「必要医師数」と「必要求人医師数」のギャップ
■ 記事作成日 2016/4/18 ■ 最終更新日 2017/12/6
厚生労働省では、数年ごとに「必要医師数実態調査」を行っています。その一方で、「医療施設(静態・動態)調査」という調査も行い、その時点での診療科別、都道府県別などの医師数および歯科医師数を把握しています。
今回は、この2つの調査結果から、「(医療機関側で)必要とする医師数」と、実際の医師数とのギャップを考えてみたいと思います。
「必要医師数」と「必要求人医師数」との違いは?
この調査は「日本医師会 病院における必要医師数調査結果」といいますが、実際に調査を行ったのは日本総研であり、「日本医師会総合政策研究機構(日医総研)」と、「公益社団法人 日本医師会 総合医療政策課」との連名で公表されています。
より詳細に記載されているのは日医総研のワーキングペーパーになります。この資料から「必要医師数」と「必要求人医師数」の違いをピックアップしてみます。
- 必要医師数倍率 =(現員常勤換算医師数+必要医師数(常勤換算))÷ 現員常勤換算医師数
- 必要求人医師数倍率 =(現員常勤換算医師数+必要医師数のうち求人中の医師数(常勤換算))÷ 現員常勤換算医師数
この調査では、「必要医師数」を、「地域医療において、現在、貴施設が担うべき診療機能を維持するために確保しなければならない医師数」と定義して質問しています。その時点で求人中であるかどうかは、問うていません。
これを前提として考えると、例えば「必要医師数倍率」が1.1の場合、「現在の医師数では足りず、本当は1割増しの人員が必要」ということになります。ごく簡単に計算すれば
(現役常勤の医師100名 + 必要医師数10名)÷ 現役常勤の医師数100名 = 1.1
という計算です。
一方で、「必要求人医師数倍率」は、「現在の医師数では足りず、求人を出している医師数」が元になります。つまり、ごく簡単に計算すれば、次のようになります。
(現役常勤の医師100名 + 求人数医師数10名)÷ 現役医師数100名 = 1.1
この数字は、本来であればイコールになってもおかしくありません。むしろ、医師の労働環境を改善するためには、「必要求人医師数倍率」の方が、高い数値になるはずです。
しかし現実には、必要であるにも関わらず、求人中となっていないケースが非常に多く、ここにギャップが生まれていることになります。
診療科別のギャップを見てみると…
必要とされる医師の数は、当然ながら診療科によって異なります。厚生労働省の調査でも利用される44の診療科別での、「必要医師数」と「必要求人医師数」との違いをみてみましょう。
「必要医師数倍率」の高い順にソートをしてみると、もっとも多いのは「リハビリテーション科(1.23倍)」で、今のところ需要に一番追い付いていると考えられるのは「矯正歯科(1.01倍)」のようです。
一方、「必要求人医師数倍率」をみると、もっとも多いのは「美容外科(1.15倍)」で、2位の(リハビリテーション科(1.14倍)よりもわずかに多くなっています。今のところ求人割合がもっとも少ないのは、「小児歯科(1.00倍)」で、ほぼ需要と求人とのバランスが取れているようにも見えます。しかし実際は、「小児歯科」の必要医師数倍率は1.13倍のはずです。つまり、「小児歯科」は、必要であると考えられるにも関わらず、求人数が少ない診療科であるといえます。
また、前述の「リハビリテーション科」は、必要数医師数倍率が1.23倍であるにも関わらず、実際の必要求人医師数は1.14倍ですから、本当の需要に対して、求人も供給も追い付いていない診療科であるといえます。
非常に分かりやすい例を挙げると、次のように考えられます。
【リハビリテーション科】
- 現役医師数は100名
- さらに必要だと考えられる医師数23名
- しかし実際には14名分の求人しか出ていない
実際に現役で働いているリハビリテーション科の医師は1,429名となっていますので、この15倍程度は、全国でまだまだ足りていないという状況にあります。
今、医師が転職をするなら?
「必要医師数倍率」と「必要求人医師数倍率」のギャップが多い診療科は、比較的売り手市場にあるといえるでしょう。
例えば、前述の「リハビリテーション科」もそうですが、他にもギャップが多い診療科はあります。ギャップの数値から、トップ10をみてみましょう。
ただしこれらの診療科は、必要であるとは分かってはいるものの、表立っての求人が出ていない診療科、となります。また、結果的にはこれらの診療科の医師は、現状では足りていないということにもなりますので、実際に転職しても、最初のうちは多忙な生活が待っている可能性も考えられます。
しかし、現在の日本の医療環境では、やはり医師が足りていない診療科なわけですから、これらの診療科を目指すことは、この先もまだまだ需要は大きいともいえます。
これらの診療科の医師を目指すのであれば、表面的に提示される条件だけではなく、実際の労働環境はどうなのか、より働きやすい医療機関は無いのかなど、慎重な転職活動をおススメします。自分の条件に見合った転職が出来れば、その先の医師人生は明るいものになるのではないでしょうか。
【参考資料】
日本医師会総合政策研究機構 日本医師会 病院における必要医師数調査結果
日医総研ワーキングペーパー No.346 2015 年 7 月 8 日
http://www.jmari.med.or.jp/download/WP346.pdf
公益社団法人 日本医師会 「日本医師会 病院における必要医師数調査」 調査結果
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20150729_3.pdf
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