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急性期病院への転職事情を考える(民間病院編)

■ 記事作成日 2017/3/2 ■ 最終更新日 2017/12/6

以前、公立病院の急性期病院への転職に関する情報をお伝えしました。今回は、民間病院の急性期医療に着目していきます。公立病院と比較しながら、民間病院ならではの視点で概要をご紹介していきます。

 

民間病院の急性期とは?

 

医療法には、“急性期病床”というくくりはありません。従って、急性期医療機能は、一般病床の中に含まれているということになります。急性期医療を提供する病床を区分する方法としては、診療報酬体系が用いられますが、実際には高度急性期機能と急性期機能の2つに分けることができます。

 

  • 高度急性期機能:“急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、診療密度が特に高い医療を提供する機能”とされています。
  • 急性期機能とは“急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、医療を提供する機能”

 

また、救急医療は、患者さんの状態や提供する医療のレベルにより、3つのレベルに分けることもあります。それぞれの特徴を分かりやすい言葉で表すと、次のようになります。

 

  • 一次救急:緊急性はゼロではないが、入院治療までは必要ない場合がほとんど
  • 二次救急:緊急性があり、入院・加療・詳しい検査などが必要となる
  • 三次医療:高い緊急性があり、入院・加療・精密検査の他、救命処置なども必要とする

 

これらに対応する医療機関は現在、都道府県単位で整備が調整されており、どの地域にどのような医療機能を持つ医療機関を配置するのか、その医療機関がカバーする地域はどの辺りまでを含むのか等が、コントロールされています。

 

民間病院と公立病院の病床数と経営状況とは

 

では、民間病院とはどのような病院なのでしょうか。民間病院とは民間の医療法人が運営する病院となり、全国の病院の67.7%を占めます。また、非営利性で地域密着型の病院であるという特徴もあります。

 

次に、いくつかのデータを基に、公立病院と民間病院の急性期医療の実態と経営状況を比較していきます。まずは施設数と病床数です。救急医療機関の告示状況を見ると平成24年に厚生労働省に告示された救急医療機関数は、合計3,890施設、このうち公立病院が754施設、民間病院が2,722施設でした。

 

 

病床数で見ると、平成27年度では、公立病院の病床数320,843床に対し、民間病院の病床数は860,184でした。割合的に考えれば、公立病院の方が、1施設あたりの病床数が多いことが分かります。

 

それぞれの病院が持つ医療機能に注目してみると、例えば、国公立病院などの公的な病院は一般病床中心であるのに対し、民間病院(医療法人等)の場合は相対的にケアミックス病院や療養型病院の割合が高いという特徴があります。

 

そのため、仮に民間病院で急性期病床を持っていても、1施設内での病床数は、比較的少ないものと考えられます。

 

また、急性期病床を持つかどうかは、経営状況とも関連していますので、急性期医療をはじめとした政策医療(不採算医療)を行っていることから、国や公立病院の運営は、5疾患5事業(+在宅医療)を中心に考えられています。経営母体が国や地方自治体ですので、これらが資金を調達することで、運営されています。

 

 

しかし、民間病院は非営利目的で運営されているとはいえ、その病院の収益は基本的に、病院内で賄っていかなければなりません。

 

そのため、急性期医療を拡大してしまうと、採算がとりにくくなる傾向があり、亜急性期入院医療管理料、回復期リハビリテーション病棟入院料、特殊疾患入院医療管理料、緩和ケア病棟入院料、精神療養病棟入院料等の特定入院料などで加算することで、収入をまかなっていることが多いようです。

 

つまり、これらに該当する診療科に対して、一般病床を使用している傾向が強くなるということです。

 

平成22年度の診療報酬改定により、10年ぶりにプラスとなった一方、収益のプラス分は急性期病棟に割り当てられてしまうため、急性期病床が少ない民間病院は経営難に追い込まれる可能性が高くなります。

 

また、急性期では患者7人に対して看護師1人の体制がとられていますが、慢性期や回復期の病棟では患者10人に対して看護師1人の体制がとられます。そのため、急性期病床を維持するためには、より多くの看護師を雇用する必要がありますので、そういった人件費の面でも経営を圧迫することとなります。

 

したがって、民間病院が急性期病床を維持していくためには、病床の回転を早くして患者数を多くしなければ、経営状況はなかなか厳しい、ということが伺えます。

 

 

地域包括ケアシステムと救急医療の関係

 

次に、民間病院を含む地域の中核病院の姿を捉える上で重要となる、地域包括ケアシステムについて考えていきます。

 

地域包括ケアシステムとは「高齢者の尊厳保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で生活を継続することができるような包括的な支援・サービス提供体制の構築を目指す」というものです。

 

団塊の世代が75歳以上となる2025年、超高齢化社会を迎える日本では、高齢者による医療の需要、特に病床の利用率は上昇することが懸念されています。

 

そのため、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される仕組み=地域包括ケアシステムが構築されることで、高齢者が病床を多用せず、社会で生活していける仕組みを作っていく、ということです。

 

地域包括ケアシステムは、自助、公助、互助、共助の4つから成り立ち、医療や看護を活用せずに社会保障の制度を活用して生活しくべきであるという考え方です。

 

 

そのシステムの中で、医療の中心、救急医療の担い手となるのは、公立の中核病院であることが多く、この傾向は、地方へ行くほど強くなるようです。しかし一部では、民間病院が中心となる地域もありますし、民間病院ならではの特色を生かした仕組みづくりをしている地域もあるようです。

 

 

民間病院急性期の将来展望とは

 

以上のことを踏まえ、民間病院の急性期医療は今後、どのようになっていくのかを考えてみます。

 

超高齢化社会により病床全体の利用率は、今後高まることが考えられます。しかし、それは急性期病床とは限りません。例えば、診療所(かかりつけ医)などを活用して、地域で疾病予防を行い、徐々に慢性化、衰弱してきたところで病床のお世話になるということが予測されます。

 

そのため、今後求められる病床、需要が高まる病床は、慢性期や療養病床、社会復帰のための回復期病床の方にウェイトが移っていくかもしれません。さらに、民間病院での急性期医療は、診療報酬がしっかりと支払われないと、経営が難しくなる可能性があります。

 

しかし高齢者世帯や独居高齢者の増加が懸念されている現在では、高齢者を相手に急性期医療を展開しても、入院期間の短縮や、DPC制度による報酬との兼ね合いが難しい部分になってきますので、不採算医療による経営困難に直面するケースも増えてくるでしょう。

 

そのため、今後は、急性期医療は公立病院、慢性期や回復期は民間病院など、棲み分けながら請け負って医療を展開していくということも考えられます。

 

まとめ

 

地域密着型の病院が展開する急性期医療は、患者側としては安心感がある一方で、経営側としてはかなりの経営改革は必要となる面ももっています。これからの社会情勢にもよりますが、今後は、民間病院が在宅医療とリンクした医療を展開していくことが、より強く求められるようになるのではないでしょうか。

 

現在、急性期医療を提供している民間病院は、今後どうなっていくのか。もしかしたら地域ケアシステムの構築が順調にすすんで行くかどうかにも、絡んでいくのかもしれません。

 

【参考資料】

 

健康保険組合連合 医療保障総合政策調査・研究基金事業 急性期医療の機能分化と急性期病院のあり方 に関する調査研究 報告書
http://www.kenporen.com/include/outline/pdf/chosa22_03.pdf

 

一般社団法人 日本医療法人協会
http://ajhc.or.jp/profile/seido.htm

 

厚生労働省 平成 27 年(2015)医療施設(動態)調査・病院報告の概況 
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/15/dl/gaikyo.pdf

 

厚生労働省 救命救急センター及び 二次救急医療機関の現状
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002xuhe-att/2r9852000002xuo0.pdf

 

厚生労働省 第1章 医療法人経営統合の背景 
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/dl/houkokusho_h22_gappei_01.pdf

 

厚生労働省 地域包括ケアシステム5つの構成要素 
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-3.pdf

 

日本の地域別将来推計人口 国立社会保障人口問題研究所
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/1kouhyo/gaiyo.pdf

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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