【医療ニュースPickUp 2015年11月26日】ロボットスーツHAL 医療機器として承認される
2015年11月25日、厚生労働省は、足の働きが衰えて自立歩行が難しくなる、難病患者の歩行機能を改善する医療機器として、ロボットスーツHALを医療用として国内販売することを承認した。
ロボットの医療応用は内視鏡手術を支援する「ダヴィンチ」がすでに承認されているが、患者が直接、身体に装着するような製品は、初めての承認となる。
EUではすでに医療機器として承認
今回、承認されたのは「HAL医療用下肢タイプ」。対象となるのは、全身の筋肉が徐々に動かなくなる、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、筋萎縮 性側索硬化症(ALS)、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)、遠位型ミオパチー、封入体筋炎(IBM)、先天性ミオパチー、筋ジストロフィーのいずれかであると診断され、さらに、身長(150~190 cm 程度)、体重(40~100 kg)など、一定の条件を満たした患者。
使用目的としては、これらの患者を対象として「本品を間欠的に装着し、生体電位信号に基づき下肢の動きを助けつつ歩行運動を繰り返すことで、歩行機能を改善すること」となる。
これらの疾患の患者は、疾患の進行とともに、徐々に筋肉が衰え、やがて自立歩行が難しくなる。今回、承認を受けたHALは、病院内の施設で患者のトレーニングに使用することを想定しており、HALを装着して、歩く動作を繰り返すことで、疾患の進行を遅らせたり、足の動きを取り戻す効果が期待されている。
2013年から、国立病院機構新潟病院など10施設で臨床試験(治験)が行われた。目標患者数は30。治験に参加した患者は、およそ3ヵ月の間に、1日40分間の歩行訓練を9回行った。訓練終了後、2分間の歩行テスト(歩行距離を計測)、10m歩行テスト(速度を計測)などによる評価を行った。その結果、これらの訓練を受けなかった患者と比較し、歩行距離を有意に延長することができたという。
HALの開発・販売元となるサイバーダイン社(茨城県つくば市)は今年3月、優先審査の対象となる「希少疾病用医療機器」として、厚生労働省に医療機器としての承認を申請していた。当初は、申請から9か月での承認を目指してきたが、実際には8か月で審査が終了したことになる。
ロボットスーツHAL医療用は、2013年6月に世界初のロボット治療機器として、欧州医療機器指令(MDD)の適合性評価を受けており、EUではすでに医療機器としての承認を受けている。サイバーダイン社は今後、日本国内における公的医療保険の適応に向け、準備を進めていくという。
参考資料
サイバーダイン社 プレスリリース
HAL 医療用下肢タイプ、厚生労働省より医療機器として製造販売承認を取得
http://www.cyberdyne.jp//wp_uploads/2015/11/151125_%E8%96%AC%E4%BA%8B%E6%89%BF%E8%AA%8D%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9.pdf
同上 HALR医療用(下肢タイプ)が国内で新医療機器 としての薬事承認申請を行いました
http://www.cyberdyne.jp/company/PressReleases_detail.html?id=2704
同上 ロボットスーツHAL医療用、医師主導治験の実施フェーズが終了
http://www.cyberdyne.jp/company/PressReleases_detail.html?id=1098
治験促進センター JMACCT
希少性神経・筋難病疾患の進行抑制治療効果を得るための新たな医療機器、生体電位等で随意コントロールされた下肢装着型補助ロボット(HAL-HN01)に関する医師主導治験-短期効果としての歩行改善効果に対する無作為化比較対照クロスオーバー試験(NCY-3001 試験)
https://dbcentre3.jmacct.med.or.jp/jmactr/App/JMACTRE02_04/JMACTRE02_04.aspx?kbn=3&seqno=3962#trialtitle
厚生労働省 報道発表資料 HAL医療用下肢タイプを承認しました
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000105014.html
同上 第6回 HTLV-1対策推進協議会
ロボットスーツHALの医学応用、HAMの歩行改善効果と治験に向けた準備について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000040500.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
いよいよ、ロボットスーツHALが、日本国内でも「医療用」として承認されました。今のところは保険適応にはなっていなようですが、これも近い将来、保険適応になるのではないでしょうか。すでにヨーロッパでは医療用として保険適応となっているようですし。
日経新聞の記事によりますと、「ドイツでは1~1時間半を費やす1回の治療で500ユーロ(約6万5000円)かかる。公的医療保険は申請中だが労災保険が使えれば60回分が全額カバーされる。」とあります。
実際に訓練にかかる費用は、ドイツと日本でそれほど大きな差があるとも考えにくいですので、実際に日本で使用しても、やはりこれくらいの費用がかかるのかもしれません。となると、やはり自費で訓練を受けることができるのは、ごく一部の人に限られてしまう可能性がありますので、ぜひとも早い時期に、保険適応になって欲しいと思います。
厚生労働省のサイトで確認できる資料では、実際の訓練の様子を伺い知ることが出来ます。ホイストと呼ばれる身体を吊り下げて保持する歩行器を使った歩行訓練を行っていますが、どこのリハビリ室にでもあるというものでは無さそうですので、実際にHALによる訓練を受けることが出来る施設は、限られるのだとは思います。
しかし今後は、こういった施設も増えてくるかもしれませんし、自立歩行が出来るようになる、疾患の進行を遅らせることができるなど、その効果は非常に大きなものとなるのでしょう。今後のHALの活躍(?)に、期待したいと思います。
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