【医療ニュースPickUp 2018年2月16日】アルツハイマーの検査が少量の血液だけで可能に。長寿研と島津製作所
2018年2月1日、国立長寿研究センター(NCGG)と島津製作所が、血液バイオマーカーを用いてアルツハイマー病変を早く正確に検出する方法を確立したと発表した。
この研究は、2014年に発見した質量分析システムを用いたアルツハイマー病血液バイオマーカーについて、オーストラリアのAustralian Imaging Biomarkers and Lifestyle Study of Ageing(AIBL)と連携して、京都大学、東京大学、東京都健康長寿医療センター、近畿大学と共同で進められてきたもの。
アミロイドβが脳内に蓄積するとアルツハイマー病の発症率が高くなると考えられているが、これは認知症発症の20年以上前から始まる。
初期にアルツハイマー病であることを診断するには、このアミロイド蓄積を検出するのが有効な方法となっている。
現在、アルツハイマー病の検査には脳脊髄液(CFS)やPETイメージングを用いているが、脳脊髄液の採取は侵襲性が大きく、PETイメージング検査は高額な検査費用のため、大規模な治験などへの適用は難しかった。
今回の研究では、日本とオーストラリアでそれぞれ正常な人と軽度の認知障害を持つ人、アルツハイマー病の患者が対象となった。
血液バイオマーカーの測定を行い、CFSやPETイメージングとの比較を行ったところ、90%以上の精度での相関が見られたという。
この方法で採取する血液はわずか0.5cc。検体の採取が容易で、しかも従来の検査と同レベルの高い精度で迅速にアミロイド蓄積を検出できるようになった。
コストメリットもあるため、効率的な集団スクリーニングも可能になる。
今後は、数千人規模の臨床治験などでも利用されることになるだろう。
研究グループは「世界的に未だ成功していないアルツハイマー病の根本的な治療薬、予防薬開発の飛躍的向上に大きく貢献するものと期待される」と述べている。
この研究成果は2018年2月1日付「Nature」オンライン版で公開されている。
参考資料
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
http://www.ncgg.go.jp/camd/news/20180129.html
Nature, A. Nakamura, N. Kaneko et. al., High performance plasma amyloid-β biomarkers for Alzheimer’s disease.
https://www.nature.com/articles/nature25456
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【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
65歳以上高齢者の5人に1人が認知症。
このようなセンセーショナルなニュースが世間を賑わせてから数年、もうすぐ「その時(2025年)」が来ると考えられています。
厚生労働省などの資料を見ると、このことに対する課題として
- 高齢者1人を労働人口1.8人で支えることになる
- 高齢者のみ世帯と高齢者の単独世帯が、世帯全体の25%以上を占める
- 介護給付費の増大、それに伴う保険料の増大(8,000円を超える見通し)
などがあります。
日本の高齢化は、スピードが重要でしたが、現在そして今後は「高さ(高齢者数の多さ)」が問題となるようです。
このような社会情勢の中で、今回の研究成果は、「ごく早期に認知症のスクリーニングか可能になる」ことだけでも、非常に大きな成果だったのではないでしょうか。
アミロイドβの蓄積が、認知症発の20年前から始まるなら、特定健診の検査項目に含めても良いのではないかと、個人的には考えます。
40歳を過ぎたら「将来の認知症の可能性」を知っておく、これだけでも自分がこれから何をすれば良いか、自分の子ども世代に対してどのような準備をしておけるのか、こういったことを考えるきっかけになると思います。
日本では実際、健康寿命が延びてはいますが、平均寿命と健康寿命の「差」も大きくなっています。
これは今後も拡大していくでしょう。従って、まだ「健康」であるうちから、将来の自分が必要とするであろう介護の問題、特に費用をどう確保しておくのか、あるいは「健康寿命をより伸ばす努力」ができるようになるはずです。
もちろん、現在は存在しない「アルツハイマー病の根本的な治療薬、予防薬開発」が進むことも重要ですが、それ以前に「自分は将来、アルツハイマー型認知症になる可能性が高い」ことを自覚すること、そのためのエビデンスを明確にすることも、重要なのだと思います。
これは、世界一の高齢化社会である日本でしか、成し得ない研究なのではないでしょうか。
今後は、この検査方法が迅速に普及することに期待したいと思います。
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