医師数を鑑みた医学部定員の在り方
■ 記事作成日 2016/2/17 ■ 最終更新日 2017/12/6
2015年12月10日、厚生労働省が「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会(第1回)」を開催しました。ここでは、全国的にみた「医師数を鑑みた医学部定員の在り方」が検討されていました。
前回の当コラムでは、医師の数が増えている一方で、地域格差が埋まっていない現実をおつたえしましたが、今回も引き続き、「医師が求められている地域はどこか」を考えてみたいと思います。
医師数の増減からみた“地域性”
日本全国でみれば、確かに年間4,000人くらい、医師の数は増えています。過去10年間では40,000人です。「実は医療機関等に従事していない医師」が15,000人くらいいたとしても、もう少し、医師の拘束時間は、短くなっても良いのではないかと感じます。
もちろん、中には「ここ数年で仕事が楽になった」と感じる医師もいるかもしれません。しかし、「当直ではないけど帰れない医師」や、「夜間の呼び出しに対応する医師」も、かなりの数がいるのではないでしょうか。
まず、都道府県別の医師数をみてみましょう。最も多いのはやはり東京都。次に大阪府、神奈川県、愛知県、福岡県が続きます。人口の多さとの比例関係があるようですね。
では次に、都道府県別の「人口10万対医師数」をみてみましょう。
これで見ると、東京は2位、人口10万人あたりの医師数は304.5人です。もっとも多い京都府と比較すると、およそ3.4人の差があります。
現在のところ、ワースト1は埼玉県で、人口10万人あたりの医師数は152.8人しかいません。トップの京都府と比較すると、人口10万人あたりでおよそ半分しか医師がいません。ワースト2位の茨城県が169.6人ですから、埼玉県はそれよりも、人口10万人あたりで17人くらい、医師が少ないことになります。
こうして全国を一様に並べてみると、東日本よりも西日本の方が、人口10万人あたりの医師数が多いことが分かります。
実際の人口でみると、これらとは必ずしも比例しているわけではありませんし、ここ20年間でもっとも人口10万人あたりの医師数が増えたのは沖縄県ですから、都道府県ごとの「医師を増やす政策」や、医療機関独自の「医師の採用を増やすためのアピール」が、成功してきた結果なのかもしれません。
二次医療圏ごとにみる較差
都道府県などの地方自治体が、「必要な医師数」を決めるための枠組みとして、「二次医療圏」があります。厚生労働省によると二次医療圏とは、「一体の区域として、入院医療を提供することが相当である単位(三次医療圏で提供すべき医療を除く。)」であり、二次医療圏毎に病床数を規定しているのは、療養病床及び一般病床(精神病床は都道府県の区域ごとに算定される。)、となっています。
一方、三次医療圏はおおよそ都道府県ごとに1つでくくられており(北海道や長野県を除く)、「少なくとも同一の都道府県内では、三次医療が可能な医療機関が機能していること」が必要です。
これらは現在、都道府県ごとに5年単位で見直しが行われますが、人口の分布や、交通網による人の移動などを勘案して制定されています。
つまり、同じ都道府県の中でも、人口が少なく、交通網が発達していない地域では、かなりの広範囲で1ヵ所の医療機関があるだけ、という地域もあります。それだけ、医師の数にもバラつきがあるのです。
例えば、人口10万人あたりの医師数がもっとも少ない、埼玉県でみてみましょう。
埼玉県は、県庁所在地がさいたま市で、救急告示病院が25もあります(平成22年現在)。一方、すぐお隣の地域である「県央」には、10しかありません。人口の比率は、さいたま地区VS県央で2:1くらいですから、1つの医療機関がカバーする人口にも開きがあるわけです。
では次に、人口10万人あたりの医師数がもっとも多い、京都府でみてみましょう。
京都府内でも、実はかなりのバラつきがあります。
京都府は6つの地域に分かれていますが、京都・乙訓地域は、京都市とその周辺の2つの市と1つの町しかありません。
しかし、京都市内だけで、医師数は6,000人以上、この地域全体で6,250人程度ですから、96%が京都市内に集中していることになり、丹後地区、山城南地区は、全医師数が200人にも満たないという計算です。かなりの地域較差がありますね。
試しに、すぐお隣の大阪府も見てみましょう。
大阪府は、やはり大阪市が突出してはいますが、大阪府全体の38%程度です。京都府と比較すると、人口の偏りや、交通網の発達状況の差があるためか、1ヵ所集中型とは、少し違うようです。
医師が転職するなら、何を基準に選ぶのか
今回はここまで、医師の地域較差をみてきました。医師が転職を考えるとき、医師絶対数が少なく、なおかつ需要に対する供給が追い付いていない地域の方が、「今すぐ(医師に)来てほしい」わけですから、医師に対する待遇が良くなる傾向があります。
しかしその一方で「今まで以上に責任という重圧がかかる」場合や「今まで以上に休めない生活」が待っている可能性もありますよね。また、需要に対する自分のスキルが、どこまで合致しているのかも、良い転職をするためには、必要な情報となります。
では、医師が転職を考えたとき、どうすれば良いのか。
焦らず、じっくりと、多くの医療機関の情報を収集することです。多少の忙しさは厭わないのが医師でもありますが、自分が働けなくなるほど過酷な状況に、敢えて飛び込まなくてはならない状況は、そうそうありません。
まずは、じっくりと「その土地が、どのような特徴のある地域なのか」「その中で(転職しようとしている病院は)どのような立場にあるのか」「病院や地域のニーズと、自分のスキルと合致するのか」を、じっくりと見極めても良いのではないでしょうか。
そのためには、あらゆる角度からの「分析」が必要です。こういったことに長けているエージェントを、うまく見つけることが、良い転職の第一歩かもしれません。
【参考資料】
厚生労働省 平成26年(2014)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/gaikyo.pdf
同上 統計表
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/toukeihyo.pdf
同上 結果 1医師
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/kekka_1.pdf
同上 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会(第1回)
資料4.医師の需給に関する基礎資料
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000106726.pdf
首相官邸 医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会
医療・介護情報の分析・検討ワーキンググループ(第7回) 資料
地域・年齢階級別医師数について(厚生労働省提出資料)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shakaihoshoukaikaku/wg_dai7/siryou4.pdf
e-stat 平成26年医師・歯科医師・薬剤師調査 医療施設従事医師数,主たる診療科・従業地による二次医療圏・市区町村別
https://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02020101.do?method=extendTclass&refTarget=toukeihyo&listFormat=hierarchy&statCode=00450026&tstatCode=000001030962&tclass1=000001077021&tclass2=&tclass3=&tclass4=&tclass5=
厚生労働省 埼玉県 地域医療再生計画(平成24年度補正予算)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/saiseikikin/dl/h24_saitama-keikaku.pdf
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