【医療ニュースPickUp】2015年5月7日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
医療情報とマイナンバー連動 国が本格的な検討に入る
2015年4月28日、産業競争力会議を開き、医療分野で使う「新しい番号制度の検討」を始めた。
2016年度から運用がスタートする「マイナンバー」と連動させ、医療機関や薬局、介護施設や訪問看護ステーション等が、個人の医療情報を共有できるようにする仕組みだ。
この新しい番号を通じ、個人に合った医療計画をたてやすくなるほか、無駄な投薬や検査を減らすことによる医療費の削減効果が期待されている。
同日に公表された資料には、「健康・医療戦略の推進と次世代医療ICT基盤協議会」からのものもある。
これによると、2020年頃には「アウトカムを含む標準化されたデジタルデータの収集と利活用を円滑に行う全国規模の仕組みの構築」、2025年頃には「臨床におけるICTの徹底的な適用による高度で効率的な次世代医療の実現と国際標準の獲得」を目標としている。
つまり、2025年までには、レセプトデータだけではなく、検査結果や服薬等のアウトカムデータ、手術成績等のデータ、生活環境におけるバイタルデータ、母子健康手帳、死亡診断書等のデータ等も共有する方針だ。
新しい個人番号は、かかりつけ医で作成されるカルテや、レセプトなどの医療情報に紐付けられる。個人が望めば、かかりつけ医だけではなく、調剤薬局や介護施設などでも、この番号を使って情報が共有できるようになる。
これにより、例えば「お薬手帳」を持っていなくても、個人が過去に処方された薬の数や種類が分かるようになるため「無駄な処方が減る」という効果が見込まれる。
また、在宅で療養する高齢者に対しても、医師や介護従事者・訪問看護師などが情報を共有することで、効果的な医療計画がたてやすくなることが期待されている。
これも集約されるようになれば、ある意味「医療ビッグデータ」になるのであろうか。ここ数年、日本だけではなく海外でも「医療ビッグデータ」の活用に注目が集まっている。
例えば日本では、2015年3月から国立がん研究センターが主体となった「産学連携全国がんゲノムスクリーニング」として、SCRUM-Japanが始まった。
国立がん研究センターと全国の医療機関、製薬企業10数社が連携し、癌患者の遺伝子スクリーニングを行うプロジェクトだ。
2013年から肺癌、2014年から大腸癌を対象に始まった全国規模の遺伝子スクリーニングを、統合した形だ。
アメリカでは今年4月、米国マサチューセッツ工科大学の研究グループが、マサチューセッツ総合病院(MGH)のような大規模医療機関に保存されている、数十年に及ぶ病理データを取り込み、リンパ腫の診断を支援する自動ツールの開発を目指すと公表した。
イギリスでは今年3月、MRI画像のビッグデータを解析し、自閉症の人と自閉症ではない人の脳の機能的な差異を明らかにした。
確かに、個人の医療に関するデータを活用することで、その個人に対する医療サービスの充実と医療費削減が期待できる。しかしそれ以上に、長期的な視点で期待される効果もあるのではないか。
いよいよ本格化してきたマイナンバー制度と医療情報の連携。今後の動向に注目したい。
参考資料
マサチューセッツ工科大学(MTI)
How a computer can help your doctor better diagnose cancer
http://newsoffice.mit.edu/2015/how-computer-can-help-your-doctor-better-diagnose-cancer-0423
英国ウォーリック大学
Autistic and non-autistic brain differences isolated for first time
http://www2.warwick.ac.uk/newsandevents/pressreleases/autistic_and_non-autistic/
国立がん研究センター
産学連携全国がんゲノムスクリーニング 「SCRUM-Japan」始動
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20150310.html
首相官邸 第8回 新陳代謝・イノベーションWG 配布資料
公的個人認証サービス・個人番号カードの利活用について 総務省
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/wg/innovation/dai8/siryou2.pdf
同上 医療等分野におけるICT化の推進について 厚生労働省
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/wg/innovation/dai8/siryou5.pdf
同上 健康・医療戦略の推進と次世代医療ICT基盤協議会
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/wg/innovation/dai8/siryou4.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
以前、こちらのニュースでも「いよいよマイナンバー制スタート!医療機関は何をするのか?」というニュースをお伝えしましたが、その全貌が明らかになってきたようです。
マイナンバー制度とは別の新しい個人番号を作る、という点では「なるほど」と思いましたが、やはり最終的には「全国民の医療情報を集約する」ことも、マイナンバー制度の目的の1つだったようです。
「医療情報をネットワーク上に流す」ことに対しては、反対意見も多々あります。例えば日本医師会などは、「医者による情報漏洩リスクが高い」として反対してきています。
そこで苦肉の策として、「マイナンバー制度と連動していても、新しい医療に限った番号を作れば、医者からの漏洩リスクは医療分野に限られる」ということになるのでしょうか。
もっとも、患者からすればこれが最も「漏えいされたくない情報」であることには変わりありませんが。
しかし考え方によっては、MTIやイギリスのウォーリック大学の研究のように、それが新たな疾患の発見や適正な治療に繋がるのであれば、国が集約するのも個人的には有意義なのかとも思います。
ただし、そこまで行くには「匿名化された情報」であることが条件ではあります。
自分で「私は癌です」と公表するのと、いつの間にかどこの誰とも知らない人に「この人癌だって」と知られるのは雲泥の差ですので、「流通する情報をどう守るのか」が、国民に受け入れられるかどうかのポイントになるのでしょう。
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