなくてはならないという状況にあり、自医療圏で医療を完結せざるを得ない状況でもあります。


福井県の病床数とこれから

東尋坊

 

福井県内の既存病床数と基準病床数について見ていきます。

 

平均在院日数の短縮化や、介護施設で対応できる疾患が増えているということもあり、前回の第5次医療計画よりも基準病床数が減少しました。福井県では引き続き、既存病床数が基準病床数を大きく上回っており、その差は約2500床でした。

 

図6 福井県 既存病床数と基準病床数との比較

 

平成23年度の福井県の病床利用率を見てみると、その総数は83.7%で全国平均の81.9%を上回る結果となっています。

 

内訳を見てみると、全国的に利用率が上昇している精神病床の利用率は全国平均84.9%に対して71.9%と低いものの、一般病床の利用率が全国平均76.8%に対して81.9%と高値で推移しています。

 

また、感染症病床も全国平均2.5%に対して30.0%と高い割合となっています。

 

また、平均在院日数を見てみると総数は全国平均が32.0日であるのに対し、福井県は32.3日とほぼ全国平均と変わらない日数となっています。その内訳としては、精神病床、感染病床、結核病床、療養病床の在院日数は全国平均を下回るものの、一般病床の在院日数が全国平均17.9日に対して19.3日となっています。

 

次に病床数を人口10万人対で見ると、総数は全国平均が1,238.7であるのに対して福井県は1,417.3と、人口に対する病床数が多いことが分かります。病床数は1996年以降減少を続けているものの、人口に対してはまだまだ多いようです。

 

図7 福井県 病床数の推移

 

さらに、利用率、在院日数共に数値の高かった一般病床を見てみると、全国平均が703.7であるのに対して813.4とかなり高い数値となっています。全国平均よりも病床数が多い上にさらに利用率や在院日数が長いことから一般病床の需要は福井県ではとても高いということが分かります。

 

福井県内にはどのような機能を持つ医療機関があるか

 

福井県内の医療機能を見ていきます。まずは救急分野です。三次救急を展開できる病院は平成23年現在福井・坂井医療圏に1、嶺南医療圏に1の計2か所となります。

 

他の都道府県でも三次救急を展開する病院は少ないものの輪番制を活用して各医療圏内に救急対応できる病院を置いているエリアがありますが、福井県も輪番制を導入しているようです。

 

図8 福井県 特定の医療機能を有する病院数

 

また、福井県ではドクターヘリが未だ稼働していません。さらに豪雪地帯対策特別措置法によって交通が制限される地域があります。この状況にもかかわらず、救急搬送の能力は高く、医療機関への搬送時間は全国平均38.1分であるのに対して、福井県では30.3分。全国で10番目に搬送時間の短い地域となります。

 

現在、救急救命士の増加により、病院前対応も適切に行われてはいるのですが、二次救急、三次救急を担う病院が全国的に見ても少なく、救急医療機関の整備が課題となっています。

 

また、全国平均よりも3年ほど早く高齢化が進んでおり一般病床の利用率が高い福井県では、在宅医療への対策も今後は進めていくべき課題となっています。

 

福井県では、在宅診療体制や退院支援、訪問医療の体制は整えられているものの、急速な高齢化により対応が追い付いていないことも課題であるようです。そのため、在宅医療を積極的に担える医師の需要は高まることが予測されています。

 

福井県内の医師数と今後の確保対策

 

厚生労働省の調査によると、平成22年現在の福井県の医師数は1,922人で人口10万人当たり238.4人となります。全国平均の人口10万人当たり230.4 人を上回っており医師数は人口との割合から見て充足しているように見えます。

 

図9 福井県 医師数の推移

 

しかし、県全体の医療機関で働く医師数は平成24年現在1,888名で、このうち8割以上は福井・坂井医療圏に従事しています。奥越医療圏は74人、丹南医療圏と嶺南医療圏では249人しか医師がいません。このデータから、福井県内の医師数の格差は大きいことが分かります。

 

医師数増加の背景には福井医科大学の開学及び卒業生の排出によるものがあります。また、福井大学医学部医学科の新入生は年々女性が増えており、平成22年の時点では4割が女性です。そのため、今後県内では女性医師の活躍が目立ってくることが考えられます。

 

福井県では今後医師の高齢化や引き上げによって医師数が減ることも予測されており、医師の確保対策と女性医師の働きやすい環境の整備の2点を課題としています。
具体的な医師確保対策としては、

 

  • 勤務を条件に返還免除とする奨学金制度
  • キャリア形成支援
  • 医師の負担や処遇改善
  • 女性医師が働きやすい環境整備

 

などを行っています。特に小児の分野では、福井県の小児人口は全国で5番目に高くなっている一方で、小児科医は減少しており、小児科医の確保を急務としています。

 

特に近年は、小児科分野での若い女性医師が増加しており、女性医師が働き続けられる環境の整備も併せて対策として取られています。

 

さらに福井県では、福井県内出身であり他都道府県で医療に従事している医師のUターン確保も対策として掲げており、福井県出身の医師では転職に優位に働く可能性があることが考えられます。

 

まとめ

福井市 恐竜博物館

 

人口に対する医師数は多く見える状況でありながらも、医師の確保と定着を課題としている福井県。特に小児の人口が多いことから、女性医師や子育て中の医師が働きやすい環境を整えつつあるのではないでしょうか。

 

また、在宅医療に力を入れていこうとしている県でもあるため、特に在宅医療に精通している医師は、働きやすいエリアなのかもしれません。

 

 

参考資料

 

第6次福井県保健医療計画
http://www.pref.fukui.lg.jp/doc/iryou/iryoujouhou/6ji-iryoukeikaku.html

 

福井県公式ホームページ 第一章 県土の概要
http://www.pref.fukui.lg.jp/doc/kanri/tochiriyoutotochitaisaku_d/fil/003.pdf

 

福井県立恐竜博物館
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/museum/

 

福井県公式ホームページ 実は福井の技
http://info.pref.fukui.jp/tisan/sangakukan/jitsuwafukui/index.html

 

福井県公式ホームページ 福井県の推計人口
http://www.pref.fukui.lg.jp/doc/toukei-jouhou/zinnkou/jinkou.html

 

国立社会保障・人口問題研究所「日本の市区町村別別将来推計人口
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/2gaiyo_hyo/gaiyo.asp

 

平成 27 年 人口動態統計月報年計(概数)の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/gaikyou27.pdf

 

第1節 高齢化の状況 内閣府
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_1.html

 

厚生労働省 平成26年患者調査の状況 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf

 

この記事をかいた人


紅 花子

正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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