【医療ニュースPickUp 2015年12月25日】食欲を抑制する回路を発見 福島医大研究チームの研究成果より
2015年12月22日、公立大学法人福島県立医科大学(以下 福島医大)の医療エレクトロニクス研究講座の研究チームは、「食欲を制御する新しい神経回路を発見した」ことを公表した。この研究成果は、ドイツの科学誌「Brain Structure & Function」にて、12月2日付で掲載された。
食欲の抑制調整のメカニズム解明を目指す
今回の研究は、同講座の前島裕子准教授と、下村健寿教授が中心となり、器官制御外科を交えたチームにより進められた。
これまでに行われてきた研究では、脳内には「ネスファチン」と呼ばれる、食欲を抑制する働きを持つ神経ペプチドがあることが分かっていた。ラットの脳に「ネスファチン」を投与し続けると、投与しない個体と比較し、食事量が2割以上減り、体重も減少するという結果が出ていた。しかしそのメカニズムについては明確にはなっていなかった。
今回の研究に先駆け、前島准教授は2009年に、「ネスファチンが脳内の一つの神経回路を通じて食欲をつかさどる中枢に影響を与えている」ことを発見した。そこで今回の研究では、ネスファチンを含有する神経細胞が作る「脳神経回路」に着目し、その作用機序の解明を試みたという。
結果的に、共同研究チームは今回、脳の視床下部にある室傍核と呼ばれる神経核に存在する「ネスファチン含有神経細胞」が、Axon collateralという特殊な神経回路を形成していることを発見した。「Axon collateral」とは軸索側枝のこと。神経細胞は、細胞体から出るときは1本だが、細胞から出た後で側枝を出すことがあり、この側枝のことを軸索側枝という。
これまでの研究では、食欲制御の神経回路を検討する場合、ひとつの出力側の神経細胞から、もう一方の入力側となる神経細胞をコントロールするという「1 対 1 対応」であると考えられてきた。
しかし今回の研究によって、一つの出力側ネスファチン含有神経細胞は、 2 本の神経投射を行うことで、少なくとも二つの異なる脳領域を入力側として同時にコントロールしていることが分かった。これが、「1 対 2 対応」のメカニズム(Axon collateral)を用いているということに繋がり、さらに投射先にあたる二つの脳領域は、それぞれが「食欲」制御に重要な脳領域であることが分かったという。
今後は、この神経回路の働きにより、どのようなメカニズムで「食欲抑制を調整しているのか」の解明を目指す。さらに、今回の研究で肥満研究の可能性が拡がったことにより、糖尿病や高脂血症など生活習慣病の原因になるとされる肥満の治療や、肥満対策となる薬品開発につながることが、期待されている。
参考資料
福島県立医科大学 研究成果情報・学会等表彰
独科学誌「Brain Structure & Function」掲載 〔平成27年12月〕
https://www.fmu.ac.jp/univ/kenkyu/kenkyuseika/seika/1506.html
同上 研究成果の発表について 食欲を制御する新しい神経回路の発見
~食欲制御神経ペプチド『ネスファチン』の新たな可能性~
https://www.fmu.ac.jp/univ/kenkyu/kenkyuseika/pdf/1506_271222press.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
「肥満」の定義は、世界的に統一されており、BMIが25を超えると「過体重」、30を超えると「肥満」になります(WHOの定義)。この基準から見ると、日本の肥満率は、先進国の中ではもっとも低いといわれています。
少し古いデータですが、世界でもっとも成人の肥満率が高いのは、男性ではアメリカの72%、女性はオーストラリアの68%だそうです。日本は男性およそ31%、女性およそ21%くらいで、先進国の中ではもっとも肥満の少ない国となっています。
「先進国」という垣根を外しても、2008年のWHOの統計では、189か国中166位ですから、まぁ肥満とは言い難い国なのかもしれません。しかしここ数十年の間、世界的にみれば肥満は増加傾向が続いています。
先進国では2006年あたりから減少傾向にあるようですが、一方で今後は、途上国での肥満が増加する、という警鐘を鳴らす研究者もいます。世界的にみれば、10人中3人が肥満(=およそ3人に1人は肥満!)、肥満・過体重が原因で死亡する人は世界で340万人とも言われているそうです。
日本では、特に40歳以上でこの20年間「肥満」の人が増え続けているといわれています。こういった背景の中での今回の研究成果は、世界からの注目を浴びそうですね。
特にこれからの年末年始の時期は、一時的に太りやすくなりますし、「肥満」は世界が抱える病なのかもしれません。
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