第45回:保健医療計画からみる兵庫県の姿
■ 記事作成日 2018/3/1 ■ 最終更新日 2018/3/1
保健医療計画からみる兵庫県の医師転職事情
元看護師のライター紅花子です。
「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、今回は、近畿地方に位置する兵庫県の医療情勢を、県の平成25年4月に策定された保健医療計画を基に見ていきます。
兵庫県の現状を分析
兵庫県は日本列島のほぼ中央に位置し、総面積は8,479.63㎢と、全国で12番目に広い県です。
陸・海・空と交通網が非常に発達し、世界有数の貿易港である神戸港や、本州と四国を直結し、世界一の長さを誇るつり橋・明石海峡大橋などがあります。
また兵庫県は世界的企業を数多く輩出している、産業が非常に盛んな県としても有名です。
1995年1月17日に阪神淡路大震災に見舞われ、以来二十数年が経過しましたが、見事に復興を遂げた現在、この震災が現在の日本の防災技術を発展させたといっても過言ではないかもしれません。
兵庫県の平成27年の総人口は5,537,000人、全国で7番目に人口の多い地域です。しかし平成17年以降、兵庫県の人口は減少傾向となっており、将来推計人口を見ても、今後は徐々に減少していくと予測されています。
さらに年齢別に人口を見てみると、平成22年の年少人口は13.6%、生産年齢人口は62.9%で、いずれも減少傾向であるのに対して、老年人口は22.9%となり、今後も増加する見込みです。
図1 兵庫県 人口の推移
とはいえ、高齢化率を見ていくと、平成26年の高齢化率は26.3%と全国で13番目に低いことから、全国的に見れば、まだまだ高齢化は進んでいない方だと言えるでしょう。
図2 兵庫県の高齢化率と人口増加率の推移
将来推計として、平成52年の高齢化率予測では、高齢化率36.4%、全国で19番目となっています。全国的に見れば比較的高齢化の進んでいない地域ですし、今後もその傾向は続きそうではあります。
兵庫県の人口動態は
引き続き、兵庫県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。
平成27年の出生率は人口1000人当たり8.1で、全国平均の8.0をわずかながら上回っています。一方、合計特殊出生率は1.43で平均値の1.46をわずかながら下回り、全国で10番目に低い地域となっています。
しかし、それまで低下の一途を辿っていた合計特殊出生率が、平成17年以降は上昇傾向に転じていることから、わずかではあるものの少子高齢化に歯止めがかかる可能性もないとは言えません。
続いて死亡に関するデータを見ていきます。
平成26年の死亡者数は55,391人で、人口1000人当たりで見ると10.1となります。全国平均である10.3を下回っており、低い高齢化率と共通していることが読み取れます。
また、死因を見ていくと、悪性新生物が最も多く全死因の30.7%、続いて心疾患が15.1%、肺炎が9.9%、脳血管疾患が8.7%となっており、悪性新生物は全国平均よりも高い値で推移しています。
兵庫県の医療状況はどうなっているのか
次に兵庫県の受療率を見ていきます。
図3 入院受療率と外来受療率
平成26年度の受療率をみると、入院では全国平均が人口10万人当たり1,038に対して兵庫県は967と全国平均を下回り、全国で13番目に入院受療が少ない県となりました。
その一方で、外来受療率は全国平均が人口10万人当たり5,696に対して、兵庫県6,015ですから、全国平均を上回っています。全国で15番目に外来受療率が高い地域です。
兵庫県の年齢別の医療受療率を見てみると、入院受療は65歳以上の高齢者が多いのに対して、外来受療は0~4歳を除く全年齢で、全国平均を超える受療率となっています。
また、傷病分類別受療率を全国のデータと比較してみてみると、ほとんどの値が全国平均と大差ないものの、「症状,徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの」が全国平均の人口10万人当たりが67であるのに対して兵庫県は91、さらに「健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用」が、全国平均は人口10万人当たり595であるのに対して兵庫県は716となります。
つまり、兵庫県はほかの県と比較して、疾病の予防や検査結果の異常に対する再検査などの理由で外来を受診することが多く、その結果が外来受療率の高さとなることが考えられます。
尚、傷病分類別にみると、入院の受療率においては多い順から「精神及び行動の傷害」、「循環器系の疾患」、「(悪性)新生物」となっており、外来受療は多い順に「消化器系の疾患」、「筋骨格系及び結合組織の疾患」、「循環器系の疾患」となっています。
兵庫県の保健医療圏はどうなっているか
兵庫県の保健医療圏は、他の都道府県同様に一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれています。
図4 兵庫県の二次保健医療圏
兵庫県の二次医療圏は、人口が多い順に神戸医療圏、阪神南医療圏、阪神北医療圏、東播磨医療圏、北播磨医療圏、中播磨医療圏、西播磨医療圏、但馬医療圏、丹波医療圏、淡路医療圏の10医療圏で成り立っています。
このうち淡路医療圏と但馬医療圏の高齢化率は高く、30%を超えている自治体が多数を占めています。
医療圏別の入院受療状況を平成20年に行われた調査のデータで見てみると、どの地域においてもある程度の割合で患者の流入、流出が見られ、自医療圏で医療の9割以上を賄っている医療圏が見られません。
特に丹波医療圏と、神戸医療圏に隣接している阪神北医療圏での患者の流出率は、3割超と高くなっています。また、他府県に隣接している圏域では兵庫県外の地域に医療を頼る割合が高いことも特徴であり、県外流出割合の12.7%のうち、7.2%が鳥取県に流出しています。
特に、高齢化が著しく面積も広い但馬医療圏は、流出割合が20%を超えて圏域の見直し基準に該当するものの、流出先の多くが隣接する府県域への流出のため、圏域の見直しでは問題が解決できないと県は考えています。
兵庫県は面積が広いことなどもあり、現行の医療圏を維持しながら圏域ごとに医療を見直しつつ、県内で医療を確保できるよう柔軟に対応していくとしています。
高齢化率が県全体では低いとはいえ、地域によって全国平均を超える高齢化が見られる兵庫県。予防医療を重視していることから、外来受療率は高いものの、入院受療は少なくなっており、今後の動向に応じて、各圏域では柔軟な対応が求められることでしょう。
次は引き続き、兵庫県の医療面を見ていきます。
兵庫県の病床数とこれから
神戸ポートタワー
兵庫県内の各保健医療圏における既存病床数と基準病床数について見ていきます。
図5 兵庫県 既存病床と基準病床
兵庫県では、平成28年4月に、基準病床数の見直しが行われました(図5)。その結果、兵庫県全体では、既存病床数が基準病床数を618床下回る計算です。見直しを行う前は618床不足していたとなっていますので、平成25年からの3年間で60床程度の変更があったことになります。
また、兵庫県内では6つの医療圏で、病床数の増加が見込まれています。特に神戸医療圏は、現在でも他の医療圏と桁違いの病床数ですが、今後もさらに増床することが見込まれます。
ところで、「但馬医療圏」は、平成25年4月時点で公表されていた既存病床数と基準病床数との間に、300床以上の開きがありました。ところが、平成28年4月に改訂されると、基準病所数が350床ほど少なくなっています。この医療圏は、兵庫県内でもっとも在宅死亡率が高い医療圏です
図6 兵庫県 在宅死亡割合 医療圏比較
高齢化率の高い市と、比較的低い市を要しており、高齢世代と生産年齢世代が、共存している地域なのかもしれません。
図7 兵庫県 病床数の推移
兵庫県の病床数の推移を見ると、図6の上ではピークが平成26年であり、これは今後も増床が見込まれていることから、ピークはさらに後年へと変わっていくことになります。
兵庫内にはどのような機能を持つ医療機関があるか
兵庫県では高度専門、特殊医療の提供を行う大学病院、国の政策として行うべき政策医療を独立行政法人国立病院機構の病院が行っています。
さらに県立の総合病院と専門病院がそれぞれ、民間病院での対応が難しいがん医療、循環器疾患医療、周産期医療、リハビリテーション医療を担当し、医師や医療従事者の育成や研修を担うなど、細かい役割分担で県内の医療を展開しています。
図8 特定の医療機能を有する病院数
また、県内では病院数の約8割、病床数で全体の7割を民間病院が占めており、地域の医療の根幹を支えています。専門医を配置して高度な医療機能を有する民間病院も増加しており、民間病院の専門分野への参入が期待されています。
また、兵庫県は病床数が基準病床数を下回っている地域ではありますが、国指定のがん診療連携拠点病院の他に、県独自の「兵庫県がん診療連携拠点病院」を創設し、がん医療はすべての地域で治療を受けられる体制が整えられています。
また、脳卒中と循環器系については、医療機関の分布や搬送時間を考慮したうえで、一つの目安として「脳卒中圏域」と「急性心筋梗塞圏域」をそれぞれ設定しつつも、地域の実態に合わせて圏域を越えた連携も必要とされています。
丹波、但馬医療圏では医療機能を持った施設が足りないなどの問題もあるため、自医療圏での医療を賄っていくためにも、県内で等しく医療機能を分けることが課題となっています。
特に丹波地域においては一定の機能を確保する方向で調整が進められており、平成31年には、県立柏原病院と柏原赤十字病院が統合再編され、広大な敷地の中に県立丹波医療センター(仮称)、丹波市地域医療総合支援センター(仮称)が開院する計画となっています。
また、今後も患者数の増加が見込まれる精神病床では、精神科救急の圏域を5圏域に設定し、重度の急性期患者に365日24時間対応する精神科救急センターと35の輪番施設で対応しています。
なお、慢性身体合併症の重症例に対してはその都度専門病院や大学病院が協議して対応しているという状態であり、病床確保のためのシステムは未整備となっています。また、身体疾患と合併した精神科救急患者に対して、一般科と精神科の医師が連携する体制も、まだ不十分と指摘されています。
一部地域では高齢化率が全国平均を上回っている兵庫県ですが、在宅医療の整備はまだまだ追いついておらず、平成22年10月現在、県内で訪問診療を実施している病院は32.4%、訪問看護を実施している病院は23.3%となっています。
診療を交代できる医師がいない、24時間体制ができないなど、人的資源がネックとなって在宅医療を展開できないのが現状となっています。今後の高齢化を支えるためには在宅医療の体制整備は必須であり、そのための人的資源の確保が課題となっています。
兵庫県内の医師数と今後の確保対策
兵庫県内の医師数は、人口10万人当たりの医師数を全国と比較すると平成22年では全国平均の230.4人をわずかに下回る226.2人となっています。
図9 兵庫県 医師数の推移
兵庫県の医師数は平成12年より徐々に増え、10年間で1800人近く増加しました。
全国平均の医師の年齢が48.6歳であるのに対して兵庫県は50.0歳と高くなっています。また、内科医をはじめとした医師不足も課題となっており、へき地の医療機関や小児科、産婦人科、放射線科、麻酔科、病理、救急分野では、特に勤務医不足が深刻です。
このことから、兵庫県では医師の偏在や診療科の偏りを解消するための方策が急務とされ、専門医の育成を進めつつ、勤務医の量的確保を進めることも対策として挙げられています。
まとめ
姫路城
病床数が基準病床に満たない医療圏が多く存在し、地域や診療科ごとに医療の偏りが見られる兵庫県。また、現状では高齢化率が低いものの、今後確実に必要となっていく高齢化対策が十分にできていないことも課題となっています。
専門医が着実に育っている県である一方で、兵庫県では医科系大学の定員が少ないことから医師養成の基盤が弱く、また専門医の開業志向が高いこともあいまって、勤務医の減少が大きな課題といえそうです。
そのため、兵庫県では開業医よりも、専門的な知識や技術を生かす勤務医が地域の医療にとって必要な人材として歓迎されることでしょう。
また、精神分野や在宅分野など、今後需要が高くなる分野の診療を行う医師も、兵庫県では求められていくと考えられます。
参考資料
国土交通省 国土地理院 都道府県別面積の順位
http://www.gsi.go.jp/KOKUJYOHO/MENCHO/201710/H29_sanko.pdf
兵庫県の概要
https://web.pref.hyogo.lg.jp/ac02/ab_hyogo.html
兵庫県保健医療計画第一部
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf15/documents/1souron.pdf
兵庫県ホームページ二次保健医療圏域の設定について
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf15/documents/13siryou4.pdf
総務省統計局 平成27年国勢調査
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka/pdf/gaiyou.pdf
第1節 高齢化の状況 内閣府
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_1.html
平成 27 年 人口動態統計月報年計(概数)の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/gaikyou27.pdf
厚生労働省 平成26年患者調査の状況 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf
兵庫県保健医療計画
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf15/25hokeniryoukeikaku.html
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