【医療ニュースPickUp 2016年4月5日】世界発!既存薬が認知症予防に効果あり?大阪市立大の研究成果より
2016年3月25日、大阪市立大の富山貴美准教授らの研究グループは、金沢大学、富山大学、米国ノースウェスタン大学との共同研究において、ハンセン病治療薬である「リファンピシン」が、認知症の予防に効果がある可能性をマウスの実験で確かめ、研究成果を公表した。英国科学誌「ブレーン」に掲載されている。
1960年代から使われている抗生物質 リファンピシン
研究チームは今回、「リファンピシン」を服用しているハンセン病患者が、服用していない患者と比較し、認知症を発症する割合が低いことに注目した。そこで、「認知症の状態にしたマウス」に、リファンピシンを継続投与し、その効果について調査を行った。
研究チームは、2種類のアミロイド前駆体タンパク質(APP)トランスジェニックマウス(アルツハイマー病モデル①、②)と、1種類のタウトランスジェニックマウス(前頭側頭型認知症モデル③)に、1 日あたり 0.5mg または 1 mg ずつ、1ヶ月間毎日経口投与した。
その後の経過をまとめると
モデル①:Aβ オリゴマーが細胞内に蓄積するタイプのアルツハイマー病モデルマウスでは、脳の Aβ オリゴマーが減少し、シナプスが回復して、記憶障害も改善された
モデル②:老人斑を形成するタイプのアルツハイマー病モデルマウス)では、やはり脳の Aβ オリゴマーが減少し、シナプスが回復したが、老人斑はわずかに増加傾向にあったが、問題となるほどではないと推測された
モデル③ :タウが過剰にリン酸化され、タウオリゴマーが細胞内に蓄積する前頭側頭型認知症モデルマウスでは、タウオリゴマー、リン酸化タウがともに減少し、シナプスの回復とともに記憶傷害の改善が確認された
以上の結果より、リファンピシンを1カ月間、経口投与することで、記憶を回復に寄与することが示された。より若いマウスでは、リファンピシンの用量が少なくて済むことも分かり、投与期間を長くすることでリファンピシンの減量や、投与期間の延長も期待される。
リファンピシンはそもそも、1960年代から使われている抗生物質であり、結核治療にも使用される。研究チームは今回の結果から、脳内に蓄積するたんぱく質が神経細胞の機能を傷害することを、リファンピシンが阻害しているのではないかと推測している。
ただし、すでに発症した認知症には、リファンピシンの効果は期待できず、「ハイリスクな患者への予防的投与」になること、今回の研究結果はあくまでマウスに対しての結果であり、そのまま人へ対応できる方法ではない。しかし今後、リファンピシンの副作用の問題がクリアできれば、人への応用が進む可能性もある。
参考資料
大阪市立大学 認知症予防に新たな光!! 既存医薬品リファンピシンに広い認知症予防効果を確認
http://www.osaka-cu.ac.jp/ja/about/pr/press
Brain
Rifampicin is a candidate preventive medicine against amyloid β and tau oligomers
http://brain.oxfordjournals.org/content/early/2016/03/26/brain.aww042
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
日本の認知症患者さんは、2025 年には 700 万人を突破するそうです。65 歳以上の 5 人に 1 人が認知症という計算。そのほかの疾患の要素も掛け合わせると、さらに増えるかもしれません。変なたとえですが、街中で65歳以上の人を見かけたら、数人に1人は認知症なわけです。パッと見ても分からないかもしれませんが、それだけ絶対数が多くなると予測されています。
また、国際アルツハイマー病協会のレポートでは、世界の認知症患者数は
- 2015年で4680万人 → 経済費用は8180億米ドル
- 2030年には7470万人 → 2兆米ドル
という予測が出ています。2050年には1億3150万人だそうです。
私自身は2050年まで生きているか分かりませんが、恐らく2030年ならまだ生きている可能性があります。そろそろ「認知症のお年頃」に近づくころです。2025年ではまだ65歳にはなりませんが、早ければ、自分の周りの人たちも発症している可能性があります。
日本の状況だけで考えても、このままではいけないことは誰の目にも明らかです。今の若い世代の苦労が、今から目に浮かびます。
認知症予防は40代からともいわれていますので、そろそろ自分自身も現実的な問題になりつつあります。日本では「予防的な服薬」はあまり一般的ではありませんが、認知症については「発症してからでは遅い」ことが分かっているのであれば、国もはやいところ「予防的服薬」を認めてほしいと思います。
とりあえずは保険適応でなくても良いので、何かこれ!というものが、世の中に出てきてほしいと、切に願います。
この記事をかいた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート