【医療ニュースPickUp 2015年8月11日】 胆道がん ゲノムレベルで治療する時代へ?
2015年8月11日、国立がん研究センターは、大規模な胆道がんのゲノムならびにトランスクリプトームの解読研究を行った結果、新たな治療標的となりうる可能性のある、「新規ゲノム異常や発生部位(肝内および肝外胆管、胆のう)ごとの特徴を明らかにした」と公表した。
32個の「ドライバー遺伝子」を同定
この研究成果は、国際科学誌「Nature Genetics(電子版)」にて、2015年8月10日付(日本時間8月11日午前0時)で発表されている。
研究グループは、世界最大規模の260例の臨床検体のゲノム(DNA)などの解析を実施。その結果、がんの発生や進展に重要な役割を果たす、32個の「ドライバー遺伝子」を同定した。
これまでもいくつかのドライバー遺伝子は発見されており、すでに治療標的の候補になっているものもあるが、今回新たに発見されたものもあった。胆道がんは発生部位ごとにがんの発生メカニズムが異なっていること、それに応じて薬剤開発におけるポイントも変えていく必要があることも分かった。
また、今回の研究で同定したゲノム異常の中には、少なくとも14個の治療標的となりうる遺伝子が含まれており、それらのゲノム異常を少なくとも1つ持つ腫瘍は、研究対象となった胆道がん症例全体の約40%を占めていた。
さらに、分子プロファイルに基づいて分類してみると、胆道がんは新たに4つのグループに分類され、うち1つのグループは、他のグループよりも予後が不良であった。そこで特徴的な遺伝子の発現を調べたところ、免疫関連遺伝子の「免疫チェックポイント分子」の発現が、有意に多くなっていたことから、免疫チェックポイント阻害薬が有効である可能性が高いグループが存在することが示唆されたことになる。
国立がん研究センターでは今後、今回の研究成果を元に今回の研究成果を元に、以下の方向で今後の胆道がんの治療を変えていくことを目指すとしている。
- 本研究で明らかにした日本人胆道がんのドライバー遺伝子を治療標的とした、オールジャパン(全国規模)での遺伝子スクリーニングとアンブレラ型臨床試験を進める
- 新たに発見したドライバー遺伝子に対する治療法の開発を進める
さらに今回、胆道がんにおける免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)の可能性が初めて示されたことから、今後は、「免疫治療法」に関する開発推進が期待されている。
参考資料
国立がん研究センター
胆道がんにおける大規模ゲノム解読
新規治療標的ゲノム異常と発生部位ごとの分子学的特徴を解明
予後不良群での免疫チェックポイント療法の有効性を示唆
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20150811.html
nature genetics
Genomic spectra of biliary tract cancer
http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/full/ng.3375.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
胆道がんといえば、2012年の大阪の印刷会社社員の罹患が問題になったことは、記憶に新しいです。さまざまなメディアでも「胆道がんは予後不良」などと報道されていましたが、国がんの統計データなどによると「5年相対生存率は21.1%」となっています。
これだけ見ると「ふーん」と思いますが、膵臓がんに次いで、ワースト2位とのことです。ちなみに、乳がんは89.1%だそうですので、ごくごく単純に考えると、乳がんのサバイバーと比べると、およそ4分の1しか生きられない、となるのでしょうか。
もう1つ、乳がんとの比較で「へぇ」と思ったのは、有効性のある抗がん剤の多さです。胆道がんの6剤に対して、乳がんは約30剤。そりゃ生存率に違いが出るな、というのが正直な感想です。
ここ最近、がんに対するゲノム解析とか、それに基づいたテーラーメイド医療とか、こういった言葉をよく目に(耳に)するようになりました。現在のところはまだ研究段階であることがほとんどですが、いずれ一般庶民にも手が届く医療になるのでしょうか。
今回の研究成果も含め、「アナタに最もよく効く抗がん剤」ができる日が来ると良いと思います。
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