【医療ニュースPickUp 2015年12月23日】名大病院 肺がんを3年に渡り見落とし患者死亡 調査結果を公表
2015年12月21日、名古屋大学医学部付属病院(以下 名大病院)は、肺がんを3年に渡って見落としていた結果、原発性肺がんの進行により死亡した事例について、調査結果を公表した。
事例調査委員会は診療体制の改善を求める
今回の事例は、愛知県内の40代男性。2007年5月に、他院での左腎癌腹腔鏡下根治的腎摘除術を受け、その翌月から、術後フォローの目的で、名大病院の泌尿器科外来に通院していた。
この患者に対し、延べ10回のCT検査を行ったが、報告書作成などに関わった医師たちはいずれも、原発性の肺がんを、3年にわたって見落としていた。患者の死後、名大病院は複数の外部専門家を主体とする事例調査委員会による調査検討を行った。
その結果、少なくても2009年5月には、肺がんの可能性に気づくべきであったこと、この時点の画像からは「肺がんのⅠA期」であると思われたこと、その時点で手術を行えば、5年後の生存率は82%だったことなどなどを報告した。
この患者は半年に一度、名大病院でCT検査を受けていた。しかし、一次読影に関与した医師9名、及び二次読影医2名、主治医である泌尿器科外来医師2名ともに、肺の撮影画像に映る異常所見に気付かず、報告書には一度も記載されなかった。男性は胸に痛みを感じていたため他院を受診、2012年5月に肺がんと診断され、2014年3月に死亡した。
見落としの原因として
- 主治医は自らCT画像をチェックせず、CT画像の診断を放射線科に委ねていたこと
- 今回の原発性肺がんは、見落としやすい部分にあったこと、
- 病変部には陳旧性炎症所見が散在していたこと
- 撮影および報告依頼の内容が腎がんの転移チェックであったこと
- その結果、胸部画像に映る異常部分を原発性肺癌であると認識できなかったこと
などを指摘している。
事例調査委員会は診療体制の改善を求めており、石黒直樹病院長は、名大病院の各診療科部長に対し、以下の改善を指示している。
- 主科主治医は、放射線科読影報告書のみで検査結果を判断せず、画像検査のオーダー責任者として、自らが責任を持って入念に読影を行うこと
- 主科主治医は、患者の診断・治療・研究にとって画像検査が必要か否かを熟慮し、必要性の低い画像検査を極力減らすこと
- 画像検査のオーダーにあたっては、撮影部位を適切な範囲に限ったり、妥当な検査間隔を保つこと
参考資料
名古屋大学付属病院 腎癌術後フォロー中、原発性肺癌進行の発見が遅れた事例について
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/1606/010844.html
同上 腎癌術後フォロー中,原発性肺癌進行の発見が遅れた事例について
調査報告書の概要
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/dbps_data/_material_/nu_hospital/_res/oshirase/20151221shiryou01.pdf
同上 「腎癌術後フォロー中,原発性肺癌進行の発見が遅れた事例」の
事故調査報告書を受けて
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/dbps_data/_material_/nu_hospital/_res/oshirase/20151221shiryou03.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
今回の事例は、何とも痛ましい事例です。亡くなった患者さんはまだ40代、働き盛りの年代です。ご遺族も大変な思いをされていると思います。
調査委員会の報告書も読みましたが、見落としが起きたポイントは、いくつもあったように思います。
まず、泌尿器科の医師が「術後再発の可能性を調べる」ことに注力したこと、その結果、撮影オーダーでもその旨を指示していたこと、放射線科医はその指示に従っていたこと、見つけにくい場所にできた“新しいがん”だったこと、などでしょうか。腹部の画像検査だけではなく、胸部の画像検査も行っているにもかかわらず、検査や読影にかかわった13人の医師が誰も“もしかしてこの肺の影は?”と考えなかった、ということですから、よっぽど見つけにくいものだったのかもしれません。
しかし患者さんご本人は“胸の痛み”があったわけですから、かなり辛かったのだと思います。現在は原発性肺がんでも、早期に発見できれば5年生存率が80%を超えています。どこかで誰かが気づくことができなかったのか、医療者としてもとても悔やまれる事例だと思います。患者さんのご冥福をお祈りします。
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