第31回:保健医療計画からみる石川県の姿
■ 記事作成日 2017/9/24 ■ 最終更新日 2017/12/5
保健医療計画からみる石川県の医師転職事情
元看護師のライター紅花子です。
「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、今回は北陸新幹線の開通などにより、北陸地方でいま最も勢いがある県と言っても過言ではない石川県の医療情勢を、石川県保健医療計画を基に見ていきます。
石川県の現状を分析
石川県は、北陸地方の中央部に位置し、日本海に向かって突き出した地形となっています。
東西約100.9キロメートル、南北に約198.4キロメートルで、総面積4,186平方キロメートル。
全国で35番目の土地の広さとなります。
能登半島や白山国立公園、加賀平野といった自然の見どころだけでなく、県都金沢は日本有数の城下町であり、今もなお歴史の面影を深く残す街です。
交通網も発達しており、平成27年3月には北陸新幹線が開通。
首都圏からの交通アクセスも良く、観光地としても人気が上昇しています。
さらに平成27年の国勢調査では、就業人口構成比が日本一という結果も出ており、石川県の産業は今後、発展が望めるといえるでしょう。
日本海が目眼前に広がる石川県は水産業も盛んで、ズワイガニを始め、さより、スルメイカ、ブリなど、新鮮な魚が四季を通して水揚げされます。
また、加賀百万石の米どころとして知られてきただけに、お米を使った「柿の葉寿司」や「笹の葉寿司」「ほう葉飯」といった、豊かな食文化が今もなお継承されています。
そんな活気がある石川県ですが、平成29年4月現在の総人口は1,148 ,863人、徐々に減少傾向となっています。
さらに年齢別に人口を見てみると、平成27年の時点で年少人口は13.0%、生産年齢人口は59.1%、老年人口は27.9%でした。
年少人口の割合は、国勢調査開始以来最低となり、生産人口も年々減少している一方で、老年人口は年々増加傾向にあるという、他の都道府県と同様の傾向にあります。
活気があるようにみえる石川県でも、やはり高齢化が進んでいるということが分かります。
図1 石川県 人口の推移
石川県の人口動態は
次に石川県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。
平成27年の出生率は人口1,000人当たり7.9となり、全国平均の8.0をわずかに下回っています。
また、合計特殊出生率は1.54であり、その年の平均値である1.45を大きく上回っています。
続いて死亡に関するデータを見ていきます。
平成27年の死亡者数は12,280人で、人口1,000人当たりで見ると10.7。全国平均の10.3をわずかに上回る結果となっています。
高齢化に伴い死亡率は年々上昇しているのに総人口数の減少率が緩やかなのは、この出生率と死亡率がほぼ全国平均に沿って推移していることが関係しているのかもしれません。
また、死因は悪性新生物が最も多く、その死亡率は全国平均を超える結果となっています。
続いて心疾患、肺炎、脳血管障害、老衰という順位で推移しています。
二次医療圏(後述)別では、能登中部と能登北部で、主要死因別死亡数(人口10万対)が、全国平均よりも高くなっている傾向があります。
図2 死因別に見た死亡数の割合(全国との比較)
さらに高齢化率を見ていくと、高齢化率の全国平均は平成26年の時点で26.7%であるのに対して石川県は27.1%でした。
現在の高齢化率は、全国的に見ればほぼ中間値をとっている石川県ですが、平成52年の高齢化率は36%にまで昇ることが予想されており、引き続き県全体の高齢化は避けられないものと考えられます。
図3 石川県の高齢化率と人口増加率の推移
石川県の医療状況はどうなっているのか
次に石川県の受療率を見ていきます。
平成26年度の受療率について、入院を見てみると、全国平均が人口10万人当たり1,038であるのに対して石川県は1,310と平均を大きく上回り、全国で15番目に入院受療率が高い県となります。
一方、外来受療率は全国平均が人口10万人当たり5,696に対して4,921と、平均を下回る結果となっています。
図4 入院受療率と外来受療率 全国との比較
年齢別に見ていくと、65歳以上が入院、外来共に最も多くなっており、高齢化に伴い受療率も上昇していることが分かります。
傷病別に見てみると、入院患者の割合では循環器系の疾患が最も多く20.9%、次に精神及び行動の障害が19.6 %、悪性新生物が11 %。この3疾患で全体の約半分を占めており、いずれも全国平均よりも高い割合で推移しています。
また、外来受療率では消化器系の疾患が16.1 %、循環器系の疾患が15.5 %、筋骨格系および結合組織の疾患が12.3%を占める結果となりました。
石川県の保健医療圏はどうなっているか
石川県の医療圏は他県と同様、医療法に基づき一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれています。
石川県では二次医療圏として地理的条件などを考慮し、石川中央医療圏、南加賀医療圏、能登中部医療圏、能登北部医療圏の4つの医療圏に分けています。
図5 石川県の二次医療圏
各医療圏の医療完結率を見ると、県庁所在地を含み人口が最も多い石川中央医療圏は98.2%、南加賀医療圏は84.1%と医療の自給率が高いのに対して、能登中部医療圏では74.7%、能登北部医療圏では64.1%という低い割合になっています。
また、流出率については能登中部医療圏が25.3%、能登北部医療圏は36.9%となっており、そのほとんどが石川中央医療圏に流入しています。
このことから、石川県内では医療機能が偏在していることが分かります。
また、圏域別の死因と死亡率の関係を見てみると、悪性新生物、心疾患、肺炎、脳神経疾患の4大死因疾患での死亡率は、能登北部医療圏で高い値を示し、全国平均の約2倍もの数値となっています。
その一方で、石川中央医療圏では肺炎以外の疾患は全国平均以下で推移し、4つの医療圏の中で最も低い割合となっています。
また、能登北部、能登中部医療圏では老衰の割合が全国平均と比較して高くなっています。
このことから医療資源の偏在は死亡率にも関係していること、同じ県でも地域によって高齢化率が異なることがデータから読み取れます。
県全体の高齢化が着実に進んでいる中で、特に高齢者の多い地域の医療資源が少ない石川県。引き続き石川県の医療面についてご紹介していきます。
石川県の病床数とこれから
兼六園
石川県は、療養病床および一般病床の既存病床数が、基準病床数を約5000床以上、上回っている状況です。
図6 石川県の二次医療圏と既存病床数/基準病床数の差
病床の利用率を見てみると、平成23年の一般病床では77.9%と、全国平均である76.2%を上回りました。
また療養病床は91.1%で、全国平均の91.2%とほぼ同等の利用率で推移しています。
医療圏ごとに病床数を見てみると、平成23年現在では、病床総数19,060床のうち12,741床を石川中央医療圏が占めており、能登北部医療圏では798床のみとなっていました。
精神病床については、石川中央医療圏が約3,000床確保しているのに対して南加賀医療圏は632床、能登中部医療圏では257床、能登北部医療圏では精神病床無しという状況になっています。
図7 石川県 病床数の推移
さらに施設数で見てみると、石川中央医療圏には病院が60施設あるのに対して、南加賀医療圏では23施設、能登中部医療圏では13施設、能登北部医療圏では5施設となっています。
石川県内で医療圏ごとの医療完結率及び流入、流出率偏りは、この結果からも裏付けられます。
近年、精神および行動の障害の患者数は上昇しています。
今後、高齢化によって認知症患者が増加し、この受療率はさらに上昇することが見込まれます。
医療体制が不十分であり高齢者の多い能登北部医療圏や能登中部医療圏では、現状のままでは精神分野の医療機能のほとんどを他の医療圏に頼らざるを得ない状況となり、流出率はさらに増えることが予測されます。
それに伴い、石川中央医療圏や南加賀医療圏は他圏域からの流入率が高まり、自医療圏の住民のための医療機能が低下する可能性もあります。
石川県内にはどのような機能を持つ医療機関があるか
石川県内の医療機能を見ていきます。
まずは三次救急です。
三次救急医療を展開できる病院は平成24年現在、石川中央医療圏に3施設、能登中部医療圏に1施設の計4施設と、三次救急に準ずる病院が南加賀医療圏に1施設あります。
図8 特定の医療機能を有する病院数
近年の大病院志向に加えて、事故、災害の複雑多様化によって、特殊かつ困難な疾病や外傷が多発していることから、三次医療を担う施設の需要が高まり、南加賀医療圏に三次救急に準ずる医療を担う施設が整備されたという背景があります。今後も引き続き三次医療体制の充実が求められることでしょう。
また、石川県内で最も死因として多く、全国平均を超えている疾患が悪性新生物です。石川県では石川中央医療圏にある大学病院の腫瘍内科が、がんセンターとしての機能を担っているものの、単独のがんセンターは設置されていません。
また能登北部医療圏では、がん診療のための医療施設がありません。
そのため、県では一般的ながん診療は二次医療圏内の各医療施設で行い、専門的ながん診療は全県域で対応して診療にあたることを取り決めています。
悪性新生物も現在、罹患者数が増加している疾患であり、予防だけでなく診療にあたる医療施設の充実が求められるところです。
さらに、高齢化率が平成37年で31.8%となることが予測されている石川県では、高齢化に伴い療養や介護が必要となる慢性疾患の患者が増加することを考え、在宅医療への移行を推進しています。
しかし課題として、県全体で在宅医療に関する理解や人員が不足していることや、高齢化率の特に高い能登中部医療圏、能登北部医療圏でかかりつけ医が不足して24時間医療体制がとれていなかったり、十分な往診体制がとれていなかったりしているため、今後は、この課題を解消していくことが求められています。
石川県内の医師数と今後の確保対策
厚生労働省の調査によると、平成22年現在の石川県の医師数は3,123人で人口10万人当たり267.1人でした。
人口10万人当たり230.4 人という全国平均を大きく上回っており、全国的に見ても医師数が充足しているように見えます。
図10 石川県 医師数の推移
また、全国的に見て医師数が不足しがちな産科、小児科、麻酔科、外科といった特定診療科の医師数も、全国平均を上回り充足している、と捉えられる現状です。
しかし、地域ごとの医師の偏在が見られており、医療圏別に人口10万人当たりでみると南加賀医療圏が160.8人、石川中央医療圏が328.0人、能登中部医療圏が192.5人、能登北部医療圏が147.9人と、石川中央医療圏に医師が集中していることが分かります。
特に能登北部医療圏では医師数不足により65歳以上の退職した医師が勤務し続けているという状況から、石川県では大学への寄付講座設置による診療支援、自治医科大学卒業医師の派遣など、能登北部医療圏を中心とした医師確保対策を実施しています。
また医学生が県内で就職できるような情報提供や人材バンク、研修制度の充実などを行い、定着しやすい環境を整備。
さらに女性医師の病院勤務の継続にも力を入れており、結婚、出産、介護による離職を防ぐために女性が働き続けやすい環境づくりを行っています。
もともと石川県は女性の就業率が高く、保育園は全国に先駆けて待機児童ゼロを達成しており、延長保育も充実しています。
石川県では、この実績を掲げつつ、より多くの女性医師を確保したい考えです。
まとめ
金沢駅
医療圏ごとに医療機能が偏在している石川県。そのため、医師数が充足している石川中央医療圏への転職は難しい一方で、能登北部医療圏や能登中部医療圏への転職は、比較的希望通りとなるかもしれません。
また、特定診療科の医師だけでなく、在宅医療の知識・理解が豊富な医師や、精神分野に長けている医師は、県全体から「求められる医師」となるでしょう。
さらに、石川県のように女性医師が働きやすい環境を積極的に整えていくことを、保健医療計画に具体的に明記している自治体は少ないため、女性医師の転職先としては、期待が持てそうです。
参考資料
石川県公式ホームページ 石川県の概要
http://www.pref.ishikawa.lg.jp/kensei/koho/gaiyo/p0.html
平成 27 年 人口動態統計月報年計(概数)の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/gaikyou27.pdf
第1節 高齢化の状況 内閣府
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_1.html
厚生労働省 平成26年患者調査の状況 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf
石川県医療計画
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/iryou/support/iryoukeikaku/iryoukeikaku.html
平成27年国勢調査 人口等基本集計結果(石川県関係分)の概要
http://toukei.pref.ishikawa.jp/search/detail.asp?d_id=3187
石川県保健医療計画
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/iryou/support/iryoukeikaku/iryoukeikaku.html
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