【医療ニュースPickUp】2015年4月8日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
看護師による特定行為がいよいよ現実のものに
厚生労働省は2015年3月、2日間に渡って「看護師の特定行為研修における指定研修機関の指定申請に関する説明会」を開催した。厚生労働省のサイトにて、配布資料等が公表されている。
資料の1つである「指定研修機関の指定の申請等について」によると、看護師による特定行為とは「診療の補助であって、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるもの」として、21分野・38項目に分かれている。
かねてより話題にのぼっていた「褥瘡又は慢性創傷の治療における 血流のない壊死組織の除去」や、「持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整」「脱水症状に対する輸液による補正」などがある。
一方で、「直接動脈穿刺法による採血」「橈骨動脈ラインの確保」や、人工呼吸器に対する設定の変更、心嚢・胸腔・腹腔ドレーンの管理や抜去など、看護師が行うのであればかなりの知識と熟練度を要する行為も含まれている。
実際にこの制度が施行されれば、医師または歯科医師からの指示書を元に、一定の研修を受けた看護師であれば、診療補助となる行為を実践することが可能となる。
まず医師または歯科医師は、患者を特定した上で、看護師に向けた手順書(様式の指定あり)を作成する。
看護師はそれを元に「患者の病状の範囲の確認」を行い、手順書にある病状の範囲内であれば、手順書通りの診療補助行為を行い、その結果を医師または歯科医師に報告する。
万が一「患者の病状の範囲」が手順書を逸脱したものであれば、医師または歯科医師に、口頭でも別途指示を受けることとなっている。
厚生労働省では、団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年をとりあえずのターゲットと捉え、この年までには2ケタ万人の「特定行為研修を修了した看護師」を育成したいとしている。
看護師の需要先として、訪問看護、介護施設、高度急性期・急性期医療機関、回復期や慢性期などの各医療機関を挙げている。
実際の研修については、共通科目315時間の他、38の項目はそれぞれ、21区分に従って行われるものとなっており、2つ以上の区分、例えば「創傷管理関連」と「感染に係る薬剤投与関連」の2つを同じ看護師に実施させるのであれば、両方の区分ごとの講義・演習・実習を修了している必要があるようだ。
厚生労働省は研修機関の支援事業として、今寝度は2億4千万円以上を予算として計上している。今年10月からスタートするこの制度、どこまで医師や看護師の間に浸透するのであろうか。
参考資料
厚生労働省 看護師の特定行為研修における指定研修機関の指定申請に関する説明会
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000079181.html
同上 同説明会資料 指定研修機関の指定の申請等について
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000079176.pdf
同上 特定行為研修とは
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077114.html
同上 共通科目の内容
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000077911.pdf
同上 共通科目の各科目及び区分別科目の研修方法
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000077909.pdf
同上 区分別科目
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000077912.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
数年前から表面化し始めたこの制度ですが、いよいよあと半年でスタートすることになったようです。
厚生労働省などは当初、「特定看護師」として資格化することを目標としていましたが、結局のところは「特定行為研修を修了した看護師」として落ち着いたようです。
この議論が持ち上がった2010年頃、日本看護協会は「看護師の職域拡大」に(「看護師は独立した職業であり、医師不足を補うためのお手伝い要員ではない!」という意味で)反対し、日本医師会では「(当時の法律上)医師しか認められていない診療行為に対する侵食だ!」と反対し、他のコメディカルに関係する団体も「看護師の風下に立つなんて!」と反対していた、という時期もありました。
当初は含まれていた「看護師による気管内挿管」も無くなりましたね。
その一方で、例えばかなりのベテラン看護師なら、今回あげられた38項目のうち、いくつかは医師の口頭指示などにより行っている医療行為もあるかもしれませんし、特に訪問看護などでは、病状の変化による指示を、口頭でしか受けられないような状況は多々あると思います。
中には、訪問看護と訪問診療に対する点数(金額)の違いから、「看護師さんで何とかしてくれるなら、その方が良い」と考える、在宅患者さんや家族もいるでしょう。
そう考えると、一定の範囲内とはいえ「(要件を満たせば)法律的にもOK!」というのは、ある意味良いことなのかもしれません。
その分、医師による「手順書を書く」という手間は増えそうですし、万が一問題(不手際)などが起きた時の責任を明確にできるのか、という課題もありそうですけどね。
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