【医療ニュースPickUp】2015年3月30日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
PM2.5による健康への影響は、どれほどのものなのか
2015年3月25日、PM2.5に含まれる発がん性化学物質「多環芳香族炭化水素(PAH)」について、中国大陸から能登半島へ飛来する量が、2009年以降は減少していることを、金沢大学の早川和一教授の研究グループが突き止めたと、読売新聞が報じた。
25日から神戸市で始まる日本薬学会で発表されるという。
研究グループは2004年から輪島市内にある観測施設で調査を行ってきたが、2009年以降、2013年までのデータでは4年間でおよそ4割減っているという。
根本的な要因は未だ分かっていないとはいえ、特に冬場は中国北部から飛来することが多くなるが、その原因の1つとして、石炭を燃やして温めた水を各家庭に送る暖房装置が一般的だったことが挙げられる。
ここ数年でこうした暖房設備が電気やガスに切り替えられたり、工場に対する環境対策が進んでいることも、PAHの飛来量減少に効果をもたらしている可能性もあると、研究者は述べている。
一方、九州や山口、四国の一部では、PM2.5の濃度が上昇する時期が到来した。3月22日には、福岡、佐賀、長崎および山口県で、今季初となる「注意喚起」が出されている。
●福岡県:一部の地域では午前6時頃から、その他の地域でも午前11時ころには100μg/m3を超えている
●佐賀県:3月22日の平均値ではほとんどの地域で50μg/m3を超えており、70μg/m3を超える地域もあった
●長崎県:午前5時には100μg/m3を超える地域もあり、午前11には半数以上の地域で100μg/m3を超えた
●山口県:24日現在でも100μg/m3を超える地域はないが、22日の平均値ではほとんどの地域で35μg/m3を超えた
PM2.5による身体への影響として、呼吸器系の疾患、特に喘息や気管支炎、肺癌などへのリスク上昇が懸念されているが、その濃度との関連性など、詳細な部分は未だ不明な点も多い。
そんな中、アメリカでは大気汚染の改善により、小児の肺機能が向上したという研究結果が公表された。南カリフォルニアで小児を登録した3つのコホート研究により示唆された。同地域においては、過去数十年間の取り組みにより、大気汚染の大幅な削減を達成した。
それに伴い、小児の性別や気管支喘息の有無に関わらず、肺機能(1秒量と努力肺活量)の発達が認められたという。対象となったのは、調査を行った時点で11歳から15歳の小児だった。また、15歳の時点で1秒量が臨床的に低い状態にあった小児の割合も、経時的に減少していることが分かった。
日本の文部科学省が行っている「学校保健統計調査」によると、調査を開始した昭和42年以降、各学校段階における喘息の者の割合は増加傾向にある。ピークだった2011年以降はやや減少傾向に転じているとはいえ、1クラスか2クラスに1人くらいは「喘息持ち」の小児がいるという計算になる。
もちろん喘息の原因は一概にはいえないが、大気汚染が改善すると肺機能が向上するのであれば、将来的に喘息に罹患する小児が減少する可能性もあるのではないだろうか。日本における調査が行われることに期待したい。
参考資料
読売新聞 PM2.5に含有 有害物質の飛来量減少
http://www.yomiuri.co.jp/local/ishikawa/news/20150324-OYTNT50310.html
朝日新聞 PM2.5の濃度上昇 福岡など4県で今季初の注意喚起
http://www.asahi.com/articles/ASH3Q3V86H3QTIPE008.html
山口県 平成27年3月 山口県内におけるPM2.5の日平均値 (3月24日現在)
http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cmsdata/e/b/e/ebeafc4c2c00a70f4cbccfa7d24ab403.pdf
長崎県 PM2.5 速報値 2015年3月22日
http://nagasaki-taiki.aa0.netvolante.jp/graph/item/pm25
佐賀県 項目別日平均値月報 微小粒子状物質(単位:μg/m3)
http://saga-taiki.jp/pc/average.php
福岡県 項目別日報 2015年03月22日
http://www.fihes.pref.fukuoka.jp/taiki-new/Nipo/OyWbNpKm0451.htm?Z3PB08388T06
福岡県 微小粒子状物質(PM2.5)に関するよくある質問(Q & A)http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/154291_50836627_misc.pdf
文部科学省 学校保健統計調査-平成26年度(速報)の結果の概要
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2015/01/23/1354493_3.pdf
日経メディカル 大気汚染の改善で小児の肺機能が向上 米・南カリフォルニアの小児コホート研究が示唆
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/nejm/201503/541320.html
The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE
Association of Improved Air Quality with Lung Development in Children
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1414123#t=abstract
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
今回はいくつかのニュースをまとめてみましたが、PM2.5の飛来量が増える=小児喘息が増えるとは、一概にはいえないだろうとは思います。
実際、日本でのPM2.5は、中国から飛来するもの多いようですが、地域によっては国内で発生しているものもあるといわれており、環境省などはこれらへの対策を検討しているようですが、やはり子どもたちにはキレイな空気の中で成長して欲しいと思います。
数年前から、この時期は特にニュースなどでも大きく取り上げられるようになったPM2.5。確かに日本で観測されるものの中には中国から飛んできているものも多いのでしょう。中国国内での映像などをみると、怖くて外は歩けないと考えてしまいます。
でも、日本でも高度経済成長といわれた時代以降、やはり大気汚染が問題となった頃もありました。当時よりも現在の方が、いろいろな研究が行われ、問題点も明らかになってきているわけですから、何とか上手い対策を、世界レベルで講じてくれないものかと、一般市民の私としては考えています。
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