【医療ニュースPickUp】2015年1月22日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
肺癌悪化の新たな分子メカニズムが解明される
国立がん研究センター(理事長:堀田知光、東京都中央区、略称:国がん)は2015年1月20日、肺癌悪性化に関する新たな分子メカニズを解明したことを発表した。
この研究は、厚生労働省科学研究費補助金などからの支援を受け、国立がん研究センター研究所(所長:中釜 斉)難治進行がん研究分野の江成政人ユニット長らを中心として研究グループによって行われていた。
この研究成果は、米国科学アカデミー紀要「PANS」に掲載されている。
今回の研究により新たに解明された分子メカニズムは、癌間質細胞を介したものとなる。
まず肺癌細胞が発現すると、肺癌細胞自体から分泌される因子により、癌抑制遺伝子の1つであるp53が失活し、癌との関連が髙いと示唆されているTSPA12が発現が増加する。
すると線維芽細胞と癌細胞との細胞間接触依存的に、肺癌細胞の浸潤能および増殖能が促進されることが分かった。
さらにTSPAN12は分泌性因子でもあるCXCL6というたんぱく質の発現を誘発し、この2つのたんぱく質が協調的に肺癌細胞に作用し、肺癌細胞が悪性することも明らかとなった。
今回の研究の背景には、日本人にとって未だ「肺癌」が脅威の存在となっていることがある。
国がんが運営している「がん情報センター」からの最新のがん統計によると、肺癌は罹患数と比較して、死亡数が多い癌である。
2010年の統計データをみると、罹患数は男性2位(人口10万対 118.3例)、女性5位(人口10万対 51.0例)であり、全癌罹患者数のうち肺癌罹患者数は15%にも満たない。
しかし死亡者数でみると、男性1位、女性2位であり、男女合わせると1位、2013年だけでおよそ73,000人が肺癌で命を落としている計算となり、全癌死亡者数のうち20%以上を肺癌が占めていることになる。
罹患率が男性の1位である胃癌や、女性の1位である乳癌と比較すると、難治性の癌であり、死亡リスクが高い癌の1つといえるであろう。
これらの背景もあり、肺癌悪化のメカニズムを解明することは、新たな治療法の開発や、生存率を向上させるためには非常に重要とされてきた。
これまでの多くの研究により、肺癌悪化には肺癌細胞そのものの働きや、その周囲の間質細胞におけるp53の失活が関与していると示唆されてきたが、未だ解明されていない点も多かった。
そこで今回は、肺癌細胞と間質細胞との相互作用に着目した研究が行われた。
今回の研究ではさらに、肺癌悪化を招く因子としてCXCL6というたんぱく質の発現増加も確認されている。
CXCL6は分泌性たんぱく質であるケモカインファミリーに属するたんぱく質である。
ケモカインたんぱく質は炎症部位で多く産生され、白血病等の細胞の遊走性を亢進する働きを持つ。癌誘発の要因となる慢性炎症を起こす部位でも多く発現し、一部のケモカインたんぱく質は癌の発生との関連するといわれており、CXCL6も癌の進展に関与すると示唆されている物質だ。
今回の研究では、TSPAN12がCXCL6の発現を誘発し、この2つのたんぱく質が協調的に肺癌細胞へ作用し、肺癌細胞が悪化することが明らかとなった。
その一方で、これら2つのたんぱく質に対する抗体を用いることにより、肺癌細胞の周りの細胞への浸潤を食い止めることも分かった。
今後はこれらの研究成果を元にした、2つのたんぱく質に対する抗体、ペプチド、低分子化合物などを用いた新薬の開発が望まれる。
この新薬と既存の抗癌剤とを併用することで、治療効果を向上させ、肺癌悪化を阻止することができるのではないかと期待されている。
参考資料
国立ガン研究センター がん周辺の間質細胞が肺がん細胞と相互に作用する
肺がん悪性化の新たな分子メカニズム発見
間質細胞を標的にした新たな肺がん治療法開発へ期待
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20150120.html
PANS
TSPAN12 is a critical factor for cancer?fibroblast cell contact-mediated cancer invasion
http://www.pnas.org/content/111/52/18691.abstract
がん情報サービス 最新がん統計
http://ganjoho.jp/public/statistics/pub/statistics01.html
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