【医療ニュースPickUp 2016年6月16日】肺腺がんの新しい治療法となるか 国がんがバイオマーカーを発見
2016年6月16日、国立がん研究センター(東京都中央区、以下 国がん)は「肺腺がんの手術後の転移のリスクを低下させる目的で行われる補助化学療法の効果予測のためのバイオマーカーとして、ACTN4の有用性を報告した」と公表した。
今回の研究成果により、ACTN4発現性の高い肺腺がんの場合、術後の転移の可能性が高く、補助化学療法の効果も高い可能性が示唆されたという。
今回の発見結果は大きく2つ
そもそも肺腺がんとは、非小細胞肺がんの中でも罹患率が高くおよそ60~65%を占める。男性の罹患患者が多い肺がんにおいて、女性の罹患も多いという特徴がある。
肺腺がんのように、転移活性を持つ腫瘍の場合、手術切除範囲以外の場所に微小な転移がんが存在することがあり、術後に再発する可能性がある。その予測は困難であり、肺腺がんを含む非小細胞肺がんでは、術後に補助化学療法を行うことが、現在の標準治療となっている。
しかし、これまでの「肺腺がんを含む非小細胞肺がん」に対する術後補助化学療法の全生存期間延長に及ぼす恩恵は、十分とはいえず、さらに非小細胞肺がん患者は65歳以上の高齢者に多いことから、補助化学療法で恩恵を受ける患者群を効率よく選別するためのバイオマーカーが求められている。
今回、研究の対象となったACTN4は、国がんが「浸潤・転移の性質を評価するバイオマーカー」として同定した分子である。国がんでは過去に、補助化学療法を受けなかったI期の肺腺がんの患者群について、ACTN4の遺伝子増幅やタンパク質発現が高い患者群と正常な患者群で検討を行った。その結果、ACTN4の発現が高い患者群において予後不良になることが確認されたが、これらの予後不良な症例に対し、補助化学療法の効果の程度までは分かっていなかった。
今回の研究で見出された結果は、大きく2つある。
- ACTN4高発現群の患者さんで補助化学療法の有無と生存期間を比較すると、補助化学療法を行った場合、死亡の相対リスクを減らす可能性が示唆された
- 非小細胞肺がんにおけるACTN4分子の転移活性への関与およびバイオマーカーとしての有効性を確認した
国がんでは、「本研究成果により、ACTN4を利用したバイオマーカーで補助化学療法を必要とする患者さんを絞り込める可能性が出てきました」としながらも、未だ臨床的臨床的な証拠にするには十分ではないとしている。現在、ACTN4の遺伝子増幅とタンパク質発現を手術検体で確認するための検査キットを作成しており、今後は検査キットの体外診断薬化を目指すという。
参考資料
国立がん研究センター プレスリリース > 肺腺がんの転移と補助化学療法の効果を予測するバイオマーカー発見 補助化学療法における個別化医療を目指す
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20160614.html
Oncotarget
Efficacy of adjuvant chemotherapy for non-small cell lung cancer assessed by metastatic potential associated with ACTN4
http://www.impactjournals.com/oncotarget/index.php?journal=oncotarget&page=article&op=view&path%5B%5D=8890
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
今回は、肺がん治療に関するバイオマーカーを発見!というニュースですが、肺がん患者さんって、確かに増えていますよね。再発率も高いようですので、今回の研究成果から、新しい治療法が確立されれば、助かる患者さんも増えるのではないでしょうか。
先日、たまたま目にしたデータですが、肺がんと喫煙には、およそ20年の時間差があるそうです。日本人の喫煙率がもっとも高かったのは1960年代後半から1970年頃ですが、それ以降は、喫煙率が減少傾向にあります。しかしそれと半比例するように肺がんの死亡者数は増加してきました。喫煙率がピークを迎えた1970年頃からおよそ30年後の2000年ころには、徐々に肺がんでの死亡率は減少傾向にある、ということです。これらのことから、やはり肺がんの原因の1つは喫煙である、と結論づけられています。
ただ、これは男性の場合。女性の場合は、全体的な喫煙率は低めではあるものの、喫煙者率や肺がんでの死亡率に、男性ほどの大きなピークは無く、「煙草を吸う人は吸う」という傾向が続いているようです。
2015年頃には、日本の喫煙率は19.9%でした。だいぶ、喫煙者数は減ってきているようです。しかし、男女別でみると、男性:31.0%、女性:9.6%と、相変わらず男性の喫煙率の方が、女性よりも高くなっています。「肺がんは男性患者の方が多い」といわれる理由も、ここにあるのではないでしょうか。
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