【医療ニュースPickUp 2016年1月15日】理研の快挙 ヒトES細胞から脳下垂体の再生に成功
2016年1月14日、理化学研究所多細胞システム形成研究センター(神戸市中央区)および名古屋大の研究グループは、ヒトの胚性幹細胞(ES細胞)から、「機能的な(脳)下垂体組織を誘導」したと発表した。研究グループは、下垂体がないマウスに移植し、治療を行うことに世界で初めて成功。つまり、正常に機能する脳下垂体組織を作り出したことになる。この研究成果は、同日の英科学誌「Nature Communications」の電子版にて公表された。
立て続けの再生成功
理化学研究所多細胞システム形成研究センターの発表によると、グループは2011年に、マウスのES細胞で下垂体の再生に成功しており、今回の成果は、それに続くものとなる。
研究グループは今回、人のES細胞を約1カ月培養して下垂体のもとになる組織、「ラトケ嚢」を作り出した。これは将来、視床下部になる腹側神経上皮からの誘導により、それと隣接する口腔外胚葉から生じている。
さらに培養を続けると、67〜70日目には、副腎皮質刺激ホルモン産生細胞(ACTH+)、成長ホルモン産生細胞(GH+)、プロラクチン産生細胞(PRL)、甲状腺刺激ホルモン産生細胞(TSH)、性腺刺激ホルモン産生細胞、黄体形成ホルモン産生細胞、卵胞刺激ホルモン産生細胞などを誘導することに成功した。
これらの結果から、ヒトES細胞からラトケ嚢を経て、下垂体前葉の各種ホルモン産生細胞が分化していることが明らかになった。
次に、副腎皮質刺激ホルモン産生細胞に着目したところ、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)による正の制御、糖質コルチコイドによる負の制御を受けていた。また、ヒトES細胞由来の成長ホルモン産生細胞も、生体内と同様の応答性を持っていることが分かった。
最後に、ヒトES細胞由来の下垂体組織が生体内で機能し得るかについて検討した。下垂体を欠損させた免疫不全マウスの腎被膜下に、ヒトES細胞由来の下垂体組織を移植したところ、移植10日後には、糖質コルチコイド分泌が誘導されていた。
さらに、糖質コルチコイド欠乏時に起こる活動量の低下が回復、体重の維持や、生存期間の大幅な延長が確認された。また、移植後12〜16週間経っても、ホルモン分泌能を維持していた。
参考資料
理化学研究所 多細胞システム形成研究センター ヒトES細胞から機能的な下垂体組織を誘導
http://www.cdb.riken.jp/news/2016/researches/0114_9441.html
同上 ES細胞から下垂体組織の立体形成に成功
http://www.cdb.riken.jp/jp/04_news/articles/11/111114_pituitarytissue.html
Nature Communications
Functional anterior pituitary generated in self-organizing culture of human embryonic stem cells.
http://www.nature.com/ncomms/2016/160114/ncomms10351/full/ncomms10351.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
このプレスリリースを読んだ最初の感想は「日本人、スゴイ!」でした。
脳下垂体といえば、親指の爪ほどの大きさしかないくせに、「ヒトの生命を司る」というものすごい働きをする臓器ですよね。ES細胞を使って臓器の形を作ることに成功するのもスゴイですが、それが持つべき機能を作り出し、(今回はマウスでしたが)生きるか死ぬかをコントロールするところまで来たって、世界的にも注目されるべき研究だったのだと思います。
現在のところ、ES細胞は受精卵を壊してつくるという過程が必要なため、ヒトへの応用には倫理面の問題があるそうですので、実際に臨床応用を考える時には、iPS細胞が使われるそうですが、すでにここまで研究が進んでいるのですから、ヒトへの応用という次のステップへ、ぜひとも進んでほしいと思います。
私は仕事柄、不妊症やその他もろもろの疾患に関する記事を書くことがあるのですが、脳下垂体に関する疾患って、結構ありますよね。人生ががらりと変わってしまうものもあります。
5年後10年後、そういった疾患への治療法が確立されると良いなと思います。
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