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第24回:保健医療計画からみる鹿児島県の姿

鹿児島県の医師転職事情と未来~保健医療計画と地域医療から読む

 

■ 記事作成日 2017/6/1 ■ 最終更新日 2017/12/5

 

鹿児島県の保健医療計画

 

元看護師のライター紅花子です。

 

「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、今回は2018年NHK大河ドラマの舞台ともなる鹿児島県の医療情勢を、鹿児島県の保健医療計画を基に見ていきます。

 

鹿児島県内での転職やIターン、Uターンを考えている医師には、是非とも知っておいていただきたい地域医療の基礎情報となります。

 

鹿児島県の医師求人票数

 

医師が鹿児島県で転職するにせよ、IターンやUターン転職するにせよ、まず最初に気になるのは如何に地元(鹿児島県)に求人票が存在するのか?という点でしょう。まずは大手医師紹介会社や地域特化型医師転職サイトにおける、鹿児島県内求人票数の状況を俯瞰しておきましょう。

 

転職サイト名 常勤求人 非常勤求人 スポット求人
M3キャリア 85 23 8
医師転職ドットコム 148 93 16
リクルートDC 176 42 非常勤に含む
e-doctor 102 109 63
ドクターキャスト 47 27 0
DtoDコンシェルジュ 49 6 0
鹿児島県医師求人情報(県庁サイト) 14 3 0
平均求人数 87.0件 30.4件 12.4件

 

上記表を眺めてみると、鹿児島県の医師求人に関しては、おおむね大手の紹介会社の方がやはり常勤求人の保有数は多いことがわかります。鹿児島県庁でも県内の医師(常勤、非常勤)の求人情報を掲載していますが、やはり民間の医師転職サイトと比較すると、掲載求人数そのものも少ない上、情報刷新ペースもゆったりしているようです。

 

常勤求人に関しては100~180件前後が公開の求人数のアッパーだとすると、吊るしの求人に飛びつくよりも、医師転職サイトや医師紹介会社の担当コンサルタントと懇意になり、直接、先生のニーズをぶつけて求人を掘り起こしてもらう形の方が、スムーズに転職が進むのではないでしょうか。

 

鹿児島県の場合は非常勤の平均求人数が28.8件、スポットに至っては平均6.3件となっており、フリーランス医師として食べていくには相当選択肢が細くなってしまうことが予想されます。実質、常に新しい求人を入手しながら生きながらえていくのは難しいレベルではないでしょうか。

 

尚、それぞれの医師転職サイトや医師紹介会社でも鹿児島県内の医師転職、求人事情の分析が行われており、例えば「リクルートドクターズキャリア」では鹿児島県の医師転職市場について、下記のような特徴がピックアップされています。

 

  • 県内には9つの二次医療圏がある
  • 離島、へき地の医師不足や特定診療科への偏在がある
  • 医師安定確保が大きな課題になっている

 

※上記の医師求人票数は2017年6月12日調査結果

 

 

鹿児島県の現状を分析

 

鹿児島県は九州地方南部に位置し、東西約272㎞、南北に約590㎞の国土を持つ地域となります。総面積9,189㎢となり、その広さは全国で第10位。また、28の有人離島を有しており、離島の土地面積の合計は全国第一位の約2,485㎢で、鹿児島県の総面積の約。

 

離島が多いことからも交通機関が充実しており、新幹線などの陸路や8空港を構える空路だけでなく、定期航路もあります。この交通の便の良さの影響からか、鹿児島県内では卸売業、小売業の従事者が多い(国勢調査上、第1位)という特徴があります。医療、福祉業に従事している人数は、小売業に次いで2番目に多く、ここ10年ほどは増加傾向が続いています。

 

鹿児島県では、広大な自然を生かした農業、漁業、畜産業が盛んで、豚と和牛の飼育頭数は全国1位。ブランドのかごしま黒豚や鹿児島和牛は、全国でよく知られています。水産物も、生産量全国1位のかつお節、養殖生産量全国1位のうなぎなど、全国トップを誇る食材がたくさんあることも特徴です。

 

鹿児島県の平成28年10月現在の総人口は1,637,272人となり、平成17年より減少傾向となっています。さらに年齢別で見てみると、平成28年の時点で年少人口は13.5%、生産年齢人口は56.4%、老年人口は30.1%。年少人口、生産人口が年々減少する一方で、老年人口は年々増加傾向にあり、老年人口の約半分の16.4%が75です。

 

こうした状況から、鹿児島県は全国よりも約10年高齢化が進んでいると言われています。

 

鹿児島県の人口動態は

 

次に鹿児島県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。

 

平成27年の出生率は人口千対でみて8.6となり、全国平均の8.0をわずかに上回る結果になりました。また、合計特殊出生率は1.65、その年の平均値である1.46を大きく上回っています。

 

図1 鹿児島県 人口の推移

 

続いて死亡に関するデータを見ていきます。

 

平成26年の死亡者数は21,354人で、人口千対で見ると13.0となります。全国平均のとなっており、死亡率は高齢化の上昇にも伴い年々上昇しています。その死因は、悪性新生物が最も多く26.3%、続いて心疾患15.0%、脳血管疾患11.7%、肺炎11.5%という順になっています。全国平均と比較すると、多少、順位の変動はありますが、上位4疾患までは全国とほぼ同じ傾向です。ただし、「悪性新生物による死亡は、全国平均よりも多い」、という特徴が見られます。

 

図2 鹿児島県 死因別死亡率 全国との比較

 

また、全国で10位となる「肝疾患」の代わりに、鹿児島県では「大動脈瘤および解離」による死亡が、10位になっています。

 

50歳未満に区切ると、男性では自殺による死亡が最も多く。全国と比較すると悪性新生物は減少傾向であるものの、心疾患の中でも特に急性心筋梗塞、脳血管障害といった循環器の分野での死亡率が上昇傾向となっています。

 

次に、高齢化率を見ていきます。平成26年の時点での高齢化率は28.6%。全国的に見ると、ほぼ真ん中くらいでしょうか。県全体では、出生率も全国平均を上回り、高齢化率もまずまずといったところですが、市街地と離島では、人口構成が違う点に留意する必要があります。全国より10年早く高齢化を迎えていると言われるのは、離島の人口動態を考慮した結果なのかもしれません。

 

図3 鹿児島県の高齢化率と人口増加率の推移

 

鹿児島県の医療状況はどうなっているのか

 

次に鹿児島県の受療率を見ていきます。

 

平成26年度における入院の値を見てみると、全国平均が人口10万対1,038に対して1,885と平均を大きく上回り、入院受療率の高さでは全国ででした。

 

また、外来受療率は全国平均が人口10万対で5,696なのに対し、鹿児島県は6,440と、全国平均を大きく上回り、医療依存度が高い県であるということが分かります。特に、南薩保健医療圏は入院、外来共に受療率トップとなっています。

 

傷病別に見てみると、入院患者の割合では精神及び行動の障害が25.0 %、循環器系の疾患が19.6 %で、全体の44.6 %を占めています。また、外来受療率では消化器系の疾患が16.6 %、循環器系の疾患が16.5 %で全体の33.1 %を占める結果となりました。精神系、神経系の患者の受療率は増加傾向であるものの、そのほかの疾患では維持もしくは減少傾向となっています。

 

図4 鹿児島県 入院・外来受療率

 

鹿児島県の保健医療圏はどうなっているか

 

鹿児島県の医療圏は、他県と同様に一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれています。鹿児島県では二次医療圏として県庁所在地を含む鹿児島保健医療圏、面積が最も広い姶良・伊佐保健医療圏、南薩摩保健医療圏、川薩保健医療圏、出水保健医療圏、曽於保健医療圏、肝属保健医療圏、熊毛保健医療圏、奄美保健医療圏という9つの医療圏に分類されています。

 

図5 鹿児島県 二次保健医療圏

 

このうち、熊毛保健医療圏と奄美保健医療圏は、離島が単独で保健医療圏となっており、川薩、鹿児島、出水、南薩、曽於保健医療圏は離島も含まれる医療圏となります。

 

ほとんどの医療圏が約7~8割、鹿児島保健医療圏では約9割が自医療圏で医療を展開しています。しかし、曽於保健医療圏では自医療圏での完結率が7割未満であり、肝属保健医療圏、姶良・伊佐保健医療圏、鹿児島保健医療圏に医療機能を若干頼っているという状況にあると推測できます。

 

この曽於保健医療圏ですが、死因の上位3位である悪性新生物、心疾患、脳血管疾患による死亡者が、県内で最も多い地域でもあります。死亡者数が多いということは、当然ながら医療を受ける人数も多くなると予測されますが、曽於保健医療圏の病床数は本土の中では最も少なく、離島単独の医療圏を合わせても2番目に病床数が少ない医療圏です。また、医師数、看護師数も県内で最も少なく、唯一、地域がん診療連携拠点病院及び県がん診療指定病院の指定を受けている医療機関がない地域です。

 

医療を求める人は多いのに病床数や医療者数が少ないという現状が、他医療圏への患者流出を招いていると考えられます。

 

高齢化が著しく進行している鹿児島県。多くの離島を抱えながらも医療の完結率を高い水準で維持できている理由は何なのでしょうか。次は鹿児島県の医療の動向を見ながらその理由を考えていきたいと思います。


鹿児島県の病床数とこれから

桜島

 

鹿児島県は、すべての医療圏において既存病床数が基準病床数を大幅に上回っている状況です。県全体では、以下のようになります。

 

図6 鹿児島県 医療圏別病床数

 

病床の利用率を見てみると、総数では84.5%で全国平均の81.9%を上回っています。また、一般病床の利用率は全国平均が76.2%のところ77.2%、精神病床の利用率は全国平均が89.1%に対して91.9%、介護療養病床は全国平均が94.6%であるところ93.8%と介護療養病床以外、ほぼすべての病床の利用率が平均を上回るという結果になっています。

 

図7 鹿児島県 病床数の推移

 

基準病床数を上回り、その上利用率も全国平均を上回っていることから、鹿児島県の医療依存度は高い傾向にあることが読み取れます。要因としては高齢化の進行が考えられるでしょうか。また、自医療圏での医療が完結できる理由の1つにも、この既存病少数の多さが関係しているでしょう。特に曽於保健医療圏では、療養病床のみですでに基準病床を上回っています。この地域では人口10万人当たりの在宅療養支援診療所数が県内で最も低いため、療養病床に頼らざるを得ない状況となっていることが推測できます。

 

尚、鹿児島県全域での病床数と、人口10万対病床数のピークに差がある理由は、病床数の増減と人口の増減との間に、タイムラグが存在しているから、と考えられます。

 

鹿児島県内にはどのような機能を持つ医療機関があるか

 

鹿児島県内では三次救急を展開できる病院は奄美保健医療圏に1か所、鹿児島医療圏に2か所の計3か所あります。救急医療を担う医療機関は各医療圏に1~2か所設置しており、本土に行かなくても救急医療が受けられるよう、離島にも救急医療体制を整えています。

 

また、鹿児島県には活火山が多く、台風など自然災害にも見舞われることが多く、災害医療には特に力を入れており、がん診療拠点病院などの拠点病院がない医療圏も多い中で、災害拠点病院は各医療圏に1施設ずつ設置されています。

 

図8 鹿児島県 特定の医療機能を有する病院数

 

離島やへき地が多い鹿児島県では、無医地区も多く存在しています。現在は交通の便が発達したことにより、減少傾向になってはいるものの、離島の半数が無医島なのが現状です。県立病院や大学病院が提携して医師の派遣を行っている一方、制度の活用は年々減少傾向となっています。

 

鹿児島県内の医師数と今後の確保対策

 

厚生労働省の調査によると、平成22年現在の鹿児島県の医師数は4,135人で人口10万人当たり242.3人となり、全国平均の人口10万人当たり230.4 人を大きく上回っています。無医地区がありながらも、人口に占める医師の割合は全国と比べても充足していることが分かります。

 

図9 医師数の推移

 

さらに、現員医師数と必要医師数を見ても、すべての医療圏で必要医師数が確保できています。しかし、地域や診療科ごとに医師の偏在が見られ、医師の確保対策は引き続き必要といえるでしょう。

 

鹿児島県では、緊急医師確保対策事業による施策と医師の養成・支援を総合的に取り組んでいます。具体的には県外在住医師のI、U、Jターンの促進や就業斡旋、離職している女性医師の復職支援を行っています。また、地域枠の修学生の離島実習や学習会などで育成に努めるとともに、義務期間修了後も県内の地域医療に従事できるように取り組んでいます。さらに、不足している小児科・産科・麻酔科等の専門研修を受ける医師を支援するなど、現時点で足りていない機能を補うための取り組みを短期、中長期に分けて実施しています。

 

まとめ

鹿児島の西郷隆盛の銅像

 

離島や無医地区が多く存在している中でも、自医療圏での医療完結度が高い鹿児島県。

 

本土に頼ることなく、救急医療や災害医療体制がある程度整備されている現状から、鹿児島県のへき地医療対策の充実ぶりがうかがえます。

 

しかし、高齢化が進行し続けている中で、在宅医療や地域医療への積極的な施策が盛り込まれていないことや、診療所数の減少などによる地域医療の発展が遅れがちであることも、今後の課題となるのではないでしょうか。特に産科の医師がいないことにより、島外で出産する妊産婦が多いため、鹿児島県へ転職を考える産科の医師は、かなり貴重な存在となるかもしれません。

 

整った環境での離島・へき地での医療、これから発展していく地域医療を担いたい医師にとっては、魅力的な県と言えるのではないでしょうか。

 

 

参考資料

 

鹿児島県保健医療計画1章
http://www.pref.kagoshima.jp/ae01/kenko-fukushi/kenko-iryo/iryokeikaku/documents/31036_20130422171001-1.pdf

 

鹿児島県保健医療計画2章
http://www.pref.kagoshima.jp/ae01/kenko-fukushi/kenko-iryo/iryokeikaku/documents/31036_20130422171053-1.pdf

 

鹿児島県観光サイト 本物の旅の鹿児島
http://www.kagoshima-kankou.com/gourmet/

 

鹿児島県公式ホームページ 平成28年報
https://www.pref.kagoshima.jp/ac09/tokei/bunya/jinko/jinkouidoutyousa/nennpou/h28.html

 

平成 27 年 人口動態統計月報年計(概数)の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/gaikyou27.pdf

 

内閣府 高齢化の状況
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_1.html

 

厚生労働省 平成26年患者調査の状況 受療
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf

 

医療介護総合確保促進法に基づく県計画 鹿児島県
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000068062.pdf 

 

医療介護総合確保促進法に基づく 県計画
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000068062.pdf

 

鹿児島県保健医療計画
http://www.pref.kagoshima.jp/ae01/kenko-fukushi/kenko-iryo/iryokeikaku/keikaku25-3.html

 

統計局 平成26年医療施設(静態・動態)調査 下巻 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001141081

 

同上 平成25年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126654

 

同上 平成23年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102729

 

同上 平成20年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001060675

 

同上 平成17年医療施設(動態)調査 下巻 年次
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048224

 

同上 平成14年医療施設(動態)調査 下巻 年次 2013年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048369

 

同上 平成11年医療施設(動態)調査 下巻 年次 2013年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048408

 

同上 平成8年医療施設(動態)調査 下巻 年次 2013年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048434

 

この記事をかいた人


紅 花子

正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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