【医療ニュースPickUp】2015年2月25日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
大腸癌 日本発の体外診断用医薬品の開発に成功
2015年2月23日、国立がん研究センター(理事長:堀田知光、東京都中央区、略称:国がん)とG&Gサイエンス株式会社(代表取締役:阿部由紀子、本社:福島市、以下G&Gサイエンス)は、切除不能進行・再発大腸癌における抗EGFR抗体薬の新たなコンパニオン診断薬の開発に成功したと公表した。
この診断薬は、KRAS遺伝子エクソン2、3、4領域、およびNRAS遺伝子エクソン2、3、4領域の変異を同時に検出できる、日本発の体外診断用医薬品である。
G&Gサイエンスの親会社である株式会社医学生物学研究所(代表取締役:佐々木淳、本社:名古屋市、以下MBL)により製品化された。2014年6月には欧州での販売に必要なCEマークを世界に先駆けて登録、2015年1月27日付で日本国内の製造販売承認を取得したという。
開発の手法としては、国内7医療機関において、抗EGFR抗体薬である「セツキシマブ」の投与を受けた、切除不能・進行再発大腸がん患者の臨床検体を収集し、その中から信頼性の高い臨床情報が付随し、なおかつゲノム解析に適した検体86例を選定し、網羅的ゲノム解析(全エクソン解析)を実施した。
さらに、抗GEFR交代薬の治療効果情報との相関性を検討した。
その結果、抗EGFR抗体薬による治療が無効であった患者には、KRAS遺伝子エクソン3、4領域およびNRAS遺伝子エクソン2、3、4領域のRAS遺伝子変異があることが確認された。
これらの情報を元に、体外診断用医薬品としてのキット化開発が行われた。
このキットを使用することで、48種類の変異をわずか50ngのDNAで同時検出することが可能となる。
マニュアルダイセクション不要、4.5時間程度で測定・解析が行えるとのこと。このキットを用いて臨床試験を行ったところ、RAS遺伝子変異型検出の一致率は96%以上、RAS遺伝子変異型判定の一致率は100%であったという。
現在、国内外で切除不能進行・再発大腸癌に対して使用可能な抗EGFR抗体薬は、セツキシマブ、パニツムマブの2剤がある。いずれにしても、他の分子標的薬と同様に高額であり、治療開始1ヵ月の薬剤費は、数十万円にのぼる。
過去の複数の報告からは、KRAS遺伝子(エクソン2遺伝子領域)検査に変異が確認されなかった患者のうち、約15~20%には何らかのRAS遺伝子変異があることが明らかになっている。
今後、この新しいキット「RASKET」を使用した検査により、RAS遺伝子検査がこれまでよりもより早く簡便に行えるようになれば、こうしたRAS遺伝子変異型の患者に対する、抗EGFR抗体薬の費用を削減することができると期待されている。
参考資料
国立がん研究センター プレスリリース > 大腸がんの複数のRAS遺伝子変異を同時検出する日本発の体外診断用医薬品の開発に成功
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20150223.html
ScienceDirect
Clinical Validation of a Multiplex Kit for RAS Mutations in Colorectal Cancer: Results of the RASKET (RAS KEy Testing) Prospective, Multicenter Study
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352396415000559
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
大腸癌は、男性は33人に1人、女性は44人に1人が亡くなるといわれています。単純に考えれば、例えば小学校の1クラスは30人から40人程度ですので、1クラスに1人は将来的に大腸癌で亡くなる、という計算です。
癌に対しては、早期発見・早期治療が叫ばれて久しいですが、大腸癌は相変わらず死亡率が高いですし、特に今回対象となっている、切除不能進行・再発大腸癌では治療費も莫大になり、本人だけではなく家族にも重くのしかかる現実もあると思います。
薬が効くかどうかが、癌の遺伝子タイプまで判断できるようになったか、という点は驚きました。しかし考えてみれば「今あなたを苦しめている感染性病原菌にはこの抗生物質が効く」という検査はかなり古くから行われていますし、「あなたに効かない薬」をいくら投与しても、患者さん(とそのご家族)は苦しむだけですから、そういった意味では非常に画期的なのかもしれません。
最近は、癌の啓発活動としてのWebサイトが一般的にも広く公開されたり、シンポジウムや市民講座なども開かれるようになっています。その一方で、検診受診率はまだまだ上がらない現実。特に女性は、大腸癌の検査には抵抗もありますし、もっと簡単に大腸癌が見つかる方法の開発にも期待したいところです。
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