【医療ニュースPickUp 2015年12月11日】研修医の3割が鬱 医療の質の低下につながるか?米国での研究より
2015年12月8日、アメリカの医師会雑誌(Journal of the American Medical Association、JAMA)に、「研修中の若手医師のうち、3分の1近くがうつ病や抑うつ症状を患っている」という調査研究結果が公表された。研究者グループは「治療行為に悪影響を与える恐れもある」と警鐘を鳴らしているという。
研修医に対するうつ予防策の検討が必要
この調査は、1963年から2015年9月までに公表されたさまざまな研究結果から、医師計1万7560人のデータが含まれる研究54本(31のcross-sectional studies (対象者9447人)および23の longitudinal studies (対象者8113人))から抽出されたデータに対する調査研究を行ったもの。米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Womens Hospital)と、米ハーバード大学医学部(Harvard Medical School)のダグラス・マタ(Douglas Mata)医師が中心となり、系統的レビューやメタ分析が行われた。
今回の研究は、「うつ病」や「抑うつ症状」がみられた研修医の比率に関する情報が含まれる先行研究に対しての分析を行った。結果として、これらの状況に陥っていた医師は、1万7560人中4969人であり、全体の28.8%に達していたことが分かった。また、この割合は、年々増加する傾向もみられるという。
研修医など、多くの若手医師にとっての研修期間中は、睡眠時間が確保しにくいだけではなく、さまざまなストレッサーからのストレスを受ける。過去に行われた調査により、「研修医は一般の人よりもうつ病にかかる比率が高い」ということは知られていた。
日本でもかつて、筑波大学の前野哲博教授らの研究グループにより、「研修開始後の2ヶ月で、4人に1人が抑うつになる」という研究データが公表されたことがある。
前野教授の研究は、「2004年度の1年目研修医(41 施設568人)を対象」としたものであり、母数の数は今回の研究とは大きな差があり、「抑うつになる」ことと「うつ病を発症する」という違いもある。2004年の日本は、新医師臨床研修制度が導入された年でもあり、今回のアメリカの研究とは違う面もある。
しかし、これまでに行われた複数の調査では、研修医の抑うつ症状が「患者ケアの質の低下や医療ミスの増加につながる恐れ」が指摘されたこともある。
今回の調査を行った研究者グループからは、「今後、さらなる研究により、研修医に対するうつ予防策の検討が必要である」と指摘している。
参考資料
AFP BB NEWS
研修医の3割が「うつ」、米研究 医療の質への影響も
http://www.afpbb.com/articles/-/3069563
Journal of the American Medical Association(JAMA)
Prevalence of Depression and Depressive Symptoms Among Resident Physicians
A Systematic Review and Meta-analysis
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2474424
徳洲会グループ Research on stress
新医師臨床研修制度における研修医のストレス調査とその結果
http://www.tokushukai.or.jp/media/dnet/img/dnet42_pdf/DN42_1415.pdf
厚生労働省 みんなのメンタルヘルス うつ病 患者数
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_depressive.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
研修医の「うつ」って、ホントに多いんですね。日本での研究で「4人に1人」というのも驚きました。
調査にかけた年数(利用したデータ)や母数の違いもありますし、研修医制度がそもそも違いますので一概にはいえませんが、アメリカの研修医は3.5人に1人がうつになっているということです。
日本の看護師の場合、長期休暇をとるほどではないが「ゆううつな気分になる」のは、日勤のみ27.1%、3交代35.5%、2交代33.1%というデータがあります。
一方で、厚生労働省が公表するデータでは、うつ病の生涯有病率(これまでにうつ病を経験した者の割合)は3~16%というものがありますので、医療者は全体的に、一般社会よりもうつ病を発症する率が高いのではないでしょうか。
私の知人でも、メンタルの薬をのみながら仕事をしている看護師がいます。そういえばいつの間にか病院から消えていった研修医もいましたね。
私自身も経験がありますが、実際のところ、医療の分野は特に、一度離れてしまうと復職することが結構難しいと思います。そうならないためにどうすればよいのか、国民全体で考えるべき問題なのだと思います。
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