第42回:保健医療計画からみる大阪府の姿
■ 記事作成日 2018/2/1 ■ 最終更新日 2018/2/1
保健医療計画からみる大阪府の医師転職事情
元看護師のライター紅花子です。
「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、今回は、関西の経済の中心地である大阪府について、大阪府の第6次保健医療計画を基に医療情勢を見ていきます。
大阪府の現状を分析
大阪府は日本列島のほぼ中央に位置し、南北に長く湾曲した地形で、大阪湾に向かって開けた西側以外は三方を山地に囲まれています。
総面積は1,899,00㎢と全国で2番目に小さく、全国土の0.5%しかありません。
水運の便がよく、古くから経済の中心地として物資が集約され、天下の台所と呼ばれていた大阪では独自の文化が生まれてきました。
お好み焼きやたこ焼きといった粉ものの食文化をはじめ、漫才や落語、歌舞伎も大阪で発展したと言われています。
現在も日本一の超高層ビル「あべのハルカス」が2013年にオープンするなど、西日本の中心地として日々発展を続けています。
大阪府の平成27年10月現在の総人口は8,839 ,000人で、東京、神奈川に次いで3番目に人口の多い地域となります。
図1 大阪府 人口の推移
昭和30年頃より人口は増加の一途をたどっていた大阪府ですが、平成22年から平成27年では、一転して人口が減少しています。
他県と比較すれば減少の割合は少ないものの、今後もこのまま減少していく可能性も十分に考えられます。
さらに年齢別に人口を見てみると、平成22年時点での年少人口は、全国平均の12.9%を上回る13.3%、生産年齢人口は国の平均である62.1%を上回る64.4%であり、若い人口の割合いが他の都道府県よりも高いという特徴があります。
一方、老年人口は22.4%と国の平均である25.1%を下回っており、全国で11番目に老年人口の低い地域となっています。このことから全体的に大阪府は若い地域であることが分かります。
図2 大阪府の高齢化率と人口増加率の推移
大阪府の今後の高齢化の状況を見ていくと、平成26年の高齢化率は25.7%と急激に上昇しています。
また、平成52年には36.0%にまで上昇していることから、少しずつではありますが、大阪府も確実に高齢化社会の仲間入りを果たしていく模様です。
大阪府の人口動態は
次に大阪府の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。
平成27年の出生率は人口千人当たり8.1となり、全国平均の8.0をやや上回る結果になりました。
また、合計特殊出生率は1.34であり、その年の全国平均値である1.46を大きく下回るという結果となっています。
現在は若い年代が多い大阪府ではありますが、女性1人当たりの出産数が少ないことから、やがて少子高齢化が進んでいく可能性が高まっているということが分かります。
続いて死亡に関するデータを見ていきます。
平成27年の死亡者数は83,578人で、人口1000人当たりで見ると9.6となります。全国平均の10.3を下回っており、全国で8番目に死亡率の低い地域となります。
平成22年時点の死因を見てみると、悪性新生物が最も多く、全死因の32.1%を占めています。
続いて心疾患が16.1%、肺炎が10.9%、脳血管疾患が8.2%を占めるという順になっています。
全死亡中に占める上位3疾患の割合は年々増加傾向にあり、高齢化社会に向けて、今後何らかの対策が必須となるでしょう。
また、少し意外かもしれませんが、大阪府内で人口千対死亡率がもっとも高いのは、大阪市医療圏です。
図3 大阪府内各医療圏ごとの人口千対死亡率の比較
なぜ大阪市医療圏の死亡率が高いのか、その答えは大阪市第6次保健医療計画の資料から読み取ることはできませんが、ここだけが大阪府の平均よりも高い、何かしらの理由があるのかもしれません。
大阪府の医療状況はどうなっているのか
次に大阪府の受療率を見ていきます。
図4 入院および外来受療率の全国比較
平成26年度の受療率の入院に対する値を見てみると、全国平均が人口10万人当たり1,038に対して大阪府は1,000と平均を38ポイント下回り、全国で18番目に低い受療率となっています。
一方、外来受療率は全国平均が人口10万人当たり5,696に対して5,966と、こちらは平均をやや上回る結果となっています。
また、受療者の年齢を見てみると65歳以上の受療者が入院で67.5%、外来で48.8%とほぼ半分を占めています。
この結果から、大阪府では高齢者の医療需要度が高く、今後高齢化が進むことで、ますます受療率が高まっていくことが考えられます。
また、入院受療の傷病別に見てみると、多い順に循環器系の疾患、精神及び行動の障がい、新生物となっています。
外来受療を傷病別の割合でみると、男性で多いのは消化器系、循環器系の疾患の順で、女性は消化器系、筋骨格系及び骨格筋系という順になっています。
大阪府の保健医療圏はどうなっているか
大阪府の医療圏は、他の県と同様に一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれています。
図5 大阪府 二次医療圏
二次医療圏は、豊能医療圏、三島医療圏、北河内医療圏、中河内医療圏、南河内医療圏、堺市医療圏、泉州医療圏、大阪市医療圏の8つに分かれています。
さらに、大阪市医療圏は県庁所在地を含み、人口も多いことから二次医療圏内にさらに基本保健医療圏として、区ごとに北部、西部、東部、南部基本保健医療圏を設定しています。
医療圏ごとの医療施設を見てみると、全体の約35%の医療施設が大阪市医療圏に集まっているという状況になります。
しかし後述のとおり、がんや救急、周産期医療、小児医療などの拠点病院は全医療圏において確保されており、高度医療や特定分野の医療以外では、圏域を超える必要性は少ないといえるでしょう。
その中で精神分野についての入院受療に関しては患者の流入、流出に差が出てくる地域であると考えられます。
精神科病院数は偏りがあり、泉州医療圏には13施設と全体の3分の1が集中しています。
他医療圏にもそれぞれ3~6施設の精神科病院があり、大阪府の南側の地域の方が高い傾向にあります。
一方で、大阪府の中で最も人口が多い大阪市医療圏には精神科病院が1つしかありません。
診療所について見てみると、大阪では一般診療所数が全国2位、人口10万人当たりでみても全国平均の78施設に対して92.9施設で全国7位と、診療所数が大変多い地域です。特に大阪市医療圏は人口10万人当たり125.7施設と群を抜いて多く、豊能医療圏は94.1施設、堺市は84.1施設と、全国平均以上になっています。
その他の医療圏は泉州医療圏が69.8施設と少なくなっているほかは、全国平均をやや下回る程度の施設数です。
しかし大阪は公共の交通網が比較的発達しているため、他の医療圏の病院にも患者が移動しやすいことから、こうした病院や診療科の偏在が患者にとって大きな問題となることは少ないと考えられます。
西日本の中心都市として多くの人口を抱え、高齢者より若い人が多いエネルギッシュな地域である大阪府。
しかし、大都市でありながらもその人口は減少傾向にあり、他県と同様に高齢化社会を迎えることは避けられません。
それに対応していく今後の医療整備の動向が注目されます。
次は、大阪府の医療機能を詳しく見ていきましょう。
大阪府の病床数とこれから
大阪城
大阪府内の既存病床数と基準病床数について見ていきます。
図6 大阪府 病床数の推移
平成24年時点の大阪療養病床及び一般病床の既存病床数は88.397床で、基準病床数を21,134床も上回っています。
医療圏ごとに見てみると、基準病床数と既存病床数の差が最も大きいのが大阪市医療圏で、その数は基準病床数の約2倍近くにもなります。
また精神病床についても707床、既存病床数が基準病床数を上回っています。
図7 大阪府 既存病床数と基準病床数の比較
大阪府は全国と比べて人口に対する病院数と病床数が少ない地域であり、平成22年時点での病院数は、全国平均が人口10万対6.8であるところ6.1、病床数は一般病床や精神病床、感染病床も含み人口10万人当たり1,244.30が全国平均であるのに対して、大阪府は1,235.00となっています。
そのため、基準を超えてはいるものの、人口の割合や全国平均とあわせて見ると、病床数が少ない地域となるのです。
大阪市医療圏は、府内の病院のうち35%が集中し、その病床数も他の医療圏と比較すると圧倒的に多くなっています。
大阪市医療圏に次ぐ泉州医療圏ですら、病床の総数は大阪市医療圏の半分に届きません。
このような状況の中、大阪市医療圏だけで既存病床数と基準病床数の差は15,000床以上あります。
1つの医療圏で1万床以上の差が見られるのは、全国の中でも大阪市医療圏だけであると思われます。
この数値が新しい「第7次 保健医療計画」の中でどう変わっていくのか、注目すべき点であるといえます。
大阪府内にはどのような機能を持つ医療機関があるか
まずは、大阪府内の特定の医療機能有する病院数をみていきます。
図8 大阪府 特定の医療機能を有する病院数
上図の病院数は平成30年1月現在のもので、保健医療計画の施行以降の5年間で、堺市医療圏に三次救急、泉州医療圏に災害医療センター、大阪市医療圏に小児三次救急が1施設ずつ増加しました。
大阪府では厚生労働省に認定された特定機能病院として
- 国立循環器病研究センター
- 大阪大学医学部、大阪市立大学医学部、大阪医科大学、関西医科大学、近畿大学医学部の各附属病院(計5病院)
- 大阪府立成人病センター
の計7病院が、大阪府全体の医療機能を担っています。特に国立循環器病研究センターは、国内最高水準を誇るナショナルセンターとしての役割を担っている施設です。
また、専門病院や総合病院が多く集積しているのも大阪府の特徴で、全国と比較しても高い水準の医療を提供できる体制が整っていると考えられます。
そのため、医療体制が比較的脆弱な地域に対しては、高い医療機能を保持している圏域がフォローしていくなど、地域連携のネットワーク強化を促進しています。
では、疾患ごとの医療機能はどうなっているでしょうか。
死亡率1位のがんについては、大阪府が全国より10年早くがんの死亡率が1位となったこと、75 歳未満年齢調整死亡率がワーストであることから、がん診療拠点病院が数多く存在し、がん医療の専門家も数多く在籍するなど、特別な取り組みがなされているようです。
地域ごとに偏在のあった精神分野については、先にも触れたように病院数に偏在があったものの、診療所が各圏域に多く設置され、精神医療をうまくカバーできているようです。
また、精神病床数が少ない大阪市圏域では、大阪府・堺圏域と共同で精神科救急医療情報センターや精神救急体制を確保し、県域を越えた広範囲な精神科緊急・救急医療体制を整えています。
さらに大阪府で最も課題となっているのが救急の分野です。
大阪府は救急医療の需要が高い一方、救急告示病院は減少傾向であり、全救急患者の約8割を私的医療機関が受け入れていることが特徴となっています。
大阪府では各二次医療圏に最低1カ所、計16病院を救急救命センターと認定し、そのうち大阪大学医学部附属病院、関西医科大学附属枚方病院、府立大阪急性期・総合医療センターの3カ所を高度救急救命センターに認定しています。
しかし、このように施設や設備が充実しているからこそ、そこで働く医療者の充実が課題となっています。
特に大阪府では救急科の求人倍率が最も高く、医師の確保が困難という状況が示されました。
大阪府内の医師数と今後の確保対策
厚生労働省の調査によると、平成22年現在、人口10万人当たりの医師数は260.7人となり、全国平均の人口10万人当たり230.4 人を上回っています。
図9 大阪府 医師数の推移
府内の医学部設置大学は全国で2番目に多く、定着する医師も多くいることや、無医地区、へき地がないという特徴から、全国的に見ても医師の確保状況は比較的安定しています。
しかし、診療科の偏在が見られたリ、女性医師が増加していることから、女性医師が妊娠、出産などで一時的に離職した後の復職や、働きやすい環境の設定が課題となっています。
このことから、大阪府では医師が不足している診療科の医師に対して手当てを付与するなどして対策を講じています。
また女性が働きやすい環境を設定し、奨学金を活用して医師が少ない地域へ新規医師を配置するなどして、全医療圏に全診療科あるいは全世代の医師がバランスよく配置されるような対策をしています。
まとめ
道頓堀
医療資源も医師数も比較的安定して確保できている大阪府。どの圏域も交通の便が良く、足りない医療資源は、他の医療圏と連携して相互にカバーし合っている地域であるため、どの圏域でも比較的働きやすいのではないでしょうか。
しかし、すでに各分野のスペシャリストが多い大阪府だからこそ、病院での勤務を目指す場合は専門的な知識がある、もしくはいずれかの分野に長けていないと、希望通りの転職は難しいかもしれません。
その中では特に、現在不足している救急、産科や小児科分野などに目を向けることが大阪府で転職を考えていくうえで大きなポイントと言えるでしょう。
か。
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