第7回:保健医療計画からみる静岡県の地域医療
■ 記事作成日 2016/7/22 ■ 最終更新日 2017/12/6
静岡県の保健医療計画
元看護師のライター紅花子です。「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、前回は神奈川県について取り上げました。今回は、初の中部地方となる静岡県について取り上げます。
静岡県の現状を分析
県域の東西が155km、南北に118kmととても広い面積を有しており、海、山、湖と、豊富な自然資源を持っている土地です。静岡県のもっとも有名なランドマークといえば、やはり富士山。2013年には世界遺産に登録され、今や世界中から観光客があつまる地域となりました。
静岡県はやはり富士山をフューチャーしているらしく、県章、県旗に富士山が記されていますし、静岡県庁の中には「富士山世界遺産課」という部署もあるほどです。また、豊富な自然資源を生かした農業や、太平洋の恩恵を受けた漁業も盛んな地域といえるでしょう。
そんな静岡県にはどれくらいの人が住んでいるのでしょうか。
平成26年時点での静岡県内人口は3,697,651人で、全国で見ると37位にランク付けされています。静岡県内の人口は平成20年をピークに徐々に減少しており、平成47年には319万人にまで減少することが見込まれています。
例えば、年少人口は減少傾向にありますが、その一方で高齢者人口が増加しており、平成22年から平成37年までに高齢者人口の割合は30%を超えることが予測されています。
静岡県では、全世帯の約4割が高齢者のいる世帯となっています。さらに、静岡県は健康寿命が上位の県です。男性は2位、女性はなんと1位。
これらの状況を鑑みると、今後もどんどん高齢化社会に向かっていく県であることが推測されます。
静岡県の人口動態
それでは次に、静岡県の人口動態に関するデータをいくつかチェックしてみたいと思います。
平成25年の静岡県の合計特殊出生率は1.53と、全国平均の1.43を上回ったものの、平成に入ってから静岡県での出生率は減少傾向にあります。特に平成12年以降から一気に減少しており、少子化が進行しているのが現状です。
図1 静岡県 人口の推移
平成22年頃までは、大きな減少はなく、若干増加していましたが、平成27年以降は減少傾向に転じていくと予測されています。実際に、「人口推計(平成25年10月1日現在)」の結果をみると、平成24年頃にはすでに減少傾向に転じています。
人口増加率でみると、平成22年までの5年間では微増していましたが、平成24年頃にはすでに減少に転じており、この傾向は今後、拍車がかかっていくと推測されています。
図2 静岡県の高齢化率と人口増加率の推移
一方の高齢化ですが、こちらは平成25年頃には25%を超えると推計されており、平成32年には30%を超えるようです。
続いて、死亡に関するデータを見ていきます。
静岡県のデータによると、平成25年の死亡者数は38,393人となっています。死因別状況を見てみると、昭和52年ごろでは脳血管疾患が多かったものの、昭和57年には悪性新生物が脳血管疾患を上回り、それ以後は、悪性新生物が死亡原因の1位となり続けています。
平成25年の死因別の死亡総数に対する割合は、は悪性新生物が27.4%、心疾患が14.4%、脳血管疾患10.6%、老衰が8.1%となっており、上位4疾患で全死亡率の64%以上を占めているという状況です。
図3 静岡県 主な死因別死亡数の割合
上位3~4疾患で6割を超えるというのは、他の都道府県でも似た様な状況ではありますが、静岡県の特徴としては、「老衰」による死亡が多いという点でしょうか。例えば、先に当コラムで取り上げた埼玉県・千葉県・神奈川県と比較すると、2倍くらいの割合です。これも「健康長寿日本一」というあたりが、関係しているのかもしれません。
静岡県の医療状況はどうなっているのか
次に静岡県の受療率を見ていきます。
静岡県のある1日に、病院、診療所及び歯科診療所を受診した患者の推計が受療率として明記されていました。平成26年の患者調査のデータから、静岡県の入院受療率を人口10万対の数値で見てみます。
図4 入院および外来受領率の全国比較
1日当たりの推計入院患者は全国平均が1.090なのに対して、静岡県は836。推計外来患者は全国平均が5,376に対して静岡県は5,177と、どちらも全国平均よりも低い値となりました。
このうち、患者数は全体の3分の2が65歳以上の高齢者であり、外来についても65歳以上である高齢者の外来受診率が47%となっており、患者層は65歳以上の割合が極めて高いということが分かります。
また、静岡県で行われた受療動向の県民への調査によると、「軽い病気にかかったと思われるときに真っ先に受診するところ」という質問に対して「診療所へ行く」という回答が75.7%、「大きな病院へ受診」するという回答が12.9%となり、心身の健康に心配があった場合は診療所を受診する県民が多いことが伺えます。
しかし、5年前の調査と比較すると、大きな病院への受診理由は「診療科目が多く、高度な医療設備が整っているから」という理由が23.2%から53.4%に増加。また、「専門の医師がいるから」という理由が27.7%から39.3%に増加しています。これは全国的にもいえる傾向ではありますが、やはり静岡県でも今後は、診療所と大病院との棲み分けに対し、患者側の選択もポイントになってくると予測されます。
静岡県の保健医療圏はどうなっているか
伊豆の海辺
静岡県の保健医療圏は、第3次保健医療圏は静岡県全域を対象とし、特殊、高度、専門的な医療需要に対応できる医療圏となっています。第2次医療圏は8地域に分かれており、56病院、1診療所が輪番制を行っています。
図6 静岡県の二次医療圏および三次医療圏
医療圏ごとで比較すると、他県と比べて人口比に顕著なばらつきは見られていませんが、医療物資や医療従事者といった、いわゆる「医療資源」は、同じ保健医療圏の中でも都市部に集中している傾向にあり、地域偏在が課題となっているように思われます。
ところで、静岡県では平成24年に二次保健医療圏の見直しを行っています。
その基準は、「人口20万人未満の二次医療圏に関しては、入院にかかる医療を提供する一体の区域として成り立っていないと考えられる場合、その設定に対して見直しをするように」というものです。
この「入院にかかる医療を提供する一体の区域として成り立っていないと考えられる場合」とは、流入患者割合が20%未満、流出患者割合が20%以上である場合のことを指しています。
静岡県は2次保健医療圏を8つの圏域に分けて構成されています。平成26年度に調査された圏域別の流入、流出患者割合を見てみると、流出率、流入率にかなりの偏りがあるようです。そのため、平成30年度からの第8次保健医療計画の策定に向けて、適正な二次保健医療圏の設定について、今後も検討されていくこととなります。
静岡県の病床数とこれから
図7 静岡内の二次保健医療圏別 既存病少数と基準病床数の差
では次に、静岡県内の保健医療圏ごとの病床数をみてみましょう。
静岡県内の医療圏ごとの病床数を見てみると、既存病床数が基準病床数を上回っている地域ばかりです。原則として、既存病床数が基準病床数を上回っている地域は新しく病院の開設や増床ができず、むしろ県知事より病床数の削減など、勧告の対象となってしまいます。
そのため、全ての医療圏で既存病床数が基準病床数を上回っている静岡県は、今後病院の合併や統合などが増え、病床数減少していくことが予測されます。特に、病床数がもっとも多い西部地域では、既存病床数が基準病床数を大幅に上回っていることもあり、真っ先に改編が行われる地域となるであろうことが予測されます。
また、精神病棟や結核病棟も一般病棟と同様に既存病床数が基準病床数を上回っている傾向にあります。
では、静岡県のこれまでの病床数の推移をみてみましょう。
図8 静岡県内の病床数の推移
静岡県の病床数のピークは、平成17年頃。病床数の実数、人口10万対病床数も、同じ時期がピークです。静岡県の人口の推移では、平成17年~平成22年までの5年間での人口増加率は、プラスでした。
その後、少しずつ人口は減少傾向に転じていきますが、この頃から、医療機関の統合や再編なども含め、病床数の減少傾向が始まっていたようです。
静岡県内にはどのような機能を持つ医療機関があるのか
静岡県では、高度急性期機能、急性期機能、回復期機能、慢性期機能の4つの機能に分けてそれぞれの医療の機能を持たせています。例えば、第3次保健医療圏(つまり静岡県全域)での設置に該当する「救急救命センター」は、静岡県全域で計9の医療機関が完備されています。
図9 静岡県内の特定医療機能を有する病院の数(医療圏ごごとの比較)
静岡県の独自の医療体制として、「メディカルコントロール体制」といわれる病院前救護強化体制をとっています。地域住民にもAED指導を行うなどして、地域ぐるみで病院前救護活動をしようという働きがされています。
また、静岡県では平成26年に公布された地域医療構想への取り組みが進められています。静岡県では地域医療構想の実現に向けて、医療と介護の総合的な確保の推進や、医療関係者や医療保険者等の関係者と協議を行う場を設置するなどといった、独自の取り組みを行っていくことを掲げています。
高齢化の進行により、静岡県のみならず、全国で在宅療養が推進されることとなる日本。その取り組みに対する課題や対策を、第7次保健医療計画として迅速に公表した静岡県。プライマリーケアやかかりつけ医等の制度も具体的に掲げており、在宅療養に向けていち早く動き出していることが伺えます。
静岡県内の医師数と今後の確保対策
次に静岡県内の医師数の推移を見ていきたいと思います。
平成24年12月における静岡県の医師数は7,241人であり、人口10万対医師数は186.5人となっています。全国平均が226.5人であるため、かなり平均値を下回っており、全国で41位となっています。
図10 静岡県内に勤務する医師数の推移
静岡県の資料によると、静岡県は「医療従事者や医療物質といった医療資源が都市部に集中していることが課題」となっています。医師数の地域別状況を見てみても、都市部とされる圏域では平成22年から24年までの医師数は増加傾向であるのに対し、過疎部である圏域は減少傾向にあることからもこの課題の深刻さが読み取れます。
特に、救急医療を担っている公的病院でも医師数が足りず、医師不足により高度な医療を受けることができなくなる可能性も示唆されます。
静岡県は医師不足解消のために下記のよう具体的な対策をとっています。(一部抜粋)
- 医師数の状況を把握し、各圏域の現状を公表することで医師確保対策を効果的に推進する
- 県内外から多くの医師、医学生を集めることで多くの医師を確保し、地域における偏在解消へ取り組む
- 県内大学および県外大学と締結し、医師確保及び養成へ積極的に取り組んでいく
- 出産、育児などで現場を離れざるを得ない女性医師を対象とし、再就業支援を実施し、離職防止を図る
このほか、医学部を有する全国の大学と連携し、静岡県内で医師として働く医師の定着を図るなど、医師の確保及び偏在解消に向けて、積極的に取り組んでいます。
独自システムで医療偏在に立ち向かっている静岡県
富士市から望む富士山
広大な土地を持ち、海と山の豊かな自然にあふれる静岡県ですが、その土地柄のためか、医療の偏在が課題となっています。同じ保健医療圏内でも、山側と海側、中心部とその周辺地域など、医療機関数、病床数、医師数など、いわゆる医療機能そのものが、偏っているようです。
しかし、静岡県の医療機関の特徴として、公的病院が多いというものがあります。県立、市立の他、日赤・済生会・厚生連など、公立の医療機関による病床数が、県全体では43%です。特に多いのが志太榛原、西部の2圏域で、それぞれ50%以上です。現在でも、救急救命センターや地域医療支援病院などが整備されていない圏域もありますが、独自のシステムでその現状に対応しようとしています。
さらに、国が推進する「在宅医療」への体制を、いち早く整えようとしていることから、今後の展開も気になるところです。
日本の象徴・富士山と有数の温泉地を擁する静岡県。全国に先駆けて第7次保健医療計画を策定し、高齢化への対応にもいち早く取り組んでおり、男女ともに全国トップクラスの健康寿命県でもあります。平成24年12月末に県内で就業していた看護職…。 2018/8/7 |
参考資料
静岡県公式ホームページ
http://www.pref.shizuoka.jp/
総務省統計局 人口推計(平成25年10月1日現在)結果の要約
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2014np/
厚生労働省 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf
静岡県保健医療計画
https://www.pref.shizuoka.jp/kousei/ko-410/documents/7syou.pdf
厚生労働省 医療計画
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/
国立社会保障・人口問題研究所 地域医療計画
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/kikan/..%5C..%5Cdata%5Cpdf%5C00330406.pdf
千葉県地域保健医療計画
https://www.pref.chiba.lg.jp/kenfuku/keikaku/kenkoufukushi/hokeniryou.html
データ参照元
統計局 平成26年医療施設(静態・動態)調査 下巻 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001141081
同上 平成25年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126654
同上 平成23年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102729
同上 平成20年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675
同上 平成17年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675
同上 平成14年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048369
同上 平成11年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048408
同上 平成8年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048434
平成12年 医師・歯科医師・薬剤師調査
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/00/tou05.html
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/00/tou06.html
平成16年 医師・歯科医師・薬剤師調査
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou12.html
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou13.html
平成20年
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/toukei02.pdf P1
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/toukei02.pdf
平成24年
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/toukeihyo.pdf P19
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/toukeihyo.pdf P21
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