公立病院への転職
■ 記事作成日 2016/11/28 ■ 最終更新日 2017/12/6
医師が活躍できる場所は様々な分野にありますが、中でももっとも多くの医師が勤務するのが病院などの医療機関です。医療機関は規模や特性によって、様々に分類されており、それぞれに期待されている役割、担うべき役割があります。
医師が転職を考えるときに、その医療機関の特性や勤務実態を知っておくことは、とても重要です。
今回はその中でも地域の中核病院となることが多い、公立の病院の特性や、そこでの勤務状況について考えてみたいと思います。
病院の分類
医療機関の最も根本にある分類は、医療法により「病院/診療所/助産院」と定められています。それぞれの定義は以下の通りです。
- 病院:医師・歯科医師が医療を行う場所で、20人以上の入院施設を有するもの
- 診療所:医師・歯科医師が医療行為を行う場所で、入院施設を有しないもの。または、19人以下の入院施設を有するもの
- 助産院:助産師が業務を行う場所で、10人以上の入所施設を有してはならない
さらに、特別な病院の類型として、「地域医療支援病院」と「特定機能病院」が定められています。
地域医療支援病院とは、その要件を満たす病院が都道府県知事の承認を得ることで、病院区分として称することができ、紹介患者中心の医療を提供することにより、地域の中心的な役割を担うことが求められています。
特定機能病院は、その要件を満たす病院が厚生労働大臣の承認を得て称することができ、高度な医療の開発・提供を行うという役割を担っています。
医療法においては病院の類型は上記の2つにしか定められていませんが、実際のところは、他にも様々な分類や名称が病院に与えられています。
例えば、急性期病院・リハビリテーション病院・公立病院・災害拠点病院・救急指定病院などの名称です。
これらは、診療報酬制度や医療法以外の法規に基づいた分類がなされています。以下に、医療法以外の分類の例をあげてみます。
公立病院とは
公立病院という位置づけは、開設者の違いによります。開設者による分類では公立病院・公的病院・民間病院のような分け方があります。それぞれの定義は以下のようになっています。
- 公立病院:都道府県、市区町村、複数の市区町村等、自治体により設置・運営がなされる病院
- 公的病院:医療法に限定列挙されている公立病院として、日赤、済生会等の公的医療機関、公益法人、学校法人、社会医療法人等により運営される病院
- 民間病院:公立病院、公的病院以外の、医療法人や個人により開設された病院
また、国が開設している病院には独立行政法人国立病院機構が運営する病院や、国立大学の附属病院、国立高度専門医療センター(ナショナルセンター)などがあります。
厚生労働省による「2014年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、当時の「病院」のうち、およそ20%程度が国または公的な医療機関、およそ70%が民間病院(個人・法人問わず)となるようです。
公的な病院は国や都道府県から救急医療の実施や臨床研修などにおいて制限をうけることがあります。理由としては、医療法の第31条で「公的医療機関は都道府県の施策実施に協力しなければならない」と、定められているからです。
ここからがややこしいのですが、公立病院と公的病院(医療機関)は少し違います。上記のグラフは、まとめて「公的医療機関」となっていますが、次のように考えると分かりやすいでしょう。
- 公立病院:国、地方自治体、複数の市区町村等、自治体の税金を主体として開設、運営されている病院
- 公的病院:公立病院に準ずる部分は多いが、独自の資本を元に開設、運営されている病院
また、民間病院と公立病院では、運営の面からみると税制や補助金の取り扱いの面で大きな違いがあります。
公立病院では、民間病院よりも税金や補助金の面で優遇される部分があり、同様の医療を提供しているにも関わらず、こういった差があることに批判が出ているという側面もあります。
しかし、資本の大元が税金であるか否かは、大きな相違点であるといえるでしょう。
公立病院の経営状況
公立病院には税制上の優遇などがあるといわれますが、経営状況はどのようになっているのでしょうか?
まずは、税制の面からみていくと、民間病院と公立病院では税金や補助金などの取り扱いが異なります。公立病院では、以下の表のような税制の優遇や補助金などの運営資金の補填があります。
民間病院からしてみると、同等の医療行為を実施しているにもかかわらず、公平な競争になっていないと批判があがるのも仕方ないのかもしれません。
このような優遇のある公立病院ですが、経営は厳しいのが現状です。公立病院の職員は公務員であり、年功序列型の給与体系であるため、勤続年数の長い事務職員の給与は民間病院より著しく高くなる傾向があります。
また、豪華な病院の建設費などにより、多額の減価償却費が計上されることもあります。経営の要であるはずの事務長は2~3年で異動することが多く、病院よりも役所に目が向いている場合も多いのです。
このような経営体質であるために、補助金をもらっているにも関わらず、公立病院は赤字の病院が多いのが現状です。
ただ、へき地など民間病院などが参入しない場所での地域医療など重要な役割を果たしている場合もあり、赤字覚悟で運営しなければならない公立病院があるのも事実です。
公立病院の今後は?
このような経営状態の悪化を背景に、公立病院の経営改善を図るために、総務省では2007年に「公立病院改革ガイドライン」を策定しました。この取り組みにより次のような成果が報告されています。
このガイドラインは2015年に改正され、新公立病院改革ガイドラインとして公表されています。新ガイドラインでは以下の4つの視点で2020年までの経営改善を自治体に求めています。
- 地域医療構想を踏まえた役割の明確化
- 経営の効率化
- 再編・ネットワーク化
- 経営形態の見直し
この、新公立病院経営ガイドラインにより、公立病院は2020年に向けて更なる経営改善が進むと思われます。
とても気になる、公立病院の医師の年収
転職において特に気になるのが収入です。公立病院と民間病院では医師の収入にどのような差があるのでしょうか?
公立病院で医師が仕事をする場合、公務員扱いとなります。一般的に、医師の平均年収は以下のように換算されるようです。
- 公務員医師の年収は平均して1400~1500万円前後
- 民間病院の医師の平均年収は1000~1100万円前後
さらに、国立病院に勤務していると、国家公務員扱いになりさらに厚遇される傾向があります。
また、年収だけでなく非常に充実しているのが福利厚生です。公務員の医師には様々な手当てがつき、働きやすい環境が整っています。
例えば、住宅手当・地域手当・特殊勤務手当・僻地手当・当直手当・夜間勤務手当・休日勤務手当などです。公務員住宅を貸与してもらえることから、家賃コストをかなり抑えることができます。
また、中でも最も高く支給される手当が「特殊勤務手当」です。これは別名「医師手当」とも呼ばれており、医師という特殊な業務を行っているために支給される手当です。
この手当を含む平均給与は、自治体によっては月収で100万円を超えることも多いのが実情です。
接遇面は勤務する場所により異なり、一般的には最も良いのが町村職員、次いで市職員、指定都市職員となっているようです。都道府県職員は、意外と高くはないようですね。
ただ、ここにもカラクリはあります。
地方自治体としては、特にへき地医療に携わるような立場の医師、地域医療に注力してほしい医師、限られた医療資源の中でも活躍してくれる医師等を求めていることが多いようです。
この傾向は地方へ行くほど強くなると考えられますし、それなりに勤務可能な条件が付くことがあります。
つまり「優遇するから、とにかく我が自治体のために頑張ってくれ」という、自治体側の思惑が見え隠れしていることになります。
しかし、勤務中は過酷な面もある公立病院の医師ですが、リタイアした際には退職積立金が支給されたり、年金も一般と比較して多く支給されることから、公務員医師は収入の面で大変優遇されていると考えられます。
勤務状況を取るか、自身の将来設計も含めた収入面で考えるか。医師の本質を問えば、おのずと答えは出てくるのではないでしょうか。
【参考資料】
総務省「新公立病院改革ガイドライン」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000382135.pdf
厚生労働省 新公立病院改革ガイドライン
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000135068.pdf
厚生労働省 平成 26 年(2014)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/14/dl/gaikyo.pdf
この記事を書いた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート