第4回:保健医療計画からみる高知県の地域医療
■ 記事作成日 2016/6/21 ■ 最終更新日 2017/12/6
高知県の保健医療計画
元看護師のライター紅花子です。
「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、前回は、埼玉県についてお伝えしました。2つ目の都道府県として今回は、高知県を取り上げてみました。
高知県における医療人口の現状は?
高知県は、四国の南側のおよそ半分を占める広大な土地を持つエリアであり、豊かな自然と太平洋からの黒潮の恩恵を受ける土地です。温暖な気候や、台風の脅威などの自然が作り出す、独特の風土を持つ土地でもあります。
坂本龍馬や板垣退助など、多くの偉人を輩出した土地でもあります。
しかしその一方で、平成22年の国勢調査によると、県面積は全国で18位ですが、総人口は全国45位、人口密度は107.6人/平方キロメートルと、とても低い数値となっています(例として、平成26年1月現在の東京都の人口密度は、およそ6,000人/平方キロメートル程度です)。
高知県の人口の推移をみてみると、人口増加率はマイナス傾向が続いています。高知県の人口増加率だけをみると、昭和30年頃をピークとして減少傾向が続き、昭和45年から昭和60年にかけて一旦回復したものの、それ以降は再びマイナス傾向に転じています。国立社会保障・人口問題研究所が公表している『日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計 以下 推計人口)』によると、この傾向はこの先も続きます。
下のグラフは、平成22年までは実数値、それ以降は推計人口で表していますが、平成32年以降は、マイナス5以上の増加率となると推測されています。
この背景には、人口流出による社会減のほか、平成2年には全国で初めて「都道府県単位で死亡数が出生数を上回る自然減」となるなど、厳しい状況が続いているようです。
高知県の高齢化率は、平成22年に28%を超え、当時の全国平均(およそ23%)を大きく上回っています。また、内閣府が公表している「平成26年版高齢社会白書(概要版)」によると、平成25年の時点で、すでに高齢化率が30%を超えており、これは全国で3番目に高い数値となります。
いずれにしても高知県は、少子高齢化が急速に進む地域であると言えそうです。
上のグラフは、高知県の人口の推移を、3つの区分で分けたものです。
こちらも、平成27年以降は前出の推計値を元にしています。65歳以上の区分はそれほど大きな変化は見られませんが、労働者人口、15歳未満ともに、年を追うごとに縮小されているのが分かります。
一方、高知県の「保健医療計画」によると、男女ともに平均寿命は延びています。男性は全国平均よりも1歳程度低くなりますが、女性は全国平均よりも0.2歳ほど高くなっています。こういった背景もあってか、現在公開されている、高知県の「第6期高知県保健医療計画」では、「日本一の健康長寿県構想」というスローガンを掲げています。
高知県の人口動態はどうなっている?
では次に、高知県の人口動態に関するデータをいくつか見てみましょう。
まずは死亡率に注目します。高知県の年齢調整死亡率は、女性は全国平均並みとなっている一方、男性は全国平均を上回っています。平成22年の時点で、人口10万人あたり、女性は274.3(女性の全国平均は274.9)、男性は575.6(男性の全国平均は544.3)でした。
死亡原因は、全国平均と同様、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患の順であるようです。
図3 高知県の人口10万人あたりの主な死因別の年齢調整死亡率
高知県の医療状況はどうなっているのか
では次に、高知県の医療状況についてみていきます。
厚生労働省が行っている、平成26年の患者調査のデータより、入院/外来の受療率のランキングをみると、高知県の受療率は、次のようになっています。
- 入院受療率(全国平均=1,038人):全国1位(2,215人)
- 外来受療率(全国平均=5,696人):佐賀県、和歌山県、同じ四国の愛媛県、香川県などに続いて、全国13位(6,036人)
入院、外来ともに、全国平均を上回っています。外来受療率は、全国の1.15倍程度なのですが、入院受療率は、全国平均の2倍以上です。
外来受療率が全国平均を上回る都道府県は、47都道府県のうち、29あります。しかし高知県は、2位の鹿児島県(1,885)を大きく引き離し、全国で唯一の2,000を超える都道府県となっています。
ここには、高齢化が加速しているという状況だけではなく、それを受け入れる側の病院数(病床数)にも、特徴があるようです。
高知県は、四国の南側に位置しており、東西に長く、県の面積のうち84%を山間部が占めています。太平洋に面した高知市が県庁所在地であり、人口は高知市およびその周辺に集中しています。愛媛県、徳島県と隣接していますが、その境界は山間部に囲まれており、高速道路/一般道路ともに未だ整備の途中であり、医療機関への通院、救急搬送に時間がかかる要因の1つでもあります。
高齢化が進み、通院や日常生活における公共交通機関の需要が高まる反面、過疎化による利用者の減少という現状もあり、バスなどの公共交通機関における路線の維持が厳しい状況が続いています。
高知県の保健医療圏はどうなっているか
高知県は、一次医療圏は各市町村、三次医療圏は高知県全域です。二次医療圏については、高知県全域を4の地域に分けています
高知県の中心地は、県庁所在地である高知市で、高知市を含む「中央保健医療圏」。人口がこの地域に集中しており、県全体の73%以上の人口(約55万人)がこのエリアに集中しています。このうち、高知市内の人口が県全体のおよそ45%(34万人)ですから、高知市内への一極集中が際立っています。
そのため、医療施設や医療従事者などの医療機能も「中央保健医療圏」に集中しており、高知県内の医療提供体制については、郡部と県中央部では大きな格差があるようです。
ここでもう一度、一次、二次、三次のそれぞれの医療圏に対する考え方をみてみましょう。
- 一次医療圏 : 都道府県民の健康管理や一般的な疾病への対応など、日常生活に密着した保健・医療サービスが行われる区域
- 二次医療圏 : 一体の区域として病院における入院に係る高度・特殊な医療を除いた一般的な入院医療や、治療およびリハビリテーションに至るまでの包括的な保健・医療サービスが行われる区域
- 三次医療圏 : 専門性の高い、高度・特殊な医療サービスが行われる区域
高知県の場合、例えば郡部の住民の方が、高知県内で高度・特殊な医療サービスを受けようとすると、高知市まで移動してくることになります。しかし、
- 高齢者のいる世帯が増えていること(総世帯数の14.0%)
- 高齢夫婦世帯(夫が65 歳以上、妻が60 歳以上の夫婦のみの世帯)が増えていること(総世帯数の12.1%)
- 65 歳以上の高齢世帯員のいる世帯のうち、高齢者ひとり暮らし世帯・高齢者夫婦世帯が占めている(58.7%)
という現実があります。
電車や自家用車で移動できる世帯はまだ良いのですが、今後さらに「移動が難しい世帯」が増えることも推測できます。
また、厚生労働省からの通知によると、次の条件を満たす医療圏は、設定の見直しを検討することとなっています。
- 人口規模が20万人未満
- 二次医療圏内の病院の療養病床及び一般病床の推計流入入院患者割合が20%未満
- 推計流出入院患者割合が20%以上となっている既設二次医療圏
この考え方に基づくと、高知県内では、安芸保健医療圏と高幡保健医療圏が、これに該当するそうです。しかし、日常的な生活圏や、住民の生活実態、近い将来発生が予測されている南海地震への対策などを考慮し、4つの医療圏に分ける考え方で進んでいるようです。
さらに、人口規模だけで考えると、人口が一極集中している高知市を含んだ保健医療圏の面積が、とても広大となってしまい、この保健医療圏内にある基幹病院へのアクセスが、2時間以上かかる地域が相当数発生してしまうことも、理由の1つになっています。
高知県では、
- 安芸保健医療圏 : 平成24年4月に地域の中核病院である県立病院の再編、平成26年4月の新病院全体の完成が予定されていることから、医師の確保や診療体制の強化を図ることで地域医療を充実させる
- 高幡保健医療圏 : 保健医療圏の核として救急医療・災害医療を含めた医療提供を行っている公立病院及び民間病院を中心とした病病連携・病診連携の推進や、地域で不足している医療の充足に向けて、行政、医療機関及び関係団体が緊密な連携を図り、保健医療圏内の医療提供体制の改善を図る
としています。
高知県内の病床数の現在とこれから
ではここで、高知県内の各保険医療圏における、既存病少数と基準病少数の差をみてみましょう。
図2 高知県内の二次保健医療圏別 既存病少数と基準病少数の差
高知県内では、人口減少が続いていることもあり、どの保健医療圏でも病床数は減少の傾向にあるようです。特に中央保健医療圏では、平成24年11月30日現在の11,789床から、「第6期高知県保健医療計画」の期限となる平成30年3月31日までの間に、およそ46%にあたる5,419床の減少を見込んでいます。
ではここで、これまでの約20年間で、病床数がどのように変化してきたのかを見てみましょう。
図3 高知県内の病床数の推移(平成8年から平成26年まで)
高知県内の病床数は、平成8年以降、ずっと減少傾向が続いています。
高知県の人口は、昭和30年頃をピークとして減少傾向が続き、昭和45年から昭和60年にかけて一旦回復したものの、それ以降は再びマイナス傾向が続いていることから、この図表の中では平成8年がピークに見えますが、実はそれ以前から、病床数の減少傾向は、続いていたようです。
高知県内の病床数は、2014年現在、全国で32位です。しかし、人口10万対病床数でみると全国平均のおよそ2倍、ランキングでは全国1位になっています。
これにはいろいろな理由があるとは思いますが、病床数の減少と人口の減少のペースにずれが生じて人口の方が先に減少したため、病床数の実数はそれほど多くはないにも関わらず、人口10万対病床数が多くみえていると推測できます。高知県では、特に中央保健医療圏での病床数の大幅な減少を図る方針のようです。
高知県内にはどのような機能を持つ医療機関があるのか
高知県内の特定機能を持つ医療機関は、やはり中央保健医療圏に集中しているようです。
例えば、救急救命センターの機能を持つ病院は、中央医療圏にしかありません。もちろん、他の保健医療圏にも救急告示病院はありますが、高度な救命処置が必要な場合は、中央医療圏の高知赤十字病院か、高知医療センターへの搬送が行われることになるのでしょう。
周産期医療についてみると、二次周産期医療に対応できる病院は安芸医療圏/幡多医療圏にもありますが、高幡医療圏にはありません。三次周産期医療に対応している中央医療圏でも、二次周産期医療に対応できる病院は、3か所(高知赤十字病院、国立病院機構高知病院、JA高知病院)のみとなっています。
高知県内 医師数の推移と今後の確保対策
次に、高知県内の医師数の推移を見てみましょう。
人口10万対医師数は、平成24年の時点で全国平均の226.5人(医療施設での従事者)に対し、高知県は284.0人、京都府、徳島県、東京都に次いで4位でした。しかし、医療機関で働く医師の実数値でみると、鳥取県、山梨県などに続いて全国ワースト6位です。
つまり、医師の実数値は少ないですが、元々の人口が少ないため、人口10万対の医師数が多くみえていると推測できます。人口10万対の病床数と、同じ理由ですね。
また、高知県内は医療機能が中央保健医療圏に集中していることもあり、高知県全体では、医師の実数は増加傾向にありますが、保健医療圏ごとの推移を見てみますと、中央医療圏のみで増加し、それ以外の3つの二次保健医療圏では大きく減少しています。
また、40歳未満の若手医師の定着率も伸び悩んでおり、医師数全体では増加傾向にあるのですが、平成22年までのおよそ12年間で、高知県内の若手医師は802名から551名まで減少しています(30%以上の減少)。
その理由としては、平成10年頃に若手だった医師が40歳を超えたことと、ある程度の経験を積んだ後に県外へ移ったことなどが考えられます。さらには、診療科による偏在や、女性医師の復職が難しい状況も続いているようです。
こうした現状を踏まえ、高知県では医師確保(特に若手医師の確保が急務)に向け、以下のような対策を掲げています。
- 中長期的な対策
- 高知大学医学生の卒業後の県内定着の促進
- 若手医師にとって魅力あるキャリア形成環境の整備
- 短期的な対策
- 医師の処遇改善による定着の促進
- 県外からの医師の招へい及び赴任医師に対する支援
- 県外からの医師の招へいに向けた情報発信及び勧誘活動
- 女性医師の復職支援
このほか、国に求める対策として、
- 若手医師の確保に向けた国立大学医学部の定員増
- これに併せた教員の確保及び施設の整備
- 特定診療科目の医師確保に向けた国の制度づくりや診療報酬の改定
- 無過失責任補償制度の拡充
などを挙げ、国に対する提言、要望の強化などを行っていく、となっています。
高知県では、これらの対策に対し、毎年評価を行い、その結果などを県のWebサイトで公表することとしています。
実際に、高知県のWebサイトからは、医師確保対策に対する計画の概要や、その評価などを確認することもできます。
いかがでしょうか。
これまで2回にわたり、「保健医療計画からみる高知県の姿」を垣間見てきました。高知県は、高齢化と過疎化が進み、人口10万対医師数は多く見えるものの、実際の医師の人数はそれほど多くは無く、さらに医師の偏在や若手医師の不足など、いくつもの課題を抱えた地域ではあります。
しかし、この現状に対し、高知県では医学生に対する医師養成奨学貸付金や、若手医師確保に向けた県外医師の赴任勧誘及び招聘定着支援事業、さらには医師招聘・派遣斡旋事業などに力を入れているようです。
今後の高知県がどう変わっていくのか、その経過をみていきたいと思います。
高知県は、人口10万対の病床数、医療従事者数ともに多く、全国でもTOP5に入ります。厚生労働省による「衛生行政報告例」によると、高知県内で就業している看護職員数…。 2017/7/26 |
参考資料
厚生労働省 医療計画
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/
国立社会保障・人口問題研究所 地域医療計画
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/kikan/..%5C..%5Cdata%5Cpdf%5C00330406.pdf
高知県地域保健医療計画
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/131301/dai6kikochikenhokeniryoukeikaku.html
厚生労働省 医療計画
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/
国立社会保障・人口問題研究所 地域医療計画
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/kikan/..%5C..%5Cdata%5Cpdf%5C00330406.pdf
高知県地域保健医療計画
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/131301/dai6kikochikenhokeniryoukeikaku.html
データ参照元
統計局
年齢(3区分),男女別人口及び年齢別割合-都道府県,市町村(昭和55年~平成22年)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001007702
同上
人口推計 長期時系列データ 長期時系列データ(平成12年~22年)
第5表 都道府県別人口(各都市10月1日現在)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001039703&cycode=0
同上
平成26年患者調査 受療率(人口10万対),入院-外来・施設の種類 × 性・年齢階級 × 都道府県別
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02020101.do?method=extendTclass&refTarget=toukeihyo&listFormat=hierarchy&statCode=00450022&tstatCode=000001031167&tclass1=000001077497&tclass2=000001077499&tclass3=&tclass4=&tclass5=
国立社会保障・人口問題研究所
『日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)』男女・年齢(5歳)階級別の推計結果
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/t-page.asp
統計局 平成26年医療施設(静態・動態)調査 下巻 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001141081
同上 平成25年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126654
同上 平成23年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102729
同上 平成20年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675
同上 平成17年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675
同上 平成14年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048369
同上 平成11年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048408
同上 平成8年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048434
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