大学病院(医局)勤務を改めて考察してみる
■ 記事作成日 2017/2/1 ■ 最終更新日 2017/12/6
“大学病院”というとベテランの医師もいますが研修医も含め若い医師が多いというようなイメージがありませんか。医師以外の例えば看護師なども、卒後すぐに就職する先が大学病院である人が多いため、どうしても平均年齢は若くなります。
今回は、大学病院で求められる医師の資質と、中堅以降での大学病院への転職について、考えてみます。
大学病院に勤務する医師の実態
厚生労働省の平成26年(2014) 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況によると、病院に勤務する医師の年齢は30歳代から50歳代までの構成割合はそれぞれ20%代と、比較的満遍なく従事しているのに対し、大学病院では30~39歳代の医師が45.1%となり、40歳代を上回る年代の医師はかなり少なくなることが分かります。
平均年齢でみると、全医療施設での平均年齢が49.3歳、病院が46.2歳であるのに対し、大学病院は38.7歳と、全体的に若くなります。つまり、他の医療職種と同様、大学病院に勤務する医師は、全体的に若い医師が多いことが分かります。
大学病院勤務についての再考
まずは、大学病院とはどういった病院のことと定義されているのかを考えてみます。
大学病院とは、医科大学に付属している病院であり、診療、研究、教育研修の役割を担う病院となります。医師が大学病院に勤務する場合、各診療科の構成単位である“医局”が、医師の配属先ですから、ので、大学病院に勤務するということイコールその医局に所属する、ということになります。
大学病院の大きな特徴としては、その管轄が挙げられます。医療機関は一般的に、厚生労働省の管轄となります。しかし、医科大学を母体とする大学病院は、医科大学の部分は医育機関という扱いになり、これは文部科学省の管轄となります。
つまり、厚生労働省と文部科学省という、2つの国の機関からの管轄を受けているということが、他の医療機関とは違う、という特徴があります。
大学病院で働く勤務医の役割
次に大学病院で働く勤務医の役割について考えていきます。大学病院の役割は前述したように診療、研究、教育研修という役割を担っていますので、大学病院で働く勤務医は、この役割を担っていかなければなりません。
大学病院には、先進的医療の推進という大きな目的があります。また、地域医療の最後の砦として、高度医療の提供も行っていくため、高度先進医療を患者へ提供するという役割が、大学病院の勤務医にはあります。
次に研究です。大学病院は臨床研究の場としての役割があり、新たな診療法を開発するという社会的な役割を担っています。そのため、臨床研究は必要不可欠と言っても過言ではありません。臨床研究の内容にもよりますが、研究の被験者となる患者へ、実際に“研究中の医療”を提供することも、大学病院勤務医の役割となります。
そして、教育研修です。大学病院の本来の目的は、この教育研修であり、医師・歯科医師の養成に必要な実習内容を充実させるという義務があります。そのため、教育研修の指導に携わるのも、勤務医としての重要な役割となります。
大学病院勤務のやりがいとは
大学病院に勤務する医師のやりがいとは何なのでしょうか。大学病院は日本全国で163施設あり、そのうち本院(医科大学と同じ敷地内にある病院)が79施設、分院が55施設となります。その中でも大学病院の本院78施設が、特定機能病院に認定されています。
大学病院の役割、そしてこの特定機能病院に認定されているという部分に焦点を当てて考えていきます。
まず、診療です。高度医療、先端医療を提供するのが大学病院ですから、その医療に携われるということは大きなやりがいではないでしょうか。特に、年間の先進医療の施行数は、特定機能病院の承認要件ともなっており、高度先進医療に携わる頻度は、決して低くないと考えられます。
また大学病院は一般病院と違い、多くの病院で受診のための紹介状が必要であり、その紹介率も承認要件となります。そのため、一般病院と比べて、各診療科に特化した症例や、いわゆる“珍しい症例”の診療を行うことができるというのが、やりがいにあたるのではないでしょうか。
次に研究です。特定機能病院にはその承認要件の中に年間70件以上の英語論文の提出というものがあります。そのため、平均すると月に5~6件以上の臨床研究が、平行して行われていることになります。
医師として患者を診療するだけでなく、医療のさらなる発展へ貢献したいと考えている医師にとっては、多くの研究ができるこの環境は、非常に恵まれていると言えるのではないでしょうか。そして、研修です。特定機能病院の承認要件には、高度な医療に対する研修も挙がっているため、研修の頻度は一般病院と比較すると、より高度かつ深い臨床医としての研修が、数多く行われていると考えられます。
これらのことから、たくさんの症例や高度先進医療に携わりたい、医療のさらなる発展のために研究したい、専門的な研修により知識を高めたいという医師にとっては、非常にやりがいのある環境であるといえます。
その一方で、患者1人1人と時間をかけて向き合いたいという医師にとっては、大きなジレンマを抱えてしまう環境かもしれません。
大学病院勤務医の給与
最後に大学病院の医業収支や平均年収について見ていきます。
厚生労働省が行った、平成27年の「医療経済実態調査 (医療機関等調査)」によると、得的機能病院全体と、そのうちの国公立を除く医療機関で比較すると、特定機能病院全体に比べ、国公立を除いた医療機関の方が、1医療機関あたりの収支が、黒字傾向にあることが分かります。
特定機能病院全体では、若干ですがマイナス収支です。
医師の年収は、勤務している医療機関の経営状況によりある程度は変動しますので、国公立よりは、私立の大学病院の方が、平均年収でみれば高くなるのかもしれません。
しかし、一般病院と比較するとどうでしょう。平成27年の「賃金構造基本統計調査」などから複合的に考えると、医師の年収には次のような傾向があります。
- 医療機関規模が大きくなるほど、医師の平均年収は低くなる傾向がある
- 従業員規模1,000人を超えるような医療機関では、月収よりもボーナスの方が高い
- 医療機関の規模が大きくなるほど、医師の平均年齢は若く、勤続年数も短くなる
一般病院は、従業員規模でいえば100人~999人のクラスですが、病院によってはそれよりも少ない従業員数のところもあるでしょう。医師の給与という面でみれば、従業員規模と反比例する形になります。
大学病院の場合、ある程度の年齢になると、助教や教授などの肩書がついてきます。こうなると、平均年収は各段に高くなってきます。しかしこれにも人数の上限はありますので、全ての若い医師が、いずれその椅子を狙えるわけではありません。
結果的に、中堅クラスの医師が平均給与を超える年収を得るためには、医療機関の規模が小さくなる方が得策、ということになるのではないでしょうか。中堅クラスの医師が、転職して大学病院の勤務になるためには、自らに課せられるであろう課題(業務)をこなしていく体力や、それまでにずば抜けて優秀な成績を残していく必要があります。
例えば、大学病院でそれまでに無い分野での教育をスタートする際に、他の医療機関で優秀な成績を残している医師をスカウトする例もあります。しかし、これはごくまれなケースであると考えて良いでしょう。
【参考資料】
平成26年(2014) 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/gaikyo.pdf
信州大学医学部附属病院
http://wwwhp.md.shinshu-u.ac.jp/function/
公益社団法人全日本病院協会
http://www.ajha.or.jp/guide/6.html
平成26年(2014) 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/gaikyo.pdf
厚生労働省 大学医学部・附属病院の状況
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0908-4h.pdf
厚生労働省 特定機能病院の概要
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000107561.pdf
厚生労働省 特定機能病院の承認要件について
http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=146673&name=2r985200000337n0_1.pdf
「勤務医の給料」と「開業医の収支差額」について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken12/iryouhoushu.html
厚生労働省 第20回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 - 平成27年 実施 -
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/20_houkoku_iryoukikan.pdf
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