厚労省「医師需給分科会」は既に8回開催を迎えた
■ 記事作成日 2016/10/13 ■ 最終更新日 2017/12/6
日本全国で医師不足が公の場で議論されるようになって、早10年。実はそれ以前に一度、医学部定員を減らす、という動きがあったそうです。
その頃から徐々に、医師不足や、地域偏在などが社会問題化し、平成18年(2006年)ごろから今度は「医師を増やそう」という動きになりました。しかし現実には、医師不足はますます深刻化しています。
今回は、地域における医師偏在問題を中心に、医師転職の難しさを考えてみます。
国の動きは早いのか?遅いのか?現実が見えているのか?
厚生労働省では現在、「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」という検討会が、昨年末からのおよそ10カ月の間に、すでに8回開催されています。
これは本来、医療者全体に対する「人員不足をどうするか」を検討し、医師、看護師、理学療法士・作業療法士それぞれで分科会が設置されるはずでした。しかし、医師不足が本当の意味で深刻化しているという観点から、「医師需給分科会」が、他の分科会に先立って行われるようになりました。
「医師需給分科会」の第1回資料をみると、次のように書かれています。
- 平成 29 年度で終了する暫定的な医学部定員増の措置の取扱いをはじめとした今後数年間の医学部定員の在り方について早急に検討する必要がある
- 都道府県が平成 29 年度中に第7次医療計画(平成 30~35 年度)を策定するに当たり、医療従事者の確保対策について具体的に盛り込むことができるよう、各分科会とも、平成 28 年内の取りまとめを目指す
つまり、現在は医学部の定員が、若干とはいえ増加傾向にありますが、これもあと1年で終了してしまうため、そこから医学部定員を増やすことが難しくなります。新しい医師の誕生は、現状の維持のままになってしまうということです。
また、当サイトの別コラムでも取り上げている、各都道府県の「保健医療計画」ですが、これもあと1年半もすれば、全国的に新しいものになりますので、中身ががらりと変わる可能性もあります。
各都道府県で新しい「保健医療計画」を立案する前に、特に医師の確保対策について適切な助言をしつつ、実現可能な計画を立てる必要性に迫られているということです。
「医師需給分科会」の資料を垣間見てみると、今年度末まであと半年足らずですが、未だ解決の糸口は見いだせていないという印象を受けます。
医師不足となる原因は何か
これには諸説様々なものが有ると思いますが、ここでは2つの視点に絞って考えてみます。
1.医師の絶対数の不足
現在の日本では、医学部の定員を増やすなどの対策により、医師の実数は増えているかもしれません。しかし、まだまだ「何でこんなに忙しいんだ!」と感じる医師は、全国的に相当数がいると思われます。
日本の医師数はそれなりに増加していますが、厚生労働省の平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況によると、人口10万人あたりの医師数は244.9人であり、ここ数年、着実に増えているようにみえます。しかし国際的にみると、OECD加盟国の中ではワースト2のようです。
OEDCのデータにも2015年のデータがありましたが、データが一番揃っているのが2013年現在でしたので、そちらをグラフ化しています。これを見ると、やはりまだまだ足りないのではないか、と考えてしまいますよね。
2.診療科に属する医師の需給不均衡による不足
2004年からスタートした「新医師臨床研修制度」により、医師になってからの2年間は、複数の科で研修を受けるようになりました。
この研修終了後に、実際に所属する診療科や医局を選択できるのは良いのですが、ローテーションの順番によっては、右も左も分からぬままに過酷な勤務状況を目の当たりにすることがあり、「人気の無い診療科」が出来てしまったとも考えられます。
また、女性医師が増えることは喜ばしいことなのですが、妊娠・出産後も働きやすい環境が整備しにくい診療科では、やはり医師不足が増長されているようです。
医師の偏在、双方の思惑の違い
日本ではもう1つ、「医師の偏在」という大きな課題があります。
例えば、高知県は人口10万対医師数が京都府、東京都、徳島県に続いて4番目に多いことになっています。しかし実際は、「そもそもの県民数が少ないために、人口10万対医師数が多くみえている」と、高知県の保健医療計画の資料には書かれています。
医師数が多い地域でも、実際には医師の高齢化などにより、診療の継続が困難な地域もあるようです。
この図は、都道府県ごとの人口と、都道府県ごとの人口10万対医師数を比較したものですが、これを見ると、高知県での課題は、恐らくお隣の徳島県でも、似た様な状況にあると推測できます。
また、人口10万対医師数は、西日本と比較すると東日本の方が少ない地域が多くなります(東京都は除く)。
しかし都道府県ごとの人口と併せて考えると、やはり高知県同様、医師の絶対数というよりは、そもそもの人口が少ないために、人口10万対医師数が多くみえている地域も、あるのではないでしょうか。
このような課題に対し、どの地方自治体でも、どうすれば地元に医師が残ってくれるのかという真剣な議論が交わされています。明らかに必要な科の医師が不足している地域では、医師に対して高額な報酬を準備することもあります。
しかし、それでも地域偏在が解決できない理由があるのです。医師側の心境を代弁するならば、
- 都会の病院の方が、より多くの症例について学ぶことが出来ると考えてしまう
- 生活圏の状況や子どもの教育を考えたら、都会から離れられない
- 過酷さが今よりも増すならば、行きたくない
- 高い報酬であることが住民に伝わると、非難を浴びる可能性がある
などがあると思います。
一方で、医師を招聘したい自治体側の状況を考えると、高齢化により地方自体でも財政難になる可能性があるため高い報酬を準備するのが難しい、といった現実もあると思います。
少子高齢化の進むスピードが早い地域であればあるほど、こういった課題は(表には出なくても)常に抱えているのではないでしょうか。しかし、そういう自治体こそ、より多くの優秀な医師を必要としているのも事実です。
ここに、大きな矛盾が生じてしまうことも、医師の偏在が解決しない理由の1つではないでしょうか。
日本の医療は、医師のウデの良さに関わらず、診療報酬により医療機関の収入が決まりますので、経営者視点からみると、「若くて低報酬でも働いてくれる医師の方が良い」という病院もあるでしょう。
また、都会から離れれば離れるほど医師の需要が高くなるのは当然ですが、1つの道に対するエキスパートを求めるのではなく、幅広い疾患に対する診療ができるいわゆる「総合診療医」のような働きが期待されている地域もあります。
医師の転職は、自分の意思が尊重されているように見えて、実際は働き始めてから「こんなはずじゃなかった」と思うことが多いのではないでしょうか。それだけ、医師の転職は慎重になる必要があるのです。
【参考資料】
医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会(第1回)
資料1.医療従事者の需給に関する検討会の今後の進め方について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000106723.pdf
同上 資料3.医師の需給に関するこれまでの経緯
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000106725.pdf
厚生労働省 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会(第2回)
参考資料 医師の需給に関する基礎資料
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000111914.pdf
厚生労働省 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会(第7回)
資料2.医師偏在対策の主な論点について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000137004.pdf
同上 資料4.医師偏在対策に関する基礎資料
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000120212_8.pdf
同上 資料5.新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会 開催要綱
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000120211_8.pdf
OECD Health Statistics 2016
http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=HEALTH_REAC
e-Stat 医師・歯科医師・薬剤師調査 平成26年医師・歯科医師・薬剤師調査 統計表 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001141060
同上 人口推計 各年10月1日現在人口 年次 2014年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001132435
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