臨床医から製薬会社への転職 =メディカルドクターへのキャリアチェンジ=
■ 記事作成日 2015/8/4 ■ 最終更新日 2017/12/6
日本の医師の大多数は、言わずと知れた臨床医です。概ね40代頃までは勤務医の割合が多く、それ以降になると開業医が増えていくようですが、やはりみんな臨床医です。
最初から臨床医を目指さず研究医になった医師や、臨床の傍ら研究で成果を上げ、キャリア構築と共に研究分野へシフトしてきた医師はいるとしても、それ以外の仕事で白衣を脱ぐ医師は、あまり多くありません。
タレント医師、文筆家医師、コンサルタント医師、美容健康商品メーカー経営医師…etc.医師という資格を活かして様々な分野で活躍する有名人は枚挙にいとまはありませんが、それは非常に稀なケース、多くの医師のケーススタディにはなりません。
しかし、医師が臨床医・研究医以外の職務をキャリアデザインしようとする時、多くの医師の検討のテーブルに上がる職務もあります。それは、MD=メディカルドクターです。
ご存知の通り、MedicalDoctorとは、製薬会社などの企業で働く医師の事です。一般的に臨床医の平均給与よりもやや高額設定の場合が多く、それでいて当直やオンコールなどはありません。QOMLの高い職務として注目され、医業に邁進しながらもプライベートを充実させたい医師には人気の働き方です。
しかし、臨床医がメディカルドクターに転職するには、多少の勇気を伴う方が多いようです。これまでのキャリアと全く異なるビジネスモデルへの挑戦ですので、転科を伴う転職よりも、ややハードルが高いと思われているようなのです。
けれども、多くのメディカルドクターが臨床医出身というのも事実。業界の見識さえあれば、それほど難しい挑戦ではないのかもしれません。ここでは、メディカルドクターの働く業界と、転職事情について考えてみる事にしましょう。
メディカルドクターの仕事
製薬会社で働くメディカルドクターという職務は、どのようなものなのでしょうか?どのような人が働いているのでしょうか?
医師の皆さんは、「人々の病気や怪我を治したい、人命を救いたい」…という高潔な意思と熱意をモチベーションに、ドクターになられたかと思います。しかし、臨床医として向き合える対象数には限界があります。またドクターが、どんなに当直やオンコールの激務に耐えながら命と向き合っていても、それはいつしか自分自身を疲弊させる事に繋がります。
臨床医からメディカルドクターに転職した医師の多くは、そこで発想の転換をした訳です。「医師としてのスキルを活かして、新薬の開発や普及などに取り組めば、より多くの人の役に立てるのではないか?」…と。
加えて、家族を持つ医師などは、人生の豊かさの答えに、「時間的ゆとり」を求めるようになります。また、中年期以降の医師は、20代30代の頃のようなハードワークが難しくなってくるのも現実です。
多くの医師は、医業としての観点、プライベートの観点の双方から鑑み、メディカルドクターへの道を志しているようです。臨床医からの転職には、未知の世界の職務に思えるかもしれません。しかし、これまでのキャリアの中で、日々しっかりとした研鑽を積んできた医師には、選択の範疇にある職務なのです。
そんなメディカルドクターの主な業務は以下の3つです。
【1】臨床開発
【2】安全性情報
【3】メディカルアフェアーズ
それぞれ詳しく見てみる事にしましょう。
【1】臨床開発…の業務について
臨床開発分野におけるMDの業務は、MR(Medical Representative/情報営業的役割)・CRA(Clinical Research Associate/臨床開発モニター)・CRC(Clinical Research Coordinator/治験コーディネーター)など、内外の多くの医療関係スタッフと連携して、新薬の有効性や安全性のための多角的なデータを集約し、それらデータを元に申請報告書を作成。厚生労働省やPMDA(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency/医薬品医療機器総合機構)などに申請の上、販売の許可を得るための仕事です。
具体的な業務としては…
- 専門領域担当医師として、総合的な治験計画を主体的に立案する。
- 各治験スタッフに遂行依頼を行う個別の治験実施計画書を作成、あるいは作成指示を出す。
- 個別の治験実施計画書に対し、専門領域担当医師として、医学的観点に基づく意見を述べ、必要に応じて各スタッフに指示を出す。
- 個別の治験実施計画書から得られたデータを元に、論文(総括報告書)や申請資料を作成します。また、専門領域担当医師として、医学的観点から意見を述べます。
- 外資系企業に勤務していたり、新薬の開発本部が海外に置かれている場合は、「Global study」「European study」「Asian study」などのエリアに応じた治験計画や治験実施計画書を作成し、その計画遂行から得られたデータに基づいた、論文や申請書を作成するための国際的プロジェクトが組まれます。その際、専門領域担当医師として、プロジェクトのボードメンバーとして参加する事が望まれます。
- グローバルで実施される治験の治験計画書、治験実施計画書が完成する前に、日本のPMDA(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency/医薬品医療機器総合機構)に相談したり、協議をしておく事で、その治験を日本で実施できるように、国内の意見をグローバルの総意に反映させます。それは、国内の専門領域担当医師として、非常に重要な役割として見なされます。
- 専門領域担当医師として、全国の専門医師とコミュニケーションを図って意見を吸い上げ、治験に反映させます。
これらが、臨床開発におけるメディカルドクターの役割です。職務内容は臨床医とは異なりますが、ドクターが専門医の資格を持つ分野で「専門領域担当医師」として働く事は、臨床医で培ったスキルを期待されるものに他なりません。
【2】安全性情報…の業務について
安全性情報分野におけるMDの業務は、治験中あるいは販売中に臨床医や文献などから集められた、あらゆる有害事象を確認査定し、監督省庁への提出文書や新薬の添付文書に反映したり、専門領域担当医師として意見を述べるなどです。それは、ファーマコビジュランスと呼ばれています。新薬から得られる治療利益とリスクを医学的・科学的に評価し、副作用の予防策や、リスクを最小限に抑える方策を講じるという、重要な役割を果たします。
具体的な業務としては…
~ドラッグモニタリング時のファーマコビジュランス~
- 治験時に治験担当医から報告される有害事象の評価。
- 販売時に臨床医から報告される有害事象の評価。
- 専門領域担当医として、社内で「副作用」と評価されたケーススタディーを、医学的観点から最終評価。
- 有害事象が副作用によるものだと評価した場合、その予防策などを講じ、監督省庁に報告したり、全国の臨床医に傾向と対策を伝える添付文書を作成するなど。
- 企業の専門担当医として、医学的専門家として、副作用事象を報告した治験医や臨床医との協議を、必要に応じて行うなど。
- あらゆる文献や学会などによる最新情報を収集のうえ見識を広め、深め、上記各種業務に対応できる状態を保つなど。
~危機管理としてのファーマコビジュランス~
- 治験の初期段階における、新薬から予測される有害事象を予測し、予め有害報告をされた際の対処方法を講じておく。(非臨床試験の結果などから予測)
- 治験の前期で報告された有害事象などから、治験の後期に報告される重篤度合や頻度などを予測し、予防対策を講じる。
- 治験中の有害事象報告などから、新薬の安全性における検討事項を定めて、販売後に遂行される「安全性監視計画」などを立案し、自発的報告や、薬疫学研究などに繋げる。
- 新薬の危機管理(リスクマネージメント)を徹底的に行う事で、新薬の効果や治療的利益が最大限に発揮されるために尽力する。
- グローバルレベルで販売されている新薬については、これら上記全ての事項を、グローバルレベルで対応する。
これらが、安全性情報(ファーマコビジュランス)におけるメディカルドクターの役割です。
【3】メディカルアフェアーズ…の業務について
メディカルアフェアーズにおけるMDの業務は、専門領域担当医師として、担当新薬(商品)のメリット・利益を最大化するための、統括的な販売戦略、販促戦略、PR戦略、広告戦略など全ての局面において、医学的アプローチによる意見を述べるなどし、新薬がビジネス的成功を収め、利益を最大化するための一躍を担う事です。
具体的な業務としては…
- 全国の専門医である臨床医らと情報交換を図り、診察や診断や治療のあり方や、新薬の作用機序などについて見識を深める。
- 海外で創薬された薬物を、日本市場において新薬として開発すべきかどうかについて、医学的アプローチから評価・判断し、企業としてのプロジェクト進行可否の提案を行う。
- 開発された新薬を、できるだけ早く商品化するために、開発計画や戦略・戦術において、医学的アプローチから意見を述べる。
- 臨床研究における倫理指針を遵守し、あらゆるステークホルダーにも同じく遵守させる。
- 新薬の治験や臨床において、医師主導による臨床研究を遂行できるよう支援する。
- 医学的・科学的アプローチによる関連情報を、MRやマーケティング部門などに分かりやすく提供し、社内スタッフに対し専門性の教育を施し、プロジェクト成功の最大化のための支援をする。
これらが、メディカルアフェアーズにおけるメディカルドクターの役割です。
メディカルドクターの求人状況
メディカルドクターの求人数が医師求人の総体数に占める割合は、決して多いものではありません。しかし、季節や景気によるニーズの波は他の医業よりも少なく、一年を通して常に一定の求人があるのが特色です。
また、人類世界共通に有用的な新薬の開発は、当然ながら国内メーカーよりも海外メーカーに絶対数があるため、その求人も自ずと外資系企業が多くなっているようです。例えば、2015年8月調査の段階でメディカルドクターを採用している(と思われる)企業をピックアップしてみただけでも、下記のようになります。
・アステラス製薬
・アストラゼネカ
・イーライリリー
・エーザイ
・エスエス製薬
・大塚ホールディングス
・小野薬品工業
・協和発酵キリン
・グラクソスミスクライン
・サノフィ
・塩野義製薬
・第一三共
・第一三共ヘルスケア
・大日本住友製薬
・大正製薬
・武田薬品工業
・田辺三菱製薬
・中外製薬
・テバ製薬
・ノバルティスファーマ
・バイエル
・ファイザー
・ブリストル・マイヤーズ
・MSD(メルク)
・ロート製薬
・ロシュ
MD転職における転職エージェント選びの重要性
メディカルドクターの求人は、大手エージェントならばどこでも扱ってはいますが、エージェントやコンサルタントによって得手不得手が極端に分かれる職業です。よってドクターが、MDに絞った転職活動を行う場合、臨床医の転職より以上に、転職エージェントの選択が重要性を増してきます。
どんなに評判の高い優良エージェントであっても、支店によっては、あるいは担当コンサルタントによっては、メディカルドクター転職を全く取り扱った事のないケースも珍しくありません。
従って、もしもドクターがMDの転職活動をされる際は、メディカルドクターに特化した専門エージェントか、メディカルドクター部門を擁している大手エージェントなどの門戸を叩き、加えて初期面談を担当されたコンサルタントに、明確に確認する必要があります。
「メディカルドクターの求人募集実績はありますか?」
「メディカルドクター職務の専門知識は豊富ですか?」…と。
その問いに二つ返事で肯定しなかったり、何か質問をしても、このコラムに記載している程度の情報しか得られなかった際は、そのエージェント・コンサルタントを、転職のパートナーにしてはなりません。
私、野村龍一が、医師転職コンサルタントの立場として、口を酸っぱくして言っている事があります。それは…良い転職は、転職エージェント選択時に決まっている…という事実です。
特に、臨床医からメディカルドクターへの転職は、優秀かつ良心的な水先案内人が必要な、非常に重要な局面です。医師にとっては、これまでと全く異なるビジネスモデルでの就業ですから、その中でのルールやモデルなどを予め把握する事ができなかったら、大変な事になるのは目に見えています。
どんなにメディカルドクターのスキルがある医師でも、暗中模索の五里霧中の状態では、スキルを発揮できない結果で終わるでしょう。
そうならないためにも、当研究所が推奨する優良エージェントにおいて、優秀なコンサルタントに転職サポートを担ってもらう事を強くお勧めします。
また、繰り返しますが、優良エージェントの優秀コンサルタントでも、メディカルドクター業務に不得手なケースもあります。従って、どんなに高評価を得ているエージェントに依頼する場合でも、先の質問は必ず確認されて下さい。
「メディカルドクターの求人募集実績はありますか?」
「メディカルドクター職務の専門知識は豊富ですか?」…と。
これが、メディカルドクターへの転職が、臨床医への転職時と異なる重大なチェックポイントです。
メディカルドクターへの転職を志した場合、いくつかのエージェントにコンタクトを取る事になるかもしれません。しかしそのケースでも、「急がば回れ」を体現する大切なプロセスとして、遂行される事を強くお勧めします。
メディカルドクターは高いマッチング率が求められる
先にも述べた通り、メディカルドクターの求人は、それほど多い訳はありません。また、外資系企業の求人が多い事もあり、非常にマッチング性を問われる職業です。ドクターにMDとしての充分な資質があっても、マッチング率が低ければ、なかなか採用されません。それは、A社にとっては好適でも、B社にとっては好適ではない…というような事が多く、まるで結婚相手を選ぶような相性が診断されます。スキルの有無とは別の、社風やプロジェクトへの合致などが非常に重視されるのです。
さらに、ドクターの専門が、その企業が注力している分野であるか否か、現在進行中のプロジェクト分野であるか否かも、重要なタイミング問題となります。MDとは、専門領域担当医師として新薬の開発などに関わる訳ですから、ドクターの専門医資格や臨床実績・研究実績などが、“今まさに必要”という時機でなければ、なかなか採用に至らないのです。
以上の理由から、メディカルドクターへの転職は、現職に就いたまま行う事をお勧めします。
いくらドクターが、MDへのキャリアチェンジの意思を固めていて、充分な資質を持ち合わせていたとしても、退職後すぐに転職できるとは限りません。メディカルドクターの市場は、医師不足と言われている臨床医の求人市場とは異なります。急務を要する求人が少なく、需要と供給のバランスがほぼ丁度良い状態なのです。
従ってドクターがMDへの転職を目指す場合、半年~1年程度の就職活動期間を想定し、転職が決まってから現職を退く転職スケジュールがベターでしょう。
もちろん、タイミングがよければ、予想より早く良い求人に巡り合える事ができます。しかしそれは、結婚相手を見つけるのが早いか遅いかという問答と同じ。その答えは結果論でしかなく、誰にも分からない事なのですから。
メディカルドクターの報酬
一般的なMDの平均年収は、1500万円~2000万円程度だと言われています。メディカルドクターの年収は、一般の臨床医よりも、数百万円多いケースが目立ちます。転職により、300万円アップ、500万円アップ、などいう成功事例が多く見受けられます。
また、外資系企業の専門性を問われる求人では、3000万円以上の高額求人も珍しくありません。別途成果報酬契約が+αで組み込まれたり、ストックオプション制度が導入されている事もあります。外資系の場合、成果に対する対価という考え方が根底にあるため、結果を残したMDは、非常に厚遇される傾向にあります。
そんな魅力的なイメージが広がる外資系企業ですが、一つ重点確認項目があります。それは、「退職金制度」です。外資系企業といっても日本法人、日本的制度の象徴とも言える退職金制度を導入している所もありますが、日本企業の指標より程度の低い場合が殆どです。退職金ゼロ…皆無の所も当たり前にあるのです。
退職金制度とは、労働基準法で義務化されているものではありません。日本企業が終身雇用制を掲げていた頃に、社員の定着率を高めるために一般化した事象です。欧米の企業では、日本で退職金に充てられる分の報酬を、毎年の給与で支払うと言う考え方が主流なのです。
従って、現職の年収より、外資系企業のメディカルドクターの年収が高い場合でも、退職金を勘案したら、それほど多大ではないという事もあります。
外資系企業に転職する場合、その企業で何年働きたいのか?何歳まで働きたいのか?…などを明確にキャリアプランし、年収と退職金を鑑みて、しっかりと見極めて下さい。
もしもドクターが収入を目的にMDへの転職を考えているならば、実に重要な確認項目になるでしょう。退職金を当てに老後の人生設計をしている方は、大番狂わせに成りかねない一大事に繋がるので、入職前に必ず、しっかりと確認されて下さい。
メディカルドクターの勤務時間
MDの仕事は、非常にQOML(Quality of My Life/Medical staffs‘ Lifeの略語)が高い事でも知られています。
臨床医と違って、当直やオンコールはもちろんありません。土日祝日は休日で、有給休暇も取り易い環境です。残業はありますが、日常的ではありません。それはプロジェクトの山場を迎えるような時に限るもので、ひと山越えたらまた、平穏な勤務時間が戻ってくるのです。
そんなメディカルドクターの仕事には、医師が働きやすい制度が多く取り入れられているのが一般的です。
●フレックス制度
多くの企業では、フレックス制度が導入されています。コアタイムと呼ばれるだいたい10時~15時程度(企業により異なる)の必須出勤時間にさえ会社にいれば、遅い出社も、早い退社も問題ありません。
●研究日設定
企業によっては、研究日を設定している所もあります。研究日は医局所属時に与えられていたものと同じような感覚のもので、MDが自由裁量で何の研究をしても、どこで研究をしても構わないという、スキル向上や、論文執筆のために充てられる日です。
●臨床勤務許可
多くのケースで、週に一度程度の臨床アルバイトが認められています。MD本人が望めば、臨床スキルの保持も可能ですし、患者と真剣に対峙するという、医師本来の責務を忘れないでいるための訓示にもなるはずです。
●学会参加の公務扱い
多くの企業で、国内での関連学会への参加は公務として認められているようです。MDの仕事に於いて、専門領域の医師との意見交換や人脈作りは任務の一つですし、先進治療法の把握や優れた論文の認識は、非常に重要な事です。それゆえ学会参加は公務=出張扱いとなり、会社を不在にして良いばかりか、出張旅費や手当も支給される事が多いようです。企業によっては、あるいはMDの領域やスキルによっては、海外の学会への参加を公務扱いにしている所もあるようです。
●各種団体の会合参加の公務扱い
たとえば薬剤師の業界や、ある疾病の患者の会などへの参加も公務として認められるケースが多いようです。
MDには、新薬開発や承認のためのプロジェクトを、プロジェクトリーダー的に牽引する事が求められています。そのため、広い知見と人脈を持つ事が期待されており、それを完遂するために働きやすい環境整備が敷かれていると言えます。
メディカルドクターに期待される資質
医業としての遣り甲斐、QOMLの高さによる時間的ゆとり、比較的高額で安定した年収…そんな人生を叶えてくれる、メディカルドクターという職務には、どんな人材、どんな資質が求められているのでしょうか?
先に述べた通り、MDの職務には高いマッチング率が求められます。そのため、これから挙げる項目は、マストリーという訳ではありませんが、概ねどの企業にも歓迎されるスキルです。メディカルドクターに期待される、一般的かつ基本的な資質を見てみましょう。
●臨床経験
臨床医として5年以上、うち専門領域で3年以上の経験があれば歓迎されます。臨床経験がないMDは、ほぼ皆無と言っていいでしょう。
●専門医と専門分野
MDとして専門領域担当医師になるには、専門領域を持っている事が重要です。認定医よりは専門医、専門医よりは指導医の資格を持つ医師が、歓迎される傾向にあるでしょう。特定の症例の取り扱い件数が多い医師も、マッチングする求人があれば、非常に重宝されます。
●研究経験
臨床医としてのキャリアのみならず、研究医としてのキャリアも重要視されます。執筆した論文に可能性を秘めた医師なども注目されるようです。もちろん、研究医専業のキャリアが必須ではありません。研究者としての視点をきちんと持ち合わせているか?論理的で建設的にプロジェクトを遂行できるか?コンセプト力や文章力を含めた訴求力があるか?などが重要視されるポイントです。
●治験経験
必須ではありませんが、勤務していた病院などで、治験経験のある医師は歓迎される傾向にあります。治験キャリアのある医師は、臨床経験も医学的知識も豊富である証明にもなります。
●英語力
外資系企業でのニーズが高いMDの職務は、基本的な英語力は必須です。仮に日本企業のMDの職でも、海外とのやりとりも想定されるため、ある程度の英語力は求められます。TOEICで700点以上程度のスコアが望ましく、留学経験がある医師は、より歓迎されるでしょう。
●コミュニケーション力
MDの仕事は、内外のスタッフと密に連携し、良質なコミュニケーションの結果がそのまま、プロジェクトの成果に関連するものです。そのため、“机上では優秀だけど…対人コミュニケーション力が低い”というような、旧来タイプの研究医には向きません。
●組織への適応・順応能力
MDが働く企業は、これまでの病院勤務の組織とは全く異なる風土や制度があります。教授を頂点としたピラミッドなどはありませんし、もしもプロジェクトリーダーに就いたとしても、それは絶対君主的なものを意味する事ではありません。誰に対してもフラットなコミュニケーションは絶対で、それぞれの職務を遂行し、その成果を連携し、大きな結果を出す事が求められているのです。また、フレックス制などが当たり前の業界においては、用がある時にいつもスタッフが居る訳ではありませんし、会議の持つ意味は重要度を増してきます。よって、MDの即戦力としての医業スキルより前に、組織や業務に順応できる適性が求められます。
●ルックス力
持って生まれた容姿が絶対と言う訳ではなく、清潔さ、ファッションセンス、TPO、適正体重、歯の美しさ、魅力的な笑顔などのルックス力は、あるに越した事はありません。ルックス力は、即、コミュニケーション力に転嫁する事ができる重要スキルです。特に外資系企業の場合、この傾向は露骨です。持って生まれたものが優れている場合はラッキーですが、それを絶対視してはいけない風土も徹底しています。最も評価されるのは、自助努力で得られるルックス力なのです
MDの職務には、臨床医としても重要であったスキルが殆どです。臨床医として研鑽してきたドクターならば、その経験が転職後のキャリアを助けてくれる事でしょう。
一定の人気が続くメディカルドクターの世界
医師の転職を検討するテーブルに、メディカルドクターという職務がよぎるドクターは多いようです。医師として多くの疾病を治し、命を助ける事ができる社会的意義、時間的ゆとりが持てる働き方、安定した高収入という条件は、全ての医師にとって魅力的に映るでしょう。しかしながら、実際の転職シーンにおいて、メディカルドクターを具体的検討までは成されないケースが殆どではないでしょうか?
その理由は、臨床医の市場とは異なり、メディカルドクターの市場が非常に閉鎖的という特徴にあるかもしれません。
良い求人どころか、MD自体の求人がなかなか表に出ません。その多くは非公開求人で、さらに高いマッチング率が求められる職業である事から、ヘッドハンティング的な性格を持つ求人が多いのです。
全く異なるビジネスモデルへの転職は、情報が無ければ非常に難しいもの。多くの臨床医は、MDの経験などありません。求人が多い訳でも、定着率が悪い訳でもないので、需要と供給のバランスが保たれている領域です。メディカルドクターへの転職は、臨床医から臨床医への転職よりも、より慎重に、専門家の指南を受けながら進める必要があるでしょう。
私、野村龍一が、医師転職コンサルタントの立場から、口を酸っぱくして言っている事があります。それは…良い転職は、転職エージェント選択時に決まっている…という事実です。
特に閉鎖的なメディカルドクターへの転職は、専門的な知見とディレクションが必要です。ドクターがより良い転職を実現できるよう、当研究所がお勧めする優良なエージェントへのコンタクトを、心からお勧めします。
この記事を書いた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
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