【医療ニュースPickUp 2018年6月2日】MIT、バクテリアと無線回路が合体したカプセルで胃の出血を検出
2018年5月24日、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、経口摂取して胃の出血を検出することができるカプセル状の医療検査デバイス「バクテリアオンチップ」を発表した。
遺伝子操作されたバクテリアが胃内部の出血や胃腸の異常を検出して、無線回路を通じて体外のPCやスマートフォンに検査結果を伝えるというものだ。実用化すれば、鎮静剤の投与など身体の負担が大きい内視鏡検査の代わりに、カプセルを飲み込むだけで簡単に出血の有無が確認できるようになる。
この研究の注目すべき点は、バクテリアによる感知と電力回路を組み合わせ、統合させたシステム設計にある。
研究チームはまず、血中のヘモグロビンを構成するヘムに反応して発光するよう、バクテリアを遺伝子操作。
次に、ヘムと接触した細菌の発光量を電子センサーで測定し、その情報を体外にあるPCまたはスマートフォンに無線信号で送信するという仕組みを構築した。これによって、胃内部の出血をリアルタイムで検出することに成功。
このカプセルをブタの胃で試験したところ、計画通りに動作し、胃からの出血があるかどうかを、正しく検査できたという。
今回使用しているカプセルは長さ約1.5インチ(約3.8cm)の円筒形で、この中にバクテリアとデバイスを封入する。消費電力は約13μWで、2.7Vのバッテリーをセンサーに装備して、約1.5カ月間の連続作動を可能にした。
電源については、すでに開発済みの「胃酸で発電する小型電池」を使うことで、動力を供給することも可能になるという。
研究チームはさらに、出血以外の症状を感知するセンサーも開発したいと考えている。まだ動物でのテストは行われていないが、炎症マーカーを感知するセンサーも開発しており、これはクローン病などの炎症症状を確認することができるという。
また、胃腸内の細菌感染を検出するマーカーも、すでに開発済みとのこと。
近い将来の実用化に向け、今後はセンサーのサイズ縮小や、バクテリアが消化管で生存できる寿命などを研究する予定だという。
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
科学者の考え出すことはスゴイ、というのが、このニュースを読んでの感想です。
確かに赤血球を構成している「ヘム」の量を測定できれば、目視できないところでの出血を想定することができますし、一定時間以内にヘムと反応するスピードを測定すれば、出血量も想定できるのかもしれません。
そのセンサーとして「バクテリアを使う」というのは、一般人にはなかなか想像できない世界なのではないでしょうか。
さてこのバクテリア、元々は大腸菌から作られているようです。
MITのニュースには「研究チームは、大腸菌のプロバイオティック株を操作し、ヘムに反応したときに細菌(バクテリア)が光を発するようにする、遺伝子回路を発現させた」とあります。ヘムは1つの赤血球に4つありますよね。
2種類のポリペプチドが2本ずつ、計4本の鎖がそれぞれ1つの籠を形作り、その中に1つずつのヘムを抱え込んでいるような形で、ヘムはそれぞれ1つの酸素イオンと結合していくという構造になっています。
こう考えると、たしかに「ヘム」の存在を感知することは、「ここに今、赤血球がある」ことを証明しますので、出血していることを示唆することになります。問題はこれがいつ、体の外へ出てくるか、です。
現在は「カプセル内視鏡」がありますが、これも「いつ出てくるか」が問題となることがあります。今回のデバイスのサイズを考えると、日本で使用されているカプセル内視鏡よりも、少し大きいように思いますので、もう少し小さいものに改良されるか、排泄されるきっかけなどが明確になる必要が、あるかもしれません。
人への試験などは今後進められると予測できますが、実際に上市されるまでにはまだ少し時間がかかりそうです。とはいえ、内視鏡を超える性能を持つデバイスであれば、適応も広がるかもしれません。今後の動向が気になるところです。
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