第43回:保健医療計画からみる島根県の姿
■ 記事作成日 2018/2/1 ■ 最終更新日 2018/2/1
保健医療計画からみる島根県の医師転職事情
元看護師のライター紅花子です。
「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、今回は、中国地方北部に位置し、日本海側に面した地形をもつ島根県の医療情勢を、平成25年4月から施行している島根県保健医療計画を基に見ていきます。
島根県の現状を分析
島根県は中国地方の北部に位置し、中国山地を背にして、北側は日本海に面しています。
東西の距離は約230km、総面積6,707.96㎢。東西に細長い県土であり、全国で19番目の広さです。島根半島の北方40〜80kmの海上には、隠岐諸島があります。
県土の約8割が林野で占められており、その地形上、県内には山や川、湖などが多く、県東北部に位置する宍道湖は日本で7番目に大きな湖とされています。
島根県はまた、日本最古の歴史書と言われる『古事記』の舞台となった場所が数多く存在し、古い歴史を持つ県として知られています。
自然に恵まれた島根県にはさまざまな特産物があり、中でも宍道湖で採れるヤマトシジミは全国1位の水揚げ量を誇ります。
ブドウやメロン、米といった農産物も多く、他にも日本三大和菓子処のひとつである松江の和菓子や出雲そばなどの郷土料理のほか、そろばん、和紙などの工芸品、石見神楽や安来節といった伝統芸能などがよく知られています。
島根県の平成27年の総人口は694,000人、全国で2番目に人口の少ない地域で、昭和60年をピークに年々減少傾向が続いています。
図1 島根県 人口の推移
年齢別に人口を見てみると、平成22年時点で年少人口は12.9%、生産年齢人口は58.0%といずれも減少傾向であるのに対して、老年人口は29.1%で全国2位となっています。
県内の高齢化率は今後もどんどん加速していくと予測されています。平成26年の高齢化率は31.8%と全国で3番目でしたが、平成52年には39.1%となると予測されています。
図2 島根県の高齢化率と人口増加率の推移
島根県の人口動態は
引き続き、島根県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。
平成27年の出生率は人口1000人当たり8.1となり、全国平均の8.0とほぼ変わらぬ結果となる一方で、合計特殊出生率は1.80と平均値の1.46を大きく上回り、全国で2番目に多くなっています。
子供を産み育てられる年齢層の女性の数は少ないものの、一人あたりの出産数が全国平均をはるかに上回ることで、年少人口の減少を何とか全国並みに食い止めている状況と言えそうです。
続いて死亡に関するデータを見ていきます。
平成26年の死亡者数は9,604人で、死亡率は人口1000人当たりで見ると13.9となります。
全国平均である10.3を大きく上回っており、全国で2番目に死亡率の高い県という結果となりました。
これは、高齢者の割合が全国と比較してかなり多いことが関係しているのかもしれません。
主要死因の年齢調整死亡率を県全体でみると、男性が全体を通して全国平均より高く、女性は自死を除いて全国平均より低いという特徴があります。この中で気になるのは、男性の自死による死亡率の高さです。
図3 主要死因別の年齢調整死亡率 全国との比較
がんによる死亡率は全国平均よりも6.6ポイント高くなりますが、自殺についてはおよそ12ポイント、1.4倍の差がみられています。
女性も自死による死亡率は全国よりもやや高いのですが、その差は0.4ポイントです。これは、島根県の医療状況との関連があるのかもしれません。
島根県の医療状況はどうなっているのか
次に島根県の受療率を見ていきます。
図4 入院および外来受療率の全国比較
平成26年度の受療率をみると、入院では全国平均が人口10万人当たり1,038なのに対して島根県は1,397と平均を上回り、全国で13番目に入院受療率の高い地域となっています。
また、外来受療率も全国平均が人口10万人当たり5,696に対して6,013と平均を上回っており、外来受療率の高さでは全国で16番目になっています。
受療者の内訳を見てみると75歳以上が圧倒的に多く、加齢とともに受療率も上昇する傾向は全国と変わりません。
ところが54歳以下の受療率は全国平均よりもやや高く、55歳以上が全国平均よりも低くなる傾向にあるところが、一つの特徴かもしれません。
さらに疾病分類別にみると、入院の受療率においては、「精神及び行動の傷害」が262と最も高く、 次いで「循環器系の疾患」が249となっています。
また、外来の受療率においては、「循環器系の疾患」が996と最も高く、次いで「消化器系の疾患」が959となっています。
島根県の保健医療圏はどうなっているか
島根県の保健医療圏は、他の都道府県同様に一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれています。
図5 島根県の二次医療圏と病床数
島根県の二次医療圏は松江医療圏、雲南医療圏、出雲医療圏、大田医療圏、浜田医療圏、益田医療圏、隠岐医療圏の7医療圏で成り立っています。
医療圏別にそれぞれの入院受療状況を見てみると、医療の施設の集積があり医療設備の整っている松江医療圏、出雲医療圏は自医療圏で90%以上医療を完結できているものの、他医療圏内での医療完結率は低くなっています。
特に大田医療圏の医療完結率は54.5%と県内で最も低く、出雲医療圏へ21.7%も医療を依存している状況です。
大田医療圏は、島根県の中で最も高齢化率が高く医療需要度が高い地域であると考えられ、その数に比べて施設数が十分確保されてはいないようです。
また、離島である隠岐医療圏も59.3%と医療自給率が低く、31.9%を松江医療圏に依存しているという状況です。
しかし県全域を平成8年ころと比較すると、益田医療圏を除く6医療圏で医療自給率は上昇しています。
さらに平成32年度には大田医療圏の中核病院として、新太田市立病院がオープンする予定で、医療偏在の解消に向けて着実に歩を進めています。
今後高齢化が急速に進むことによって、ますます医療需要度は高まってくることが考えられるため、この医療自給率の変化には注目していきたいものです。
高齢化率の高い県ではあるものの、それに対応すべく医療自給率は上昇傾向にあることから、県内では医療を展開するための環境整備が着々と進んでいると推測されます。
次は、医療の状況について詳しく見ていきたいと思います。
島根県の病床数とこれから
出雲大社
島根県の各保健医療圏における既存病床数と基準病床数について見ていきましょう。
県内では平成25年現在、浜田医療圏を除くすべての医療圏で、療養病床及び一般病床の既存病床数が基準病床数を上回っています。
最も差が大きい出雲医療圏では250床以上の減床が求められます。
図6 島根県 既存病床数と基準病床数
県全域で医療施設ごとに見ると、一般病床及び療養病床で558床、精神病床で7床、結核病床で17床、既存病床数が基準病床数よりも上回っている状況です。
図7 島根県 病床数の推移
全国平均よりも病床数が多い島根県では、病床数の多い医療圏は病床数の減少あるいは施設の改変が求められる可能性もあります。
しかし病床利用率を見てみると、松江医療県が84.1%、浜田医療圏は85.8%と高く、県全体で81.5%、他医療圏も大田医療圏の65.3%を除いた圏域で、全国平均の81.9%をわずかに下回る程度の水準となっています。
病床数が基準病床数を上回っている圏域であっても相応のニーズがあり、うまく病床を稼働させているといえるでしょう。
また現在、精神病床は7床ほど上回っていますが、精神疾患の患者数が増加している現状を踏まえ、今後は精神病床数の調整がなされるかもしれません。
島根県内にはどのような機能を持つ医療機関があるか
島根県では、救急指定病院及び第三次医療機関である島根県立中央病院が中心にとなって、県全域の高度で特殊な医療を担っています。
図8 特定の医療機能を有する病院数
島根県は東西に長い地形を持っていることから、県東部は松江赤十字病院、県西部は浜田医療センターと、それぞれに救急機能の中心となる病院を置き、県内の医療を担っています。
また、平成24年10月より島根大学医学部附属病院が全県を担う高度救急救命センターに指定され、さらなる三次救急体制の充実が図られました。
離島があり、中山間地帯もあるという特殊な事情から、島根県はドクターヘリを早期に導入。県立中央病院、松江赤十字病院、島根大学医学部附属病院の医師がヘリに同乗する体制をとるなどして、高度救急医療分野の充実を図ってきました。
これによって、救急医療と共に、へき地医療にも対応することができています。
しかし中山間地と離島を含む県内は、医療の提供能力についてばらつきが目立ちます。
前述したように、一般病床及び療養病床では医療自給率も向上しており、医療が機能しているものの、精神疾患や周産期医療、小児救急などでは依然として地域偏在が解消されていないのが現状です。
特に入院患者の18.5%を占める精神医療の提供は、重要な課題となっています。県内には医療観察法に基づく指定入院医療機関として島根県立こころの医療センターがあるほか、精神病床を有する病院が各医療圏に1施設以上は整備されています。
通院医療機関も各医療圏に2施設以上ありますが、中山間地域や西部、離島には精神科医療施設が少なく、アクセスに地域格差がある状況です。
島根県は全国で6番目に自死が多い県でもあり、この現状を加味しても、今後精神分野のさらなる充実が必要と考えられます。
現状としては、新しく精神医療の病院を作るよりも、一般病床と連携して精神医の受診システムを構築することが施策として盛り込まれており、今後島根県では精神疾患分野を診ることのできる医師の需要が、高まると予測されます。
死因第1位のがんについては、県がん診療連携拠点病院として島根大学医学部附属病院、地域がん診療連携拠点病院として松江赤十字病院、松江市立病院、島根県立中央病院、国立病院機構浜田医療センターの4施設が指定されています。
県内には、がん診療を支援する病院が数多く設置されており、がん医療対策が各医療圏においてできるようになっています。
しかし、がん診療における医療機関を充実させている一方で、診療に従事できる専門医が少ないことが課題となっており、今後はがん診療の専門医の確保と養成が課題となっています。
島根県内の医師数と今後の確保対策
島根県の医師数を、人口10万人当たりで全国の医師数と比較すると、全国の230.4人に対して島根県は265人と全国平均を上回っているように見えます。
図9 島根県 医師数の推移
これは以前、四国地方のある県でも記述していますが、医師の実数と県全体の人口での推計だと、県全体の人口が少ないほど、人口10万人当たりの医師数が多く見えてしまうのです。
しかし実際には、隠岐圏(161人)、雲南圏(118人)、大田圏(176人)、浜田圏(229 人)及び益田圏(219人)など、医療資源が集積されていない医療圏での医師数は、全国平均以下となっているのが現状です。
さらに、地域医療拠点病院などの中核的な病院でさえも医師不足に悩まされており、地域偏在が顕著となっています。
また県全体の医師のうち、およそ10%が70歳を超えており、後継者不足も島根県全体の課題として挙がっています。
これを受けて島根県では
- 現役の医師の確保
- 地域医療を担う医師の養成
- 地域で勤務する医師の支援
の3つの視点から、医師確保対策に乗り出しています。
特に地域医療を担う人材に焦点を当て、UターンやIターンによる他県からの就職希望者の支援を行っています。
具体的には、へき地や離島に勤務する医師が、学会や研修あるいは産休などのために休暇を取りやすくする代診医師派遣制度をはじめとする業務負担の軽減、労働環境の是正など、地域で勤務しやすい環境の整備に力を入れています。
また、若い医師が少ないことを受けて、若手医師の研修支援体制の充実や、仕事と生活を両立しやすい環境を整えていることも特徴です。
まとめ
松江の花火大会
地域医療、へき地医療の人材を必要としている島根県。
これらの地域での就職希望者は、かなり優遇された条件で働き続けられる可能性が高いと言えます。
地域医療、へき地医療に従事していても、三次医療機関との連携がしっかりと取れているため、学習環境や医療の環境も整っており、働きやすいかもしれません。
また、精神分野やがん分野に精通している医師は特にニーズが高く、医療施設が集積されて医師数が平均よりも多い地域でも、好条件で働ける可能性があります。
地域医療やへき地医療への転身を考えている方、精神分野やがん分野に精通している医師にとって、島根県は有力な選択肢の一つとなるのではないでしょうか。
参考資料
島根県ホームページ 島根県の場所
http://www.pref.shimane.lg.jp/admin/seisaku/koho/profile/site.html
島根県ホームページ 島根のデータ
http://www.pref.shimane.lg.jp/admin/seisaku/koho/kodomo/data.html
島根県観光ナビ
http://www.kankou-shimane.com/shinwa/index.html
島根県ホームページ 島根らしさって何?
http://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kochokoho/photo/146/07a.html
総務省統計局 平成27年国勢調査
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka/pdf/gaiyou.pdf
第1節 高齢化の状況 内閣府
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_1.html
平成 27 年 人口動態統計月報年計(概数)の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/gaikyou27.pdf
厚生労働省 平成26年患者調査の状況 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf
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