【医療ニュースPickUp 2016年1月28日】手術は低侵襲の時代へ?ダ・ビンチによる腎部分摘出などが保険適用に
※写真は東京医科大学病院ウェブサイトより引用 http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/davinci/top/
2016年1月20日、中央社会保険医療協議会総会(会長:田辺国昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授)が開催され、2016年度診療報酬改定において、内視鏡下手術用ロボット「ダ・ビンチ」を用いた腹腔鏡下腎部分切除術が、保険適用されることが決まった。「ダ・ビンチ」による手術が保険適用となるのは、2012年度より保険適用となった「前立腺がん」に続き、2番目となる。
昨年夏ごろから議論が続いていた
新しい医療技術が保険適用となるかどうかは、
A:.医学会から保険収載要望が出ている技術のうち、診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会(中医協下部組織)で、有効性・安全性・緊急性などの高いものを選定する
B:先進医療のうち有効性・安全性の確立したものを、先進医療会議で選定する
という2通りの方法があるが、「ダ・ビンチ」による腎臓部分切除術はB。「ダ・ビンチ」を用いた腹腔鏡下腎部分切除術の保険適用の是非については、昨年夏頃からすでに議論の対象となっていた。
例えば、2015年7月に開催された第31回先進医療技術審査部会で公表された資料によると、「内視鏡下手術用ロボットを用いた腹腔鏡下腎部分切除術」の適応は「腎がん(長径が7センチメートル以下であって、リンパ節転移及び遠隔転移していないものに限る)」であり、その有用性を腎機能の温存と根治切除(切除断端陰性かつ阻血時間 25 分以内)とする、多施設共同非盲検単群試験が行われた。
また、既存の術式である腹腔鏡下腎部分切除術の多施設共同観察研究と比較すると、「低侵襲、がんの根治性、腎機能温存を同時に実現しうる有用な術式と考えられた」との報告があった。
今回の中央社会保険医療協議会総会ではこのほかにも、
- 内視鏡下胆管膵管処置におけるバルーン内視鏡加算
- 腹腔鏡下の肝切除術
- 腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術
- 内視鏡下鼻中隔手術
- 関節鏡下股関節唇縫合術
- 腹腔鏡下ストーマ造設術
など、比較的低侵襲となる、内視鏡技術を用いた複数の医療技術が、保険適用となっている。
また、先進医療のうち有効性が高いと示されたものについては「ダ・ビンチ」による腎部分摘出以外にも、
- 凍結保存同種組織を用いた外科治療
- 陽子線治療(小児腫瘍に対するもののみ)
- 重粒子線治療(切除非適応の骨軟部腫瘍のみ)
- 非生体ドナーから採取された同種骨・靱帯組織の凍結保存
- RET遺伝子診断
- 実物大立体臓器モデルによる手術支援
- 単純疱疹ウイルス感染症または水痘帯状疱疹ウイルス感染迅速診断(リアルタイムPCR法)
- 網膜芽細胞腫の遺伝子診断
- 有床義歯補綴治療における総合的咬合・咀嚼機能検査
- 腹腔鏡下仙骨膣固定術
- 硬膜外自家血注入療法
- 食道アカラシアなどに対する経口内視鏡的筋層切開術
- 内視鏡下頸部良性腫瘍摘出術
など、計14の医療技術が、2016年度の診療報酬改定で保険適用となることが決まった。
参考資料
厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第323回) 議事次第
総-2-4 既存の先進医療に関する保険導入等について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000109874.pdf
同上 総-1-1 医療技術の評価について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000109791.pdf
同上 総-2-1 第37回先進医療会議(平成27年12月3日)における先進医療Bの科学的評価結果
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000109794.pdf
同上 総-1-3 医療技術の評価
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000109793.pdf
第31回先進医療技術審査部会 資料6-2
内視鏡下手術用ロボットを用いた腹腔鏡下腎部分切除術(告示番号50)について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000091870.pdf
第32回先進医療技術審査部会 資料2-1
先進医療B 総括報告書に関する評価表(告示 50)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000094380.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
医療用手術ロボット「ダ・ビンチ」による腎がん手術が、いよいよ保険適用となりました。適応症例はまだ部分的なのかもしれませんが、患者さんにとっては朗報ではないでしょうか。「ダ・ビンチ」が日本に入ってすでに15年あまり。欧米に比べると症例数はまだまだ少ないですが、それでも2014年頃にはすでに年間1万例を超えているようです。
もっとも多いのは泌尿器科のようですが、これはやはり、2012年の「前立腺がんへの保険適用」が大きく関係しているといわれています。
でも、例えばアメリカでもっとも症例数が多いのは、実は婦人科手術。これに消化器、泌尿器が続きます。日本は泌尿器、消化器、婦人科の順番です。「ダ・ビンチ」を使った手術には、医師のウデも関係してくると思いますので、「慣れた医師がどれだけいるか」も関係しているのでしょう。
日本で最初(アジア初だったらしい)に「ダ・ビンチ」による手術を行ったといわれる北島政樹氏は消化器外科医ですから、最初の手術は消化器に関するものだったいうのは容易に想像できますが、それよりも泌尿器科で発展してきた理由を知りたくなります。
今回の診療報酬改定でも、腹腔鏡下の手術が多く保険適用となっていますが、今後もさらに「ダ・ビンチ」は広がるのでしょう。
すでに、「Made in Japanの手術ロボット」を開発する動きもあるようです。今後は、「開腹手術」の件数はどんどん減り、数年後には現在の半数くらいになっているかもしれません。
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