第11回:保健医療計画からみる福岡県の姿
■ 記事作成日 2016/9/30 ■ 最終更新日 2017/12/6
福岡県の保健医療計画
元看護師のライター紅花子です。「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、前々回の岡山県に続き、今回も西日本です。九州地方に位置し、東京や大阪に続く大都市、福岡県について取り上げていきます。
福岡県の現状を分析
福岡県は九州の北に位置しており、東京都からの距離と、上海からの距離がほぼ同じ。中国大陸に近い場所です。
福岡県の国土面積は全国で29番目に大きく、その広大な土地と、海と山の両方を併せ持つ風土を生かして、農業や漁業も盛んにおこなわれています。
例えば、「いちご」の中で全国的にも人気の高い品種である「あまおう」や、「博多明太子」は、福岡県が誇る特産物です。みなさんも1度は口にしたことがあるのではないでしょうか。
また、九州地方と本州の交通を結ぶ要点となることから、商業も盛んな都市です。例えば、卸売業の年間販売額は、全国第4位。都市部には商業施設が立ち並び、その商業の発展を伺うこともできます。さらに、平成23年に九州新幹線が開通したことにより、県外からの観光客も増えているそうです。
そんな福岡県の人口を見ていきます。
福岡県は福岡市と北九州市の2つの政令都市があるため、平成22年の国勢調査では、5,071,968人で全国第9位と人口が非常に多い地域です。
しかし、平成17年から平成22年の5年間の人口増加率は0.4%。それ以前の5年間(平成12年から平成17年)の0.7%を下回るという結果となりました。
福岡県の特殊出生率は、昭和50年頃より減少しており、平成17年には1.26と過去最低を記録しました。その後わずかながら上昇していき、平成23年には全国平均1.39を上回る1.42となりました。
図1 福岡県 年齢層別 人口の推移
一方、高齢化率も上昇している地域でもあります。
老年人口は昭和30年より増加傾向となり、平成13年には年少人口を上回りました。平成37年には老年人口が30%を超えることが予想されており、他の都道府県同様、少子高齢化が確実に進んでいます。
図2 福岡県の高齢化率と人口増加率の推移(推計値含む)
福岡県の人口動態は?
福岡県の死亡率は、平成23年では死亡数48,112人、死亡率9.5%と過去最大になるなど、高齢化に伴った増加傾向が続いているようです。
平成23年の死亡要因は、悪性新生物が1位で30.7%、2位が心疾患で11.8%、3位が肺炎で10.9%でした。肺炎は平成18年から引き続き第3位。この順位はここ数年、変わらずに推移しています。
全国の死亡率と比較すると、脳血管疾患は近年死亡要因の第3位となり、全国平均を大きく上回る都道府県が多いようです。
その一方で、福岡県では肺炎は全国平均の98.9を上回る103.7、脳血管疾患では全国平均の98.2を下回る86.7となっており、脳血管疾患による死亡率(死亡数)よりも、肺炎の死亡率(死亡者数)が高いという特徴があるようです。
さらに、死因第1位の悪性新生物でも、全国平均の死亡率である283.2を上回る292.9となり、がんによる死亡率(死亡者数)が高いことも分かります。
図3 福岡県/全国 主要死因別死亡率の比較
ところで、福岡県には、全国的にも有名な「久山町研究」の対象となっている、久山町があります。久山町は、福岡県の中でも日本海側に位置し、海とは接してはいませんが、緑の山々と田園風景が広がる、風光明媚な土地です。
そんな久山町のまちづくりの柱は「国土の健康」「社会の健康」「人間の健康」の3つ。
都市と農業が上手に共生する町として、昭和36年から九州大学との共同事業として、多くの医療・健康に関する調査が行われています。
図4 久山町の位置
これらの調査で培った様々なデータは、今や九州大学のみならず、日本全体での健康づくりにも取り入れられているものが多くあります。
福岡県の医療状況はどうなっているのか
次に福岡県の受療率をみていきます。
平成23年の患者調査では1日平均の入院受療率は、全国平均が1,068であるのに対し、福岡県では1,555と、全国平均のおよそ1.4倍です。
外来受療率も、全国平均の5,784に対して6,456、こちらも平均を上回る結果となりました。どの年齢階級においても全国平均を上回っていますが、特に「65歳以上の入院受療率」で算出すると、全国平均のおよそ1.5倍です。
図5 入院および外来受療率の全国比較
福岡県内のみで平成17年と平成23年を比較すると、呼吸器系疾患、神経系疾患での入院受療率が1.2~1.4倍に上昇しています。
肺炎が死亡率第3位に上がる背景は、この辺りにあるのかもしれません。また、外来では「腎尿路生殖器系の疾患」がおよそ2 倍に、「精神及び行動の障害」がおよそ1.8 倍と、こちらも上昇中です。
前者には人工透析に通う高齢者、後者には認知症高齢者などが含まれますので、高齢化率が増加してきていることが、これらの「受療率の上昇」に影響していること、今後もさらに受療率上昇に関与する可能性があることが、推測できます。
福岡県の保健医療圏はどうなっているか
では、福岡県の保健医療圏を見ていきましょう。
福岡県では、保健、医療、福祉を取り巻く環境の変化や人口動向を踏まえて、昭和63年に策定された地域保健医療圏を平成7年に一旦廃止、二次保健医療圏を平成8年から現行の13圏域に変更しています。
政令指定都市となっている、福岡市が含まれる福岡・糸島保健医療圏や、北九州市が含まれる北九州医療圏では、他の医療圏に比べて人口が圧倒的に多いという特徴があります。
医療資源もこの圏域に集中しているため、同じ福岡県内でも地域較差が広がっていることが分かります。
自地域にて診療を受ける患者の割合でみると、
- 福岡保健医療圏は88.2%、北九州保健医療圏は93.5%
- 直方・鞍手医療圏は57.1%
- 70%未満の医療圏は13医療圏中6医療圏
と、福岡・糸島医療圏および北九州医療圏では、自己の医療圏でおおよそ完結している状況です。
しかしその一方で、直方・鞍手医療圏、朝倉医療圏、田川医療圏などでは、患者の流出率が高い傾向がみられます。30~50%近くの患者が、他の医療圏に流出している地域もあることから、今後の見直しが検討されているようです。
各地域で高齢化が進んでいるため医療に対する需要が高まっている一方で、患者の流出量から見ても、医療にやや地域格差が生じているということがお分かりいただけたかと思います。
次の章でさらに、福岡の地域の医療について見ていきたいと思います。
福岡県の病床数とこれから
太宰府天満宮(太宰府市)
それでは次に福岡県の病床数をみていきましょう。
平成24年8月現在の既存病床数が、全ての医療圏で基準病床数を上回っていることが、福岡県の特徴と言えるかもしれません。
単純に考えれば、現在の保健医療計画が満期となる平成29年頃までには、全ての医療圏において、病床数の大幅な減床が図られる、と推測できます。
特に、福岡市と北九州市が含まれている2つの医療圏は、他の医療圏と比較すると、基準病床数が桁違いに多いのですが、そもそもの既存病床数も桁違いなので、減床となる病床数も抜きん出ています。
この他、前述のような患者の流出率が比較的高い医療圏でも、既存病床数が1,000床以上でも、今後は1,000床を切るところまで減床傾向となりますので、他地域への流出は避けられない状況にありそうです。
図6 福岡県内 二次医療圏と病床数の予測
福岡県では三次医療圏を福岡県全体としていますが、三次医療圏に設置されるべき医療機能が充実した病院や、特別な機能を持つ病院のほとんどが、福岡・糸島医療圏と北九州医療圏に集中しているという状況になります。
このことからも、他医療圏からこの2つの医療圏への患者の流入は避けられない、ということ推測されます。
また、福岡県のもう1つの特徴として、精神病床が非常に多いこともあげられると思います。試しに、以前こちらのコラムで取り上げたことのある、神奈川県、愛知県と比較してみました。
図7 福岡県内 病床数の推移
基準病床数全体では、神奈川県・愛知県より少ないのですが、精神病床・結核病床は、神奈川県・愛知県よりも多いようです。
この辺りからも、精神疾患や呼吸器疾患を抱える患者数が、比較的多い地域であることが伺えます。
実際、入院受療率は精神疾患を抱える患者の締める割合が比較的高く、外来受療率も平成17年より1.8倍に増えていることも、病床数の多さと関係しているのかもしれません。
福岡県にはどのような機能を持つ医療機関があるか
福岡県での三次医療圏は、大学病院や公的病院が中心となっています。
※三次医療圏については愛知県の記事を参考にしてください。
図8 福岡県内 特定の医療機能を有する病院数
福岡県は、三次医療圏ごとに設置される「高度な技術を持った大病院」の他にも、300~500床ほどの地域の中核となる病院が、多くあることもその特徴の1つかもしれません。
福岡県では悪性新生物での死亡率が高いことを受け、がん拠点病院を18か所設置、がんの専門医師を増やしています。
また、緩和ケア病棟も県全体で478床あり、今後はがん医療における専門医療の提供と、緩和ケア病棟のさらなる充実を図っていくようです。
さらに、受療率が高くなっている精神疾患の分野に対しても、全国平均(人口10万対病床数で比較)よりも、精神病床を多く設定するだけではなく、大学病院等でも精神疾患と身体疾患の合併症に対する医療を提供する体制を整えてきたようです。
今後は精神救急の分野の充実を図りつつ、特に地域とのつながりを強化し、疾病の予防や退院後の社会生活のケアも視野に入れていく方針のようです。
福岡県の医師数と今後の確保対策
福岡県の医師数は、平成22年末現在で14,630人であり、医師数だけをみれば全国第5位となります。県内の医療施設に従事している医師数も人口10万対で274.2人ですので、全国平均の219人を大きく上回っており、全国第4位という結果になりました。
図9 福岡県 医師数の推移
この結果を見るだけでは、全国的には比較的医師数に恵まれている地域のように見えます。
しかし、福岡県の保健医療計画によると、やはり「地域や診療科の偏在」が課題となっているようです。
特に産科/産婦人科の医師数は、平成12年の9.3人から平成22年の8.4人へ、およそ10年間で人口10万人あたり1名の医師が減少、全13保健医療圏のうち9圏域で減少しています。
また、この10年ほどの間に大学の医師派遣機能が低下しており、医師不足により特定の診療科が廃止されるなど、地域医療の確保が難しくなっているようです。
福岡県は、その理由の1つに「平成16年の臨床医が研修先病院を選択できる臨床研修制度の導入」を上げています。これにより、医師が研修先を自由に選択できるのは良いのですが、結果的にそれまでのような人員が確保しにくくなっている、ということのようです。
福岡県では今後の対策として、まず、この地域や診療科の偏在に対する医師の確保を進めることを明言しています。
具体的には、
- 県からの寄付を受ける「寄付講座」を県内の3大学に設置
- 特に地域医療や周産期医療の医師が不足すると思われる、県が指定する地域に大学が医師を派遣する
- 派遣先には、医師の偏在が著しい、3つの医療圏を指定
- となっています。さらに
- 将来、産科、小児科、外科、麻酔科および救命救急を志望することを前提として奨学金の対象となる、特別枠を設けている(久留米大学)
- 福岡県は、全国的にみると女性医師が少ないため、こちらにも就労支援策を講じる
としています。
政令都市が集まる福岡の地域医療対応に注目
夫婦岩(福岡県糸島市)
政令都市に医療が集約している福岡県。精神など特定分野の医療に対して手厚い対策を取っている一方で、地域の格差が広がりつつある一面もあります。この地域格差をどう埋めていくのか、実際に埋められているのか、次回の保健医療計画にどのように反映されていくかが、注目ポイントとなってくるようです。
参考資料
福岡県公式ホームページ
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/
福岡県保健医療計画
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/160441_50942018_misc.pdf
九州大学大学院 病態機能内科学(第二内科) 久山町研究室
http://www.intmed2.med.kyushu-u.ac.jp/labo8/
公益財団法人 久山生活習慣病研究所
http://www.hisayamalife.or.jp/
久山町 久山町の魅力・観光
http://www.town.hisayama.fukuoka.jp/kanko/
福岡県 福岡県の概要
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/ken-gaiyou.html
総務省統計局 人口推計(平成25年10月1日現在)結果の要約
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2014np/
厚生労働省 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf
厚生労働省 医療計画
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/
国立社会保障・人口問題研究所 地域医療計画
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/kikan/..%5C..%5Cdata%5Cpdf%5C00330406.pdf
データ参照元
統計局 平成26年医療施設(静態・動態)調査 下巻 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001141081
同上 平成25年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126654
同上 平成23年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102729
同上 平成20年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675
同上 平成17年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675
同上 平成14年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048369
同上 平成11年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048408
同上 平成8年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048434
平成12年 医師・歯科医師・薬剤師調査
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/00/tou05.html
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/00/tou06.html
平成16年 医師・歯科医師・薬剤師調査
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou12.html
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou13.html
平成20年
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/toukei02.pdf P1
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/toukei02.pdf
平成24年
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/toukeihyo.pdf P19
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/toukeihyo.pdf P21
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