【医療ニュースPickUp 2016年2月24日】日本の研究者が世界を救う時代 経口赤痢ワクチン インドでの臨床研究へ
2016年2月19日、岡山大学は、同大学大学院医歯薬学総合研究科(薬) 三好伸一教授らの研究グループが、廉価な経口赤痢ワクチンの開発に向け、インドでの臨床研究を計画していることを公表した。この研究結果は「Microbiology and Immunology」に掲載されている。
研究背景には岡山大学とインドとの協力体制が
研究グループは、主要な赤痢菌6種類の加熱死菌を混合した標品に対し、以下の実験を行った。
- 受動免疫実験系:加熱死菌の混合物を投与した母マウスから生まれてきた乳飲みマウスを用いた実験系
- 能動免疫実験系:加熱死菌の混合物を投与した成体のモルモットあるいはウサギを用いた実験系
マウスやモルモットなどの実験動物に、前述の標品を定期的に経口投与し、不活化ワクチンとしての可能性について研究を行ったところ、十分な免疫誘導効果と感染防御効果があることが確認された。本標品は、「経口赤痢ワクチン」の有力候補となると考えられるという。
また、ヒト培養細胞を用いた試験においては、細胞への毒性を認めることなく、サイトカインなどの産生誘導が観察された。岡山大学では今回の研究成果により「汎用性の高い、廉価な赤痢ワクチンの開発と製品化が期待されている」としている。
この研究の背景には、岡山大学とインドと協力体制がある。
岡山大学は、平成17年に「文部科学省 新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」に採択され、平成19年にインド国コルカタ市の「インド国立コレラおよび腸管感染症研究所」において、「岡山大学インド感染症共同研究センター(インド拠点)」を設置、運用を開始していた。
岡山大学では、この拠点を中心として、インドでの死亡患者数が多い下痢症(コレラ、赤痢など)の制御に資する、国際共同研究を行っている。その研究テーマの1つに、今回の「廉価な経口赤痢ワクチンの開発研究」がある。赤痢に関しては今日まで、実用化されているワクチンが存在していない。
赤痢はそもそも、世界中でみられる感染症ではあるが、衛生環境が劣悪な地域に多く発生する。とくにインドやインドネシア、タイなどのアジア地域での患者数が多いという特徴がある。
日本の赤痢患者数は、戦後しばらくは患者数10万人超、死者2万人近いという疾患であったが、1965 年以降は激減、1974 年には2,000人を割り、現在は年間1,000人前後で推移している。
参考資料
岡山大学 プレスリリース
主要赤痢菌6種混合標品が経口赤痢ワクチンの候補に有力 廉価なワクチン開発にむけ、インド国での臨床研究を計画
http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id372.html
PubMed
Passive immunity with multi-serotype heat-killed Shigellae in neonatal mice.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24909404
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
日本の科学力が世界を救う時代、という感じです。昨年秋に話題になった、ノーベル医学賞の大村智氏も、日本では無縁とも思われる「熱帯感染症の特効薬開発」が研究テーマでしたよね。こういうニュースなどを見ると、日本人って誇らしいなと思います。
ところで、「文部科学省 新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」が気になりましたので、少し調べてみると、他の国と地域でも日本の大学が研究を行っている例がありました。
- タイ:大阪大学感染症国際研究拠点
- 中国:東京大学医科学研究所 ・アジア感染症研究拠点
- ベトナム:長崎大学新興再興感染症 臨床疫学研究拠点
- ザンビア:北海道大学人獣共通感染症研究 ・教育中核拠点
- インドネシア:神戸大学新興・再興感染症国際共同研究拠点
- フィリピン:東北大学-RITM新興・再興 感染症共同研究センター
- ガーナ:東京医科歯科大学新興再興感染症研究拠点
スゴイですね。これだけの大学の研究機関が、世界(特に発展途上国)の感染症に対する研究を行っているわけです。それぞれの国と地域で、対象となる感染症に違いはあると思いますが、特に自分で自分の身を守ることが難しい子どもたちを、日本の科学力で感染症から救える時代になってほしいと思います。
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