医師には「転職年齢と時期」が、医局には「辞められるタイミング」がある
■ 記事作成日 2015/9/8 ■ 最終更新日 2017/12/6
「結局、私の人生にとって医局って何なのだろう。」これは、多くの医師が、キャリアのそこかしこで考えるテーマでしょう。
現在の臨床研修制度になって以降、医局の力は一昔前より随分と小さくなってきたと聞こえてきますが、医局体制は依然としてその体裁を堅持しています。教授という一人の人間を頂点に、ピラミッド形式で組織されている医局の中で、一介の医師はどう立ち回れば良いのでしょうか?
医局に属する医師は、自らのキャリアデザインの中で、「望む技術研修が積めない」「望む症例数を積めない」「雑務に追われ研究ができない」「望まない医療機関で働かなければならない」…などと、医局という大きな壁に何度もぶつかり、跳ね返されながら生きています。
しかしながら、大きなジャンピングボードにも成り得る「医局」には、それ相応の魅力もあるため、医局と決別する生き方を、そう簡単に選択できるものではありません。
もちろん、医局で苦労しながらも、最終的に、望むポジションに就ければ良いのです。しかし、誰もが海外留学できる訳でも、博士号をとれる訳でもありませんし、教授や准教授になれる医師なんて…ほんの、ほんの一握りです。
医局とどう付き合い、どのタイミングで見切りをつけるべきか?…医局員としてのメリットが頭打ちになったと感じたならば、今後のキャリアデザインや生涯収入を考え、医局を出た方がいいタイミングは必ずあります。
医局の辞め時、医師が転職できる時期とタイミングについて、考えてみる事にしましょう。
医局に属していないと出来ない事。
医局を辞める前に先ず考えなければならないのが、「退局後にできなくなってしまう事は何か?」…についてです。できなくなってしまう事が、ドクターが描くビジョンと関係があるのか無いのか?…が、退局するかしないか選択する際の、第一義の決定ポイントでしょう。それらがどんなものなのか、見てみる事にしましょう。
教授や准教授という職階を目指す事
当然ながら、教授や准教授という大学内の職階を目指す道は、退局によって100%完全に閉ざされます。大学病院内での研究・人事・研修における権限を一手にし、医局という研究グループの頂点にいるのが教授ですから、退局で出来なくなる事の最たるものは、職階を目指すという事に尽きるでしょう。
職階を求めるならば、若いうちから医局に馴染み、教授をはじめとする全ての上司や上級医師に、反感を買われない立ち振る舞いが重要です。またそれに加えて、相応のキャリアを積む事を忘れてはなりません。
- 海外留学経験のある事
- 博士号を取得している事
- 専門医資格を取得している事
- 研究成果を上げ研究予算を獲得している事
これらの至難の業を、医局と言う難儀な派閥内において、うまく立ち回り、やってける人材なければなりません。
つまり、一定の年齢になったドクターが、職階を目指すための条件を満たしていなければ、他のキャリアを考えた方が良い可能性が高いと考えられます。その時に、医局を辞めるという選択肢が優位な道になるのでしょう。
大学院に進み、博士号を取得するという事
博士号をとる事も、医局を辞めると非常に難しくなります。大学院進学には入試がありますが、その試験を吟味するのは、もちろん医局の長である教授を筆頭にした上層部だからです。博士号の取得を目指すタイミング別に、その道を考えてみましょう。
初期臨床研修を終えたタイミングと時期の場合
通常、博士号の学位を目指す場合、大学で「学士」、大学院の修士課程で「修士」を取得後に、大学院の博士課程に進んで「博士」を取得する事になります。しかし、医局で初期臨床研修を終えた医師が大学院に戻る場合、いきなり博士課程に進む事ができます。後期臨床研修で医局に入ったならば、医局員として臨床研修を受けながら、大学院で専門分野の勉強ができ、博士号を取得する道が拓けるという訳です。
後期臨床研修を終えた以降の場合
現在の臨床研修制度が始まったのが2004年ですから、現在就業している多くの転職適齢期医師は、医局所属が絶対だった頃の前制度下で学んだ人材でしょう。
従って基礎医学研究だけに特化したドクターでなければ、臨床医として医局付きの勤務をしながら、博士号取得のチャンスを伺う…「医局に入り、然るべき時期が来たら大学院に進学し、博士号を取得する。」そんなキャリアパスが当然の時代でした。
…では、その然るべき時期とはいつか?…
それは、教授から「そろそろ博士課程に行け」…と言われる時期に他なりません。
医局は、准教授や講師などがチームとなって研究をする場でもあるため、その大切な研究の人手が足りない時に、優秀な若手を大学院に送り、研究員に充てる事があります。
しかし医局では、大学病院の診療科や市中の関連病院での臨床も大きな仕事となっているため、医局員を博士課程に行かせるという事は、臨床現場での働き手が少なくなってしまうという事にもなります。
また、大学院には当然ながら定員があり、博士号取得を望む全てのドクターが、望む時期に進学できないという事情もあります。
このような背景から、医局では、「博士号を取得させるべき人材を吟味し、優先順位をつけ、選定していく」…という訳です。
従って、博士号への取得を命じられる医師は、研究分野において才覚を認められた者や、将来職階の重要ポストに就かせたいと思われている有能な者、実家が開業医である者、医局の属する大学の出身者である者…などが、選定されやすい人材だと言われ、特に帝大一期校などの名門大学では、この傾向が顕著だと言わざるを得ないでしょう。
博士号の取得を目指すドクターは、医局に属していなければ、なかなか大学院進学の好機が訪れにくいと言えます。とはいえ、医局に属しているからと言って、希望している誰もが必ず、博士課程に進学できる訳ではありません。
もしもドクターが、是が非でも「博士号」にこだわるならば、名門大学の医局に拘らず、別の大学院への道を探した方が良いケースもあります。幸いにも、以前と比べて今は、出身大学をそれほど問われない時代となっています。
もしもドクターが、名門医局付きの医師で、一定の年齢になっても大学院進学の道が拓けなければ、上層部から研究や職階の道では期待されていない…と、思った方が賢明です。そしておそらく、何年待っても状況は変わらないでしょう。そんな時、転職というキャリアチェンジの道の方が、より優位な道となりうる事があるのです。
海外の医療研究研修機関に留学をする事
海外留学の経験は、臨床研究や基礎研究の幅を広げるという意味だけではなく、将来大学内の職階を登ろうと考えた場合…つまり、教授や准教授になろうとするならば、絶対に通過しなければならない、不可欠なキャリアと言っても過言では無いでしょう。
そんなドクターの海外留学先は、通常、教授のコネクションによって、医局員たちに振り分けられます。教授ネットワークの伝手で、海外の大学や病院などに配属されるのです。
…医局に頼らなくても、自力で留学したらいい…もしもドクターがそう考えたならば、かなり安直な発想だと言わざるを得ません。日本で教育を受けたドクターが、教授の声掛かり以外で、自力で海外留学先を見つける事は、至難中の至難、ほぼ不可能だと言って良いでしょう。
なぜなら、日本の医師免許が、そのまま海外で通用するケースは通常ではありません。例えばアメリカで臨床医として働く場合、USMLE(米国の臨床医資格)の取得・TOEFL試験の規定スコア突破・模擬臨床テストの突破が必要になります。
臨床研究ではなく基礎研究の道で留学するケースでも、当然、大学院などに自力で進学する必要があります。…つまり、日本のアカデミーで教育を受けたドクターが、海外のアカデミーの中で、言葉の壁もカリキュラムの壁も乗り越え、何の伝手もない中で現地のドクターと競ったうえでそのポジションを獲得しなければならないのです。
教授の伝手ならば、海外の有名教授がいる名門研究室に、即入室する事もできますが、それ以外の方法は、非常に難しいものです。…つまり、医局を辞めるという事は、海外留学への道が、ほぼ閉ざされたと言っても過言では無いのです。
大学病院に勤める事
医局を辞めた医師が大学病院に勤める事は、非常に難しくなります。出身大学・出身医局の大学病院への勤務は、不可能に近いと言わざるを得ません。
仮にドクターが医局を辞めて、市中の病院でうまくいかずに、頭を下げて医局に戻ったとしても…医局人事で関連病院に派遣されるのが関の山です。
また、他の大学病院に移ろうと考えても、医局の息がかからない退局医師を、そうそう雇ってくれる所はありません。ドクターが辞めた医局との関係性を気にかけ、それでも一人のドクターを優先し、採用する大学病院など、殆どありません。
先進医療の推進をしているのが大学病院ですから、ドクターがそのようなポジションで医療に従事したいならば、易々と医局を辞める決断は避けた方が良いでしょう。もしも他大学の医局に入局する場合でも、教授や他の研究機関のコネクションが無ければ、なかなか厳しい世界なのです。
研究で成果を上げる事
研究に従事する事・研究で成果を上げる事も、医局を離れると難しくなる事の一つです。大学病院は臨床だけでなく、研究も大きな目的となっているため、臨床に従事しながらも、研究日が設定されているドクターも多い事でしょう。しかしながら、市中の病院では、研究日までもらえるドクターは多くありません。
また、そもそも研究体制が敷かれていないため、研究自体が難しくなり、研究に従事するならば、自分自身で地道に症例をまとめ上げていくなどの孤独な作業になります。医局に属さなくとも、学会を通じて研究成果を発表する事はできますが、医局の研究環境よりも、厳しいものになる事は否めませんし、研究テーマ自体も、小規模なものになる事でしょう。
医局を辞めたら出来なくなる事・出来にくくなる事の代表的なものについて見て来ました。
- 教授や准教授という職階を目指す事
- 大学院に進み、博士号を取得するという事
- 海外の医療研究研修機関に留学をする事
- 大学病院に勤める事
- 研究で成果を上げる事
これらの職務に興味が無い人は、いつ医局を辞めて、市中の病院に転職しても良いでしょう。しかし興味がある人は、一定の時期までは医局に留まる事が賢明かもしれません。しかし、年齢とキャリアを鑑みた場合、「これ以上医局にいても頭打ち」になり、見切りをつけた方がいいタイミングが必ず来るのです。
見切りをつけ転職した方が良いタイミングと時期とは?
では実際に、「医局の辞め時」は、いつになるのでしょう。退局したらできなくなる事に未練が無い事が前提で、能動的な理由による「辞め時」を考えると…
- 臨床に特化したキャリアを選択した時
- 年収アップを図る時
- 退職金対策を考えた時
- 家庭や家族のプライベート事項を優先する時
これらのタイミングと時期が考えられます。
臨床に特化したキャリアを選択したとき
基礎研究や臨床研究分野に於けるキャリアを選ばず、臨床医として邁進する事を決めたならば、総合的に鑑み、医局付きの医師である必要性が少なくなってきます。
市中の病院の方が、収入面では断然に上です。医局ならではの訳の分からぬ雑用に追われる事もありません。勤務時間や勤務体制も、自らの意志で選択できます。クリニックを開業し、一国一城の主になる事もできるでしょう。ドクターの専門分野に特化した病院を選ぶ事だってできるのです。
もしもドクターが臨床医に特化したキャリアを望むなら、卒後10年以上経ち、専門医を取得し、医師として一人前になった頃ならば、それは医局の辞め時です。
医局で得られるキャリアや資格は得たわけですから、これ以上医局に留まる事は不毛です。然るべき段取りの上、さっさと退局した方が得策だと言えるでしょう。
年収アップを図る時
もしもドクターが「年収アップ」を仕事の第一義に挙げるなら、医局付きの勤務は、全く意味の無い事です。医局付きの医師の年収は、市中の病院の勤務医よりも、格段に下ですから、早々に退局し、次の道を選んだ方が良いでしょう。市中の病院に転職しただけで、年収が一気に数百万円アップした例は枚挙にいとまがありません。
ただその時、ドクター自身が「売り手市場に持ち込めるスキルのある医師であるか?」…という自問自答は必要です。
若手医師の場合
初期臨床研修を終えたタイミングで医局に属さず、後期臨床研修を市中の病院で行う事を選んだならば、そのままその市中の病院に勤務する段取りはスムーズです。まだ新米で、専門医資格も取得していない時期でも、市中の病院の受皿のもとで、比較的優位な条件で勤務できるでしょう。
しかしながら、後期臨床研修のタイミングで医局に属した医師は、ある程度一人前にならなければ、売り手市場のタイミングとはいきません。少なくとも認定医や専門医の資格を取得するなど、一定の外形評価が受けられるタイミングまでは、医局付きでいた方が賢明かもしれません。
もちろん、若手医師の可能性を買う病院や、あるいは医師不足の病院などにおいて、半人前の医師でも需要が無い訳ではありません。しかしながら、収入アップという面では、それほど大きなジャンピングボードにはなりません。
仮に、医局に属していた時よりも良い条件で転職できたとしても、半人前の状態で市場の海に出された医師が、順調にキャリアを積んでいけるとは考えにくく、それ以上の年収アップが難しくなっていくのです。
一つの診療科に於いて、「自分は一人前だ」と自負できるまでは、目の前のわずかな収入アップよりも、将来的な収入アップを見据え、医局で研鑽を積んだ方がいいケースもあるでしょう。
中堅~医師の場合
卒後10年程度経った中堅以降の30代~40代半ばの頃の医師は、最も年収アップの転職に適した脂の乗った時期だと言えます。その頃は専門医も取得しているでしょうし、一定の症例数も積んでいるはずです。その上まだ若く、コミュニケーション力も充分な時期ですから、自分を高く売れるという訳です。
そんな医師が年収アップのための転職をするならば、「名門医局ブランド」の力も相成り、非常に優位な転職活動が展開できます。これが本当にベストな「辞め時」です。しかし、「名門医局ブランド」は、退局時の一度しか有用に作用しません。従って、退局時の初めての転職は、充分に身長に行う事が必要です。
退職金対策を考えた時
医師としてのキャリアの締めくくりを見据える時、退職金の有無や内容が大きな問題となります。
仮に医局に属するドクターでも、医局のホープと見なされ、卒後ずっと大学病院に勤務していたならば…多くのケースで退職金が受け取れる事でしょう。国公立の大学病院ならば、職階に応じて公務員または準公務員扱いでの所定の計算式が採用されます。
私立の大学病院でも、大学職員と同等の計算式が採用されるでしょう。つまり、ずっと大学病院に勤務していた医師ならば、それほど退職金を懸案事項にする必要は無いのです。
問題は、医局人事で市中の様々な病院を転院し続けていた医師です。長く医局に属していても、医局が退職金を用意してくれる訳ではありません。勤務する病院を転院する度に退職金がリセットされる訳ですから、何年医局にいても、数年の勤続年数の病院が複数あるだけで、退職金の計算指数となる勤続年数の積上げにはならないのです。
そればかりか、市中の病院では、退職金制度が無い所も多数存在しています。キャリアの締めくくり時にまとまった金額が必要ならば、それを得られる職場で、相応の勤続年数を積み上げる必要があります。
一般的に退職金は、勤続10年以上でなければまとまった額にはなりません。退職金の計算式は組織によって様々ですが、概ね勤続20年程度で退職金曲線の最大上げ幅を迎え、勤続25年程度以上では、その曲線は緩やかな増加に代わると言われています。
つまり、退職金を目的に転職するならば、最低でも10年、理想的には20~25年以上の勤続が望まれるのです。
つまり、65歳を定年とした時、理想的な額の退職金を受け取るためには、40歳~45歳頃迄にはキャリアを終えるための職場に転職をしていなければなりません。しかも、腰を据えて定年までじっくり働ける、ドクターとのマッチング率が高いベストな職場を見つけていないといけないという訳です。
もしもドクターが40歳前後で、医局人事による転院が続いている状態であるならば…一旦キャリアの棚卸を行い、転職を考えてみても良い時期かもしれません。
尚、市中の病院では年棒制を導入し、退職金制度の無い所も多々ありますし、退職金制度がある場合も、その計算方式を把握し、勤続何年でどのくらいの金額を見込めるのか?…を、転職前にしっかりと確認しておく必要があります。
そんな時、実に頼りになるのが、転職エージェントのコンサルタント。ドクターが自ら聞きにくい詳細情報を、事前にきちんとヒアリングしてもらう事ができます。
家庭や家族のプライベート事項を優先する時
医局での勤務は、最先端の医療に携わるチャンスがあるものの、収入は低く、非常に多忙で、人間関係の軋轢にも悩まされがちなハードな環境です。
もしもドクターが、医局内で出世できる可能性がある年齢であっても…
「こんなに忙しい職場は体力的に限界だ」
「子供が生まれたので、早く家に帰りたい」
「親の介護でゆとりある職場に移りたい」
…そう切実に願うならば、それは明確な医局の辞め時です。
QOML(Quality of medical life)を第一義に考え、医業を生きる糧と割り切る事も、決して悪い事ではありません。人それぞれ、大切にする物が違って然るべきなのですが、医局に長く属していると、プライベートの充実を図ろうとする事が、悪のように感じてしまうドクターが多い傾向にあります。
大切なドクター自身の人生です。医局の悪習ともいえる慣習に、呑まれる必要はありません。ドクターが自分の人生を見失うような事には陥って欲しくありません。
プライベートな事情で退局したいと考えたならば、先ずは転職エージェントに相談して下さい。次の勤務先を見つけて、その上で退局折衝を行う事がベターなのですが、その際、「早く帰りたいから」…などという理由をバカ正直に挙げてはいけません。「家族が病気だから」「実家のある地元に戻るから」「自身の体調が優れないから」…などと、できるだけ不可抗力な要因を述べるようにしましょう。
【参考】:医局の円満退局支援経験数の多い企業例
医師紹介会社の所長及びスタッフは、取材を通じて多数の医師紹介会社と面会しておりますが、その中でも、医局の円満な辞め方に関する社内事例資産を多数積み上げている企業がいくつか有ります。例えば、エムスリーキャリアエージェントがそのうちの筆頭でしょう。同社では医局の辞め方を1~3年程度のロングスパンで相談、サポートすることの労苦を全く厭わない、数少ない企業です。こういったロングスパンでタッグを組めるエージェントを味方につけてから、医局の辞職を実行に移すほうが、成功確率は断然に上がってくるでしょう。
年齢別の医師転職時期…「26歳」
ドクターにとっての最初のターニングポイントは、初期臨床研修が終わる26歳過ぎ頃に来ます。2004年に現在の臨床研修制度になって以降、「臨床研修をどこで受けるか?」…を、ドクター自身が自らの意志で選択できる時代です。(もちろん試験を突破する必要はありますが)その中でも、初期臨床研修を終えたタイミングは、自ら専門科を選択し、後期臨床研修を受ける場所を選ぶ非常に大切な時期です。
後期臨床研修のタイミングと時期で、医局に属さず、市中の民間病院などで後期研修を受けたなら、大学病院で働く道は、スムーズでは無くなります。
しかし、全国医学部長病院長会議の調査では、初期臨床研修後に大学病院に残った(戻った)人は、全体の52・9パーセントに過ぎなかったそうです。(2011年度調査)
つまり、臨床研修が終わる前に、半数近くのドクターは、研究の道を捨て、臨床医として生きる道を選択していると言えます。基礎研究分野に進まず、教授や准教授という大学内の職階を目指さないつもりならば、柵だらけの医局に依存する必要はありません。また、仮に臨床分野で先進医療に携わりたいドクターでも、市中の優良病院に受け入れてもらえば、ある分野での研鑽を積む事は可能です。何も大学病院に固執する必要はないのです。
医師としての方向性を最初に考えた時、臨床医として生きていこうと決断したならば、26歳…それは、医局の辞め時(入局しない)です。
年齢別の医師転職時期…「35歳」
卒後10年前後…35歳頃になるドクターは、順調にキャリアを積んでいる場合、何らかの専門医の資格を取得していると考えられます。
専門医資格を持つ若手医師は、非常に売り手市場での転職活動が可能です。自分を高く売り、収入アップはもちろん、時間のゆとりを持つためなどの職を得る事もできるでしょう。
しかしこれは、35歳頃の時のドクターが、「臨床医に特化する」という道を定めた場合の話です。もしも基礎研究分野での躍進や、大学内の職階を目指しているならば、いくら売り手市場だと言えども、即転職をする訳にはいかないでしょう。
その時、チェックポイントになるのが、
- 博士号を取得しているか?
- 海外留学の経験があるか?
- 現在、大学病院で勤務しているか?
…の、3つのうち、少なくとも2つはクリアしているか?…です。
出世コースのトップを走っているドクターならば3つ、その次を追うドクターならば、2つ以上をクリアしている可能性が高いと考えられます。しかしまだ35歳頃…トップランナーでなくとも、今後これらの条件に適う可能性もあります。
しかし現在、3つのうち、1つの条件もクリアしていないのであれば、それは医局の辞め時です。これからの5年10年で、3つのポイントを全てクリアする事は至難の業でしょう。専門医資格を持つ若手ドクターとして、さっさと別の道を探した方が賢明で、収入や出世という面で、優位なキャリアを築けると考えられます。
年齢別の医師転職時期…「40歳」
卒後15年程度…40歳頃のドクターは、専門医を取得してから研鑽を積み、医師として脂に乗った、気力・体力・技術力の全てが充実している時期です。
当然、売り手市場にて転職活動が行え、重要なポストでのオファーも多く受けられる頃ですから、転職に伴う年収アップが、最も図れる時期だと言えるでしょう。また、退職金の展望を考えるならば、転職により、まとまった金額を受け取るための「勤続25年」を叶える事も可能です。
40歳…身の振り方をどうすべきか?
もしも医局に残り、職階を目指していきたいならば、
- 博士号を取得しているか?
- 海外留学の経験があるか?
- 現在、大学病院で勤務しているか?
- 研究成果を上げ、多くの研究予算を獲得しているか?
この4つのうち、少なくとも3つはクリアしていないと、なかなか厳しい年齢です。クリアをできていないドクターは、転職を考えた方が良い時期かもしれません。しかし、まだまだ医局で出世する可能性が無い訳ではありません。
「有利な条件で転職ができる時期」と、「医局で出世できるわずかな可能性」を天秤にかけ、前者をとるならば、それは医局の辞め時です。この時期を逃すと、“最も有利な条件”での転職は難しくなるかもしれませんが、まだ数年は、“有利な条件”での転職は可能です。医局にどうしても未練があるならば、まだ数年、様子を見ても悪くはないでしょう。
年齢別の医師転職時期…「45歳」
卒後20年…45歳頃のドクターの多くは、既に自分の進むべき道を選択し、歩んでいる事でしょう。ある人は医局の中での職階を得、ある人は市中の病院で要職につき、ある人は開業し、医院長として活躍している年齢です。
しかしこの年齢で、進むべき道を明確に決められぬまま、あるいは望むチャンスを得られないまま、医局に残っているドクターは、どうしたら良いのでしょうか?
先ず、45歳でヒラの医局員であるならば、それは医局の辞め時です。この時期を逃すと、転職市場で優位な活動ができなくなってきます。一刻も早く、次のキャリアを考えた方が無難です。
ある程度の職階を得ていたとしても、
- 博士号を取得しているか?
- 海外留学の経験があるか?
- 現在、大学病院で勤務しているか?
- 研究成果を上げ、多くの研究予算を獲得しているか?
これら4つの全ての条件をクリアしていなければ、教授や准教授といった上位職階になれるとは考えにくいと思われます。
もしもドクターが医局での職務に納得しているならば、このまま医局付きで研究と臨床に携わっていても構いません。しかし、収入面や勤務条件に不満があったり、アカデミーにおける出世を目指していたならば、45歳の今、医局の辞め時と言えるでしょう。
この時期を境に、優位な転職はどんどん難しくなります。退職金をアテにする事も困難になるでしょう。名門医局出身のドクターという肩書を、存分に生かす時機を逃さぬよう、医局の辞め時を真剣に考えるラストチャンスかもしれません。
時期を逃さず、転職活動で優位になるためには
医局の辞め時とは、すなわち、医局でのキャリアに見切りをつける時期ではありますが、「ドクターが転職市場で優位に立ち回れる時期」…と、同義語でもあります。
つまり、ドクターがキャリアを積んでいく中で、できるだけメリットのあるタイミングを図ると言う、至極前向きな話です。
長く医局に属したドクターは、良くも悪しくも、一つの大海しか知りません。どんなに医局が大海だとしても、医療市場には、いくつもの大海が存在している事を、知っておいて欲しいのです。ドクターが活躍できる場は、医局以外にもたくさんあるという事を。
捨てる事は、得る事よりも、きっと、ずっと、難しい事でしょう。しかし、何かを捨てた時は、もっと大きく大切なものを手に入れる “絶好のチャンス”でもあるのです。
もしドクターが本コラムを読んで、「医局を辞めるべきかどうか?」…辞め時を考えるようになったなら、一人で悩まず、ぜひ、転職エージェントに相談して下さい。しかし転職の成功には、その相談先を、優良な転職エージェントに定める時に限ります。
私、野村龍一が、医師転職コンサルタントの立場から、口を酸っぱくして言っている事があります。それは…良い転職は、転職エージェント選択時に決まっている…という事実です。ドクターがより良い転職を実現できるよう、当研究所がお勧めする優良なエージェントへのコンタクトを、心からお勧めします。
この記事を書いた人
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