【医療ニュースPickUp 2016年4月15日】肝臓がんの死亡率に遺伝子が関与?国立がんセンター研究成果より
2016年4月12日、国立がん研究センター(以下、国がん)は、「肝臓がん300例の全ゲノムを解読し、ゲノム構造異常や非コード領域の変異を多数同定した」と公表した。
次世代の肝臓がんの治療法へ
この研究は、国がんのゲノミクス研究分野 柴田龍弘分野長、十時泰ユニット長、理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センターゲノムシーケンス解析研究チームの中川英刀チームリーダー、藤本明洋副チームリーダー、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターの宮野悟教授、広島大学大学院医歯薬保健学研究院の茶山一彰教授らの共同研究グループによるもの。
研究グループは、日本人300例の肝臓がんの全ゲノムシーケンス解析により、ゲノム情報を全て解読した。この研究は、単独のがん種の全ゲノムシーケンス解析数としては世界最大規模だという。研究成果は、国際科学雑誌『Nature Genetics』に掲載される予定。
全ゲノムシーケンス解析を行った結果、1つの腫瘍あたりのゲノム異常は平均で約10,000カ所、「点突然変異」以外にもさまざまな形態の変異を検出した。特に、既知のがん関連遺伝子の他にも、新規のがん関連遺伝子(ASH1L、NCOR1、MACROD2、TTC28 など)の染色体構造異常、点突然変異が多数発見された。
また、HBVとAAVのゲノムの肝臓がんゲノムへの組み込みも明らかとなり、これらのウイルスゲノムが挿入することで、遺伝子の発現が変化していることが分かった。さらに、非コード領域の変異(プロモーター[8]変異、転写因子CTCF結合領域の変異など)や非コードRNA(NEAT1、 MALAT1)の変異を発見し、特に「TERT 遺伝子」による変異は、さまざまなタイプのゲノム変異に関連していることが分かった。
これらの分析の結果、肝臓がんは大きく6つに分類されることが分かり、肝臓がん予後の生存率は、これらの分類によって大きく異なっていることが明らかとなった。
国がんでは、今回の研究生は「がんのゲノム配列情報に基づいた肝臓がん治療の個別化」へ発展する可能性があり、次世代の肝臓がんの治療法として、「ゲノム変異」を標的とした治療法や診断法、予防法の開発にも貢献するものと期待している。
さらに、世界的にも重要な課題となっているゲノム研究およびその先にあるゲノム医療の構築に貢献することが期待されている。
参考資料
国立がん研究センター
肝臓がん300例の全ゲノムを解読 -ゲノム構造異常や非コード領域の変異を多数同定-
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20160412.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
国がんの統計では、日本人の場合、年間約4万人が肝臓がんと診断され、3万人以上が亡くなっているとのこと。肝臓がんは、日本を含むアジアで発症頻度が高いことも注目されているようです。
肝炎ウイルスが原因となることが多いとはいえ(同じ地域内では感染も広がりやすい)、それ以外にも予後に関係する因子はあるのでしょうから、「遺伝子的な問題が…」といわれると、そうなのかなという気がします。
生存率の違いに関与するのが、遺伝子変異によるものであれば、親が肝臓がんで亡くなれば、その子どもにも関係してくるものかもしれません。
私の知人にも、親子二代で肝臓がん、という人がいます。知人自身はまだ肝臓がん発症には至っていませんが、いずれ自分もそうなるのでは?と考えているようですので、検診は欠かさず受けています。肝臓がん以外でも、親子で同じがんを発症するケースはありますので、他のがんでも遺伝子的な因子はきっとありますよね。
一般の人は「がん家系」などという言い方をしますが、実際に医療者として患者さんと関わっていると、「家系ってあるよな」と思いました。
今回の研究は肝臓がんが対象でしたが、世界的なプロジェクトであるPCAWGがもっと進めば、他のがんでも同様の分析が行われるのでしょう。
問題は、「がんの遺伝子があるから、子どもを作らない」となることかなと思います。がんに遺伝子が関与するのが分かったなら、今度はそれをどう排除していくのか。さらなる研究を待ちたいと思います。
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