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第21回:保健医療計画からみる和歌山県の姿

和歌山県の医師転職事情と未来- 保健医療計画と地域医療から読む

 

■ 記事作成日 2017/4/28 ■ 最終更新日 2017/12/6

 

和歌山県の保健医療計画

 

元看護師のライター紅花子です。「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、前回は滋賀県についてご紹介しました。今回は滋賀県と同じ関西地方の和歌山県の医療の現状について、和歌山県の保健医療計画をもとにお伝えしていきます。

 

和歌山県内での転職やIターン、Uターンを考えている医師には、是非とも知っておいていただきたい地域医療の基礎情報となっております。

 

和歌山県の医師求人票数

 

医師が和歌山県内で転職するにせよ、IターンやUターン転職するにせよ、まず最初に気になるのは如何に地元(和歌山県内)に求人票がどれくらい存在するのか?という点でしょう。まずは大手医師紹介会社や地域特化型医師転職サイトにおける、和歌山県内求人票数の状況を俯瞰しておきましょう。

 

転職サイト名 常勤求人 非常勤求人 スポット求人
M3キャリア 38 15 52
医師転職ドットコム 94 18 2
リクルートDC 69 89 非常勤に含む
e-doctor 42 25 43
ドクターキャスト 14 3 27
CBnet 14 0 0
民間医局 72 39 40
青洲医師ネット 求人数不明 求人数不明 求人数不明
平均求人数 49.0件 27.0件 23.4件

 

上記表を眺めてみると、和歌山県の医師求人に関しては、大手の紹介会社でも常勤、非常勤、スポット共に充実した数がそろっているとは言えない状況です。ましてや中小規模の医師紹介会社では、十分な求人数を確保できているとは言えません。

 

和歌山県では和歌山県福祉保健部健康局医務課内にある「青洲医師ネット」が、公的機関として和歌山県内での転職を考える医師をバックアップしていますが、具体的な求人数がサイトに掲載されていないなど、使用勝手が非常に悪い状況であり、この点は民間医師紹介会社に大きく出遅れてしまっている印象です。

 

常勤求人に関しては医師転職ドットコムの94件が公開の求人数のアッパーですが、ほとんどの医師紹介会社がが10~70程度となっています(平均49.0件)。吊るしの求人票から医師個別のニーズにマッチした求人を探すのは難しく、マイナー診療科ならば猶更でしょう。

 

和歌山県の場合は非常勤の平均求人数が27.0件、スポットに至っては平均23.4件となっており、フリーランス医師として食べていくには相当選択肢が細くなってしまうことが予想されますが、複数の医師紹介会社では50件前後のスポット求人が掲載されており、スポット求人はある程度充実している印象の反面、非常勤求人は全体的に10~30件と非常に少なくなっています。

 

尚、それぞれの医師転職サイトや医師紹介会社でも和歌山県内の医師転職、求人事情の分析が行われており、例えば「リクルートドクターズキャリア」では和歌山県の医師転職市場について、下記のような特徴がピックアップされています。

 

  • 診療所数は多いが、病院勤務医が不足している
  • 県内医師会、医療機関、県が協同で「和歌山県医師臨床研修連絡協議会」を構成
  • 研修医の指導にあたる指導医を対象に、指導医講習会を開催
  • 地域医療支援センターにて若手医師のキャリア形成支援に注力
  • 医師の平均年齢は50.9歳で関西で一番高い
  • …等

 

※上記の医師求人票数は2017年6月15日調査結果

 

 

和歌山県の現状を分析

 

和歌山県は紀伊半島に位置する南北に長く広がる県で、海と山に恵まれた自然豊かな土地です。総面積は4,726,08km2で、全国 第30位ですが、世界遺産の高野山や熊野三山が鎮座する県としても有名です。

 

本州最南端の街には壮大なリアス式海岸や、東洋のエーゲ海ともいわれる白崎海岸など、水質の良い海にも恵まれ、クエや太刀魚などの海産物もよく獲れます。また、水の国わかやまと呼ばれるほど良質な水を生かし、みかんや梅などの栽培も盛んにおこなわれています。

 

そんな和歌山県の平成27年10月現在の総人口は964 ,000人となり、全国で第40位。厚生労働省が行った調査結果では、今後も人口減少が加速している県として名が挙がっています。

 

また、平成25年3月に国立社会保障・人口問題研究所が出した「日本の地域別将来推計人口」によると、平成 37 年には、869,000 人、平成 52年には719,000 人へ減少すると推計されており、今後も人口はさらに減少していくことが予測されています。

 

図1 和歌山県の人口の推移

 

和歌山県の人口動態は

 

引き続き、和歌山県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。

 

平成27年の出生率は、人口千対で7.3、全国平均が8.0でしたので、日本の平均をやや下回っていました。一方で、合計特殊出生率は1.58であり、その年の全国平均値である1.46を、やや上回っています。つまり、和歌山県全体での出生数(人口千対の出生率)はやや少なめであるものの、1人の女性が生涯に産む子供の数は全国平均よりも若干多い、という結果となっています。

 

一方平成26年の時点での高齢化率は30.5%でした。全国平均値である26.7%を大幅に上回り、全国的に見ても3番目に高齢化率の高い地域となっています。出生率も低いことから少子高齢化がかなり進んでいる地域であることが読み取れます。

 

図2 和歌山県の高齢化率と人口増加率の推移

 

続いて死亡に関するデータを見ていきます。

 

平成26年の死亡者数は12,549人となり、昭和50年頃より死亡者数は増加傾向にあります。人口千対で見ると13.1となり、全国平均である10.3を上回るという結果になりました。その死因は、平成23年のデータで見ると悪性新生物が最も多く、全死因の28.1%を占め、全国的に見ても高い死亡率となります。

 

内訳を見ると、和歌山県の男性は、肺がん・胃がん・前立腺がん・肝臓および肝内胆管がん・結腸がんへの罹患率が、全国平均よりも多いことが分かります。

 

一方で和歌山県の女性は、乳がん・がん・肺がんなどで全国平均を上回る罹患率となっています。必ずしも死亡率とイコールではありませんが、和歌山県では、がんによる死亡率が高いことを表しているのかもしれません。

 

図3 和歌山県 悪性新生物に対する部位別粗罹患率の比較

 

続いて心疾患が17.4%、肺炎が9.9%、脳血管疾患が8.1%となります。脳血管疾患に関しては昭和20年ごろには全死亡率の1位であったものの徐々に減少していった結果となります。

 

 

和歌山県の医療状況はどうなっているのか

 

次に和歌山県の受療率を見ていきます。平成26年度の受療率の入院に対しては、全国平均は人口10万対1,038、これに対して和歌山県は1,129となり、全国平均を上回る結果となりました。

 

外来受療率は全国平均が人口10万対5,696、これに対して和歌山県は6,570と、こちらも全国平均を上回りました。和歌山県は、全国で2番目に外来受療率が高い県であり、年代別では25歳以上の年代で受療率の上昇が見られ、55歳を過ぎたあたりから急増します。

 

その中でも特に75歳~84歳の受療率が高いことから、高齢化の影響によって受療率も高くなる、という結果になっているようです。

 

図4 和歌山県 入院受療率と外来受療率 全国との比較

 

入院受療率を傷病別に見てみると、高い順に精神及び行動の障害、循環器の疾患、悪性新生物、損傷・中毒及びその他の外因の影響となっています。外来受療率を傷病別に見ると、消化器系の疾患、循環器系の疾患、筋骨格系および結合組織の疾患という順になります。

 

受療先については、およそ半数の49%以上が一般診療所を受診しており、次に病院がおよそ37%、歯科診療所がおよそ14%と続きます。

 

和歌山県の保健医療圏はどうなっているか

 

和歌山の医療圏も他の県と同様、一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれています。このうち二次医療圏は、県庁所在地を含み、人口も他医療圏と比べて圧倒的に多い和歌山医療圏のほか、那賀医療圏、橋本医療圏、有田医療圏、御坊医療圏、田辺医療圏、新宮医療圏と、計7つの医療圏に分けられています。

 

和歌山医療圏では9割が自医療圏で医療を完結している状況にありますが、御坊、田辺、新宮の各医療圏では約8割、有田、那賀、橋本医療圏では6割程しか、自医療圏で医療を完結できていない現状があるようです。

 

自医療圏で医療を完結できなかった場合、和歌山医療圏、田辺医療圏への患者の流入が多いものの、他の医療圏への流入はなく、隣接している他県へ患者が流出しているようです。

 

特に橋本医療圏では、同県の和歌山医療圏へ流出する患者数よりも、他県へ流出する患者数の方が多いという現状があります。

 

和歌山県は流出型医療圏ともいわれており、那賀、橋本、有田、新宮医療圏の4つが厚生労働省より見直し、検討を求められている医療圏です。
和歌山県では、病床利用率、平均在院日数ともに、療養病床で全国平均を上回る傾向にあり、高齢化の影響は、こういったところにも現れています。
しかし、病院や診療所での死亡率は全孤高平均を下回る結果となっているため、病床を死にゆく場として利用するのではなく、在宅復帰のための一時的な利活用の場として捉えているケースが多いものと考えられます。


和歌山県の病床数とこれから

高野山(高野町)

 

和歌山県内の既存病床数と基準病床数について見ていきます。医療施設数を人口10万対で見てみると、全国平均が6.8であるのに対し、和歌山県は9.2と全国平均を上回る状況となります。また、病院数全体では減少傾向にあるものの、一般診療所の病床数は、人口10万対でみるとは増加傾向となっています。

 

図5 和歌山県 病床数の推移

 

和歌山県は、感染症病床を除く全ての既存病床数が、全医療圏で基準病床数を上回っている状況であり、さらに全ての医療圏の一般病床の利用率が7~8割であるという結果が出ています。

 

これらのことから、病院数、病床数は一定規模が維持されているものの、十分に自医療圏の病床を活用できていないということが推測されます。

 

図6 和歌山県 二次医療圏ごとの既存病病数と基準病床数

 

さらに前述の通り、和歌山県では入院患者の県外流出が高い、流出型の医療圏に分類されます。医療圏の整備を求められている和歌山県は今後、病床全体の見直しがなされることが予測され、医療現場に大きな影響をもたらす可能性もあると推測されます。

 

和歌山県内にはどのような機能を持つ医療機関があるか

 

和歌山県では三次救急を担う医療機関として3つの病院、二次救急として17の病院が整備され、輪番制度が実施されています。

 

しかし、三次救急の医療機関は和歌山医療圏に2施設および田辺医療圏に1施設、二次救急の医療機関は那賀、橋本、田辺医療圏のみとなり、救急医療における医療圏ごとの偏りが見られます。

 

図7 和歌山県 特定の医療機能を有する病院数

 

和歌山県は、救急医療に対して積極的に取り組んでいることにより、脳卒中、循環器系の疾患の救命率も高まっているものの、救急を利用後の行く末、いわゆる出口のない患者が多く、患者の出口として一般病床を活用することも目標とされています。

 

一方、高齢化率が高い和歌山県で注目したいのが在宅医療です。一般診療科だけではなく、精神医療でも在宅での療養を推進しており、県内全域で需要が高まっているのが在宅医療といえます。

 

しかし実際には、和歌山県内では在宅で終末期を過ごす人が多いものの、それでも8割の人が病院や診療所で終末期を過ごしています。そのため、県の対策として地域と連携した在宅医療の推進、歯科医療との提携に取り組んでいます。

 

また、小児医療は県全体でみて減少傾向であり、小児医療を標榜する医療施設も減少しています。周囲に子育てを経験した人がいないという環境もあるため、

 

子育てが難しいという現状もあるようです。中でも那賀医療圏は、他の医療圏と比較して若い世代が多く居住する地域であるため、小児医療や周産期医療の充実も求められるところとなります。

 

和歌山県内の医師数と今後の確保対策

 

厚生労働省の調査によると、平成24年現在で和歌山県内の医療機関に勤務する医師数は2,660 人、人口 10 万人当たりは259.2人となります。

 

図8 和歌山県 医師数の推移

 

県内の医師数は年々増加傾向であり、和歌山県のデータによると、平成22年の全国平均である人口10万人当たり219.0 人を超えてはいるようです。医療機関に勤務する医師の総数のうち、病院で従事する医師が60%、診療所に従事する医師が40%となっており、病院の勤務医数は全国平均をやや下回る結果となっています。

 

また、医療機関に勤務する医師の総数の半数を超える1,588人が和歌山医療圏で従事していますが、その一方で、他の医療圏では全国平均を下回る医師の従事数となっており、医師の偏在があることが伺えます。

 

また、有田医療圏、那賀医療圏では、病院勤務医よりも診療所の勤務医が多いことから、病院での勤務医の確保が喫緊の課題であるようです。

 

これらのような背景があり、和歌山県では医師確保の施策として、

 

  • 地域医療を担う医師の確保
  • 女性医師の就業支援d
  • 研修体制の充実

 

などを掲げています。

 

和歌山県では、医師養成大学の定員が増員されたことも相まって、ここ数年は、毎年70名前後の研修医を確保することができています。

 

その一方で、へき地での医師の確保が不十分という現実もあることから、卒後研修にへき地での医療を取り入れています。さらに、わかやまドクターバンク制度という独自の制度を作り、医師の就業支援に取り組んでおり、医師確保に向けて引き続きこの取り組みを進めていくこととしています。

 

女性医師については、30歳代前後の医師が多いことから、結婚や出産による女性医師の離職を防ぐために、女性医師が働き続けられるような環境づくりを推進するとしています。

 

まとめ

和歌山城(和歌山市)

 

県内での医療の偏在が著明であり、尚且つ、県外の医療に頼らざるを得ない状況にある和歌山県。今後は、県内での医療機能の充実に関する改革が必須とされているようです。また、地域特性として高齢化率が全国的にも高い地域であることから、在宅医療や高齢者医療を学びたい医師にとって、多くの学びを得ることができる転職の地ともいえるかもしれません。

 

 

参考資料

 

和歌山県保健医療計画
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/050100/iryokeikaku/keikaku.html

 

統計局 
年齢(3区分),男女別人口及び年齢別割合-都道府県,市町村(昭和55年~平成22年)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001007702

 

同上
人口推計 長期時系列データ 長期時系列データ(平成12年~22年)
第5表 都道府県別人口(各都市10月1日現在)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001039703&cycode=0

 

同上
平成26年患者調査 受療率(人口10万対),入院-外来・施設の種類 × 性・年齢階級 × 都道府県別
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02020101.do?method=extendTclass&refTarget=toukeihyo&listFormat=hierarchy&statCode=00450022&tstatCode=000001031167&tclass1=000001077497&tclass2=000001077499&tclass3=&tclass4=&tclass5=

 

国立社会保障・人口問題研究所
『日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)』男女・年齢(5歳)階級別の推計結果
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/t-page.asp

 

統計局 平成26年医療施設(静態・動態)調査 下巻 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001141081

 

同上 平成25年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126654

 

同上 平成23年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102729

 

同上 平成20年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675

 

同上 平成17年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048224

 

同上 平成14年医療施設(動態)調査 下巻 年次 2013年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048369

 

同上 平成11年医療施設(動態)調査 下巻 年次 2013年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048408

 

同上 平成8年医療施設(動態)調査 下巻 年次 2013年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048434

 

この記事をかいた人


紅 花子

正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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