医師の“急性期病院への転職事情”を考える(公立編)
■ 記事作成日 2017/1/10 ■ 最終更新日 2017/12/6
医療業界は日々目まぐるしく変化を続けています。その影響は、病院の機能にも及んでいます。今回は、ここ数年で色々な“変化”を余儀なくされている、急性期病棟に焦点を当てていきたいと思います。
急性期病院への、医師の転職事情とは、どのようなものなのでしょうか。
医師転職市場における急性期病院の定義と基準
まずは急性期病院とはどのような病院なのか、その基準を考えていきます。
医療法上は、病院に対する“一般病院と診療所の区別”、病床数という側面での“急性期病床”というくくりはないことから、急性期病床が明記された病床区分にはなっていません。つまり法律上では、一般病床のうちの何割かが、急性期医療機能を担う、という考え方となります。
急性期医療を提供する病床を区分する方法としては、診療報酬体系が用いられ、高度急性期機能と急性期機能の2つに分けることができます。
- 高度急性期機能:急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、診療密度が特に高い医療を提供する機能
- 急性期機能:急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、医療を提供する機能
高度急性期機能に該当すると考えられる病棟の例としては、救命救急病棟、集中治療室、ハイケアユニット、新生児集中治療室、新生児治療回復室、小児集中治療室、総合周産期集中治療室である病棟となっています。
急性期の患者に対して診療密度が特に高い医療を提供する病棟が該当します。
また、当サイトの別コラムでも連載していますが、地域医療を基準に考えた場合、都道府県ごとに“二次医療圏”“三次医療圏”を設定する必要があります。
この“二次”“三次”という呼び方も、救急医療の考え方と共通する部分があります。
二次医療については、必ずしも救急医療である必要はありませんが、入院するような状態の患者さんへの診療が行える地域を、一つのまとまりとして考えられています。
一方の三次医療には、特別な医療を提供する、とあります。この“特別な医療”の1つとして、“広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒等の特に専門性の高い救急医療”が挙がっています。
この様な医療体制を整えている病院では、ハイケアユニットや高度救命センターなどを設置しているところが多いようです。都道府県が制定する“医療圏”は、この二次医療や三次医療を提供できるエリアというエリアとなるわけです。
公立病院と急性期病棟の関係とは?
名称に“公立”とある場合は、都道府県立、市町村立など、地方自治体により運営されています。職員は地方公務員であり、特に事務部門の管理者は、自治体の職員であることが一般的です。
公立病院は、地域における基幹的な公的医療機関として、地域医療の確保のための重要な役割を果たす病院といえます。
その果たすべき役割とは、地域において提供されることが必要な医療の中でも、採算性等の面から民間医療機関による提供が困難な医療を提供することにあるとされています。
しかし、地方財政の厳しさからか、ここ数年は地方独立行政法人として病院運営を切り離す(法人化する)、あるいは病院業務の遂行を民間委託する病院も出て来ています。
また、もう少し範囲を広げてみると、日本赤十字社や済生会の病院などは“公的”病院といわれています。
さらに、全国区でみると、高度先端医療の提供や、新たな治療法の開発を行うことが設立目的の1つに含まれる国立高度専門医療センターは、“ナショナルセンター”とも呼ばれています。
例えば、東京都内の国立がん研究センター、大阪にある国立循環器病研究センター、愛知県に設置された国立長寿医療研究センターなど、全国に6つのナショナルセンターがあります。ここまでを含めて、“公的”病院としてとらえることもあります。
つまり、公立の急性期病院とは、状態の早期安定に向け、他の民間医療機関が採算性などの面から提供が困難となる医療を、地域住民に対して提供する病院ということになります。
特に、日本の各地に点在しているへき地には、その地域への医療を提供する病院が必要ですし、時には救急医療を提供することもあります。
このような地域では、地方自治体が設置者あるいは管理者となる病院が、その役割を担っていることが多いようです。
DPC制度についても理解しておく
次に急性期病院に勤務する医師が押さえておきたいのが、DPC制度の仕組みです。
これは、平成15年に導入された、一般病棟入院患者を対象とした診療報酬の包括評価制度のことです。
基本的には、特定機能病院を対象に行われているものであり、急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度となります。
診療報酬の額は、DPC(診断群分類ともいい、入院期間中に医療資源を最も投入した傷病名と、入院期間中に提供される手術、処置、化学療法などの診療行為を組み合わせて分類された患者群)毎に設定される包括評価部分と、出来高評価部分の合計額となります。
包括評価部分は疾病名や診療行為であるため変えることはできないものの、出来高評価は医師の技量によって変えていくことができます。
したがって、DPC制度を活用しながら、病院の経済を潤すためには、医師の技量にかかっている部分もあるのです。逆にいえば、病院の経営状況を赤字経営にしてしまうか否かも、医師の技量にかかっている部分がある、ということです。
今後、病院の再編はどうなる?
急性期の公立病院は今後どのように再編されていくのでしょうか。
厚生労働省が平成28年8月に公表した“一般・療養病床に係る基準・既存・許可病床数の推移”を見てみると、全国的に基準病床数を既存病床数が上回っている、という結果になります。
基準病床数とは、都道府県ごとに設定されるもので、医療計画の中に含まれています。もう1つの既存病床数は、都道府県ごとに調査を行った時点での実際の病床数を表しており、次のような図式で考えると良いでしょう。
都道府県側から医療機関に対し、いきなり「病床数を減らしなさい」とはなりませんが、「病床数を減らす方向で検討することを推奨」されます。つまり、全国的にみて、病床再編は避けられないと考えられます。
特に、急性期、慢性期、療養病床がまとまっている病院は今後、療養病床(慢性期中心)へと移行していく可能性があります。
また、公立病院の場合は、採算性等の面から民間医療機関 による提供が困難な医療を提供することが役割であるため、療養病床として丸々移行するという可能性は極めて低く、ある程度は急性期病床が残ることになるでしょう。
しかし、公立病院の方針を決めるのは都道府県や市区町村であることから、例えば救急医療を専門とする医師がこの先10年以上、現在勤務する病院で生き残れるかどうかは、病床再編に向けた病院の方針によって変わってきます。
その時、自分がどうするべきかを、今から考えておくことが必要となりそうです。
急性期病院が生き残るには
では、急性期の公立病院が生き残っていくにはどうしたらよいのでしょうか。
現在、全国で検討がなされている保健医療計画の第7次計画は、2018年からスタートし、計画の終了年は2023年となっています。
しかし、日本の医療が大きな変革期を迎えるであろう2025年との差が2年余りしかないため、全国的に早急な対応が必要となることが予想されます。
こういった変化に対応できるかどうかが、病院の生き残りにかかっているとも考えられます。
特に公立病院では、地域医療構想の策定状況を踏まえて、平成32年度を目標に新公立病院改革プランの策定を検討しているところです。
このプランには、病院機能の再編や病床の明確化、経営の立て直しなどが盛り込まれており、病院の生き残りのために先を見据えた計画となっていくようです。
一方で、公立病院の財源は国民の治めている税金となるため、今後の日本の医療情勢によって、このプランの動きが大きく変わることが予測され、地区によっては財源を確保するために病院の再編や見直しを余儀なくされるところが出てくる可能性もあります。
公立病院というと、ひと昔前までは公務員と同等の扱いであり、安定しているというイメージもありました。
しかし、日本の財政面の現状や、多くの公立病院が独立行政法人化している現実を鑑みても、今後は“急性期医療を提供する病院に勤務すれば生き残れる”とはならない可能性があります。
こういった背景も踏まえ、急性期病院への転職を考えていくことを、当研究所ではお勧めいたします。
【参考資料】
健康保険組合連合 医療保障総合政策調査・研究基金事業 急性期医療の機能分化と急性期病院のあり方 に関する調査研究 報告書
http://www.kenporen.com/include/outline/pdf/chosa22_03.pdf
厚生労働省 DPC制度(急性期入院医療の定額報酬算定)の見直し
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000105vx-att/2r98520000010612.pdf
厚生労働省 基準病床数と病床の必要量(必要病床数)の関係性の整理について その2
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000135065.pdf
公立病院改革ガイドライン 総務省
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/hospital/pdf/071224_zenbun.pdf
※この記事は聴覚障害のある方向けに、音声化してYoutubeにアップされています。
この記事を書いた人
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