厚生労働白書から読み取る「生き残る医師像」
■ 記事作成日 2016/11/17 ■ 最終更新日 2017/12/6
先日、厚生労働省より「厚生労働白書」が公表されました。
厚生労働白書とは、厚生労働省がおこなっている行政に関する年次報告書として位置づけられており、毎年少しずつ、取り上げる内容が変化しています。
今回はここから、これからの医師に求められるものを考えてみたいと思います。
2016年度の厚生労働省が考えていることとは?
厚生労働白書は、毎年、その構成が変わります。
2016年度版をみると、見出しは次のようになっています。
- 第1部 人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える
- 第1章 我が国の高齢者を取り巻く状況
- 第2章 高齢者の暮らし、地域の支え合い、健康づくり・介護予防、就労に関する意識
- 第3章 高齢期を支える医療・介護制度
- 第4章 人口高齢化を乗り越える視点
- 第2部 現下の政策課題への対応
- 特集1 一億総活躍社会の実現に向けて
- 特集2 平成28年熊本地震への厚生労働省の対応について
- 第1章 子どもを産み育てやすい環境づくり
- 第2章 経済社会の活力向上と地域の活性化に向けた雇用対策の推進
- 第3章 安心して働くことのできる環境整備
- 第4章 自立した生活の実現と暮らしの安心確保
- 第5章 若者も高齢者も安心できる年金制度の確立
- 第6章 医療関連イノベーションの推進
- 第7章 国民が安心できる持続可能な医療・介護の実現
- 第8章 健康で安全な生活の確保
- 第9章 障害者支援の総合的な推進
- 第10章 国際社会への貢献と外国人労働者問題などへの適切な対応
- 第11章 行政体制の整備・情報政策の推
参考資料をのぞくと、トータルで500ページほどありますが、そのうち、225ページまでが、高齢者の生活や、医療・介護の現状、今後の動き(予測)、国としてやるべきことなどが記載されています。
厚生労働省は本来、「厚生」と「労働」を司るわけですから、全体的におよそ半分が、「厚生(生活そのものや健康に生きる術など)」に関することであり、およそ半分が「労働(労働環境や、働きながら生きるための術など)」に関することである、というのは納得できます。
「労働」の中に「医療」が入り込んでいること、逆に「厚生」の中に「働き方」などが入り込んでいることも、当然といえば当然かもしれません。
しかし、第1章の初めから、日本の高齢者の現状を提示しているのは、日本の高齢化社会に対する危機感の現れなのかもしれません。
試しに、2006年頃の厚生労働白書をみると、その構成は次のようになっています。
- 第1部 現代生活を取り巻く健康リスク-情報と協働でつくる安全と安心-
- 序章 現代生活と健康
- 第1章 安全で信頼できる食を求めて
- 第2章 現代生活に伴う健康問題の解決に向けて
- 第3章 安全で納得できる医療の確立をめざして
- おわりに 社会全体で健康リスクを低減するために
- 第2部 主な厚生労働行政の動き
- 第1章 安心して子どもを生み育て、意欲を持って働ける社会環境の整備
- 第2章 労働者の職業の安定
- 第3章 労働者の職業能力の開発・向上と能力発揮の環境整備
- 第4章 安心して働ける環境づくり
- 第5章 高齢者が生きがいを持ち安心して暮らせる社会づくりの推進
- 第6章 障害者施策と地域福祉の推進
- 第7章 国民が安心できる医療の確保
- 第8章 医薬品・医療機器等の安全性の確保
- 第9章 健やかな生活を送るための取組み
- 第10章 国際社会への貢献
- 第11章 行政体制の整備
この頃は、国民全体の健康に重きがおかれ、食の安全、安心できる医療などに関心が集まっていたのでしょう。
この数年後には、特定健診・特定保健指導が始まります。また、バブル崩壊後の日本経済が安定し、やや上向きになっていた時期ですので、労働環境に関するものも取り上げられています。
こういった時代の変化を鑑み、厚生労働白書は毎年、取り上げる内容も変化しているのです。
高齢者医療の現状を改めて考える
日本における人口構成の変化、高齢化率の変化、などは、さまざまなところで語られ、それを表すグラフ等も、すでに多くのメディアを通じて、報道されていますよね。
日本の高齢化は、世界に類を見ないスピードで進展しており、今後はアジアの各諸国でも、急速に高齢化が進展していく見込みであるとされています。
特に、中国や韓国では、日本よりも早いスピードで、高齢化が進んでいくと予測されています。
日本の場合で考えてみましょう。
都道府県別の高齢化率をみると、現在はまだ「大都市圏に属する都府県や沖縄県で低く、それ以外の地方圏で高い傾向」であるとされます。
しかし今後はこれが逆転し、「大都市圏に属する都府県で65歳以上人口は急増、一方で、秋田県などの7県では減少」すると予測されています。
言い方は悪いですが、これは、「現在、大都市圏で多くを占める労働人口は今後急速に高齢化し、それ以外の地方圏ではすでに多死社会が始まっているため、結果的に高齢者が占める割合が減ってくる」とも見て取れます。
これとは別に、自分が高齢者となった時の生活圏についての調査結果があります。
これによると、「老後は、現在住んでいる自宅で過ごしたい」人が全体の7割以上を占め、さらにその条件として「医療機関が身近にあること」が5割以上を占めています。
また、現在でも高齢者の単身世帯は、周囲から見て何かと問題視されることがありますが、実際に高齢単身世帯に住む当事者の方も、将来への不安として「病気になった時のこと」「介護が必要になった時のこと」を上げている人が、それぞれ8割近くいるようです。
医師をふやしたい場所、増えてほしい場所
ここで、日本の医療の現状に視点を移してみましょう。
前回の当コラムでもお伝えした通り、日本は人口に対する医師数が、かなり少ない国です。
その反面、人口あたりの病床数はかなり多い国でもあります。
つまり、病床数に対する医師数が非常に少ない国であるといえますね。
日本人はまだまだ、「具合が悪くなったら病院へ」という意識が強く、「最期は自宅ではなく病院で迎える」ことが多いという国民性があり、厚生労働省の思惑通りには、「病院よりも在宅医療へ」という動きが、進んでいないのかもしれません。
では、国として、国民として、今後医師を増やしたい場所、増えてほしい場所は、どこなのでしょうか。
日本の医師を増やそうという動きも、今後はブレーキがかかることになりますので、医師の全体数が急に増えることは望めません。
限りある「医師」というリソースを、余すところなく活用していくためには、日本全体で病床数を減らし、医師一人あたりの労働負担を軽減させ、ちょっとした体調の変化に対応できる人材を育成していく必要がありそうです。
これがそのまま「総合診療医」という考え方に結び付いていきます。
特に、医師の質を確保していきたいのは、地域の高齢者の健康管理を一手に引き受けるような、無床の診療所や、訪問診療の現場となるのでしょう。
医師へ労働対価は、他の職業よりも高額ですから、国や地方自治体は、これも確保していかなくてはなりません。
特に地域全体の健康を支える立場の医師には、大いなる敬意を払うべきですし、医師が倒れてしまっては本末転倒なわけですから、その労働環境を維持していく方策も必要になります。
こういった「医師の受け皿」となるべき様々な状況を充実させないと、医師自身が本当に良かったと思える転職には、結び付いていかないというのが、今の日本の現状ではないでしょうか。
【参考資料】
厚生労働省 平成28年版厚生労働白書 -人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える-(本文)全体版
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/16/dl/all.pdf
同上 平成16年版 厚生労働白書 現代生活を取り巻く健康リスク-情報と協働でつくる安全と安心-
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/04/
内閣府政策統括官室 日本経済2004 -持続的成長の可能性とリスク
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2004/1219nk/04youyaku.pdf
厚生労働省 平成20年4月から特定健康診査・特定保健指導が始まりました
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info02_66.pdf
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