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第16回:保健医療計画からみる福島県の姿

福島県の医師転職事情と未来~保健医療計画と地域医療から読む

 

■ 記事作成日 2016/12/21 ■ 最終更新日 2017/12/6

 

福島県の保健医療計画

 

「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、前回は広島県について取り上げました。今回は、初の東北地方となる福島県について取り上げます。

 

福島県の現状を分析

 

福島県は東北の1番南側に位置する県で、国土面積は13,783.74㎢、全国で3番目に広い面積を有する県となっています。

 

南から北へつらなる阿武隈高地と奥羽山脈によって、中通り・会津・浜通りの3つの地方に分けられていますが、この3つの地方それぞれで気候が異なるのが特徴です。

 

図1 福島県は3つの地域に分かれる

 

その特徴的な環境を生かした農業、漁業が盛んにおこなわれている地域でもあります。特に、さくらんぼ、桃、洋ナシなど果物の生産が盛んで、桃の収穫量は2016年度全国1位となっています。

 

平成27年度の福島県内の人口は1,914,000人で、全国で見ると第21位。平成7年より福島県の人口はゆるやかに減少傾向でしたが、平成23年頃(2011年)より人口減少が大幅に減少し、1年間で約45,000人もの人口が減少しています。

 

その背景としては、同年に起こった東日本大震災、これに続く福島第一原子力発電所事故、これらの被害による他地域への住民の流出が考えられ、甚大な被害を被った太平洋沿岸の市町村での急激な人口減少、県外への非難による転出者の増加という現実があります。

 

図2 福島県の高齢化率と人口増加率の推移

 

震災から4年経った平成27年度も、人口減少率の高い地域として、福島県の市町村が高い順位にあることから、人口の減少は震災以降も引き続いているということが分かります。

 

また、年齢別の人口割合を見てみると、老年人口は平成26年度で27.7%と上昇傾向である一方、生産年齢人口、年少人口はそれぞれ減少傾向となっています。

 

特に、平成23年以降の生産年齢人口の減少幅はそれ以前の年と比べて大きく、震災の影響が人口の増減に大きな影響を及ぼしたことが読み取れます。

 

平成32年頃には、一時的に人口増加率が若干上昇するとみられていますが、この推計値は平成25年3月に公表されているデータを元にしていますので、この時点では一時的に避難住民が戻ってくると考えられているのかもしれません。

 

福島県の人口動態は

 

それでは、福島県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。

 

平成27年の出生率は人口千対では7.5となり、全国平均の8.0を大きく下回る結果となりましたが、合計特殊出生率は1.58であり、その年の平均値である1.45を超える結果になりました。

 

それでも、福島県全体では人口減少、高齢化率の上昇などが続いていることには変わりありません。

 

図3 福島県の人口の推移

 

続いて死亡に関するデータを見ていきたいと思います。

 

平成27年の死亡率は人口千対で見ると12.7となり、全国平均である10.3を大幅に上回る結果となっています。死因は悪性新生物が最も多く、続いて心疾患、脳血管疾患となります。

 

統計開始後より例年肺炎が第4位となっていましたが、平成23年度は東日本大震災等の影響により、不慮の事故による死亡者が平成23年では例年の4倍近くとなっています(※)。

 

※福島県保健医療計画 第六次
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/1113.pdf

 

図4 福島県 主な死因の死亡者数(平成23年)

 

福島県の医療状況はどうなっているのか

 

では、福島県の受療率を見ていきます。

 

平成26年度の入院受療率では、全国平均が人口10万対1,038に対して福島県は1,065となり、入院率は全国平均をやや上回っています。また、外来受療率は全国平均が人口10万対5,696に対して5,449であり、全国平均をやや下回る結果となりました(※)。

 

※厚生労働省 平成26年患者調査の状況 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf

 

図5 外来および入院受療率の全国比較

 

年齢別でみると、平成24年度では70歳以上と0~4歳の外来受療率が高く、人口10万対では9,000を超える結果となりました。特に0~4歳の受療率が最も高いようです。

 

疾病別分類で見ると、外来では消化器系疾患、循環器系疾患、呼吸器系疾患という順位に、入院では精神および行動の障害が最も高く、続いて循環器系疾患、新生物という順になっています。

 

尚、平成20年度におこなわれた同様の調査では、外来受療率の第3位が筋・骨格系疾患でしたが、順位が変動した背景には、東日本大震災やそれに絡む要因があると推測できます。

 

福島県の保健医療圏はどうなっているか

 

福島県の医療圏は、一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれており、二次医療圏は7の医療圏に分類されています。

 

前述の通り、福島県は浜通り、中通り、会津と3つに大きく分かれますが、二次医療圏もこの区分けに則った形となっているようです。

 

図6 福島県内の二次医療圏

 

福島県の患者流入流出状況を見てみると、平成20年の時点では、いわき医療圏では96.5%の自足率であるものの、南会津医療圏の自足率は28.6%となっており、入院患者の約50%が会津医療圏に流出しているという状況となっています。

 

南会津医療圏には医療施設が1か所しかなく、医師数、病院数ともに全国で最少となっていることから、患者が流出せざるを得ない状況にあるようです。こういった背景が、基準病床数の設定にも影響しているようです(後述)。
第六次保健医療計画では、主に平成20年度のデータが使用されています。

 

しかし、平成23年の東日本大震災の被災による建物の倒壊、原子力発電所の事故を受け、相双医療圏の一部は警戒区域、避難指定区域に指定されたことから、医療施設の閉院、医療者の非難により医療圏として成り立たなくなっていること、第三次医療圏の確保が困難となっていることが喫緊の課題となっているようです。

 

そのため、平成24年度より相双医療圏の相馬エリアと県北医療圏を1つの医療圏とする新たな取り組みが始まっています。

 

また、今まで避難指定区域であった一部の町では、避難指定が解除されて帰還が始まっていることから、医療圏の再編成が現在および今後の大きな課題となっています。

 


福島県の病床数とこれから

会津磐梯山

 

福島県内の既存病床数と基準病床数について見ていきます。

 

平成24年のデータによると、南会津医療圏を除く全ての医療圏で、既存病床数が基準病床数を上回っており、福島県全体では、既存病床数が基準病床数をおよそ5,000床、上回っているという結果になりました。

 

南会津医療圏には前述の通り、「病院」が1つしかありません。そのため、既存病床数をおよそ1.5倍にするという対策が取られているようです。

 

図7 福島県内の二次医療圏における既存病床数と基準病床数の比較

 

また、精神病床・結核病床も、基準病床よりも既存病床数が多くなっています。

 

既存病床数が上回っているものの、震災等の影響により機能していない病床や、避難住民の帰還により今後再開していくことを検討している病床もあることから、震災復興の状況を加味した病床の再編成が求められています。
福島県全体の病床数の推移をみると、平成8年(1996年)ころをピークに、徐々に減少を続けています。しかし平成20年(2008年)と23年(2011年)を比較すると、この3年間で2,500床程度が減少した計算となります。

 


図8 福島県 病床数の推移

 

3年ごとの推移でみると「3年間で2,500床」ですが、実際には平成23年(2011年)の1年間で大きく減少したと推測できますね。

 

福島県内にはどのような機能を持つ医療機関があるか

 

福島県では、県北医療圏に属する福島県立医科大学附属病院が三次医療圏の中心となって医療を展開しています。

 

福島県は二次救急医療機関が人口10万対の全国平均2.6を上回る4.1となっており二次救急医療機関が多いという特徴があるように見えます。

 

図9 福島県内 特定の医療機能を有する病院数

 

しかしここにも、震災等の影響が色濃く残っており、全体的には医療機関数や医療機能が維持されているにも関わらず、人口が一気に減少したため、人口10万対の数値でみると、全国平均を上回っているように見える、という一面もあるようです。

 

また、救急医療体制に注目すると、救命期後、特に心停止後1か月後の社会復帰率が全国平均より下回っているという現状があります。

 

これに対して福島県では、救命期後の医療体制の配備や継続した医療を今後の目標に挙げています。

 

さらに小児医療、周産期医療の体制が、全国平均を下回っていることも課題となっており、特に県全体のおよそ1/4の広さを占める会津医療圏では、小児救急医療を受けられる病院がないということが、住民にとっての大きな問題となっています。

 

福島県は前述の通り、浜通り、中通り、会津の3つの地域に大きく分かれますが、会津地域は会津医療圏と南会津医療圏に分かれています。

 

医療圏ごとの平均在院日数と在宅死亡の割合をみると、特に南会津医療圏では平均在院日数が短く、在宅死亡率が高いことが分かります。

 

図10 各二次医療圏における平均在院日数と在宅死亡数の比較

 

南会津医療圏が抱える課題は、これだけではありません。医療圏全体での病床自足率が非常に低いこと、高齢化が進み需要が高いにも関わらず療養病床が無いことなども、医療体制の整備の上では大きな課題となっているようです。

 

図11 各二次医療圏における病床自足率の比較

 

さらに、東日本大震災やその後の福島第一原子力発電所事故などの影響が色濃く残る福島県では今後、全国のモデル地域となるような災害時医療体制を整えるべく、災害急性期から中長期にわたる医療体制を整えていくことを目標に挙げています。

 

福島県内の医師数と今後の確保対策

鶴ヶ城(会津若松市)

 

平成24年現在の医師数は3,506人、人口10万人あたり178.7人となっています。全国平均では人口10万あたり220人を超えているため、福島県内の医師数は大きく下回っていることになります。

 

福島県内の各医療圏で比較すると、県内の医療の中心を担っている、福島県立医科大学附属病院がある県北医療圏では、医師数が県全体の平均を大きく上回っているものの、他の医療圏では平均数を下回る結果となっています。

 

また、近年では病院に従事する医師よりも診療所に従事する医師数が増加傾向となっており、病院の医師不足が問題となってきているようです。

 

医師不足の背景には、東日本大震災に関連する事柄が関係しており、被災後の転居などによる医師の減少も推測されますが、特に原子力災害により業務を停止せざるを得ない相双医療圏における、医師数の減少が顕著なものとなっています。

 

図12 福島県 医師数の推移

 

現在、避難指示が解除されて徐々に住民が帰還していることを受け、県内外からの支援により医療機能は回復しつつあるものの、医師の定着を図り、流出を防ぐことが課題となっています。

 

しかし、被災後の医師の減少数が意外と抑えられているというのは、福島県による各施策だけではなく、「本当に困っている人を助けたい」という、医師個人の思想等によるものが、影響しているのかもしれません。

 

福島県では、深刻な医師不足及び東日本大震災の影響も踏まえ、平成23年に医師確保対策を総合的に担う福島県地域医療支援センターを設置し、医師の確保対策に乗り出しています。

 

その内容としては具体的に、医師不足の対策と確保の支援、女性も働き続けられるようなキャリア形成支援、県内の医療情報の発信と相談などを挙げています。特に、医師不足病院の医師確保支援としては

 

  • 医療機関や市町村からの要請に応じた福島県立医科大学からの医師派遣調整
  • ドクターバンクによる求職医師の就業先のあっせん
  • 研究資金貸与制度による特定診療科医師(産科・小児科・麻酔科)の招へい

 

等の対策が取られています。

 

また、福島県立医科大学では医学部の定員の増加、奨学金制度の導入を行い、学生の定着を図っています。福島県立医科大学は本県唯一の医育機関であり、卒業後は福島県内での活躍が大きく期待されているという状況でもあります。

 

臨床研修医マッチングでは、福島県立医科大学医学部 6 年生県内臨床研修病院にマッチングした割合は、平成 23 年度は 40%と大きく落ち込んでしまいましたが、平成 24年度は過去最高の 60%となりました。

 

今後は、多くの修学資金修学生が福島県立医科大学医学部を卒業することもあり、福島県立医科大学医学部卒業生に対する、県内への定着を図っていきたい、としています。

 

未曾有の大災害ともいわれる東日本大震災を受け、地域を挙げて復興の道を邁進している福島県。

 

今後、医療圏の立て直しや災害医療の強化といった、医療全体の見直しが図られることになりますが、災害医療を学びたい、一から医療を立て直していきたいという医師からの、注目が集まる県となるでしょう。

 

 

参考資料

 

福島県保健医療計画 第六次
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/1113.pdf

 

平成27年国勢調査
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka/pdf/gaiyou.pdf

 

福島県企画調整部統計課 福島県の推計人口
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/107347.pdf

 

厚生労働省 人口動態統計
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei15/dl/07_h3-2.pdf

 

厚生労働省 平成26年患者調査の状況 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf

 

厚生労働省 患者調査 平成24年度福島県分の結果概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/12fukushima/dl/02.pdf

 

福島県地域医療再生計画 (会津・南会津医療圏)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000094858.pdf

 

福島県相双地域保健医療福祉推進計画
https://www.pref.fukushima.lg.jp/download/1/sousou.hokenfukushi_healthcare-and-welfare-promotion-plan.pdf

 

データ参照元

 

統計局 平成26年医療施設(静態・動態)調査 下巻 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001141081

 

同上 平成25年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126654

 

同上 平成23年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102729

 

同上 平成20年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675

 

同上 平成17年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675

 

同上 平成14年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048369

 

同上 平成11年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048408

 

同上 平成8年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048434

 

平成12年 医師・歯科医師・薬剤師調査
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/00/tou05.html

 

人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/00/tou06.html

 

平成16年 医師・歯科医師・薬剤師調査
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou12.html
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou13.html

 

平成20年
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/toukei02.pdf P1
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/08/dl/toukei02.pdf P3

 

平成24年
医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/toukeihyo.pdf P19
人口10万対医師数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/dl/toukeihyo.pdf P21

 

この記事をかいた人


紅 花子

正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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