【医療ニュースPickUp】2015年2月5日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
放医研、画像診断における医療被ばく情報のデータベース化を試験的に開始
2015年1月30日、独立行政法人放射線医学総合研究所(以下「放医研」)は、医療機関及びメーカと連携し、CT装置などの画像診断装置から、医療被ばくに関する情報を自動収集してデータベース化するシステムを、試験稼働させたと発表した。
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長:松浦祥次郎 以下「原子力機構」)及び公立大学法人大分県立看護科学大学(以下「大分県立看護大」)の甲斐倫明教授らとの共同研究により、平成24年12月21日から試験運用を行ってきたCT撮影における被ばく線量評価システムWAZA-ARI2を改良したシステムを利用する。
改良型はWAZA-ARIv2といい、平成27年1月30日より医療関係者への本格運用を開始することとなった。
放射線診断による被ばく線量の適切な低減を進めるために参考となるのが「診断参考レベル」(Diagnostic Reference Levels:DRL)。
DRLの使用は国際放射線防護委員会(以下「ICRP」)により勧告されているもので、放射線診断における線量が適正値内にあるかを判断する目安となる線量指標のこと。
国あるいは地域ごとに医療被ばくの実態を考慮し、年齢別・検査別・撮影部位別に値が設定されている。
すでに欧米ではDRLが導入されて被ばく線量の低減が進められている。しかし日本は、DRLの設定がなされていないことも関係してか、一人当たりの医療被ばくは世界的に見ても高いと考えられている。
これらの課題を解決し、医療被ばく防護を進めていくためには日本でもDRLが導入されることが望ましい。そのための一歩として、国全体での放射線診断による被ばく線量の実態を把握することが、必要とされている。
そこで放医研では今回、5つの医療機関と連携し、検査単位での医療被ばくに関連するデータを自動収集してデータベース化する試みを開始することとなった。
第1段階としては、放医研などが開発した収集ツールWAZA-ARIv2と、GEヘルスケア・ジャパン製の支援ツールを用いることとなった。
現在は東北大学病院、大阪警察病院のデータ収集が開始されており、1月下旬には放医研のデータベースへ情報が格納される見込み。
さらに3機関からのデータ収集が開始される予定で、1施設ごとに1ヶ月ほどの期間をかけ、およそ4,000検査分の実データの収集を見込んでいる。半年後には20,000件余りのデータが収集する予定。
このシステムでは、協力病院に設置されているCT装置あるいはPACSに対してどちらかの収集ツールを接続することで、被ばく情報を検査単位で自動収集するが、CT装置から出力される情報は、DICOMで規格化された情報に限定される。
放医研のデータベースへデータを送る手法については、オンラインとCD-Rなどの媒体を使用する方法があり、医療機関ごとのセキュリティポリシーに依存する。
収集された情報は放医研にて分析が行われ、DRLなどの算出に利用されるほか、各医療機関はWeb上で他の医療機関との比較参照が行えるため、各医療機関における被ばく線量のバラつきが軽減できると期待されている。
今回の取り組みにより、これまで行ってきたアンケートによるデータ収集よりも、DICOM規格に基づく客観性のあるデータが大量に自動収集できることになる。
各医療機関から標準化されたデータを収集することで、DRL設定を行うことができるという。
今後は、平成27年度末には協力医療機関を20施設程度まで拡大する。それぞれの医療機関での調査期間の延長も予定され、トータルで30万件近いデータを収集する。
これにより、DRL値算出における精度向上、画像撮影における多角的な分析などが可能になる。放医研はいずれ、国内の医療被曝の正当化や最適化のための研究に利用したいとしている。
参考資料
Innavi net 放医研,医療被ばく情報の自動収集・解析システムの試験運用を開始
~放射線診断での被ばく線量の適切な低減に向けた取組への道筋~
http://www.innervision.co.jp/products/topics/20150307
放医研 放医研,医療被ばく情報の自動収集・解析システムの試験運用を開始
~放射線診断での被ばく線量の適切な低減に向けた取組への道筋~
http://www.nirs.go.jp/information/press/2015/01_30_2.shtml
同上 各医療機関でのCT撮影条件の設定に役立つWAZA-ARIv2の本格運用を開始
-様々な体格・年齢の患者に対応、国内のCT被ばく線量の統計データの収集も可能-
http://www.nirs.go.jp/information/press/2015/01_30_2.shtml
ICRC DIAGNOSTIC REFERENCE LEVELS IN MEDICAL IMAGING: REVIEW AND ADDITIONAL ADVICE
http://www.icrp.org/docs/DRL_for_web.pdf
独立行政法人放射線医学総合研究所 医療被ばく研究プロジェクト
医療被ばくについて
http://www.nirs.go.jp/rd/structure/merp/medicalexposure.html
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