【医療ニュースPickUp 2016年10月27日】室内における“化学物質暴露”を評価できるソフトウェアを公開 産総研
20160年10月20日、産業技術総合研究所(以下、産総研)は、室内で使用する製品に含まれる、化学物質の暴露状況を評価できるパソコン上のソフトウェア「室内製品暴露評価ツール(ICET)」を公開したと公表した(無償版Ver.0.8)。
日本全体を母集団とした「暴露量の人口分布」まで推定可能に
これは、産総研の安全科学研究部門環境暴露モデリンググループ(研究グループ長:東野晴行氏、主任研究員:梶原秀夫氏ら)によるもので、これまでに公開されている「室内暴露評価ツール(iAIR)」をさらに進化させたもの。
産総研のニュースリリースによると、「室内暴露評価ツール(iAIR)」は、室内の空気からの吸入暴露を対象としており、経皮暴露や経口暴露には対応していなかった。
今回のICETでは、経皮暴露と経口暴露にも対応することで、室内で使用する製品に含まれる化学物質による、人への暴露を推定することが可能になるという。
例えば、室内製品からの化学物質の人への吸入、経皮・経口暴露を推定。家具や家電に含まれる化学物質が、経年劣化等により徐々に室内へ放散することや、皮膚表面の水分に溶出することで生じる「人への暴露」が評価できる。
従来は、過大な移行率および経皮吸収率を用いることで、安全であるとされる方向に極端な推定となっていたが、ICETでは、より実際の製品使用時に近い状況で、再現できるようになったという。
また、化学物質を含む製品の形態として、固体、液体、スプレー噴霧など、多くの形態に対応した「吸入暴露の推定」が可能となっている。さらに、定常状態を仮定した推定により、長期間での暴露を効率的に計算できるようになった。暴露量の人口分布なども可能となり、
実際の使用環境に近い状況で評価することで、データベースを併用すれば、日本全体を母集団とした「暴露量の人口分布」まで推定可能となった。
産総研は今後の方針として、企業との共同研究や、技術コンサルティングを通じた、事例のケーススタディを行いながら、ICETの改良を進めていくとしている。
参考資料
産業技術総合研究所 報道用資料
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2016/pr20161020_2/pr20161020_2.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
このニュースが、医療ニュースとして分類されるかどうかは、今後にかかってくるのだと思いますが、こういった「医療現場ではないところで開発された技術」が、いずれは医療機器へと応用されていく、という動きが、ここ数年活発化しているような気がします。
「医工連携事業」として、国や自治体などからの助成金で開発されていくものもあるようです。
どのような技術が、どういった形で「医療への応用」となっていくのかは、千差万別だと思いますが、中には「え、そんなことが!」というものもあり、面白いものだと、個人的には思います。
少し古いところだと、「精密金属加工業」の技術が「痛くない注射針」を開発したり、ロボット工学が手術機器に繋がっていったり、宇宙工学から白内障早期発見に向けて研究されているなど、分野を超えた融合が進んでいるなと感じます。
今回の“化学物質暴露を発見するシステム”は、具体的にどのような形で医療と関わるようになるのか?を考えると、奥が深いなと感じます。実際、こういった化学物質への暴露を余儀なくされる業種はありますし、私たちの日常生活の中でも、知らないうちに様々な化学物質への暴露は起きているのでしょう。
「具合が悪くなったから原因を探ったら化学物質だった」ということは、これまでにも何度もニュースとして取り上げられていますが、近い将来には「こういう製品に囲まれていると具合が悪くなるであろう」という、予防医学的な考え方も、出てくるのだと思います。
今回のICETは「暴露されている」ことを明確にするシステムですが、そこから先の考え方として、「長期間〇〇に暴露されている人は、△△を発症する可能性が高い」など、ごく医療的な検討まで進むと、非常に奥が深いモノになると思います。
特に、医療機関や高齢者施設、乳幼児が日中の大部分の時間を過ごす保育園・幼稚園などで、応用が始まるのではないかと想像しました。
もちろん、私たちの「家」も対象にはなるとは思いますが、すでに建築されてから何年も経っている住宅では、何かを排除していくのは難しい面があると思います(壁紙とか柱とか、家の根底をなすものなら、簡単に排除できない)。これはあくまでも私の個人的な予測ではありますが、これから建築あるいは改築される建造物などで、その効果が発揮されていくのではないでしょうか。
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