整形外科医の求人傾向
■ 記事作成日 2013/8/20 ■ 最終更新日 2017/12/6
昔から「整形外科医のニーズは高い」というのが医療転職支援業界の定説でした。昨今、厚生労働省の指導によって慢性疲労マッサージについては保険外診療とする指針が確定化しつつあるといった状況変化の余波を受け始めた現在でも、整形外科医の求人傾向は高い状況で留まっているようで(厚生労働省調査『必要医師数実態調査』によると内科医に次いでニーズが高いことがわかります)、実際の求人数も相当な数みつけることが可能です。
特に整形外科医は高齢化が都市部よりも進んでいる地方でのニーズが高く(クリニック、専門・総合病院共に)なっています。
一方、都市部ではスポーツ障害外傷、労災や交通事故絡みで専門性を打ち出すクリニックも見受けられます。また、給与についても他の診療科目より高い傾向があることも概ね間違いなさそうですが、当然、勤務エリアで差が出てきます。
以上のことから、整形外科医の転職については「エリア」そして「専門性」が2大キーポイントとなってくるでしょう。全体的に高い給与と恵まれた労働条件の職場を選べる診療科である整形外科市場ですが、求職者(整形外科医)の敵となるのもまた別の求職者(整形外科医)なのです。
当然、相対的に条件のよい求人募集が直ぐ埋まってしまうのは、他の診療科目と変わりません。単に転職市場全体の求人数が多いというだけで、魅力のない求人募集もまた多く含まれているだけという事実について理解しておきましょう。
あなたが競合人材よりも更により良い条件の転職案件を確保するにはどうすればよいのでしょうか。まずは冷静な市場分析から始めていただきたいものです。
整形外科医師の潜在的求人倍率は
平成22年発表の厚生労働省発表「必要医師数実態調査」および平成24年発表の「医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」を閲覧してみると、整形外科医のニーズを数字で把握することが可能になります。
日本国内の病院および診療所に従事する医師総数のうち、整形外科医の医師数自体は内科医師に次いで2番目に人数が多い診療科ですが(平成24年の整形外科医師数は全体の7.1%、内科医師数は全体総数の21.2%)、ガベージニュースがまとめた資料によると、その数は1994年以降微増しながら、一旦、2002年頃に減少がみられましたが、近年では再度微増傾向がみられます。
GabageNews.comよりグラフ引用
上記平成22年発表の厚生労働省発表「必要医師数実態調査」によると、整形外科の現役医師数12,373名(正規雇用、非正規雇用含む)と求人数などから割り出した、社会に必要とされている整形外科医師数(必要医師数)の割合を計算すると、1.16倍となります。
現員医師数と必要医師数の割合から潜在的な求人倍率を計算すると1.11倍となります(現役医師数A+必要医師数B/A)。この数値が高いほど社会からニーズが高い診療科目であると見られ、統計データでは1.29倍のリハビリ科が最も高く、1.07の形成外科が最も低いとされています。
ただし、上記は各科目毎の総医師数を画一的に取り扱ったデータだるため、専門化著しい整形外科の個別事情や、エリアによるニーズ差異などが一切考慮されていない、国内一律化データであるため、単純な参考にとどめておくほうが良いでしょう。
それよりも、あなたが就業を規模するエリアで、どの専門性を活かした整形外科として転職を図ると成功しやすいかといった個別ニーズ状況の方がもっと大切です。
就業エリアの考察
ざっくりと「整形外科医は高齢化社会が進む地方でニーズが多い」と書きましたが、都市部はスポーツ障害・外傷等や交通事故および労災絡みで別角度からの整形外科ニーズが高まっているとも触れました。
実際に、就業希望エリアによってどれだけ整形外科医ニーズが異なっているのかを同じく厚労省データ「必要医師数実態調査」からざっくりと俯瞰してみましょう。
都道府県/県庁所在エリア | 必要医師数(整形外科・単位:人) | 必要医師数(全体・単位:人) |
---|---|---|
北海道 | 1.6 | 0.1 |
- 札幌 | 0.9 | 0.1 |
青森県 | 2.6 | 1.1 |
- 青森地域 | 2.1 | 0.0 |
岩手県 | 2.8 | 0.1 |
- 盛岡 | 3.2 | 0.2 |
宮城県 | 1.0 | 0.6 |
- 仙台 | 0.7 | 0.9 |
秋田県 | 1.8 | 0.2 |
- 秋田 | 1.7 | 0.2 |
山形県 | 2.2 | 0.0 |
- 山形(村山エリア) | 2.0 | 0.1 |
福島県 | 2.0 | 0.0 |
- 福島(県北エリア) | 2.2 | 0.0 |
茨城県 | 1.8 | 0.1 |
- 水戸 | 2.6 | 0.0 |
栃木県 | 2.0 | 0.2 |
- 宇都宮(県央・東) | 1.2 | 0.0 |
群馬県 | 2.6 | 0.1 |
- 前橋市 | 3.0 | 0.3 |
埼玉県 | 0.8 | 0.1 |
- さいたま(南部) | 0.5 | 0.0 |
千葉県 | 1.0 | 0.0 |
- 千葉 | 0.9 | 0.0 |
東京都 | 0.8 | 0.1 |
- 区中央部 | 1.0 | 0.4 |
神奈川県 | 0.4 | 0.0 |
- 横浜 | 0.4 | 0.0 |
新潟県 | 2.8 | 1.4 |
- 新潟市 | 2.4 | 0.9 |
山梨県 | 2.8 | 0.0 |
- 甲府(中北エリア) | 2.4 | 0.0 |
長野県 | 2.4 | 0.2 |
- 長野市 | 1.6 | 1.0 |
富山県 | 1.4 | 0.3 |
- 富山 | 1.0 | 0.2 |
石川県 | 1.0 | 0.2 |
- 金沢(石川中央) | 0.7 | 0.3 |
岐阜県 | 2.1 | 0.5 |
- 岐阜 | 1.9 | 0.7 |
静岡県 | 1.7 | 0.1 |
- 静岡 | 0.8 | 0.0 |
愛知県 | 0.9 | 0.1 |
- 名古屋 | 1.0 | 0.2 |
三重県 | 1.5 | 0.2 |
- 津 | 2.0 | 0.0 |
福井県 | 2.8 | 0.1 |
- 福井・酒井 | 3.6 | 0.2 |
滋賀県 | 1.9 | 0.4 |
- 大津 | 4.9 | 0.6 |
京都府 | 1.3 | 0.1 |
京都 | 1.2 | 0.2 |
大阪府 | 1.5 | 0.1 |
- 大阪 | 1.9 | 0.0 |
兵庫県 | 1.7 | 0.1 |
- 神戸 | 1.4 | 0.0 |
奈良県 | 2.6 | 0.0 |
- 奈良 | 2.5 | 0.0 |
和歌山県 | 3.0 | 0.1 |
- 和歌山 | 3.1 | 0.2 |
鳥取県 | 3.6 | 0.3 |
- 鳥取(東部エリア) | 4.3 | 0.4 |
島根県 | 2.8 | 0.1 |
- 松江 | 1.2 | 0.0 |
岡山県 | 2.2 | 0.2 |
- 岡山(東部エリア) | 1.7 | 0.0 |
広島県 | 1.8 | 0.4 |
- 広島 | 1.2 | 0.6 |
山口県 | 1.9 | 0.1 |
- 山口・防府 | 1.3 | 0.3 |
徳島県 | 2.2 | 0.0 |
- 徳島(東部エリア) | 2.2 | 0.0 |
香川県 | 2.2 | 0.0 |
- 高松 | 2.3 | 0.0 |
愛媛県 | 3.1 | 0.3 |
- 松山 | 1.7 | 0.6 |
高知県 | 4.4 | 0.4 |
- 高知(中央部) | 4.4 | 0.5 |
福岡県 | 1.5 | 0.0 |
- 福岡・糸島 | 1.1 | 0.1 |
佐賀県 | 2.0 | 0.1 |
- 佐賀(中央部) | 1.4 | 0.3 |
長崎県 | 2.0 | 0.1 |
- 長崎 | 2.0 | 0.0 |
熊本県 | 1.5 | 0.3 |
- 熊本 | 1.1 | 0.4 |
大分県 | 3.0 | 0.1 |
- 大分(中部) | 2.9 | 0.2 |
宮崎県 | 2.1 | 0.2 |
- 宮崎(東部エリア) | 2.0 | 0.2 |
鹿児島県 | 2.2 | 0.7 |
- 鹿児島 | 3.3 | 1.2 |
沖縄県 | 1.4 | 0.1 |
- 那覇(南部エリア) | 1.1 | 0.2 |
全国計 | 1.5 | 0.2 |
県庁所在エリアと周辺比較
上記は「人口10万人あたり診療科別必要医師数(求人+非求人)(正規雇用+短時間正規雇用+非常勤)」を元に、整形外科医と全医師総合の人口10万人毎の必要医師数を、都道府県別、更に、各都道府県の県庁所在地(が含まれるエリア)を抜粋して表記したものです。
このデータから分かることは、それぞれの都道府県全体の必要整形外科医師数と、その地方の都市部である県庁所在地(が含まれるエリア)を比較することで、都市部と郊外どちらに整形外科医が必要とされているかを俯瞰することができます。
わかりやすく大まかにとらえると、県庁所在地エリアが県全体より数値が少ないならば、都市部より郊外部で整形外科医のニーズが高いことになり、その逆ならば、都市部の方が郊外部より整形外科医のニーズが高いと判断することができます。
それに基づいて47都道府県を調査すると、下記のように集計することができました。
都市部>郊外都 |
都市部<郊外部 |
都市部=郊外部 |
---|---|---|
30 |
13 |
4 |
63.8% |
27.7% |
8.5% |
単純に63.8%の都道府県において、郊外エリアが都市部よりも整形外科医のニーズを抱えているということがわかります。都市部と郊外部が同数の都道府県を合わせると、実に72.3%までその数字は跳ね上がります。
ここから、同じエリア内でも多くの都道府県で整形外科医を必要としているのは「郊外エリア」であるケースが多いことがわかります。
整形外科医ニーズ「トップ5エリア」「ワースト5エリア」
同じく、整形外科医のニーズを上位下位ともに5都道府県、5市町村ピックアップしてみました。尚、市町村は県庁所在エリアに限らず、厚生労働省の統計上に出ている全ての市町村(エリア)を対象に順位付けしています。
整形外科医ニーズが高いエリア TOP5
順位 |
都道府県 |
市町村 |
---|---|---|
1 | 高知県(4.4人) | 滋賀県東近江(13.0人) |
2 | 鳥取県(3.6人) | 岡山県高梁・新見(10.7人) |
3 | 愛媛県(3.1人) | 島根県大田(9.8人) |
4 | 和歌山県、大分県(3.0人) | 長崎県対馬(8.3人) |
5 | 山梨県、新潟県、岩手県(2.8人) | 長崎県県北・群馬県吾妻(7.9人) |
整形外科医ニーズが低いエリア TOP5
順位 |
都道府県 |
市町村 |
---|---|---|
1 | 神奈川県(0.4人) | 東京都区西南部、東京都北多摩南部、神奈川県川崎北部(0.1人) |
2 | 埼玉県、東京都(0.8人) | 神奈川県川崎南部、愛知県尾張東部、福岡県筑紫(0.2人) |
3 | 愛知県(0.9人) | 神奈川県横浜西部、神奈川県湘南西部、神奈川県県西、滋賀県湖西、鹿児島県奄美(0.3人) |
4 | 宮城県、千葉県、石川県(1.0人) | 東京都区東部、東京都北多摩北部、神奈川県横浜南部、神奈川県横須賀・三浦、埼玉県東部、埼玉県県央(0.4人) |
5 | 京都府(1.3人) | 北海道西肝振、埼玉県南部、東京都区西北部、愛知県知多半島、島根県隠岐(0.5人) |
※市町村(0.0人)はサンプル数が少ない過疎地が多数含まれている可能性があると推測されますので除外しました(除外した地域:北海道南檜山、北海道北渡島檜山、北海道上川北部、北海道富良野、北海道宗谷、秋田県北秋田、秋田県湯沢・雄勝、千葉県安房、東京都島しょ、石川県能登北部、福井県奥越、和歌山県有田、福岡県宗像、長崎県壱岐、熊本県有明、熊本県屋代、熊本県芦北、鹿児島県姶良・伊佐、鹿児島県曽於(0.0人))
整形外科ニーズのベスト5、ワースト5の上記データを見ればわかるように、関東を中心とした人口の多い都市部では整形外科ニーズが低く、地方エリアでは整形外科ニーズが高いことがここでも明白になっています。
これ即ち、整形外科で独立を考えている方も、神奈川、埼玉、東京などの都市部は避けて、高知、鳥取、愛媛などを選ぶことで「引っ張りだこになる可能性」が見えてくるわけです。特に、滋賀県東近江などに赴けば、日本で一番整形外科医が就業しやすい地域であることを肌で感じられるかもしれません。
逆に、都市部で就業を希望する整形外科医の場合は整形外科医ニーズの低い関東地域や東京を意図的に避けて、相対的に整形外科医ニーズが高い大阪府などが狙い目かもしれません。
専門性の考察
専門センターに資金投資する医療機関
御存知の通り、整形外科医でも「リハビリ医」「リウマチ医」「スポーツ医」「脊椎脊髄病医」「内視鏡下手術・技術認定医」「手外科専門医」などのように専門化の道が進んでいます。エリア選択とともに専門性選択についても、整形外科医のや転職成否を大きく左右する要素となってきてみます。
実際、就業先の医療機関自体が「関節外科」「人工関節」「外傷」「手の外科」「足の外科」「腫瘍」「小児整形外科」「マイクロサージャリー」などといった専門性を売りにセンター化して設備投資を行う傾向にあるので、就業者の医師もそのニーズに積極対応していくことが求められるでしょう。
場合によってはサブスペシャリティとして複数の資格を持つなどの方法で自己の強みに幅を利かせる方法も必要でしょう。
専門化トレンドを知っておく
ただでさえ広範囲な整形外科の守備範囲ですが、この期は更に細分化していくことも考えられますので、専門化傾向のトレンドについても常にリサーチしておくことが必要です。例えばメタボリック症候群と同様に啓蒙が図られてきたロコモティブシンドロームですが、その存在にようやく気づいたマスメディアでの取材などをきっかけに、世間からの耳目も集まり始めました。こういった流れについての情報収集は常に行っておくことをオススメいたします。
最新医療についての対応
医療機関が専門センター化して設備投資を行っているということは、最新医療について知識経験が豊富な医師へのニーズが高まるということに自然とつながります。人口関節、最小侵襲手術、関節鏡視下手術、ロボット手術などその分野も広がりつつありますので、面接時などは最新医療への過去の経験を大いにアピールする必要があるでしょう。
この記事を書いた人
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